『開かれし封印』のオープニングに当たる,
3年前〜エレメンタルスター奪取事件までの間の
ガルシアの話です。
読むつもりが無い方は,
>>146 へどうぞ。
筆者としては,こういう話はプログラムの中に組み込んで欲しかったですね。
この話じゃなくて,ガルシアの裏設定ね。
ハイディア村だけに嵐が起こったあの夜,上流からの土石流に巻き込まれて
消息を絶った四名は,プロクス村へ拉致されていた。
そこに着くまでの記憶が誰にも無いのは,
テレポートで運ばれたからかもしれない。
極北の地で元から住んでいた者と新参者とがお互いの存在に慣れてから
三年の月日が過ぎた。
天気の良い日は,朝食が済んでから薪になる木の枝を集めるのが,
プロクス村に来てからのガルシアの日課になった。
ハイディア村と違い,なにしろ冬が長い。
備えが出来ていなければ,いつ凍死してもおかしくはないからだ。
そんな彼の日課に,変化がやって来た。
「あなたは村一番の働き者ですねぇ」
村外れの雑木林に居る時声を掛けてきたのは,
真夏に数日だけ来る男で,かなり強力なエナジストだ。
一年ぶりの邂逅になるが,前回逢った時に良い思い出が無かったから,
ガルシアは思わず渋面になった。
「おや,褒めて差し上げたのにとんだご挨拶ですね」
「去年の話を蒸し返しに来たんなら,無駄だよ」
「今日はそういう話はしませんよ。……あまり元気がないようですが,
身体の調子はどうですか?」
決して良くはない。風邪はやっと一週間前に治ったばかりだ。
だけど,そんな事はこの男には言いたくない。
彼の内心の葛藤にはお構いなしに,相手の男は彼に近寄り手を捻り上げた。
「この包帯は,あなたが自分で巻いたのですか?
手がまともに動いてないみたいですよ」
男はそう言ってガルシアの手の包帯を解き始めた。
「何をするんだ?」
ガルシアが抗っているのなぞ気にも留めずに男は包帯を解いてしまい,
露になった手を見て,顔を顰めた。
「凍傷が治りきっていませんね。ひょっとして親御さんには内緒にしている
のですか?」
「……」
両親や親しい小父さんにはとても言えない事がある。
此処に居ると長い冬の凍気に体力を削られるような気がする。
最近特に,傷や疾病の治りが遅くなってきた。
一番最初に命を落とすのは自分かもしれない。
自分の本能みたいなものが,此処から出るべきだと主張している。
だが死ぬ時まで出てゆく術は無い。
男はガルシアにエナジー『プライ』をかけた。
「あなた方の暮らしぶりに関しては,ここの長老に交渉してみましょう。
このプロクス村に住めるのは,自らここの環境に適した身体に造り替えた
……しかも,ドラゴンの末裔だという愉快な事を信じている……
プロクス族だけだと私は思っています。
こんな所に送られて三年も生き延びているのは奇跡だと思いますよ。
全くもってプロクスの連中は無神経ですからね。
余所から来た子供が死にかけているのに気にもかけないとは」
エナジーをかけた後,男はガルシアの手を開放した。
何の障害も無しに両手が動くのは,久しぶりだ。
「どうやら私はアプローチの方法を間違っていたようです。
仕事の邪魔をしてすみませんでしたね」
そう言い残して,男はテレポートし眼前から消えた。
奴のペースに乗せられたのは気に入らないが,
今日は久しぶりに体調の良い日になった。
作業途中で草に手を切られて,解いた包帯を再び巻く羽目になる。
でも今夜は両親に嘘をつかなくても済みそうだ。
家に帰ってきたら,様子が違う,家中の窓が開け放たれているのだ。
この季節なら構わないが,外の空気は決して暖かい訳ではないから
滅多にはやらないはずなのだが。
家の中は非常事態だった。信じられないくらい暑いのだ。
火事なのか?
答えは外に避難していた父が教えてくれた。
「さっき斜向かいの万屋さんが,母さんに空気の温度を変えるエナジーを
教えてくれたんだけど,母さんは全然コントロール出来なくてなぁ。
暑くなる一方。いや〜参ったよ。
冬までにマスターしてくれれば良いんだけどなぁ」
「じゃあ父さん,今度の冬は辛くならずに済むんだね?」
「多分な。でも今日の感じじゃあ『あれ』は最後の手段になりそうだな」
それでも良い。いつか来る最期の日が遠くなるのなら。
その夜,ガルシアの知らない所で大人達が話し合いをしていた。
「とうとうあの子を連れ出してくれる人が出てきたんだね」
「そうだな。あの子はこんな所で人生を終わらせてしまうには若すぎる。
今までどうにもしてやれなかったのがずっと悔やまれていたんた」
「あの人は信用できるかしら?」
「もう他に手段は無いんだ。後の事は任せよう」
次の日,朝食が済んだガルシアが出かけようとすると,母に止められた。
「村長さんの奥さんに頂いた服を仕立て直したの。着てみてくれる?」
着替えたら次はケリー小父さんが真新しいブーツを掲げて,
「全くここの連中のジョークときたら,とんでもないよなぁ。
これは彼らが脱皮した皮だってんだからな。
ガルシア,ちょっと合わせてみないか?」
さらに父が装備品を色々持って来るから,
気がつけばどこから見ても旅支度としか思えない格好になっていた。
「今日は何があるんだい?」
ガルシアの問いに,大人達は顔を見合わせて,結局父が次のように告げた。
「お前は今日から,旅に出るんだ。これからアレクスさん達に付いていって,
ハイディア村まで行け。
村に着いたら,プロクスの戦士達から逃れて村長さんの所へ行き,
『エレメンタルスターを奪いに来た者が居る』と伝えなさい」
「今更どうして? そんな事言ったら只じゃ済まないよ。
ここの戦士達が父さん達の命を……」
ガルシアの抗議を遮るようにケリー小父さんが,
「私達全員の命より大切な事がある事を忘れてはいけない。
それは『世界の運命』だ。我々は命と引き換えにしてでも
それを守らなければならないんだ。
私達は此処に来た時から命は無いものだと覚悟している。
だから,もう私達の事を気にかけるんじゃない」
家から出され,扉に閂が掛かる音が聞こえた。
さらに何やら物音が聞こえて来る。もはや扉を叩いてもびくともしない。
「その扉を叩き壊せるくらいの体力が無ければ,もう入れて貰えませんよ。
プロクス村の若者なら朝飯前ですが,その後間違いなく
大目玉を食らうでしょうね」
振り返ると目の前にいたのは,昨日会った男だった。
「アレクス,アンタは俺の家族に一体何を吹き込んだんだ?」
「人聞きの悪い事を言わないで下さい。御両親には,あなたがどうすれば
一番幸福になるかご説明しただけです。それに」
アレクスはガルシアの腕を掴んで手繰り寄せた。
更に肩を抱いてから耳元に囁いた。
「どのみち後戻りなんかできません。さて,出発しましょうか。
あの二人がそろそろ痺れを切らしている頃です。
三年も待たせてしまいましたからね」
「三年って……まさか……」
「そうです。あなたが一緒に行くと承知して下さらないから,気が短い
カーストとアガティオのコンビは真冬のうちに出発してしまいました。
残っているのは,一番怖い人達です」
「こんな死に損ないのガキ連れて行って,一体何の役に立つんだい?」
「キツイですね,メナーディ」
「もし我々を裏切ったり,逃げ出そうとしたなら,お前の両親の命は
保証しないからな」
「そんな事はしないよ,サテュロス。何なら神にでも誓おうか?」
「ガルシアは覚悟が出来ているみたいですから,
余り責めないでやって下さいよ」
「ほほう……アレクス,お主がこやつの後ろ楯にでもなるのか?
ではとりあえずは信用してやろう」
ハイディア村に到着した最初の夜,
別行動をとっていたアレクスがガルシアを誘い宿屋の外に出てきた。
アレクスは,ガルシアの鉄仮面を外した。それは村に入る前から
彼が付けていた物だった。誰も居ないのを見計らってからアレクスは言った。
「サテュロスとメナーディは,今は神殿の偵察に行っています。
村長の家に逃げ込むなら今のうちです」
「アレクス,どうしてそれを……」
「これがあなたの御両親との約束です。私に出来るのはここまでです。
後はあなたがどうするか決めなさい」
一拍位の間の後,ガルシアは返答した。
「それなら仮面を返してくれ」
ガルシアは仮面を元通り顔に付けた。
「何故ですか? 折角自由になれるチャンスなんですよ?
そこまで御両親の事が心配なんですか?」
「それは違う。今まで俺の人生は,自分の自由に出来た事なんか無い。
だから決めた。灯台の灯は俺が自分でつけたい。
そうじゃなければ俺は永遠に自由になんかなれないんだ」
「そうですか,それで良いなら構いません。私達は今日から仲間です」
アレクスには告げていない思いがある。
自分は故郷の村で,平凡な人生を送るのだとずっと思っていた。
しかしそれは,三年前の嵐と共に潰えてしまった。
それならばこの酷寒の地で短い一生を終えるのも良いと思った。
運命という奴は,それすらも許してはくれなかった。
残っているのはたったひとつ。誰も望まない,世界を破滅に導く道だ。
自らを滅ぼす事が許されないのなら,俺が自分で世界を壊してやる。
145 :
余談:02/11/25 12:36 ID:???
こんな事書くと,頭がイカレテルとか
電波だとか書かれそうだけど。
この話は,ガルシア本人に書いて欲しいと頼まれました。
信じなくても良いよ,別に。