作者名を知らせずに 詩を批評してもらおう

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細かい泥が先ず俺の唇にそしてだんだんと大きな土の塊が俺の足の間に腹の上に
巣を壊された蟻が一匹束の間俺の閉じられたまぶたの上をはう 人人はもう泣くこと
をやめ今はシヤベルをふるうことに快い汗を感じているらしい おれの胸にあのやさし
い眼をした保安官のあけた二つの穴がある俺の血はためらわずその二つの逃げ路か
ら逃がれでた その時始めて血は俺のものではなかったことがはっきりした 俺は俺
の血がそうしてそれにつれてだんだんに俺が帰ろうとしているのを知っていた 俺の上
にあの俺のただひとつの敵 乾いた青空がある 俺からすべてを奪つてゆくもの 俺が
駆けても撃っても愛してさえ俺から奪い続けたあの青空が最後にただ一度奪いそこな
う時それが俺の死の時だ 俺は今こそ奪われない 俺は今始めて青空をおそれない
あの沈黙あの限りない青さをおそれない俺は今地にうばわれてゆくのだから俺は帰る
ことが出来るのだもう青空の手の届かぬところへ俺が戦わずにすむところへ 今こそ俺
の声は応えられるのだ 今こそ俺の銃の音は俺の耳に残るのだ 俺が聞くことが出来ず
撃つことの出来なくなつた今こそ 俺は殺すことで人をそして俺自身をたしかめようとした
俺の若々しい証し方は血の色で飾られた しかし他人の血で青空は塗り潰せない 俺は
自らの血をもとめた 今日俺はそれを得た 俺は自分の血が青空を昏くしやがて地へ帰
ってゆくのをたしかめた そして俺はもう青空を見ない憶えてもいない俺は俺の地の匂い
をかぎ今は俺が地になるのを待つ 俺の上を風か流れる もう俺は風をうらやまない も
うすぐ俺は風になれるもうすぐ俺は青空を知らずに青空の中に棲む 俺はひとつの星に
なる すべての夜を知り すべての真昼を知り なおめぐりつづける星になる