101 :
けむけむ:
お題の片割れ「色彩」への投稿です。
『ドーナツ屋さんでデートしたっけ』
あの頃、暇だったし、セックスばかりもしてられなかったので、
ドーナツ屋で君と僕は、全然理解できない本を読んでいたのだった。
僕の手には、天才W氏の哲学書、君の手にはオクタビオ・パスの原書があり、
二人の間には、冷めたホットミルクと、すっかり飽きてしまった、
ドーナツが静かにおかれている。
窓の外は強いビル風。
仕事のある人はお仕事中。勉強のある人は勉強中。
店の中は、やる気の無いドーナツと仕事の無い僕らだけだった。
「青みを帯びた赤はある。茶色みをおびた赤もある。
しかし、緑色っぽい赤は存在しない。」
ふむふむなるほど
「青みを帯びたクリアーな透明はある。濁った半透明もある。
無色のクリアーな透明ももちろんある。
しかし、クリアーな白い透明は表現できないだけでなく、
それを脳裏に考える事ができない。」
僕はうれしくなって、ひとしきりしゃべる。
ところが君は、「白い透明」のところで気の毒そうに微笑んで、
「白い透明を見たことがないの?」と囁く。
二人はまた、本の中にもどる。
突然僕は、理解する。
沸騰した白い眼球
糸を引いて落下する 卵の白身
供体験できないのは 論理構造でも世界観でもなく
白く透明な
性の快感
薄れかけた記憶のなかで
今も
君がつぶやいているのは
僕の知らない西洋の言葉で書かれた
あけすけな詩
引き裂かれた愛の白濁のように静謐な調べ
やわらかく震える
君の唇は
美しく緑がかった
鮮やかな赤