○●今週のテーマ○●

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101けむけむ
お題の片割れ「色彩」への投稿です。

『ドーナツ屋さんでデートしたっけ』

あの頃、暇だったし、セックスばかりもしてられなかったので、
ドーナツ屋で君と僕は、全然理解できない本を読んでいたのだった。
僕の手には、天才W氏の哲学書、君の手にはオクタビオ・パスの原書があり、
二人の間には、冷めたホットミルクと、すっかり飽きてしまった、
ドーナツが静かにおかれている。
窓の外は強いビル風。
仕事のある人はお仕事中。勉強のある人は勉強中。
店の中は、やる気の無いドーナツと仕事の無い僕らだけだった。

「青みを帯びた赤はある。茶色みをおびた赤もある。
しかし、緑色っぽい赤は存在しない。」

ふむふむなるほど

「青みを帯びたクリアーな透明はある。濁った半透明もある。
無色のクリアーな透明ももちろんある。
しかし、クリアーな白い透明は表現できないだけでなく、
それを脳裏に考える事ができない。」

僕はうれしくなって、ひとしきりしゃべる。

ところが君は、「白い透明」のところで気の毒そうに微笑んで、
「白い透明を見たことがないの?」と囁く。
二人はまた、本の中にもどる。

突然僕は、理解する。
沸騰した白い眼球
糸を引いて落下する 卵の白身
供体験できないのは 論理構造でも世界観でもなく
白く透明な
性の快感

薄れかけた記憶のなかで
今も
君がつぶやいているのは
僕の知らない西洋の言葉で書かれた
あけすけな詩
引き裂かれた愛の白濁のように静謐な調べ

やわらかく震える
君の唇は
美しく緑がかった
鮮やかな赤