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名前はいらない:
痛み止めの薬のせいで
君は一日のほとんどを
眠って過ごしていた
たまに夢うつつの時があって
あるときは、実際には手に持っていないのに
電話をしている時があった。
もう電話は握る力などないのに
君は電話をしていた
手を耳に当てて
「おーい、お前どこにいるんだよ、
早く帰ってきてくれよ」
すぐ傍にいる私が、見えていないようだった
私はそっと、床に這いつくばって
彼のベッドから見えないように部屋を出て
数分経ってから
「ただいま!ごめんね遅くなって!」
とひょっこり顔を出して笑って言った。
君はこちらを見て穏やかに笑って
「おお・・・はやいな・・・今駅だって
言ってたのに・・・」
「えへへ、急いできたんだぁ」
彼は少し涙ぐんでいるようにみえた
穏やかに笑いながらうなずいて
「あぁ・・・安心したから、眠くなってきた」
そういって、また眠りにつく君
次は、どんな夢をみるのかな・・・