諦めへの傾斜 ■ 微熱くん

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37微熱くん
「鉄路の記憶」

木枯らしが雪を連れて
ホームはがらんとした白の彫像

列車を待つ人は
立ち食い蕎麦の湯気にまみれて
凍えた指に命を吹き込む

静かに手をつないだぼくたちに
風がいつか白のカーテンを運んだ

君のぬくもりだけが
ただ確かな鉄路の傍で

ぼくは君を
ぎゅうと抱きしめ
白雪の幕が尽きぬ間に

ぼくは君に
くちづけをかわした


黒々とした塊の
あの街へ行く汽車が辿り着く

余韻というには余りにも
刹那すぎる温もりなのに

何時果てるとも知れぬほど
この胸は燃ゆるように熱いまま

君の瞳が砂時計のように
来る時間を報せている

ほろほろ零れる
その銀の軌跡は

まるでこの汽車が往く
鉄路にも似て果てしない


必ず迎えに来るからと
交わした言葉は
今もあの駅に

おちているだろうか


通勤電車を待つホームの
鉄路を眺めてふと

君の涙を
胸に顧みた


時は 決して

止みは

しないものだと。