「冬のケイロン」
月光の夜をエゾシカのように
ただおおらかに走れぬものか
空を斬るタンザナイトの角帽子
降りくる霜に気どられぬまま
追う鳶を見ず 去る鴇を経ず
とうとうと鬣なびかせ
ただたからかに走れぬものか
岩ばしる水を蹴散らし
鱒の撥ねだすしぶきの毀れ目
かろやかに捧ぐ鋳物をくわえ
糺すは 金の蹄 銀の蹄 鉄の蹄
メレダイヤをうずめた蹄
マベパールをゆわえた蹄
猛き雷の肢あれど
駆けても駆けても上れぬ川を
立てても立てても下れぬ橋を
過ぎてゆく 冷気の欠けらを
ツンドラに棲む鋼のように
ただかるがると跳びこえながら
ただたからかに走れぬものか
タンザナイトの冠抱き
端然と起つエゾシカのように
ただおおらかに走れぬものか
ひややかな梟燃える
月光の夜のさやかな闇を