(1)
雨に打たれにまかせ
河を下るにまかせ
滝は落ちるにまかせ
私という死体がたどりついた先は
こんな暗い日の差さぬ
どこの果てとも知らぬ沼地であったとは
私の水晶の輝きとも言われた眼は
黒い鳥がついばんでいったきり行方知れずだ
半々音まで聞き分けた絶対音階の耳は
死貝の殻となって辛うじて汚泥に埋まっている
そもそも私の死体はどこへいったのか
この暗い湖沼のどこかに白く浮かんでいるはずの
私の死体はどこにある
思い出してみよう
私がどこから流れてきたかを
あのひとしきり雨脚の強かった夜に
私はあの排水口を流れてきたのだった
米のとぎ汁だの菜っ葉の粉砕屑だの小便だの
時にはメッキ工場の飴色の排水だのを
流し込んでいるあの下水路をくぐって
この汚水溜めに落ちたのだった
どぶんと 頭から真っ逆さまに
雨が容赦なく降り続いていた深夜
誰もその音も姿も知らぬままに
私に 私という死体に
帰還は可能なのだろうか
あちこちでぶつぶつと悪臭を放つ
最果ての滞留地から
私は生きて帰れるのか