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1逃亡者
 なぜ
 天使のささやきに身構えるのか
 無垢の善意におびえるのか

 人をはね
 ハイウエーを逃走する車のように
 私はなぜ
 おびえねばならぬのか

 (ソレハオマエガアクマトミズサカズキヲカワシタカラ)

 なぜ
 不具の人に駆け寄れないのか
 すぐに手を差し延べられないのか

 助けを求める声を背に
 人ごみにまぎれようとするのは
 なぜか

 (ソレハオマエガアクマトミズサカズキヲカワシタカラ)

 なぜ
 深まる愛をおそれるのか
 愛する人の手のぬくもりをおそれるのか

 堕胎した女が
 病院を立ち去るように
 生まれるものをおそれるのは
 なぜか

 (ソレハオマエガアクマトミズサカズキヲカワシタカラ)

 なぜ
 死体があるのか
 黒檀の棺が安置されているのか
 私の一室に

 私は人を殺めたことはない
 しかし
 殺人の記憶だけは
 白日の都会のように鮮明なのだ

 悪魔と水盃?
 私がいつそんなことを?

 カウンターごしに
 不可解な視線を投げていたあの背広男
 屋台でどぶろくをあおっていた汗臭い労務者
 それとも
 場末のパブで独り凍っていたあの女か

 分からない
 私には分からない

 ただ私の部屋には
 執拗なチャイムとノックとがあり
 内鍵を掛け耳を塞ぐ私が
 そこにいるばかりだ

 私を追ってくるおまえはだれか!

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