君のセンス5段階+αで評価するよ[vol.94]

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652アギラ

【青いリンゴ】

童話に出てくるような、青い家に住んでいた
鍵のしまった玄関は、きっと錆び付いた音をして開くのだろう
一度も聴いたことがなかったし、聞く気も沸かなかったのでそれはただの感傷ですらない感想だった
僕達は家に閉じ込められて育った

そうだったとしても、それは僕にとっては苦ではなかった
何をするにも自由だったし、ラジオの摘みを捻れば、ちょっと古い流行歌を流すこともできたし
屋根裏からこっそり脱出して、夜の街を歩くこともできたんだ
白い壁に思い描いた夢をペンキやクレヨンで落書きをして、それをみて馬鹿笑いできたし
レンガで出来た屋根に登って、月をただ眺めていつの間にか眠ることもできたんだ

束の間の夢でしかなかったそれは
いつの間にか減っていく仲間の姿を、数えだしたときに醒めていった
狭い家に閉じ込められるのは嫌だと
玄関の鍵を開ける代償に、あれだけ大事にしていたキーホルダーを残していった
新しい世界が見たいのだと
クレヨンを捨てたご褒美に、高そうなボールペンを胸元にさすようになっていった

皆の古巣となってしまった青い家には、いま僕だけが住んでいる

かつての友人は、ペンキまみれの僕に忠告をする
窮屈な靴ははかない僕に、それを履いた方が良いと言うのだ
僕はそれを聞いている間、いつも同じことを考えていた
青いリンゴは青いリンゴ。混じる必要はないと言うのに

みんな自由に生きれる筈なのに
どうしてネクタイで首を絞めて、身動きできない満員電車に揺られるのだろうか
みんな自由に生きれる筈なのに
どうして歩幅を自分から合わせて、好きでもない高いランチを食べに行くのだろう

みんな自由に生きれるハズなのに 

青いリンゴは青いリンゴ

ペンキに放り込んだとしても、赤いリンゴになっても食べられないのに