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名前はいらない:
「旅」
月に一度来る
この手紙は
途方の国々を旅するあなたを実に想像させます
あなたは若くして
わたしが見ない世界を
見てきました
広い砂漠に
魅惑のオアシス
深い森林地帯に
大きな怪鳥
鮮やかな建物に
心豊かな人々達
そして
これからもあなたは
世界を見続けるのでしょう
しかし
わたしは毎日毎日
あなたよりも
遥かに果てしない
途方に暮れている旅を
し続けているのです
毎朝
そこの門を曲がり
長い橋を越え
渦巻く人混みをかきわけ
いつ終わるか
想像もつかない
使命を果たし
月が光を照らす頃には
また同じ道のりを戻り
日の最後になると
妻と子に癒される
わたしは
わたしの義務という
果てしなく
途方に暮れている旅を
し続けているのです