507 :
名前はいらない:
halo
柔らかな夜の膜
水の堤防をなぞった先には三日月が浮かぶ
幾重にも剥がれる
波の揺らぎの対岸で
いもうとは
ずっと笑っている
誘蛾灯の青白いひかりに
薄い翅は焦がされて痂の様に零れていく
ひとつ、ひとひら、ひとり
拾っては繋げて
千切られてはまた
耳の裏を擽り通り抜ける過透明な風に揺すぶられ
一斉に飛びたつ翅
空は持たない儘
降りたつ場所も知らない儘
か細い骨を掬い集めている私の掌
しゃりしゃりという音笑っているんだね
いもうと
火葬場の待合室
天窓の隙間から零れ落ち
積もる砂状のひかり
そのひと溜まりを眺めながら
やけに熱い緑茶を飲み煙草を吸った
一筋の汗が伝う背筋
静かなざわめき
いもうと
水辺に咲く花
舌の繊維を乾かすように
蘂を起こして
血液よりも鮮やかな赤
曼珠沙華が笑っている
上唇の形の月と僅かに残るアスファルトの熱に
切り立った影が蒸発していく
長い指にめくられて朝の臨界線が瞳に突き刺さる
私の水晶体は
折れ曲がっているのかもしれない
真っ直ぐを見る事が出来ない
乱反射をはじめた水が優しく笑っていて
ふと掌を広げれば
隙間から粉々に舞っていく
いもうと
川の真ん中で跳ねる魚
波紋が伝わる速度で
笑っている、ずっと
眩しい
眩しい