心が溢れたら詩にかいて☆

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1しんのすけ
心が溢れたら・・・ちょっと言葉に、詩にしてみよう。
上手い下手なんて関係ないよね☆
誰のためにでもなく自分の心が悲鳴をあげたり、叫んでたりするから書きたいのだから。
でも人のコトバに共感して力がわくこともある。
皆さんの言葉や詩を読ませてください☆
2しんのすけ:2008/12/12(金) 10:10:59 ID:ar7GL6ZU
別に大したことがあったわけじゃないんだ。

ただ彼女は『クスッ』って笑っただけ

ただそれだけ・・・。

魔法でした。
3名前はいらない:2008/12/12(金) 10:16:32 ID:ar7GL6ZU

もしも願いが叶うなら

神様お願い・・・

あの人の心をください。

もしこの気持ちが罪ならば

どんな罰でも受けるから

あの人の心をください・・・。
4しんのすけ:2008/12/12(金) 10:23:42 ID:ar7GL6ZU

君はもしも

信じられないような大金か彼女、

どちらか選べと言われたらどちらを選ぶ?


・・・え?、俺?


俺は迷わず彼女を選ぶ。
5しんのすけ:2008/12/12(金) 10:31:57 ID:ar7GL6ZU

『愛』なんて中世ヨーロッパで作られた幻想だよって誰か言ってた

どーでもいいけど

ただ俺が言いたいのは

君の事がいとおしくてたまらないって事。
6しんのすけ:2008/12/12(金) 10:36:06 ID:ar7GL6ZU

俺が詩を書く時なんて

ほとんどまともな精神状態じゃないときさ。

『それで一体どうしたいんだい?』

そんな質問に『正直に』答えられる頭脳と勇気があれば苦労はしない。


今日もすべての終わりを期待して眠りに落ちる。。。

7名前はいらない:2008/12/12(金) 13:36:21 ID:oIQcDXWO
しんのすけ以外、かきこまなくたって
いいじゃないの。にんげんだもの。
8  ◆UnderDv67M :2008/12/13(土) 10:37:40 ID:HTL1lqgI
ここの板は酷いスレばっかりだけど>>1は特に酷い
9名前はいらない:2008/12/14(日) 00:59:53 ID:RonOIKfj
胸が焼けるような吐き気が腹を渦巻いている
言葉は出ない
虚しく響く
弱音を吐いてる余裕はない
情緒的になる前に私は生き物だ
叙情を失った心は虚しく
しかし私は生きていたいと
思うのだ
答えを持たぬ世界の中で
中心を求めてひたすら自分の内にその答えを求めて

耳鳴りがする
何日も洗っていない頭から臭いがする
私は
言葉を失った
10名前はいらない:2008/12/14(日) 01:04:50 ID:RonOIKfj
心は重たく
私の愛しい悲しみの果ても失った
心は宙を眺め
私は振り返る
虚しい言葉が繰り返す
意味はない
私の意志は宙を舞う
11名前はいらない:2008/12/15(月) 13:41:10 ID:x8cGOaOc
>>10
し、しんのすけ。急にうまくなったじゃないの!?
驚くべき成長だよ。

12名前はいらない:2008/12/15(月) 13:47:42 ID:hqBHi3x9
13名前はいらない:2008/12/25(木) 00:35:22 ID:T+wE4zJa
一瞬ミラーマンかと
14名前はいらない:2008/12/26(金) 19:52:31 ID:I5XHu69Q
Remedy

回復するまで付き合うよ
君が気にしていることは関係ない
だって現に好きなんだし
表面的には分かり合ってないみたいに見えるけど
なんかもっと深いところでつながってて
よく言うけど対立してもいくらでも
戻れるような気がして
そこが重要なのかもしれない
15名前はいらない:2008/12/27(土) 16:53:26 ID:aT+K7cbP
repeat

受けた傷が癒えるが如く
人はいつも変わり成る
人がいつも変わり成る如く
いつも今の君が一番
今の君が好きなのは知ってるでしょ
今は傷ついて完全じゃないけど
癒えない傷があるのなら
癒させてほしい
僕が悪かったのだから

いつも一人のことを想ってる
僕の想いが変わらないのは知ってるでしょ
癒えない傷があるのなら
癒させてほしい
僕が悪かったのだから
16禅 ◆BMK/kspEy6 :2008/12/28(日) 02:30:04 ID:rgKwR945
全部嘘

作られた世界
描かれた色
象られた造形
揺らぐ心


すべて虚構の中にあり
僕らは元々何もない



神が我々を作ったと言う
機械じかけであると言う


全部畏れを紛らすための
ごまかしの手段でしかない
17名前はいらない:2008/12/28(日) 02:47:19 ID:sfH2Bucp
だんだん分かってきた
きみが力を与えてくれてたことを
きみという点火装置がないなら
出てきはしない何も
かんちがいもおおかったけど
すべて君に向けたものだったから
氷では火がつかない
18名前はいらない:2008/12/28(日) 03:36:04 ID:sfH2Bucp
すまない
自分が原因だと
声をかけようにも
自分のせいだと
なぐさめようにも
言葉が見つからない
気持ちが分かってあげられなくてごめん
ぜんぜん気づいてなかった
理解できないことばかり起きる
今よりもっともっと大切にするから
今よりもっともっと好きになるから
もう絶対傷つけないと約束するから
そんな姿を見るのは辛すぎる
19名前はいらない:2008/12/28(日) 17:24:10 ID:hegOdBVM
なぜこんなにも次々と
言葉が溢れ出すんだろう
愛の力のすばらしさ
20名前はいらない:2008/12/29(月) 23:59:44 ID:nCIuMCZd
うぃっしゅ☆
21名前はいらない:2008/12/30(火) 06:01:31 ID:oHCCUHIq
「置手紙」

考えるより
休んだほうが
あなたはいつもそばに居る
いなくてもいる
いつもいる
いてほしい
ぼくもずっとそばにいる
いなくてもいる
いつもいる
いさせてほしい
これからも
なにもいえなかったけど
また一緒に乗り越えようよ
何度だって
離れることを考えるのは
意味がないよ
今はゆっくりやすんで
少しでも元気になったら
また
22名前はいらない:2008/12/30(火) 10:43:26 ID:y9F3YvhA
自ら傷つけ苦しむ
頭の中だけ
替われるものなら
替わってあげたいよ
その感じ方はもうよそう
たくさんの悪いことの後には
絶対いいことがくる
あきらめさえしなければ
23名前はいらない:2008/12/30(火) 12:27:25 ID:CTWZzRuM
前に進むことも
後ろに戻ることも
今は出来ない。

同じ場所にずっと
ただ立っているだけさ

そんな時があってもいいじゃないか。
24しんのすけ:2009/01/03(土) 12:42:09 ID:9ZZ7lyON

「ごめんね」なんていう言葉はいまさら何の意味もないよね



・・・ごめんね。

ひとりでいた時間が長すぎて

君のこと上手に愛してあげることができなかった



ごめんね

25名前はいらない:2009/01/16(金) 14:34:04 ID:f98N4YG4
「その日の彼女の行動」

今日は彼が「本人」であるとゆう確証が
得られるかもしれないと朝から神妙になる
彼女のPCはクラッシュしている為
いつも兄の部屋にこそりと侵入
兄のPCを拝借して彼への手紙を書いている
のである
今日は兄が休みのため侵入できず
仕方ないのでケータイから確認することにした
機種が古すぎのために書き込みはできないのであるが

しかし待てど暮らせどそれらしき
彼からの便りは来ず
夕刻になっておばのところでも訪ねようと家を出た

歩いて2時間
バイトの疲れか途中死にそうになる
バス賃ケチる
飲みの誘い断る

無事到着後気の置けないおしゃべり
ごはん、風呂、寝る

床に就くころ考える
@本人ではなく人違いであった
A本人ではあるが無視又は忘れている
以上の可能性により出した結論が
翌日の言葉になる
彼女にとっては本人確認が何より重要
だったのある
最近まで半信半疑であったために
またどのような反応をしてくれるのか
そこで見極めたくもあった

後の結果として全く想定外の展開
になったわけなのだが
26名前はいらない:2009/01/19(月) 10:06:57 ID:SUGl6uUJ
「それからの私の気持ち」

色々な感情が高まってしまいまくし立てる
ように、責めてしまったことを許して欲しい
実際に本当に「ずっと」夜から待っていて
くれたのはあなたの方だったのに
他の所に書かれた時間帯を見て後から
わかった、もう遅いけど。

本当にあなただと理解してから
自分から言い出しといて、内心
混乱して戸惑った
それから話が一気に現実的な
方向へ加速していきスピード
に乗り切れなくなっていた。

今までのつながりで充分満足していた
楽しかったし、励まされた。
あなたが一人先にどんどん歩いていって
しまうように見えてなんだか急にわからなくなった。
27名前はいらない:2009/01/19(月) 10:40:56 ID:SUGl6uUJ


現実の世界では
私たちの間には逃れようの無い
道理の河が流れていて
踏み越えることが簡単には
許されない一線がある。
発生していくであろうリスクの高さ。
複雑過ぎて判らなくなる。

あなたはよく「信じる」と書いてくた
が、何に対してなのだろうか。
人が人と向き合い理解し合う上で
育まれていく様々な感情や絆。
文字と文字のやりとりだけで本当に
確かなものは築けていけるのか。
簡単に揺らぎやすいところに答えが
在るのかもしれない。
文字にも力があるから全くの無意味
ではないことは「確か」だけど。

表情も声色もわからない中でこれまで
多くの誤解、行き違い、人違い、時間差があった。
認識の違いすら修正できる間もなく。

あなたをこれ以上不安にさせたり
傷つけたりすことは無意味だ。
お互いに一呼吸して距離を置くのが
一番望ましいと思う。

あなたからの腹を割った返答を待つ。




28名前はいらない:2009/01/19(月) 10:44:22 ID:SUGl6uUJ
↑ああ、脱字が多すぎ…読みにくくて
申し訳ない。
29名前はいらない:2009/01/19(月) 10:56:03 ID:SUGl6uUJ
「恋と愛」

恋情
自分が相手に一方的に好意を寄せる
こと。自分本意の欲求。
時にこれが満たされないと
相手に対して負の感情を抱くことすら
ある気持ちの状態。

愛念
相手が主体の世界。私欲の類は消滅する。
相手の幸せを願うこと、それがための行為。
厳しさも伴い、理性が優先される。
相手に対して対価を要求することはない。

これは私の恋と愛に対する認識。
30名前はいらない:2009/01/19(月) 11:09:08 ID:SUGl6uUJ
「テレパシ」

彼のこころを盗み聞きする

『天使みたいだな…』
『…そんなことないって!』

『えっ、僕…』
『鼻高いなー』

ほほう。

31名前はいらない:2009/01/19(月) 17:57:34 ID:51xrh2iT
お手紙の量がいっぺんに
ふえて、どれから返事を
書いたらいいのか…
 
彼は時々難しい表現を
使う
私が知らなかった言葉
「恣意的」
「Remedy」

何て読むのかも解らなくて
辞書で調べる

何ですかこの間接的教育指導

べんきょうになります(´・ω・`)
32名前はいらない:2009/01/20(火) 07:01:41 ID:XRmwaS4K
「彼のこころ」

『どこか馴染めるような…』
『…なんでそんなことに』

『本当のところ良くは…』
『早く慣れないと…』
『…居ないんでは…』

 もほう。
33名前はいらない:2009/01/20(火) 09:49:19 ID:gFvaHyoV
「続」

『あなたがいるものと勘違いして…』
『あなたの負担になっているのでは…』
『あなたが大丈夫なら私も大丈夫…』
34不確かなハチドリ:2009/01/21(水) 16:47:26 ID:fNiwKJDs
>>32
あー!発見してくれましたねo|。゚+.ヾ(・∀・)ノ゚+.
よかった
あの暗号じゃちょっとわかりにくい
かもと思ってました

>『本当のところ良くは…』
あれでもよいほうだったのです
前はもっと酷かったから
今はだいぶ落ち着いてきてます。
>『…居ないんでは…』
誰が?(・o・*)
>『あなたがいるものと勘違いして…』
そうですね、あなたはどうも一人で
煮詰まって考えすぎてしまう癖が
あるみたい
>『あなたの負担になっているのでは…』
負担に感じたことはありませんが
あなたが気分的に落ちたりしている
時の文面をみると
(たいじょぶじゃろうか)
と心配になりますね。
>『あなたが大丈夫なら私も大丈夫…』
右に同じ。


>もほう。
↑ぷぷっ(笑)(*^m^*)
35不確かなハチドリ:2009/01/26(月) 15:09:19 ID:+WwW/tqA
モンスター・マザー

これからあなたの面倒をみていかなくちゃ
私のお金を当てにしてるんだね
親戚中から総スカンくらっても
どこふくかぜ
やりきれないわ本当に
忘れられないあなたのやらかした事
家族の中の秘密

大嫌いよお母さん
大嫌いよお母さん

最近となりにいるだけで
イラつくの
私が元気になって
きたからだね



36不確かなハチドリ:2009/01/26(月) 18:43:51 ID:GW3+AEuh
ネットがもうできなくなります
どうか不養生しないで
お元気でいてください
気にかけていただき
私は果報者でした

これからはもう
大丈夫なので
心配しないで
ください

adieu…
37しんのすけ:2009/01/31(土) 03:25:12 ID:49Gkut6i

きれいごとじゃなくて

僕の人生であなたに出会えたことだけが価値のあることだった


あなたさえいればよかった


でもどんなに抱きしめてもあなたに手が届くことはなかった


あなたは神様が僕に見せてくれた幻


どんなに抱きしめてもあなたそのものは別の世界の住人だった

どんなに抱きしめても僕はあなたに触れることさえできない人間だった


神よ、僕はあなたに感謝と恨みをこめて「ありがとう」と言わせてもらいます。

38しんのすけ:2009/01/31(土) 03:38:38 ID:49Gkut6i

君と見つめあって

つないだ手を僕がにぎりしめると

君がぎゅとにぎかえした


・・・まぎれもなく人生で最高の瞬間だった。

39しんのすけ:2009/01/31(土) 03:44:11 ID:49Gkut6i

「ここをまっすぐ行って、左に曲がって・・・あれぇえええ?」

いつもの君の道案内

あは☆大丈夫、

はじめから女の子の道案内なんてあてになんかしてないよ


てか実は僕はひそかに君との迷子を楽しんでる☆
40名前はいらない:2009/01/31(土) 03:49:06 ID:kmwBnPO2
下半身を露出させながら女の頬を殴りつけて「静かにしろ」と刃物を白く細く大きく震える咽喉ににあてて口をふさぎ恐怖に歪む透き通って美しい瞳を睨みながら「大人しくしてれば殺さないよ」と優しくしっかりと言ってあげると小さく可愛くうなずいた。
用意したガムテープと紐で女のベットに縛り付けてから以下略
41名前はいらない:2009/01/31(土) 03:53:13 ID:W4eIRmSJ
>>34 やっぱりお前か…。
42しんのすけ:2009/01/31(土) 04:04:46 ID:49Gkut6i
>>40 いつかそういうこと書かない人になれればいいですね。。
43しんのすけ:2009/01/31(土) 04:10:04 ID:49Gkut6i
>>40 ああ、でも書いてもらうのは全然OKです。それがあなたの心の叫びなら。
ただ内容的に視覚的にあまり多いと気持ち悪いときあるのでそれだけ考慮してもらえればいいかな☆
44名前はいらない:2009/01/31(土) 05:13:58 ID:kmwBnPO2
君の透き通った耳に僕はやさしく囁いた
「愛してる」
一瞬驚いた瞳を僕に向けると
恥ずかしそうにうつむいて
それから
君は沈黙した
長い間

小さく堆積した時間が降り積もる雪のように僕の周りで凝固した

それから多くの時間が流れ君と時を同じくして生活しても
永遠に獲得できないものを
僕は知った

君が悪いわけではない
45名前はいらない:2009/01/31(土) 05:44:13 ID:BHj/lmWo
自分が情けないせいで失ってしまったもの
都合よく取り戻したりできそうにない
本当のあなたが分かって 失ったものかけがえのなさ
本当のあなたに気づけなくて あの雰囲気がそうなんて 半信半疑で
だけどあなたに何もしてあげられそうにない
結局こうした方がいいのかもしれない
なぜ他に好きな人が居ると疑われるのか分からなかった
こういう面があることはよく分からなくて
自分自身が出会ったころとすっかり変わってしまったから
あなたを元気付けたりすることさえもできずに
これではただ居るだけになってしまいそうだし
追い詰められた感じになって ここは最近見てなかった
邪魔されない世界を作ってくれていたのに
その深い心に気づけなくて ごめんね
あなたは私にはもったいないひとだから 
いままでありがとう 
46名前はいらない:2009/01/31(土) 06:25:24 ID:kmwBnPO2
君はいつもそうだった。

お互い獣のように漂う体臭に咽ぶ汗にまみれ荒い息をきつく抱きしめて貪る皮膚の触れ合う瞬間の向こうに君の醒めた心のどこかを僕は感じていた。
僕の愛は君の弾力のある肌を通していつもはね返ってくる。
舌を重ねて体液を交感し
薄い粘膜を通して擦れ合う快感を気の遠くなる周期に僕が陶酔しても
君の醒めた瞳の奥にある網膜に映るイコンはいつも別のイマージュだ。
君はストイックな修道女のように私の精液を子宮の奥に留めて君の細胞と一つに交わることはなかった。
淫乱なメス犬がまるで優秀な遺伝子を捜し求めるように陰唇を赤く染めて下卑た笑いを浮かべても君はアメーバーのように溶けることはなかった。
君は常に優秀なマリアであり続けるようにイエスを食らう食虫植物のようにフェロモンを振りまいた。

体液に還るまで・・・・・・・・

君の愛を僕は知らない。
47名前はいらない:2009/02/06(金) 10:31:49 ID:Zy4qANBV
「飛び石」

だめになったと思い込んだ
どう守ればよかったのか
全てが曖昧な状態で
今は無事なのだろうか
まだ関わっていいのだろうか
実際どこまでが本当か
実際動くと迷惑なのか
愛を無理に貫けば
かえって迷惑のような展開
直に守れればいいとも思うけど
もう遅いのだろうか
今も変わらずきみのことを
今も変わらずきみだけを
ずっと変わらないものを
どこかで
48名前はいらない:2009/02/15(日) 23:43:20 ID:AvY6TOqG
もういいよ 

がんばらなくていいから

一度自分に言ってみたい
49名前はいらない:2009/04/22(水) 11:20:46 ID:Czmpmy/m
age
50名前はいらない:2009/04/26(日) 00:00:22 ID:cAgLT8y4
むっしゅむららら
好きだよん
愛してる ちゅっ
みんな好きさ 
一緒に歌おう
ラララ ララン
51名前なし:2009/07/24(金) 14:45:25 ID:zAfa0jDt
第一幕

ユディットの家の玄関を兼ねた広間。

第一場

幕が上がる前に、一種悲痛な叫び声が聞こえる。男の声が鋭く「ユディット! ユディット!」と叫ぶ。
幕が上がると、召使たちが武器や棍棒を手に四方八方から出てくる。ユディットの叔父のヨゼフが彼らを励ましている……
52名前なし:2009/07/24(金) 14:46:12 ID:zAfa0jDt
ヨゼフ  階段を見ろ! 戸棚を探せ! 暖炉をのぞけ! 今度こそ逃がしはせんぞ。見つけた者には褒美を出す。
召使  きっと見つかりませんよ。
ヨゼフ  いいから探すんだ、みんな。確かにこの辺だったぞ。
召使  この辺にいますよ、だけどいないんですね。
ヨゼフ  お前は何を言っているんだ?
召使  あの声は確かにこの辺で聞こえました。しかし、あいつの身体はこの辺にはありませんよ。あれは幽霊の叫び声に違いありません。
     ああいう叫びなら、昨日から、市の辻という辻、道という道で聞こえていますよ。死人の霊が旦那さんのお姪御さまを呼んでいるんでさ。
     私たちを救うことが出来るのはユディットさまだけなんです。それは誰でも知ってることですぜ。ユディット、ユディット!

彼は知らず知らず先刻の叫び声の調子を真似て叫ぶ。他の召使は戦慄する。

ヨゼフ  こら、黙らんか! 何も見つからないのか、お前たちは?
召使  何も見つかりませんや。

召使たちは出て行く。ヨゼフも疑い深く、辺りを眺め回してから出て行く。彼が出て行くやいなや、窓が静かに開く。
一人の男が現れ、窓枠に馬乗りになる。彼は手をラッパのようにして口にあて、さっきと同じような鋭い声で叫ぶ。
「ユディット! ユディット! 我らを救え!」ヨゼフと召使たち登場。しかし窓はもう再び閉じられている。すぐこれに続いて、誰かが激しく戸を叩く。

ヨゼフ  誰だ?
ヨハネ  僕です、ヨハネです。開けてください、ヨゼフ。犯人を捕まえました。

戸が開く。若い士官のヨハネが窓から叫んだ男を彼の前に投げ出す。
53名前なし:2009/07/24(金) 14:47:49 ID:zAfa0jDt
ヨハネ  こいつはそこの窓から飛び降りてきました、僕が下から受け止めたわけです。
      この汚い奴に泥を吐かせれば、誰かの名前が出てきそうだ……何者だ、お前は?
ヨゼフ  この男は不潔で嫌な臭いがする……して見るとこれは預言者に違いないぞ……
召使  町中どこへ行っても預言者だらけですよ……死にかけた犬には虱が、病んだ民族には預言者がたかるものでさ。
ヨハネ  さあ、言わんか! 名前を言うんだ!
預言者  (あたかも話すように立ち上がって)ユディット! ユディット!
ヨゼフ  あいつらは、みんなこの調子だよ。わしは、今夜、家へ入ろうとして、入り口に寝込んでいる乞食どもをつきのけてやったんだがね。
     すると奴らはみな"ユディット"の名を喚き出したよ。あんな屑どもまでユディットの夢を見ているのだな……こいつに猿ぐつわをはめろ……
ヨハネ  まあ、何を言う気か聞いてみようじゃないですか! 何か参考になるかもしれない……
預言者  この市で最も美しく、最も清らかな娘よ……
ヨゼフ  これこれ、これがいわゆる予言の決まり文句だ……この市で最も美しく、最も清らかな娘がホロフェルネスのもとへ赴かなければならぬというのさ。
ヨハネ  それから、それがここのユディットだというんです!
預言者  ユディットよ! 我らを救え!
ヨゼフ  猿ぐつわだ、地下室に放り込んでおけ!

召使たちは預言者を運び去る。召使1だけは、そこに突っ立っている。

ヨゼフ  お前、どうしたのかね?
召使  旦那さま、ユディットさまが我々をお救いくださいますように!

彼はヨゼフにおどかされて退場。

ヨハネ  ユディットは家にいないんでしょうね?
ヨゼフ  まだ病院にいるよ。負傷兵の見舞いだ……帰りを待っているんだがね。
ヨハネ  あの件をユディットに知らせましたか?
ヨゼフ  何の件だ? 何を知っているんだ、君は?
ヨハネ  ユディットは生贄にされるんです。もう決まりました。評議会は今夜、今から一時間後にユディットをホロフェルネスに差し出そうとしています。
      もうすぐ大司祭がやって来ますよ。今日の午後、街へ出ましたか? 僕は先回りしてきたんです。大司祭自らユディットを説得しに来るんです。
ヨゼフ  わしが会おう。
54名前なし:2009/07/24(金) 14:49:20 ID:zAfa0jDt
ヨハネ  あなたは大司祭に逆らう気なんですか! あの人は市の支配者じゃありませんか。今日の午後、街へ出ましたか?
ヨゼフ  出た。
ヨハネ  店という店の窓ガラスにも、どの街燈の台石にも、この市の最も美しく最も清らかな娘がホロフェルネスを誘惑し、
      心を惑わすのだという馬鹿げた文句が書いてあったでしょう。
      書く奴が金持ちならダイヤで刻むし、貧乏人なら炭で書くという違いはありますがね。あれを見ませんでした?
ヨゼフ  あの声を聞きたまえ! (多くの「ユディット!」という叫び声が聞こえてくる)他の国の民族は口がさびしければゴムでも噛んでるんだが、
      ユダヤ人はいつも誰かの名前に吸いついてなければおさまらんのだ。彼らが誰かを尊敬するのも、
      要するに他人事に首を突っ込む口実にすぎない。信心深いのも、神の仕事に首を突っ込みたいからさ。

「ユディット!」という叫び声が聞こえる。

ヨハネ  ユディット! ユディット! 僕たちにとって、ユディットの名前は、いつも花のように豊かな生命の秘密を包み、
      ビロードのように柔らかな愛情の別名でした。だのに、あの声をお聞きなさい、その美しい名を一音一音区切りをつけて、叩きつけています。
      吠え立てています。ユディットの名から冷たい硬い呼び声を作り上げて、永遠に向かって投げつけているんです……
      あれは大司祭を先頭に幾千の人が叫んでいる声です……あなたが彼らに反抗してもなんの役に立ちますか? 
      それにユディットはもう二十歳ですよ、未成年者じゃありません。
ヨゼフ  ユディットがその使命を引き受けようというのなら、引き受けるがいいさ。あれはあれなりに身を守る術も知ってるし、道理もわきまえている……
ヨハネ  現在、我々は飢えたまま、虐殺される危機に直面しているのですよ。この状況でも効き目のある道理はただ一つ、不合理という道理だけです。
      その意味では長老たちのでっち上げは、道理にかなっているのです。彼らは正しいのです。
55名前なし:2009/07/24(金) 14:50:53 ID:zAfa0jDt
ヨゼフ  君はわしにそんなことを言いに来たのか?
ヨハネ  僕が来たのは、ユディットを助けられやしないかと思ったからですよ。ところが彼女は留守だ。でも、かえってその方がいい。
      とにかく司祭たちがユディットに逢って話をしてしまっても、僕に逢うまでは何も決めないように言っておいてください……
      僕に考えがありますから。一時間もしたらまた来ます……
      (彼は玄関の扉を開く)急にしーんとしてしまった! あ、行列が来た! 不吉な静けさだ! 
      さっきまでの馬鹿騒ぎより、この沈黙の声がユディットの名を呼ぶ方がもっと手強いぞ! 
      馬鹿どもめ! ユディット! ユディットと喚くがいい!
ヨゼフ  さ、早く……行きたまえ……

ヨハネは傍らの戸から出て行く。
56名前なし:2009/07/24(金) 16:07:05 ID:zAfa0jDt
第二場  ヨアキム、ポーロ、ヨゼフ

ヨアキム  姪御はご在宅かな?
ヨゼフ  姪に何の御用です?
ポーロ  ヨアキム様は大司祭です。小娘に話をするのにいちいち理由をことわる必要はありません。
ヨゼフ  しかし、この人には、ユディットを何かに仕立て上げるもくろみがあるんでね。
ヨアキム  わしがあの娘を何に仕立てようとしていると?
ヨゼフ  偉大な女性、女傑に仕立てようというんでしょう。つまり、分に過ぎた仕事を背負わせて常識の枠からはみ出す女にね。
ヨアキム  そのことなら、あの予言に飛びついたユダヤ民族を恨むがいい。
       もう三日前からパンがないので、ユダヤ人は予言を食って生き延びているようなものだ。
       これでは、一刻も早く予言が実現されなくてはかなわん。
ヨゼフ  あなたは司祭だが、私は銀行家ですよ、その私に予言の話とは呆れたものだ。
      集団的ヒステリーが起こっているという話なら分かりますがね!
ヨアキム  みながヒステリーで、あんただけが真実を見ているというわけかね?
ヨゼフ  その通り、さもなければ、あなたは途方もない偽善者ですよ……
ヨアキム  あんたの眼だけが曇っていないというなら聞くがね、あんたの目に、はっきり見えるところでは、
       市の包囲はとけて我々は崩壊から救われているわけだな、
       ユダヤ人はみんな商売に忙しく、たらふく食べてデブデブ太っているわけだな? 
       ユダヤ中の鷲鼻であんたのだけが利くというなら、さぞかし春らんまんの香りを吸い込んでいることだろうな。
ヨゼフ  私には、そこらじゅう飢えとペストだらけなのが見えますよ。北風でも南風でもいい、ほんの一吹きすれば、
     あの匂いで、無数の死骸が、ホロフェルネスと我々の間にまた別の包囲網をしいていることを思い出すありさまだ……
     だがいくら何でも、我が民族が助かるためなら野蛮人同然のやり方をし、
     どんな恥ずかしい行為でもやってのけるほど落ちぶれたとは思えませんな、残念ながら。
57名前なし:2009/07/24(金) 16:08:46 ID:zAfa0jDt
ポーロ  では今日はまだあんたの家族は生きているが、明日は情け容赦なく虐殺されるとしたらどうです、あんたは一体この違いをどう思います? 
      そうなれば、あんたの姪御も、もう大将相手に大角力をとるどころか、凶暴な兵卒どもと掴み合いを演じることになるのですよ。
      臆病なブルジョアは災いに直面すると、奇跡を当てにする。それがどんな代物か分かっているんですか? 
      「死せる者どもよ。起て!」とでも叫んだら、我が軍の戦死者は塹壕から立ち上がる、歩兵隊の前には天使たちが天下って、
      光り輝く剣、折れることのない刃をふるって戦いに参加する、敵の大将は都合よく卒中でぶっ倒れるとか後悔の念におそわれる、
      あんた方はこんな風にでも思っているんじゃありませんか? 
      銀行あたりじゃ抜き差しならない苦境に立っても、この調子でどうにかなると思ってれば済むんですか?
ヨゼフ  どう思ってもいいですよ。一つ奇跡を待とうじゃないですか、ヨアキムさん。
ヨアキム  奇跡は目の前だよ。二ヶ月前から苦しめ抜かれて、盲目同然聾同然になっているこの市の連中が、
       あんたの姪の名前だけで耳が聞こえ、目が見えるというのが既に奇跡だ。つまり市民は、あんたの姪を市の首領にいただこうと思いついたのだな。
       結構なことではないか。今では、恐ろしい運命の歯車が、永遠にぎりぎりと噛み合いそうなありさまだが、こうなっては、
       ある少女の、ある女の指だけが、歯車の間に滑り込んで機械を止めてしまうことが出来るのだ。
       ダヴィドの指のように、ヨエルの指のようにね。そして今はユディットの指が……
ヨゼフ  ユディットの指には、構わないでもらいましょう……
ヨアキム  彼女は在宅なのか?
ヨゼフ  もう一言、彼女が帰ってくる前に出て行きなさい。
ポール  衛兵が控えていますぞ、ヨゼフ。
58名前なし:2009/07/24(金) 16:10:35 ID:zAfa0jDt
ヨアキム  ユディットを選んだのは町の民衆だが、わしもユディットのことを考えれば考えるほど、彼女を信じるようになってきた。
       わしはあんたの姪後はよく知っているからね。もう何年も前から目はつけていた。実に美しいし、自分でもそれを承知している……
       この家には鏡がないとは言わせないよ。あの娘は、自分の美貌が大切なことをよく承知している。
       我が軍の参謀本部は、彼女に想いは寄せたが、ていよくはねつけられたという男だらけだ。
       彼女は豊かな身分だが、金持ちとしての利益や楽しみは一つも逃がさない。まだ二十歳だというのに、
       もう文学者の賛美の的となり、模範農場や、慈善病院や、立派な美術品のコレクションの持ち主だ。
       毎日、暮れ方になると、手ずから種馬を一匹と癩病患者を一人撫でてやり、
       ありふれた彫像と美男子の彫刻家に愛情込めた眼差しを送るという生活ぶりだ。
       スポーツや芸能関係では、どうも、派手に成功しそうなもの、それも大向うに受けるようなものばかり選んでやる傾向が露骨に出ているようだな。
       男のように馬に跨って駆け回る。ダンスを、それも時には公衆の面前でやってのける。
       劇場や、レストランにさっそうと乗り込むのが大好きだ、今のところは陸軍病院という名の男性専用ハーレムに乗り込んでいる。
       わしも、かつては、あの娘が美しい額に流行の髪形を結い、モードを追って綺麗な胸を膨らますのを見て腹が立ったものだ……
       今日となっては、これもありがたいことだよ。
       神はこういう娘らしいところに目をつけて、それを手がかりにあの娘を手中に収めようとしておられるのだからな……
ヨゼフ  ユディットの胸には構わないでもらいましょう……
ヨアキム  ところでユディット自身は、自分が選ばれたことを何と言っている?
ヨゼフ  私とあの娘は、他にいくらでも話題がありましてね。
ポーロ  しかし……彼女はこのことを知っているのですか?
59名前なし:2009/07/24(金) 16:12:26 ID:zAfa0jDt
ヨゼフ  ユディットが知らないわけがありますかね? この家は、市の城壁よりも激しく包囲攻撃を受けているんですからな……
      家中、プレゼントや花束だらけですよ。市の食料品が一種類足りなくなるか、我が軍が一連隊失うかする、
      そのたびに、ユディットに捧げられる新しい花を思いつくんですからね……今日は蘭の花でしたよ……彼女も知らないではすまされませんよ!
ヨアキム  では、そのためにユディットの生活が変わったかね? 化粧はどうだ? 食事は? この香水はなんだね? 
       あんたの家ではよい香りがぷんぷんしているな。晩になると、彼女は部屋で何か遺言めいたものを書いているかね? 
       日の暮れ方には、ヨハネとかユズラとかいう若者にあって形見に自分の肖像画を与えているかね? 
       人間が英雄になろうと決心すれば、友達にちょっとした贈物をしたり、
       近親に抱きついたりなどする仕草に、何か変わったところが現れるものだ。
       ユディットの場合、それが自然に出てきているかね? 彼女はヨハネに別れのキスをしたかね? 
       あんたのカラーにブラシをかけるとか、髪の分け目を直してやるとかいうのは口実で、叔父さんに抱きついて密かな別れを告げたかね? 
       しかるにあんたは、神聖なこの部屋で、神を罵っている。これはどういうわけだ?
60名前なし:2009/07/24(金) 16:22:19 ID:zAfa0jDt
ヨゼフ  神聖な! なぜ神聖なんです? 私は、ここが神聖でなんかないほうがありがたいね! 
      このサロンは、私の父が始めて卒中の発作を起こした場所です。ユディットは、この部屋に人形を置いていた。
      あの娘が始めて抜け替わった歯がなくなったのもこの部屋、ユディットの母親が身ごもった時、初めてつわりがあったのもこの部屋です……
      私たち一家はここで食べ、ここで泣き、ここに唾を吐いて暮らしてきたんです……
      ほら、この通り今も唾を吐いてお目にかけますよ! ここは人間の場所だから神聖なんです、神のために神聖なんじゃない……
ヨアキム  ここにどちらの神聖さが宿るかは、ユディットにかかっている。あんたの決めることではない……
ヨゼフ  ユディットは気が向いたら、明日にでも決めるでしょうよ。今夜のところは、あの娘は安全な場所にいるんです。
ポーロ  私は、あんたの名を借りてユディットを迎えにやりましたよ……それ、帰ってきた……
61名前なし:2009/07/24(金) 17:35:08 ID:zAfa0jDt
第三場  ユディット、ヨアキム、ポーロ、ヨゼフ、少年ヤコブ

ユディット  ヨアキム様、いらっしゃいませ、ただいま、叔父さん……この小さなヤコブにあげるパンがないかしら? 
        入り口の階段の所でこの子を拾ったの。見てごらんなさい。この子は、ひもじくて死にかけているのよ。
少年ヤコブ  僕、パンなんか要らないよ。
ユディット  じゃ何が欲しいの、坊や?
少年ヤコブ  この市で一番綺麗で一番清らかな娘にホロフェルネスの陣屋へ行って欲しいんだ。
ユディット  あら坊や、お利口さんだこと、教わったとおりにちゃんと覚えているのね。
        でもその娘はホロフェルネスの陣屋へ行って何をするのかしら?
少年ヤコブ  そんなこと知るもんか。
ユディット  ホロフェルネスの首をちょん切るの? それともホロフェルネスとダンスをするの?
少年ヤコブ  知らないったら。
ユディット  坊やはいい子だこと! だから坊やは、その娘が行く前にはパンを食べないのね?
少年ヤコブ  うん、その前にはパンを食べないんだ。
ユディット  じゃ肉ならどう、食べる?
少年ヤコブ  肉? 肉だって?
ユディット  叔父さん、この子に缶詰を一つあげてよ……
ヨゼフ  さあ、もう出て行け。

少年ヤコブ立ち去る。
62名前なし:2009/07/24(金) 17:36:13 ID:zAfa0jDt
ユディット  ねえ、叔父さん、怒らないで。あの子は学校で習った通りに繰り返しているだけなのよ……落ち着いてちょうだい……
        その白髪まで怒って逆立っているじゃないの! ほら……ねえ、キスさせて……そんなに逃げないで……
        きっと大司祭様はこういう家庭的なシーンは大目に見てくださるわよ……こういうのは大いにユダヤ的なんだから、
        大司祭様のお気に召すはずよ……さあ、じゃ、あちらへ行って下さいな。
ヨゼフ  ヨアキムさんには気を許すなよ。ユディット、お願いだから……
ユディット  ここにはヨアキムさんなんかいらっしゃらないわ、神様だけよ……
ヨゼフ  その神様が危ないものなんだぞ、ユディット……

ヨゼフ退場。
63名前なし:2009/07/24(金) 17:40:18 ID:zAfa0jDt
第四場  ユディット、ヨアキム、ポーロ、少年ヤコブ

ヨアキム  その通りだ、ユディット、神はこの部屋におられる。
ユディット  あらまあ! 私、神様が家をお間違えになったのじゃないか心配ですわ、ヨアキム様。
ヨアキム  そう謙遜しなさるな。予言は最も美しく、最も清らかなと言ってはいるが、最も謙遜なとは言っていないよ。
ユディット  予言は最も軽薄な、最もおしゃれの、最も気まぐれなとは言ってないんですの? 
        私はそういう所もありますのよ、本当ですわ。私が馬に乗ったり、あんなドレスを着たりするから、みんな騙されているんですの。
        今日は、美人コンクールをやっているわけじゃないでしょ。
ヨアキム  もし、他にあんたより資格のある娘を知っているなら、名前を言ってごらん。
ユディット  こんな怪しげな冒険をさせるために、友達の名前をあげろとおっしゃいますの? 
        そんなことは卑劣な行為ですわ。第一、清らかさとか若々しさを密告するなんて変な話じゃありません?
ヨアキム  それでいいのだ、世間はめくらだからな。それに万事見通しの神にも、これだけは教えて差し上げないといかんのだよ。名前を言いなさい。
ユディット  そんな勇敢なことをやれる女なら、顔や身体がどんなであっても、美しく清らかに見えるでしょう。あの予言はそういう意味だと思いますわ。
ヨアキム  どうもそうじゃないらしいから心配しているのだよ、ユディット。ユダヤの聖なる書物の文字は、動かすべからざるものだ。
       我々の神は、ギリシャの神なんかとはわけが違う。決してあんな風に謎々をかけたり、駄洒落を飛ばしたりはしない。
       我々の神は、一つ一つの生き物に分相応の名前をつけて、はっきり区別している。貂は貂、山羊は山羊だ。
ユディット  でも、神様がユディットの名をお呼びになるのなんか聞いたことがありませんわ。おかしいですわね。
64名前なし:2009/07/24(金) 17:41:49 ID:zAfa0jDt
ヨアキム  じゃあんたは、神がマルタとか、ルトとか、エステルとか、あんたの友達の名を呼ぶのを聞いたことがあるかね? 
       わしは、何週間も前から、周旋屋みたいに一人一人の娘を調べて来た。今ではあの美しい汚れのない娘たち一人一人に、
       どんな皺があり、どんな恋人があり、どんな歯茎をしているかまで知ってしまった。たいていの娘は歯茎を見せて笑うと、
       壊血病であることが分かってしまうね。しかし、あんたは真っ白で美しくない歯があるかね、あったら見せてもらいたいものだ。
ユディット  そういうことなら、もっと質素な階級の、下級サラリーマンの家でもお探しになる方がいいわ。
        そういう家庭の方が真面目ですから、処女はいくらでもおりますわ。
ヨアキム  ユディット!
ユディット  でなければ、労働者の所ね。もっと民主的におなりにならなくちゃ。神様は、英雄や聖人は、
        支配者階級の特権だとお決めにはなっていないのに、あなたは頭からそう信じていらっしゃるのね。
        だからユダヤの歴史が、まるで社交界人名辞典みたいになってしまったんですわ。巨人ゴリアテを殺したダヴィドは、
        造船会社社長令息にされ、太陽の動くのを止めた男が銀行家の甥になったりするんですもの……
        ユダヤ民族のための功績がまだ残っているなら、今度は生まれや金で人を選ばずに、
        特権階級とは名ばかりでその日暮をしているような種族にさせてやるほうが公平ですわ。レヴィ族なんかにも機会をお与えになったらいかが。
ヨアキム  無駄なおしゃべりはやめなさい。神に見放されたような民衆まで、あんたを選んだのだ。
ユディット  神から相手にされないような人たちから選ばれたところで、別に嬉しくもありませんわね。
65名前なし:2009/07/24(金) 17:44:13 ID:zAfa0jDt
ヨアキム  あんたがこんな調子で神の言葉に逆らおうとは、思いがけないことだな。
ユディット  もう一度申し上げるわ。神のお言葉は私にあてられたものではありません。
        市じゅうの人が、私に国を救う使命が託されているなんて考え出したのは、大分前からですもの。
        いくら私だって、今まで何か神様のサインがないか、気をつけていたはずでしょう。
        のっぽのくせに気の小さいユディットあてのサインをね、私は自分でそう思っているけれど、
        神様から見れば、きっとちっぽけなくせにプライドの高いユディットということになるんでしょうね……
        とにかくどんな小さなサインでもあれば、私も納得が行ったのですけれど。
ヨアキム  モーゼの見た燃ゆる茨のような印が欲しいのかね? それとも叔父さんに後光でもさせばいいというわけかな?
ユディット  燃えるほどでなくてもいいわ! 生ぬるくてもいいからたった一言! こちらのただ一言に手答えがあるだけでもいいわ。
        私は、子供の頃、雨の中で顔をあげたまま,じっとしていろという命令を感じたことがあるわ、あれは神の声でしたわ。
        私が手の格好を気にするような小娘になってきた頃、昼間のダンス・パーティーに出かける前に爪を短く切っておけという命令を感じたこともあるわ、
        あれも神の声でしたわ、その頃の私の受けた命令は子供っぽかったし、神様も子供っぽかったわ、
        でも神様は別に言いにくそうなご様子はありませんでしたわ……

(ヨアキムは身振りをする)

        あなたは何か言いにくそうにしてらっしゃるのね、私のせい?
ヨアキム  いやいや、わしは安心しているくらいだよ。それから?
66名前なし:2009/07/24(金) 20:42:12 ID:G4VJY4Pi
ユディット  太陽の光線を見ていると、急に、一つの光線が特別の色を帯びてくることがありましたわ、あれは、神の視線だったのですわ。
        私の乳母と叔父が洗濯のやり方は何が一番いいか、論争したことがありました。糊だの、石鹸だの、洗濯女だのと言い合っている最中に、
        急に思いがけない一言が飛び出して、問題を解決しました。あれは神の言葉だったのですわ。
        私が神様の御手から愛撫されるのを感じたことは、まだ申し上げませんでしたわね。私はあらゆる種類の愛撫を受けましたのよ。
        冷たい手触りから、火のように熱い触感までね。神様は、私を誰だか知らないで愛撫したなんて、言い抜けはお出来にならないの。
        だってちゃんとご承知だったんですもの。ほんのちょっとしたことでも、私の名前をお呼びになるくらいですからね。
        私の名が耳に囁かれることもあり、大声で叫ばれることもありました。その時の声のひびきには、神様独特の虹のようなアクセントがありましたわ……
        なのに、今では何も聞こえませんの。私は、なるべく、負傷兵に近づくようにしましたわ。
        神様が、負傷兵たちの潰れた指やえぐられた目を借りて私にサインをなさるだろう、彼らの傷口を手荒く扱って、声をあげさせまでしましたのよ。
        でも、負傷兵の口から出たのは、ただの言葉でした、傷ついた人間の呻き声だけでした。
        二人の男が、私の腕の中で息を引き取りました、でも、私の抱いていたのは、ただの死だけでしたわ……
ヨアキム  そういう神の沈黙は大変なことだよ。神々を隠しておられるのには、深い意味がある。あんたはこの事実に心を打たれないのかね?

少年ヤコブが戸口に現れる。

ポーロ  まだ何か欲しいのか、お前は?

少年ヤコブはテーブルの上に缶詰を置く。

少年ヤコブ  僕、肉要らないや。
ユディット  だって、あんたはお腹がすいているんじゃないの、坊や!
少年ヤコブ  チーズもお菓子も要らないんだ。
67名前なし:2009/07/24(金) 20:43:21 ID:G4VJY4Pi
ユディット  じゃ、ユディットがあなたにキスをするというのはどう、いいでしょう?
少年ヤコブ  いやだい、キスをして断食をやめさせるんだろ。
ユディット  そう、坊やの可愛い口にキスしたら、断食をやめさせることになるかもしれないわね。
        だけど、ここなら、あなたの首筋、耳の後ろなら、キスしても大丈夫よ……
        それから林檎はどう、林檎ならいいでしょ? 家にはまだ林檎が一つあるのよ。
少年ヤコブ  林檎だって?
ポーロ  林檎はしまっておきなさい。どうせこの子は林檎もすぐに返さなけりゃならなくなる、あんたにも分かってるでしょう。
ユディット  じゃ仕方ないわ、あっちへいらっしゃい!
少年ヤコブ  でも、林檎なら、もしかしたら……
ユディット  じゃほら、これが坊やの林檎、さあ、あっちへいらっしゃいな!

少年ヤコブ、退場。

ユディット  助かりましたわ、ヨアキム様。神様が子供たちの口を借りて私にお話になったのだとおっしゃられたら、私困りましたもの。
ヨアキム  つい今し方、幼い頃の思い出が子供たちの口を借りて、あんたに蘇ってきたではないか。
       二日前からユダヤの子供たちは、みんな、食物がないのを断食とみなすことになっているのだ。
       そういうつとめはあんたのような女傑を出した民族の子供に相応しいのだと言いきかせてある。これでもあんたは考え直さないのかね……
ユディット  でも子供たちは、若い娘があの大男と二人きりで人知れぬ場所に閉じこもったら、どんな結果になるのか知りませんもの。
ヨアキム  あんた自身も知ってはいまいが?
ユディット  大体知っていますわ。私は夢の中で、一晩中巨人ゴリアテと組み打ちしていたことがありますもの……
ヨアキム  どちらが勝ったかね?
ユディット  夜は、ゴリアテでしたわ。目が覚めた時は、私。
ヨアキム  稽古の仕方としてはよくないが、前兆としては吉兆だな……
       それに戦いというものは、恐れれば恐れるほど、勝つ見込みが大きくなるものだよ。

外から林檎が投げられて、窓ガラスを貫き、ユディットの足元に転げ落ちる。
68名前なし:2009/07/24(金) 20:44:58 ID:G4VJY4Pi
ユディット  お願いです。よそを探して下さらない。貧民窟の方では、三日前から一人の娘に神の訪れた印が出ているという話ですわ。
        不思議な傷痕が胸と舌とに現れているんですって。名前まで私と同じなんですの。
        あれこそ、本物のユディットに違いありませんわ。私の肌には神様のインクのしみなんかついてませんもの……
ヨアキム  あのユディットならわしも見てきたよ。あの娘は片輪なのだ。それに、あの傷は化膿しているね。
ユディット  あの娘を治療して、片輪の倒錯的魅力というのをお作りになったらいかが、まだ時はたっぷりありますわ。
ヨアキム  時だって? それは、どういう時だ?
ユディット  苦しい時、そして勝利の時ですわ。
ヨアキム  うむ、多分、苦しむ時ならまだあるだろう。ユダヤ人は、他の民族なら死んでしまうくらいやせても、
       まだ生きていられる民族だからな。しかし勝利の時は来ない。
ユディット  ホロフェルネスは矢弾が足らなくなってきたので、黄金や宝玉を鋳潰して矢を作っているという噂がありますけど。
ヨアキム  我々ユダヤ人には、プラチナの矢や金の矢でないと傷がつかないという噂だろう。
       うむ、実際、そういう噂は立っている。それどころか、我々がその噂を流したのだよ……
       しかも、真相はその逆でね。もう武器がないのは、こっちなんだ!
ユディット  では、三万のシリア軍が進軍してくるという話は?
ヨアキム  シリア軍は今朝到着したよ。しかし、あれは敵の援軍だったのだ。
ユディット  いっそ、その方が我が軍のためにはいいですわ。いよいよ我が軍の価値が上がりますもの!
ヨアキム  我が軍だって? そんなものはもう存在していないよ、ユディット!
ユディット  何を言っていらっしゃるの!
ポーロ  真相を言っているのです!
ユディット  それは司祭方の真相でしょう、士官たちの真相はまた別ですわ。
ポーロ  士官たちの真相? まさかあんたは、職業軍人なんかの言うことを真に受けやしないでしょうな? ヨハネか誰かの言うことなんか?
ユディット  なぜヨハネとおっしゃるの?
69名前なし:2009/07/24(金) 20:46:17 ID:G4VJY4Pi
ポーロ  さっき、彼がこの家に入るのを見かけたからですよ。あちらで叔父さんと話している声が聞こえています……
      あの男を呼んでこの問題を相談してみましょうか?
ユディット  無駄ですわ。私、あなた方のおっしゃることは信じませんもの。
ヨアキム  あの男の言うことなら信用するだろう。あんたはヨハネをよく知っているだろう? あれはあんたのボーイ・フレンドの一人だったな?
ユディット  ええ、よく知ってはいましてよ。
ヨアキム  彼と連れ立っているのをよく見かけたがね。
ユディット  よく一緒に連れ立っていますことよ。
ヨアキム  ヨハネと一緒に馬に乗ったり、ダンスしたりしているのも見かけたがね。
ユディット  ええ、確かに私がヨハネとダンスしたり、笑ったりしているところはお見掛けになったでしょうね。
        でも見られていないこともありますのよ、あの人にキスしたりあの人の腕の中でうっとりしている所はね。
        そういう時は淋しい所や物陰へ隠れていましたもの……
ヨアキム  彼はあんたの婚約者だな? あんたは彼を愛しているな?
ユディット  だったらどうなんですの?
ヨアキム  だったら、あっちへ行ってヨハネと我々だけにしてもらおう。
       あんたがヨハネのことを思って決心がつかないようなら、まず彼から説き伏せてみようというのだ……
ユディット  彼を説き伏せてどうなさるの?
ヨアキム  あんたを女傑として出発させるのだ、ことが済んだらあんたを聖女として彼に返してやればいい。
ユディット  汚れた聖女としてですの?
70名前なし:2009/07/24(金) 20:47:13 ID:G4VJY4Pi
ヨアキム  わしに向かってそんな口を利くとは何事だ、あんたは自分を何者だと思っているのだ?
ユディット  私を何者かですって? 今すぐお分かりになりますわ。ヨハネがあなたに教えてくれますわよ。
        きっと本当に神様がヨハネをお寄越しになったのかもしれないわ、あなた方の前で、私が何者か尋ねるためにね。
        あの人は私の婚約者ではありません。それに私はヨハネを愛しているかどうか、自分でも分かりませんの。
        あの人が私のことを何か言ったにしても、ヤコブやマルセルやペトロの言うことと別に変わりはないでしょう。
        私のボーイ・フレンドでも、そういう人たちなら、ヨハネと同じくらいダンスもうまいし、キスも上手ですもの。
        それにしても、ヨハネが私のきくことに返事をしたら、あなた方は、予言の示す女が私かどうか怪しくなるに決まってますわ。
ヨアキム  ポーロ、ヨハネを連れてきなさい!

ポーロ、ヨハネを連れて来る。
71名前なし:2009/07/24(金) 23:04:31 ID:5foD7wmQ
第五場  ユディット、ヨアキム、ポーロ、ヨハネ

ヨハネ  ポーロの話では、僕に御用だそうで。どういうことでしょうか?
ヨアキム  君に聞きたいことが二つある。
ヨハネ  僕は一介の大尉です、あなた方の深遠な学識に比べれば、取るに足らぬ知識しかありません。
ポーロ  この二つの質問は、中尉でも答えられる程度のものだよ。
ヨハネ  では、何なりと。
ユディット  ヨハネ、お願いだわ、私の質問に返事してね、そして嘘は言わないで。
        たとえあなたにとって残酷なことでも、あなたも私も品位の傷つくような答えでも、返事をしてちょうだい。
        市の救済と市の名誉に関わることなのよ。
ヨアキム  わしの質問の方が急を要すると思わんかね?
ユディット  あら! もちろん思いますとも! 早くお尋ねになったら……
ヨアキム  ヨハネ、今朝、我が近衛兵の生き残りが反抗して、士官を殺し、敵陣へ逃げたというのは本当か……
ユディット  嘘です!
ヨアキム  今日の正午、我がとっておきの神聖大隊が急におびえ上がって、真昼間に軍旗を捨てて逃げてきたというのは嘘かね? 
       軍旗が城壁に拡げてあるのが見えるそうだぞ!
ユディット  それは誤報ですわ。私誓って……
ヨアキム  要するに、ヨハネ、我が市の防衛上、当てに出来るものは、もはや老いぼれ税関吏の歩哨線しかなくなったのだな? 
       あんな税関吏などは平和な時でも、女房連中がバターを密輸するのを防ぐのが精一杯だ。
       どうだ、これは正確な情報かね? 答えなさい……
ユディット  どうしたの、返事をしてちょうだい! 一言でも一句でもいいから!
ヨハネ  君は残酷な人だ!
ユディット  残酷ですって! じゃあ、無理するのはお止めなさいな! 私が盲目だとでも思ってるの? 
        あなたの顔を見るだけで、答えは想像できるわよ。
ヨハネ  それはありがたい……
ユディット  敗北したことまでありがたいんでしょ?
ヨハネ  気をつけたまえ。今始めてこの市で、敗北という言葉が人の口に上ったのだ。
72名前なし:2009/07/24(金) 23:06:40 ID:5foD7wmQ
ユディット  私は言葉なんか恐くないわ、どうせ、いずれはこの言葉どおり報いを受けなくちゃならないんですもの。
        それに、あなただってそんな様子をしていちゃ、「敗北」という言葉を叫んでいるようなものよ……
ヨハネ  僕まで巻き添えにしないで欲しいね。
ユディット  じゃ、あなた方はとうとう負けたのね! 堂々たる我が軍は、負け犬の集まりなのね。
        意匠をこらした兜をかぶった大尉さん、軍服にふさをくっつけた綺麗な大尉さんは負け犬なのね?
ヨハネ  我々軍人も前ほど立派ではなくなった、ということだね?
ユディット  いいえ、醜くなったということよ、あなたは醜いわよ! あらゆる光彩を失ってしまったわ。
        敗北の印のついた軍服なんて最低だわ! 真夏に毛皮を着ているようなものじゃないの、なのに食わされた鋼や青銅のようなものじゃないの……
        敗走する兵士の眼つきは,卑怯な兵士の眼差しと瓜二つじゃないの。
ヨハネ  そう大げさに言うことはない。僕はまだ君の顔がまともに見られるよ。
ユディット  私の顔をまともに見れば、自然に眼を伏せるはずだわ。今の私は馬鹿にされた祖国を代表しているのよ、
        裏切られた信頼の象徴なのよ、あなたが私を頭のてっぺんから足の爪先まで見ているなら、私の前に立っていられるはずはないわ。
        敵の前から逃げ出すとき同様、さっさと逃げて行くはずよ。私はさっき、通りであなたを見かけたわ。
        子供たちはあなたに飛びつき、女たちはあなたに歓呼をあびせていたじゃないの。
        あの人たちはそうとは知らずに、負け犬を歓迎し、負け犬に触ってたのだわ。あなたは小さな女の子にキスしていたわね。
        あんなことをする資格はなかったのよ。あれほどたちの悪い嘘はないわ! 
        どんな陵辱より醜い振る舞いだったわ! 負けたと知りながら、接吻を与えるなんて。
ヨハネ  じゃ君は、勝った時しか接吻を与えないというのかい?
73名前なし:2009/07/24(金) 23:07:49 ID:5foD7wmQ
ユディット  ああ、敗戦、敗戦は万事ドラマチックだわ! 敗軍の城壁は崩れ去って、負け犬は吠える、老人や子供には後光がさす。
        ただ負けた兵士だけは恐ろしいほど生気がないのよ。あっという間に、旗やラッパや勲章だったものは、
        みなこの世の泥にまみれてしまう、しかも今更もとの色にかえり、もとの金属にかえることさえ出来ないんだわ!
ヨハネ  何をする! 僕のそばに来ないでくれ!
ユディット  いいえ、あなたに触らせてちょうだい。私、負けた兵士の鎧がどれぐらい冷たいのか知りたいの。
        キスもしたいわ、負けた男の味をこの唇に感じてみたいの!
ヨハネ  君はまだ若いよ、ユディット!
ユディット  もっと年をとったら、何が分かるというの?
ヨハネ  真の兵士には、勝利も敗北もないということさ、恥辱も栄光もない。ただ戦闘があるだけだ。戦闘には、明るい面も暗い面もある。
ユディット  あなたは今でも戦闘しているというの?
ヨハネ  僕は正午まで戦っていたよ。これからも、君と別れたら、また戦いに行くところさ。戦闘という平和な一刻を迎えに行けるんだ。
ユディット  騎兵隊は、皮肉を武器にして市を防衛しているつもりらしいわね。それにしてもそんな下手な皮肉じゃ、負けるのも無理ないことよ。
ヨハネ  黙りたまえ、ユディット。
ヨアキム  ユディットに構うな、ヨハネ。今夜のところでは、彼女は我が軍で序列一番の兵士なのだから。
74名前なし:2009/07/24(金) 23:10:00 ID:5foD7wmQ
ヨハネ  では敗戦の悪口は言わないで欲しいですな。
      ブルジョアが没落したり、女房が暴行されたり、市場が燃えたりするくらいのことで、大げさに嘆くのは止めてもらいましょう。
      確かに彼女の前にいるのは、負けた男です。しかし、負けるまでの男というものは、絶えず脅迫されているようなものだ。
      人間の本性から自分の責任を感じ、女たちからも責任を負わされ、詰まらん話だが、立派に振舞おうと馬鹿正直にやっているのだ。
      ところが、ありがたいことに、いったん負けたら最後、もうそんなことは万事子供っぽく見える。
      この愚劣な世の中では、魂の動きも、ことごとに制限を受けるばかりだ。喜びも友情も勝利も、全てに限界がある。
      ただし敗北だけは限界がない。だから君の前にいるのは、何の制限も受けない自由な人間なんだよ。
      世界の真実の力は、嘘や復讐や毒や悪徳なんだ。僕は敗北した。だから、こういう力はみな僕の思いのままになる。
      ユディット、僕は君を愛していた。いくら君が美しい胸を激しい怒りに息づかせて負けた者を罵っても、
      勝利者に微笑を投げてみても、どちらも全然意味のないことなんだよ。
ユディット  じゃ、もう少し簡単明瞭に話をしたらどう、そういう話し方だけは思いのままじゃないらしいわね。
ヨアキム  では、あんた方の神はどうなったのだ、あんた方は負けたからには神からも開放されたというつもりか?
ヨハネ  我々の神は、いつでも都合が悪くなると引っ込んでしまう神ですからね。
      我々が神を罵っても、神としては、こちらの没落の巻き添えを食わないで済むからありがたいってものでしょうよ。
      しかも、神の出資した金額だけは何とか助けたい、そのためにはまだユディットが残っているというわけですな、僕の目に狂いがなければ。
ユディット  その通りだわ、私が残っているわ!
ポーロ  ヨハネ! 黙りなさい!
ヨハネ  こううぬぼれていては、何を言ったってお世辞にしかとりませんよ。
75名前なし:2009/07/24(金) 23:12:20 ID:5foD7wmQ
ユディット  そんな言い方をされるおぼえはないわ、私が何をしたというの? 
        じゃあ、ユダヤ人という名が勝利民族の名になるべきだと考えたのが犯罪だというの? 
        あなた方軍人仲間が民族の汚点と名誉とを女に押し付けてしまったとしても、それが私の過失かしら?
ヨハネ  とにかく僕の仲間は、君個人には何も悪いことはしていないよ。
      彼らは、君に対して一つのイメージを持っているだけだ、彼らは、この世にユディットという美しい娘が生きていると思うことで、
      自分たちの生活に誇りをもっているだけなんだ、しかし君が自分こそ予言の美女だと信じるようになったら、
      そのイメージも誇りもぶち壊されるんだぞ。もうたくさんだ。次の質問を聞こう。君の番だ、ユディット! 尋ねたまえ!
ユディット  次の質問なんかないわ。
ヨハネ  この市で最も美しい娘! 本当に君が最も美しい娘だろうか? 君の美しさには贅沢の輝き、黄金の光が映えている、
      だから人の目をくらますんだ、君が体中輝かしいほど美しいのは、神の行った一種の魔法なんだ。
      他の人間に輝かしい美しさがあるとしても、それは顔だけで全身に及びはしない。遠くから見れば、神でも見間違えそうな美しさだ。
      神も天国から、素敵だ! ユディット! とか何とか言ってるだろうさ。しかし、長老たちは細かいからな、間違うはずがない。
      よくユディットをごらんなさい、ヨアキム先生、その上で私に向かってユディットの美しさが聖女の美しさだとか、不滅の美だとか言い切ればおなぐさみだ! 
      この血の気の多い顔つき、小鼻の膨らんだところをよく見てごらんなさい! この娘は人間臭い情熱の塊にすぎませんよ。
      僕は断言してもいい、ユディットはいずれヒョロヒョロに痩せるか、デブデブに太るかどっちかだ……この美しさは長持ちしませんよ!
ユディット  ええ、ちょうど今がさかりだわ。今美しければ、十分、神様のお役に立つのよ。
76名前なし:2009/07/25(土) 00:10:21 ID:vrhcyH0Z
ヨハネ  ユディット、君は僕が相手だった頃にはもっと慎ましかったぞ。
      あんなに自分の魅力を疑って、自分の顔立ちに僅かな弱みがあっても酷く気にかけていたじゃないか……
      だのに神が相手となると、万事O.Kなのか!
ユディット  今夜こそ、私は必ず市で最も美しい娘になってみせるわ。
ヨハネ  さあ、司祭方、今の言葉に異議を申し立ててください! 干渉なさい。
      このままでは神に対しては卑劣な態度をとり、ユディットに対しては罪を犯していることになりますよ! 
      私と一緒にいらっしゃい。先入観は捨てて、予言の指示した女を捜そうじゃありませんか。きっと見つかりますよ。
ユディット  ヨアキム様はもう探したのよ。私の次に美しい娘は、片輪なんですって。
ヨハネ  それじゃ、君の次に美しい娘は、淫売だということになるぜ。
      我が市よ、我が民族よ、どうせ滅びなければならないなら、せめて綺麗に滅びよう! 
      神はヨアキム師のように事なかれ主義じゃないし、いい加減のところで妥協しやしないからな。
      君は聖書の語っている乙女じゃない。ユディット、君だってそれは分かっているくせに。
ユディット  いいえ、私にはもう分からなくなってきたわ。
ヨハネ  では、この女に聞いてごらんなさい、ヨアキム先生。
      かれこれ二週間ほど前のある日、この時刻に、負傷兵の所から抜け出して、どこに行っていたのかとね。
ユディット  私がどこにいたというの?
ヨハネ  僕の腕の中に。
ユディット  このでくの坊みたいな兵隊さんの腕の中に?
ヨハネ  ところが、この腕の中で君の身体はしなったんだ、僕の口は君の唇を押し付け、君の口は僕の自由になっていたんだ!
ユディット  それから私は、あなたに全てを許したというつもりなんでしょう。私があなたの妻同然の振る舞いをしたというのでしょう!
ヨハネ  君はそれほど単純じゃないよ。僕がどこかを攻めると、すぐに、ユディットの一番悪い所が顔を出す。
      高慢なプライドのために、必死になって身を任せまいとするんだ……
      だがね、神様だって、きっと、胸をどきどきさせながらも受け入れ体制のある乙女のほうが好きだろうよ!
77名前なし:2009/07/25(土) 00:12:13 ID:vrhcyH0Z
ユディット  あなたは単純な人ね、それにとても素朴よ、あなたは。
ヨハネ  いや、僕は、急に疲れと愛情を感じて君によろめきかかった男にすぎないよ。
ユディット  この人の言うことを聞いてごらんなさい、ヨアキム様。この人は人のいいボーイ・フレンドの模範だわ。
        舞踏会の夜、棕櫚の植木鉢の陰でキスを盗み、それを鼻にかけて、私の結婚式に乗り込んで、花嫁花婿に嫌がらせを言う口なのよ。
ヨハネ  君の花婿はホロフェルネスだろう、彼の前では黙っていてやるよ!
ユディット  ホロフェルネスなんて男はいないのよ。苦しみをそう名づけただけ。罪をあがなう手段にそういう名をつけただけよ。
        今夜私がホロフェルネスの所へ行くとしても、それは、苦しみと贖罪のために行くのだわ。
        私を思い止まらせようとして、罵るのはやめてちょうだい。何も私が初めてではありませんもの。
        自分の美と純潔を一人の男に捧げたりせず、偉大な歴史的瞬間のためにとっておいて、
        いざという時それを武器にして戦った娘は、他にもいるのよ。
ヨハネ  ホロフェルネスは一人の男だよ。
ポーロ  ヨハネ、もうよしたまえ!
ヨハネ  ホロフェルネスは男も男、ものすごい大男だ。彼の手はすごく大きくて太いんだ。指もそうだ。指の骨まで太いんだ。
78名前なし:2009/07/25(土) 00:14:45 ID:vrhcyH0Z
ユディット  まあ! 酷い人、少しは同情してくれたらどう……私が宿命に従うにしても、何も考えず何も想像しなければこそ、
        多少は元気が出てくるんじゃないの、あなたはそれが分からないの? 黙ってヨアキム様と私を問答させておいて。
        私の行為を意識させないで。私の行為が人間的にはどんないやらしいことなのか、細かく教えたりするのは卑怯よ。
        そうね、私は時々物陰で、ふざけ半分あなたともみ合ったことがあるわね、
        あなたは、鎧兜を着けていたから、あなたの間抜けな剣が私たちの脇腹をつついたわね。
        でも、私は自分の取っ組み合っている相手は,勝利者だと思っていたのよ。今になって急に飲み込めてきたわ。
        敗北者に抱きしめられたところで、そんなものは何の跡形も残さないものね。弱虫の兵隊さん、
        私の身体の中でも、あなたの手や唇が触れたところが一番綺麗なままでいるような気がするくらいだわ。
        なのに、あなたは何の権利があってこの一件に口を出そうとするの? あなたは私の人生に何の関わり合いもないのよ。
        一晩くらいなら唇で愛撫し合うことは出来るし、愛し合うことも出来る、しかし決して結婚は出来ないという種類の恋人もあるわ。
        あなたはそういう種類の恋人なのよ、自分でも承知しているくせに……
ヨハネ  おいおい、ユディット、だからといって、恋愛と結婚を区別して、世界中が見合い結婚だけになったとしてみたまえ、
      人類文明はどうなったと思う? 考えるまでもないだろう。
ユディット  もう愚痴はたくさん。さあ、私が質問する番よ。本当に、もう万事休すなの?
ヨハネ  もう君に同情するのはやめた。その通りだ、万事休すだ。
ユディット  もう何も助けが来る見込みはないの?
ヨハネ  何もない。残っているのは司祭や、女や、女の胎内の子供だけだ。夜の明け方にはホロフェルネスが市を攻撃して、皆殺しにする。
      もしある女がユダヤ民族を救うために敵陣へ行かなければならないとすれば、大急ぎだね。今夜のうちだよ。
ユディット  今、何時ですの、ヨアキム様?
ポーロ  日が暮れたところだ。
79名前なし:2009/07/25(土) 00:15:49 ID:vrhcyH0Z
ユディット  ありがとう、ヨハネ。あなたでなければ、こうして私に決心させることは出来なかったの。私は敵陣へ行きます……

彼女はヨアキムの方へ行く。

ユディット  あなたに質問よ、ヨアキム。まだ私を使う気はあって?
ヨアキム  ある。
ユディット  よく考えた方がよくてよ。あなたは責任者なんだから! もう一度、よく私を眺めて。
        私の肌に触れてごらんなさい。耳をつまんでごらんなさい。私は神様にことわっておくことがあるのよ。
        本当にヨハネに言ったことがあるんだけど、私の鼻はあんまり情熱をそそる方じゃないし、気のきいた形でもないわ。
        睫毛はほっそりしてないし、腰も反りすぎているのよ。ヨハネは特に睫毛の太いのを嫌がったわ。
ヨアキム  落ち着きなさい。あんたは誰よりも美しい。
80名前なし:2009/07/25(土) 00:18:42 ID:vrhcyH0Z
ユディット  今まで私の着物を脱いだ姿を見たものはいないわ。でもあなたは神様と民族に対して、
        私の膝は滑らかで、足には傷一つないって保証しても大丈夫よ。
        それから、私の胸は(こんな歴史的な日に胸を論じるなんておかしな話ね!)
        胸はぐっと高く盛り上がっているし、胸元でとても豊かにふくらんでるって断言してもいいわ……
ヨアキム  落ち着きなさい。美しいだけでなく、落ち着いていることも必要なのだ。
ユディット  それからあなたは、私が全く純潔だと保証してもいいわ。だって、私は取り巻きの青年たちを、誰も愛さなかったんですもの。
        私、あの人たちをみんな愛していたのよ。だから特定の一人を選ぶわけにはいかなかったの……
        私はあの人たちをみんな私の人生に当てはめて、私のそばで、私の肉体と魂とに寄り添った姿を想像していたの、
        だから、一人の男に私を結びつけるなんてごめんだったの。夜になると、嵐や、男の力や、欲情に心を乱されることもあったわ、
        男のうぶげの生えた手首や、盛り上がったこめかみに魅力を感じることもあったわ。
        そういう時は、私はだれかれの見境なくあの人たちに寄り添い、もたれかかったものだったわ。
        私は自分の快楽という理想に忠実だったの、だから一人一人の美青年には不実だったのね。
        私の純潔ってこういう調子、これでも神様は私をお選びになったのかしら?
ヨアキム  神はあんたを選んだのだ……覚悟は出来たかね?
ユディット  出来ましたわ。私より美しく清らかなものが存在しない世界を、胸に描いているだけでいいの。私は、もう用意が出来たわ……
ヨアキム  よく考えたかね? どんなことになるか分かっているのかね?
81名前なし:2009/07/25(土) 11:22:51 ID:vrhcyH0Z
ユディット  ヨアキム、今更講義や、お説教はやめていただきたいわ。もし、あなたが自分で私の仕事のプランを立てたとしても、何も言わないで。
        私は、自分のプランの他は何も知りたくないわ。私もやっぱりこの勝負に負けたんですもの。
        これが本当に神様に負かされたんだったら幸いだけど。私は今日まで、さまざまなものを自分から遠ざけていたわ。
        怒り、憎悪と復讐の精神、冒険と血への欲望、そういうものが私を支えていたんです。
        でも今は、私にも分かってきました。これまで、遠ざけていたものは、みな、後に備えて無疵のまま、綺麗なままで積み立ててあったんだわ! 
        これから起こることが分かっているかって? ずっと前から、そしてあらゆる角度から、私は全てを見通していましたわ。
ヨアキム  では、お別れだ、ユディット。
ユディット  ユディット! ああ、見えるわ、あなたのユディットが。まだヴェールをかぶったままで、ぎこちない様子をしているわ。
        ああ! あなたのユディットの本当の姿、あのユディットの思っていること、私はそれが知りたくてたまらないわ。
ヨアキム  では、その幻の中にホロフェルネスも見えるかね、あの不潔な酔っ払い、ユダヤ人とユダヤの神を侮辱している男の姿が?
ユディット  見えるわ。
ヨアキム  ホロフェルネスの後宮の女どもが、あんたの身体を弄び、あんたの髪や唇を汚す姿も見えるかね?
ユディット  見えるわ……私、あの女たちに噛み付いてやるわ!
ヨアキム  ホロフェルネスが大きな太い腕であんたを抱きしめ、自分の胸にあんたの身体を押し付けて、夢うつつでいる姿が見えるかね?
ユディット  見えるわ。あの男に触っているような感じがするわ。
ヨアキム  あんたは、自分の身を守って、彼と争っているかね?
82名前なし:2009/07/25(土) 11:23:56 ID:vrhcyH0Z
ユディット  私は、牡牛の首のような彼の首に、太い青い血管が脈打っているのが見えます。私は指でその血管を押し付ける。
        すると、あの男の顔は真っ赤に染まってくる……まあ、私は一体どうしたのかしら?
ヨアキム  あんたは過去の中にいるのだよ、ユディット。さ、そろそろ出かけなくちゃいけない……
ユディット  出かける? すぐですの?
ヨアキム  月の出を待ちなさい。そうすればお祈りする時間くらいはある。
ユディット  分かりました。では、叔父さんのことをお願いします。
ヨアキム  君も帰らないか、ヨハネ?
ヨハネ  いいえ、僕は残ります!
ユディット  そうね、残る方がいいわ、戦士交代よ。

ヨアキムとポーロは出て行く。
83名前なし:2009/07/25(土) 12:01:29 ID:vrhcyH0Z
第六場  ユディット、ヨハネ

ユディット  ねえ、戦士交代じゃないこと、ヨハネ? 昼が夜に交代する。素敵な大尉さんに娘が交代する。
        人間は眠りに落ちて行き、神の姿が立ち上ってくる。私は夜と神様からの命令を受領したわけね。
        夜の命令は真っ黒で、神様のは目がくらむようだわ。さあ、今度は人間に命令を伝達しましょう! 素敵な大尉さんにね……
        だけど、この人ったら何も言わないのね……
ヨハネ  そばへ来るな。死ぬなら死ぬで思わせぶりはよしてくれ、むかむかする。
ユディット  戦場から帰って来る者が出勤する者に出くわした時、兵隊仲間ではどうするの、何を言い合うの?
ヨハネ  互いの身体が触れ合わないようにするのさ。分かったかい! 僕の手に触るな!
ユディット  そういう兵士たちは、たとえ一瞬の間でも、深い愛情や哀れみの心を込めてお互いの顔を見つめあうものじゃないの? 
        死に向かって去る者には愛情を、人生に帰って行く者には哀れみを注げるはずですもの。
ヨハネ  君の哀れみは僕に注がれるらしいな、どうもありがとう。
ユディット  あなたの愛情は私にね、どうもありがとう。
ヨハネ  最後にもう一度聞くが、君は本当に決心したのか? 
      こんな下劣な民族、徳の低い司祭たち、可愛くもない子供たちを救うために出かけるというのか?
ユディット  その形容詞の連続は何よ、こんな場合に? 
        ええ、私はこの民族、この司祭たち、この子供たちを救えるかどうかやってみるのよ……
ヨハネ  今すぐだな。
ユディット  今すぐよ。あなたに言ったじゃないの、戦士交代だわ。
ヨハネ  じゃ、僕に質問したらどうだ!
ユディット  歩哨線通過の合言葉は何?
ヨハネ  君にそれが分からないのか? 君の名前さ。幸いエホバの名も、同じ名で始まっている。
      合言葉にはこの上なしだ。エホバの神は、今頃天国でご満悦だろうさ!
84名前なし:2009/07/25(土) 12:02:50 ID:vrhcyH0Z
ユディット  どの門から出て行けばいいの?
ヨハネ  正面の間道を通るんだ。歩哨には、もう予告してある。歩哨は合図に一声叫んでから、門を開けるはずだ。
ユディット  ホロフェルネスの天幕はどの辺り?
ヨハネ  北だ、まっすぐ北の方角だ。
ユディット  私、あの人の気持ちが分かるわ! あの人、自分の包囲している市が日を浴びているのを見たいのね。
ヨハネ  こんな闇夜でも、君に北の方角が分かるかな?
ユディット  そんなこと、女の子はみんな学校で習うわよ。木を撫でてみればいいの。苔の生えている方が北ですって。
ヨハネ  その通り。木を撫でたまえ。木に合言葉を言って、木を抱きしめてやりたまえ。大男の胴体みたいに太い木もまだ何本か残っている。
      後で、ポプラでも樫の木でも、君に抱きしめられたことがあるなんて言い出したら、さっきのように一笑に付するがいいさ!
ユディット  道があるかしら、それとも人の通ったあとでも?
ヨハネ  いや、ないね。小川が道を阻んでいる。二番目の小川を遡るんだ。その水は飲んじゃ駄目だ、毒が入っている。
      そんな短靴をはいて行くのはやめろ。この無味乾燥な戦場にも、結構腐ってべとべとした地面があるんだ。
      マントを着て行った方がいい。夏の夜もふけると冷えてくる。恐くはないか?
ユディット  私は誰もいなかったり静かだったりするからといって、恐がったことなんかないわよ。
ヨハネ  お生憎様、きっと誰かいるし、静かでもないね。十歩か十五歩も歩けば、地面に転げた袋みたいなものにぶつかるよ。
      冷たいのもあり、まだ温かいのもある。何も言わないのもあり、泣いているのもある。ただ、どの袋も中身が詰まっているがね。
      そんなものは気にするなよ。戦場は呼び声も立てるし、大声で寝言も言うし、泣き声もあげるものだ。
      それに、目立たないほどなら、動いたりもするものだよ。
85名前なし:2009/07/25(土) 12:04:00 ID:vrhcyH0Z
ユディット  天幕は遠いの?
ヨハネ  その道を通っていけば、一里ぐらいだね。
ユディット  追い剥ぎか野獣がいるんじゃない?
ヨハネ  野獣だって? まだそこまでは行かん。
      もしかしたら、時々ビードロのような影が現れて軽い笑い声を立てるかもしれないが、何も恐いことはない。
      ただの梟にすぎないからね。それから、急に地面から怪物が飛び出してきて、嘲笑の声をあげるかもしれない
      ---こういうさびしい国では、みんな大いに笑うものなのさ---その怪物は三本脚を引きずって、君を襲ってくるかもしれない。
      しかし、その正体は怪我をした馬にすぎない。棒で叩けばいい、ことに折れた脚を狙うんだ、そうすれば逃げて行くよ……
      追い剥ぎと言ったね? これは可能性があるな。短剣を持っていきたまえ。これでおしまいだ……
ユディット  これでおしまい……マントと防水した靴と……あなたが私に教えることはそれだけなの?
ヨハネ  君に言うべきことはみな言った。
ユディット  いいえ、まだ人の殺し方を教えてくれないわ。
ヨハネ  人の殺し方?
ユディット  そうよ、あなたのように短剣で確実に殺すやり方を教えないの?
ヨハネ  自殺の仕方の話か?
ユディット  いいえ、自殺じゃないわ、「殺す」と言っているじゃないの。
ヨハネ  君の直感に従えばいいさ! 女に殺人や恋を説いても無駄だよ、
      女は、男の身体のどこに死や快感が隠れているのか、本能的に嗅ぎ出せるものさ。手を突き出すだけでいい、後は自然に分かってくる。
ユディット  どういう具合に殺すの?
ヨハネ  それは場合によるさ!
ユディット  どういう場合によるの?
ヨハネ  君に時間があるかないかによるし、不意打ちとなればまた別だし。
ユディット  きっと、私はたっぷり時間があると思うわ。
ヨハネ  それじゃ、親指を刃に当てて下から心臓を突き上げるんだ。
86名前なし:2009/07/25(土) 12:49:00 ID:vrhcyH0Z
ユディット  心臓ってどこにあるの? あら、あなた一体どうしたの? 何を怒ってるのよ?
ヨハネ  恐れ入ったよ! この女傑な偉大な魂にも、やっぱり家政婦並みに重箱のすみをほじくる精神が宿っているんだな。
      次には、若い娘が醜い巨人と向き合ったらどうすればいいか、それも教えてくれと来るんだろ? 
      ついでに、結婚を強制された乙女が処女性の本質を救う方法なんてのはどうだ、お教え申し上げようか? 
      それから、恋愛のテクニックについて、ひと講義聞いてみたいか?
ユディット  ええ、聞きたいわ。ご親切様。
ヨハネ  それなら、僕は君に入用なものを用意しておいたよ。(彼は内側の扉の方に行く)スザンナ、いるかい?
ユディット  そこにいるのは誰?
ヨハネ  ユディット、ある女が僕と一緒に来ているんだ。君を救い、また我々を救うためなんだ。
      君の知らない女だよ、身分が低いからね。しかし、彼女は君に会わなければならないんだ。
      僕の最後のお願いだ、あって話を聞いてやってくれ。
ユディット  最近は、生き残る方が最後のお願いをするようになったの?
ヨハネ  その女にあってくれたまえ……こういう歴史に残るような場合には、他人なんてものは、我々の協同作業の一部に過ぎないよ……
      一度でいい、優しい恥じらいを含んだ女らしさを君の内部に受け入れてみたまえ……
      僕はあっちで待とう。スザンナ! 入りたまえ!
87名前なし:2009/07/25(土) 13:40:32 ID:YaPLraPk
第七場  ユディット、スザンナ、ヨハネ、リア、エステル

ヨハネはスザンナに戸を開けてやる。すると、他に二人の女が敷居際まで入って来てしまう。
その一人はスザンナを引き止めようとしている。

リア  (スザンナの母)入っちゃいけないよ、スザンナ、入らないでおくれ。どうせ死ぬなら一緒に死のうよ、でもあたしから離れないでおくれ。
エステル  スザンナは死にはしないよ、恐がるこたあないさ。あたしだって毎晩あそこに行ってるもの。
        行ったって、死ぬどころじゃない思いをして、また帰って来られるんだよ。
リア  スザンナをどうしようって言うんです、ヨハネさん?
ヨハネ  いやいや、なんでもないことだよ。ユディットがスザンナに会いたいだけさ。
リア  まあ、そこにいるのはユディットなのね! ユディット! 私たちを救って下さい!
ヨハネ  僕と一緒に来たまえ、リア、あの二人には話があるんだ。あっちで少し何か食べようじゃないか。
リア  食べるんですって?
エステル  そりゃ本当らしいよ。さっきここには、確かにパンがあると睨んだね。
リア  パンだって? この人たちはパンを持っているの? スザンナ、ちょっと待ってておくれ。
ヨハネ  ああ、よし、よし。スザンナは待っているよ。
88名前なし:2009/07/25(土) 20:32:16 ID:CII6y2Gs
第八場  ユディット、スザンナ

ユディット  あなたはどなた?
スザンナ  あなたのお友達ですわ。
ユディット  悪い時に現れたものね。今日という日は、全然友愛記念日には向いてないわ。
スザンナ  私はあなたに敬服していますの。
ユディット  今日は敬服や、感謝の記念日にも向いていないわ。今日という日に敬服されるなんてことは、侮辱されると同じことですもの。
スザンナ  私は、あなたと全くあべこべな生活を送っていた女です。
ユディット  どんな生活?
スザンナ  私には大勢男がいるんです。私は男に身を任せ、身体を売るんです。
       あなた方には耳の汚れるような名前の中でも、私の名は売れている方ですわ。
ユディット  そういう資格なら、今夜私に話す権利は大ありよ。さて、あなたの望みは何?
スザンナ  あなたを救うこと。
ユディット  市を救ってやる女を救ってやろうというのね。して見ると、あなたのような境遇の女でも、もっぱら卑屈というわけじゃないらしいわね。
スザンナ  私は美しいでしょうか、ユディット?
ユディット  あなたの職業の名誉にかけても、美しくなければいけないわね。
スザンナ  お願い。私をよく見てください。どう見えます?
ユディット  私にはどうでもいいことよ。私の一生で目鼻立ちまで見覚える人間の数は、限られてしまったの。
        合計何人として、今、勘定をしめたところなのよ。
スザンナ  いいえ、ユディット、私をよく見てください! 私には、いくらかあなたの美しさに似通っているところがあるんですわ。
       私の美しさは、大きな深い内容を包んでも、隠してもいません。それは分かってます……
       でも、私にはいくらかあなたの美しさに似通っているところがあるんです。嫌になるほど人からそう言われましたわ。
       背丈も同じくらいですわ。だからあなたの目の軽蔑の光は、まっすぐに私に入ってきますわ。
       目を上げることも下げることも要りません。同じ高さですもの……それに私の声だって……
ユディット  あなたの声?
スザンナ  もちろん私の声には、あなたの声のように、深い思想や美しい沈黙が宿っているわけじゃありませんけど。
89名前なし:2009/07/25(土) 20:34:04 ID:CII6y2Gs
ユディット  それもやっぱり嫌になるほど人から言われたの? 誰から? どんな男から?
スザンナ  どんな男? 二十人もの男です。あなたがいつかの夜、満月の下でうっとりしたり、大火事を見て恐がったりした時、
       肩に寄りかからせてやった美青年は二十人もいますもの。あなたが目障りだといった浮き草を引き上げるために、
       死海に飛び込んで二時間泳いだ人もいました。隊商宿のまがきの下で一つのコップから葡萄酒を飲み合ったあと、
       急にあなたの唇を手の甲に押し当てられた人もいました。手についたのは口紅の跡ではなく、赤い葡萄酒の跡でしたけど。
       あなたの欲望の影にひかれてあなたに抱きついては、肘鉄砲をくわされた人たちは、
       みんな、その後で私の胸の中に飛び込んできて、あなたを忘れようとし、あなたに復讐しようとしたんです。
       どの人も、すすり泣きながら私を愛撫して、「ユディット」と呼びました……
ユディット  今日も呼んでいるわ、あれはあの人たちの合言葉なのよ。
スザンナ  一年ほど前から、私はもっとあなたに似るように、毎日こっそり心がけていたんですの。
       あなたが誰か愛人と連れ立っている時は、あなたの声を聞きたいばかりにわざとあなたに突き当たって、
       あなたが口をきくように仕向けたこともあります。私は、あなたが「あら、この娘は私の話を聞いてるわよ」とか、
       「私、淫売の癖に情のありそうな目をした女は大嫌いだわ」とか言う時の口調を知っていますわ。
       私はあなたのドレスを真似ました。でもそれは、あなたのボーイ・フレンドのお気に入るためではなかったんです。
       ただあなたの奴隷のようになりたかったんですの。
       一日逢わないでいてからあなたに出くわすと、もうあなたは私をずっと引き離しているんです。
       私は無力で、世間も狭く、貧しい女です。でも、自分でもあなたのようになれたかもしれないのだと思うだけでも楽しみでした。
       そして、あなたのように力も富も才気も兼備した完全な女性のあとを追うだけでも、自分の中身が膨らむような気がして嬉しかったんです……
       あんな振る舞いをしては、悪かったでしょうか?
90名前なし:2009/07/25(土) 21:45:47 ID:CII6y2Gs
ユディット  大して悪いことはしてないわ、ただ、私から何か盗んだだけよ。
スザンナ  私は、あなたから軽蔑や、プライドまで盗みはしませんでしたわね。こういう風に、私を軽蔑するだろうということは分かっていました。
       でも、あなたが諦めを知った時にはどんな気持ちだろうと想像するだけで、十分我慢できましたの。
       それだけじゃありません、私は、あなたが残酷な行為をしても本当は優しいのだと思い、
       あなたが贅沢をしても本当は謙遜な人なのだと考えては、我慢してきたんですの。
       それで十分幸福でしたわ……私はあなたに似ていますわね、ユディット……
ユディット  まるで似ていないわ。
スザンナ  でも人が間違えるほどですのよ。
ユディット  ただの人間を理想に仰ぐような人が、私に似ているはずはないわ。
スザンナ  あなたも今夜までは、ただの人間にすぎなかったんですわ。
ユディット  でも、もう今夜になっていてよ……あなたの急がなければ駄目よ、私の言葉遣いでも真似してごらんなさい。もっとはっきり話をするの……
スザンナ  私、あなたの身代わりになって、敵陣へ行きたいんです。
ユディット  そう来るだろうと思ったわ。
スザンナ  私、預言者たちは信用していませんわ。大抵の者は敵のスパイです。
       みんな、ホロフェルネスかユディットの評判を聞けば、逢いたくなっておびき寄せるだろうと思ってるんです。
ユディット  だけど、いつになったらおびき寄せてくれるのかしら? 神様は、いつそんな不吉な考えを彼にお授けになったのかしら?
スザンナ  ホロフェルネスは野蛮人です。衣裳で作った美しさと、本当の美しさの違いは見分けられないでしょう。
       私たち二人とも知っているユダヤ人があんなに大勢、あなたの面影を私に求めたくらいですもの。
       あの男には私たちが違う女だと分かりっこありませんわ。
ユディット  でも神様はどう? 神様にも代用品で済むかしら?
スザンナ  神様はあなた以上に冷淡ですもの、どっちでも構わないと思うでしょう。
91名前なし:2009/07/25(土) 21:47:23 ID:CII6y2Gs
ユディット  でも、完全に入れ替わるとすれば、私があなたの商売を身代わりするわけよ。
        あなたの男の一人がやって来たとしてごらんなさい。私たちの違いが見破れないかしら?
スザンナ  いくら理屈をお並べになっても、私は口先だけでは追い払われませんわ。自分は正しいことをしているという自身があるんですもの。
       私の言うことを取り違えないでくださいませんか、あなたの命を助けたいのではないのです。
       あなたが死ぬのを恐がっているなどと思ったら、あなたを馬鹿にしたことになりますもの。そんなことじゃないんです。
       私をあそこに行かせてください。明日の朝は、市民たちはあなたが行って帰って来たのだと思います。そうすれば、何もかも救われますわ。
ユディット  何ですって? 何もかも?
スザンナ  分かっていらっしゃるんでしょう。あなたの純潔も含めて何もかもです。
ユディット  私の純潔、あなたもそんな言葉を使うの? それは公教要理や、売春婦の更生施設で使う言葉よ。
        ヨハネがここへあなたを連れてきたのは、もっと具体的な話し合いのためだわ。私の処女性といったらどうなの?
スザンナ  さっき、私は持ち物をみんな貧しい人たちに分け与えてきました。今夜の私の宿は敵の本陣です。
       私は、初めて自分の職業に誇りを感じられるんですわ。
ユディット  じゃ、私の処女性は? この役目は処女でなくても構わないの? あなたもこの資格だけは欠けているんじゃなくて? 
        それとも、あなたがそう一生懸命私の処女を守ろうとしてくれるところを見ると、処女だってことはそれほど大きな喜びなの?
スザンナ  まあ、何ということを! ユディット、一度女になってしまったら、私たちはただ世間的な身分が変わるというだけではなく、
       性も種族も変わってしまうんです。だから私は、処女ユディットという名の奇跡を守りたいんですわ。
92名前なし:2009/07/25(土) 21:48:57 ID:CII6y2Gs
ユディット  自分の処女性を生かせなかった人に限って、私の処女性を気にするのね。
        スザンナ、私、あなたの処女性がどうだったか知らないけど、自分の処女性の意味が飲み込めてきたわ。
        そこらの無気力な女のとは違うのよ。汚れがないとか、清らかだとかいうこととも違うの。
        私の処女性は、私独特の純潔さのことなのよ。
        普通処女というのは、いやいやにしろ、自分から進んでにしろ、とにかく、
        ある種の官能、ある種の惑乱、ある種の喜びを奪われた状態ね。
        でも私の処女性は、私の胎内に宿った息子のような約束なの。
        それは、私が戦いに敗れ、恥辱を受けるだろう、しかしそれはこの上もなく美しい敗北であり、この上もなく誇らしい恥辱だろうという約束なのよ。
        神様は、その約束をユダヤの勝利の約束にすり替えたけれども、それは神様の勝手で、私の知ったことじゃないわ。
        私が今まで恋人に処女を与えるのを拒んできたとしても、今、彼を呼び出して全てを捧げようなんて気は少しも起こらないわ。
スザンナ  ユディット、ユディットの名をお救いなさい。
ユディット  私がユディットの名を救わないだろう何て誰が言って? 
        あなたが本当のユディットを真似るつもりなら、私をよくごらんなさい! 
        私が諦め切った生贄のつもりで、あそこへ行くんだと思ったら大間違いよ。
        シバの女王じゃあるまいし、ソロモン王を訪れて、おおっぴらに共寝しようなんて気はないわよ。
        私はユダヤの娘、それも勢い立った、猫かぶりの、しかも冷酷な娘だわ。
        神様の決めたいろいろな掟に従いたければ、一番の早道は掟に背くことだと覚悟しているのよ。
スザンナ  でも、あなたは力もなく、武器もない娘じゃありませんか!
ユディット  振り回す武器、隠し持つ武器、どんな武器でも私は手に入れて見せるわ。
        私はもうホロフェルネスに一番危険な武器を持っているのよ。
スザンナ  毒薬のことをおっしゃるの?
93名前なし:2009/07/25(土) 21:50:27 ID:CII6y2Gs
ユディット  と言えないこともないわね。私の舌のことよ。スザンナ、男っておしゃべりなものでしょう。
        そうだわ、今日のユディットは千変万化、私はユディットの早変わりを演じるのよ。
        私はあそこへ出かけ、そしてあの男が猛々しければ何も知らない若い娘を演じるの。
        あの男が自制心のない将軍ならこちらもちゃっかりした娘になるわ。あの男の勝利者という資格に対しては私は市の代表というわけ。
        だけど、私の資格の中でも特に重要なのは、お寺参りの子供みたいに、わけの分からない口頭試問に何とか返事をするということよ。
        私の舌だけが、この問題を解くたよりだわ。実際問題として、私は今日一日中、ほとんど肉体を捧げる準備なんかしなかったのよ。
        それどころか、雄弁大会の準備をしていたようなものだわ。
        ご飯もほとんど食べなかったけれど、それも自分の声を整えるためだったと言えるわ。
        今も私は、殉教者のように恍惚とした神秘感なんかもあんまり感じていないわ、
        むしろ、演説や弁論を前にした人のように、ひそかな緊張みたいなものを感じているの、
        それが何か自分でも分からないけど、何かを証明するために雄弁をふるわなくちゃならないのよ。
        でも私はきっと証明をしてみせるわ。スザンナ! 
        今までにも、たった一言で、しつこい男を追いのけたり、気違いじみた欲望に燃える男を誤魔化したりしたりしてやったんですもの。
        一言言って、ちょっと微笑むだけで片付くものよ。今日も、それでやってみるわ。
        今夜は、きっと微笑みの方が効果がありそうね。もし必要なら、大いに微笑むことよ……あら、あなたは泣いているの?
スザンナ  だって、あなたのこんなに優しい心や、激しい力がみんな無駄なことに捧げられるんですもの。
94名前なし:2009/07/25(土) 21:52:24 ID:CII6y2Gs
ユディット  私の激しい力ですって! まあ! スザンナ、じゃあなたも、ヨハネや司祭たちと同じよ、私の苦しみを分かってくれないのね。
        私は民族からも、軍隊からも、神様からも、華々しく全権を委任されて苦しんでいるのよ。
        あなたなら女だから、私の苦しみを見抜いていると思っていたわ。
        私はずっと前から、夜の孤独の中でも、日中の忙しい中でも考えていたの。
        今、私はこの使命を進んで引き受ける気持ちになっているのよ。
        少し、ぐずぐずしすぎたわ、我が軍の兵士を信用しすぎていたものだから……
        どうして神様は私に社会的な名誉を背負い込ませて、私個人の価値を消してしまおうとなさるのかしら? 
        神様は、永遠にお暇がおありのはずなのに、面白半分、一分間で私個人の行為を取り上げたりなさるのよ。ねえ、スザンナ! 
        浮気者の夜這いみたいに行き先が決まっていなかったら、この夜の旅はどんなに素敵でしょうね。
        でもそうだったら、城門の歩哨まで危険な相手になるかもしれないけど。
        だって私はこの市で誰より身分のいやしい、名も知れない娘として、行くんですものね、
        その娘が月明かりもない暗闇へ忍び出て、番犬のさまよっているのをしずめながら、
        勝利か死かの戦いを交えにホロフェルネスの陣屋へ向って行く……
        こんなことは市じゅうで誰も知らないままで済んだのに。
        私は今、預言者たちと同じ思想を抱いてはいけないということが分かってきたわ。
        あの人たちは、ものすごく自分の権利に執着するものね……
        私も若い娘らしくプライドが高いもんで、神様はもっと控えめな方だと思っていたのよ。
        こんなことを思いついたのは神様だということは、よく分かっていたの。
だけど、神様の方では、これは私の自発的な考えだと思っていたのね。今、神様は私に仇をうっているのよ!
スザンナ  ユディット!
95名前なし:2009/07/25(土) 22:02:41 ID:jvf7HHtB
ユディット  あなたは私を優しい心なんて言ったわね! あなたは私がこんな口をきいているのに、優しい心の持ち主だなんて思ったの? 
        スザンナ、あなたは幸福な人ね。この優しさは、荒んだ憎しみから生まれたものなのよ。
        ここへ来て……そう、私の腕に。そんなに固くならないで。香水の匂いがきついこと! 
        これ、私の使っている香水ね、そうでしょ! でも私は、もうこの香りをくゆらせることもないわ。香水さん、さようなら! 
        この首飾り、これも私の首飾りと同じなのね、でも私は、もうこの首飾りを光らせることもないわ。首飾りさん、さようなら! 
        あなたという人を通して、私は自分の慣れ親しんだ品々とお別れするのね、そんなに固くならないで、スザンナ、もっと身体を柔らかくして……
        ヨハネの話では、あなたは私に優しい愛情を教えてくれることになっていたのよ。あべこべね。
        きっとこれが私の生涯の最後の夜なのよ。
        だから、あらゆる男女の中でせめてあなた一人でも、ユディットの優しい愛情がどんなものだったか、覚えておいてちょうだいね。
        あなたは、絶望して私から逃げ出した男たちに、こういう優しい愛情を与えたのかしら、よく見て確かめておくといいわ。
        あなたはこういう風にあの人たちに顔を摺り寄せてお話をしたかしら、静かにあの人たちの髪を握って顔を仰向かせてやったかしら。
        さようなら、私の柔らかい肌、さようなら、私の唇……
        鏡にうつる自分の姿に別れを告げるより、生き写しの妹にさようならを言う方がずっといいことね……ああ、私に明日の陽の目が見られたら!
スザンナ  ユディット! あなたはきっと救われます!
ユディット  さあ、じゃ、私行くわ!
96名前なし:2009/07/25(土) 22:04:08 ID:jvf7HHtB
スザンナ  いけません! 行っちゃ駄目!
ユディット  まあ! 馬鹿な女、じゃ、あなたはどうしても神の声というものが分からないの、あなたの短刀を出して!
スザンナ  短刀だなんて、それは何の話?
ユディット  いいから、あなたの持っている短刀をちょうだい。今、あなたを抱いた時、手触りで分かったわよ。私は武器がないの。
スザンナ  これです。
ユディット  毒薬も。
スザンナ  はい。
ユディット  泣かないでちょうだい、お願いだわ、涙という武器だけはあなたがいくら努力しても私には渡せないことよ……それは何?
スザンナ  櫛と、おしろい。
ユディット  それもちょうだい……市ではみんなぐっすり寝ていて?
スザンナ  道には誰もいないように見えますけれど、本当は窓という窓の後ろに、女や老人の顔がうつって、あなたの通るのを待っています……
       あなたを見せようとして子供たちも寝かさないでいますわ。
ユディット  では、そろそろ子供たちを寝かせてあげましょう。
スザンナ  まさか、マントも着ないで出かけるおつもり?
ユディット  私、叔父に逢いたくないのよ。
スザンナ  それじゃ私のを着て……この靴を履いたままでいらっしゃるの? 酷い道ですわよ、
       小川を渡ったり、垣を越えたりしなければならないんですわ。
ユディット  ゆっくり行くわよ。急ぐことはないもの。
スザンナ  夕食を召し上がらないでいらっしゃるの? お腹がすくのは心配じゃないんですか?
ユディット  そうね、咽喉がかわく方が嫌だわ。
スザンナ  じゃ、このコップの水を飲んでいらっしゃいな。
ユディット  もうこの手は私の手ではないの……もうこの家では、この手は何に触ってもいけないの……
        どうしてもというなら、あなたが飲ませてちょうだい……ありがとう。(戸の方へ向かう)今夜の私はどう見えるかしら?
スザンナ  ああ! ユディット! いつもの通り、お美しいわ。
ユディット  いつもの通りですって? ありがとう、スザンナ。今夜のユディットがいつもの通りなら、
        他の時はどんなに美しいでしょう、あなたのお世辞は素晴らしいわ! さあ、それでは道をあけて。

退場。
97名前なし:2009/07/25(土) 22:06:55 ID:jvf7HHtB
第九場  スザンナ、ヨハネ、エステル

スザンナ、ヨハネを呼ぶ。

スザンナ  ヨハネ!
ヨハネ  ユディットは出かけたのか?
スザンナ  ええ。
ヨハネ  じゃ、約束したとおりやるんだ! 一刻も余裕はない。間違いなくやるんだ、いいね、復誦してみろ!
スザンナ  私は大急ぎで敵の陣地へ行って、サラに逢うの。
ヨハネ  あのやり手婆のところへお前をやるのは可哀想だが。お前は一番の近道を知っているね!
スザンナ  エステルが一緒に行ってくれます。あの人はほとんど毎晩あちらへ行っていますから。
エステル  サラはユディットが嫌いったらないからね! 嫉いているのさ! 
        先月ユディットが、自分の家からサラを放り出したことがあるんでね。
ヨハネ  お前はサラに何と言うんだった?
スザンナ  ユディットがもうすぐ来て、ホロフェルネスに会おうとしていると言うの。
       そうすれば、サラがユディットの来るのを待ち伏せて捕まえてしまい、ホロフェルネス王に逢わせないようにします。
       もし必要なら明け方までユディットを閉じ込めてしまう。お礼はたっぷりやるから。こういうことでしたね?

ユディットに戸を開く歩哨の叫び声が聞こえる。陰惨な叫び声である……

ヨハネ  じゃ、さよならだ。お前がユディットに先回りする時間は、十分にあるはずだ。
      僕は、ユディットに、絶対通れないような道を教えておいた。

このとき、預言者が窓に現れて叫ぶ。

預言者  ユディット! ユディット! 我らを救え!

ヨハネは預言者に飛び掛って地面に突き倒し、殺す。

ヨハネ  どうだ、これで救われただろうが!
98名前なし:2009/07/26(日) 02:52:56 ID:ZkPf94wN
第二幕

ホロフェルネスのテントの中

第一場  ユリ、オタ(共にホロフェルネス軍の副官)、サラ、ヤミという名の黒人、衛兵数名、エゴン(他の副官)

幕が上がる時、エゴンが入って来る。

オタ  おい、エゴン、来てくれ! サラが初めて面白いことを思いついたぜ。
エゴン  もう考え付いてもいい頃さ。サラ、我が軍の士官はみんな怒っているぞ。お前は約束通りの女を世話しなかったな。
サラ  あたしは、出来るだけのことはしたよ。
エゴン  そりゃそうだろう。初めはお前は、肌触りがいい小娘たちを連れてきた。あの娘たちはえらく物好きだったな。
      何でもかんでも面白がったぜ、大きな男だとか、フランス式の口髭だとか言ってな……
      ところが市が飢饉にやられ出してからというもの、お前れの連れてくるのは年増ばかりじゃないか。
オタ  年増というか、婆さんだな。
ユリ  でなけりゃ、おかみさんさ。子供に乳房を含ませながら、ウィンクしやがる。
オタ  あの女たちは、スープには牝犬みたいに飛びつくくせに、
    寝る段になるとすぐ手近に赤ん坊をおいて身を任せるだけで、少しも楽しもうって気はないんだからな。
    中でもお前の市の寡婦は、特によくない。朗らかに楽しもうって精神のないこと、驚くべきものさ。
    そうかと思うと、こちとら真面目な兵隊には手に負えないほど濃厚な気分を出しやがる。
ユリ  どうもお前は、生まれつきこの商売をやってるわけじゃないな。
サラ  そりゃそうさ、これでもあたしは、ヤコブの直系の家柄だよ。
99名前なし:2009/07/26(日) 02:54:31 ID:ZkPf94wN
エゴン  そいつは驚いた。偉大な先祖を持った家系や、その子孫は、知らず知らずのうちに、自堕落で無責任な気分に落ち込むらしいな。
      我々が進軍の途上で出くわしたご名家の連中は、もっぱら内通して感動を開いてくれたり、補充兵として若衆を提供してくれるだけだったぜ。
      して見ると、本当にお前がヤコブの末裔なら、ますます女衒としての腕を見せるべきじゃないか。
      さもなければ、ヤコブの名前なんか何の役に立つ!
オタ  今夜は、ヤコブの家名も再興されるらしいぜ。
エゴン  よし、じゃあ聞こう、サラ! お前の思い付きってどんなことだ? 
      今夜、お前の市が滅亡するお祝いに、何かしてみせようというのだろう?
サラ  とても愉快な見世物だよ。
エゴン  お前の愉快な見世物っていうのは、もう分かってるぜ。
      裸の女を一ダース並べて、臍の上にそれぞれの女の国の旗印を天然色で照らし出すってやつだろう。
      まだそんなものに興味を持っているのは国防省だけさ。
      いやはや、もう、いわゆる芸術的な見世物だの、軍隊的なお芝居は沢山だ……
      それともお前の企てているのは、もう少し迫力のある代物だとでもいうのか?
サラ  だいたいユダヤの女という奴は芝居がかっているから、年中喜劇を演じてるようなもんだが、
    その中でもよりによって滑稽な場面をお見せしようってのさ。
    最も、お前さんたちがユダヤ女を皆殺しにするんなら、その時だって見られるがね。
エゴン  どんなことがあろうと、ユダヤの女が女優を廃業する気遣いはないよ。サラ! 安心しろ。
オタ  エゴン、今から、そう君のとんちを振り回すなよ。これから、大いに、気の聞いた台詞を喋ってもらうことになるんだから。
エゴン  そのユダヤ女ってのはどんなのだ? ここへ来ているのか?
サラ  今来るよ。
エゴン  お前に似ているのかい?
サラ  まだ、二十歳なんだよ。
エゴン  それじゃ、また乞食みたいな女だろう。
100名前なし:2009/07/26(日) 02:56:14 ID:ZkPf94wN
サラ  とんでもない。大金持で、名門の生まれだよ。その女は三世紀も続いた銀行家の家柄で、
    代々金を貸しては高利を巻き上げたのさ。だから今の代では、
    その女なんかとても無慾恬淡で、慈善事業までおやりになれるというわけだよ。
エゴン  ふむ、どんな女か見なくても分かってるぞ。どうせバザーでなければお目にかかれないような売れ残りだろう。
      にきびだらけで、半ポンドも重みのありそうな耳たぶをぶら下げた代物に決まっている。
サラ  違うね。あの女のお祖母さんだの曽祖母さんだのは、みんな、自分のベッドの中で数え切れないほど大勢のユダヤ男を撫で回し、かき回してきたんだよ。
     ユダヤの男なんて、目玉は飛び出ているし、顎はしゃくれているし、皮膚はざらざらなのに、全くご苦労さんな話だね。
     ところが長い間にゃ爪のつるにもなすびで、イスラエル中で一番見事な卵形の顔立ちと、類のないほど綺麗な目を産み出しちまったのさ。
エゴン  どうしてそんな女がお前に会いに来るのだ?
サラ  だからあたしじゃないんだよ。ホロフェルネスに会いに来るのさ。
エゴン  お前はそのユダヤ女を引っ張り込んで、何をしようというのだ? 何を企んでいる? 自分の首に気をつけろよ。
サラ  あたしは、あの女の来ることには何の関わりもないよ。この件に関わりのないのは、あたしぐらいのものさ。
    その女は全ユダヤ人の代表として送られて来るんだからね。市じゅうで、誰よりも美しく誰よりも清らかな娘が、
    供もつれずにやって来て、ホロフェルネスの気を鎮めれば、市も助かるだろう、他に仕方はないって予言があったんだよ。
    すると、市じゅうの人は、まずあの女を考えたのさ。とにかく、あの女が最初に選ばれてやって来たというわけだよ。
エゴン  いい思いつきさ。その女が他の奴よりは少し太っていればね。
サラ  あんたには、これがどういうことが分からないんだね、エゴン……あんたはユダヤ人のどこが嫌いなんだい?
エゴン  高慢ちきなところだ! これは俺だけじゃないがね!
サラ  それなら分かりそうなもんじゃないか。今、高慢を絵にかいたような女が、あんたの張る網に飛び込んで来るんだよ!
エゴン  俺たちの張った網には、そんなのもずいぶん引っかかったぜ。
101名前なし:2009/07/26(日) 02:58:45 ID:ZkPf94wN
サラ  そうお思いかい? 今まであんたたちが高慢の鼻をへし折ってきたのはどんな連中さ、
     穴だらけの玉座に座った老いぼれの王様とか、いつ没落するかびくびくしているその日暮の臆病な女王とか、
     野菜しか食わない預言者とか、耄碌した権力者とかいうのばっかりじゃないか。
     あんたたちが恥をかかした相手ってのは、かつらをかぶって目やにだらけの目をして、流す涙まで脂ぎっているような代物だけさ……
     だけど、今度の娘は違うんだよ、皆の衆! 高慢は高慢でも、花の盛りの高慢さ、
     体中に剛いなんか一本もないようななめらかな肌をして腋の下までつやつやと輝くほどさ。
     あの女の流す涙も汗も、朝露のように新鮮なんだよ……
     エゴン、あんたはカリをやるから知っているはずだよ。
     穴に潜んでいるような豹の子や、罠にかかった仔狐のような若々しい獣は、同じ子ロスにしても新鮮で汚れのない喜びを感じさせるじゃないの。
     若いということは、醜いことも、絶望も、死までも、新鮮で汚れのないものに変えてしまえる力だよ。
     ユディットは、それをあんたたちに差し出そうとしているんだよ。あの女は金持ちなんだ。
     だから、今までに苦労をしたと言ったって、みんな高尚な苦労で、楽しみと大して変わりはないようなものばかりさ。
     あの女の肌や身の内には、苦労の跡なんか残ってないんだよ。
エゴン  ユディットだと? ユディットと言ったな?
サラ  ユディットといったよ。あんた、あの女を知っているのかい?
エゴン  先週、我が軍のアラビア人の人夫を買収して、味方の近衛の士官たちを虐殺させたユダヤ女がいたな。あの女はなんと言う名前だった?
サラ  ユディットという名前さ。
エゴン  それじゃ、俺たちの親友を殺した女か。あの女が厚かましくもここへ来るというのだな? 
      オタ、ラミアスのことを思い出してみろ。あの可哀想なラミアスは、頭をぶち割られて、青黒いよだれを流していたな。
サラ  やっとあの女に興味が出てきたらしいね!
102名前なし:2009/07/26(日) 03:01:16 ID:ZkPf94wN
エゴン  そうか! あの女が来るのか、ラミアスのような勇士に血を流させた奴が! 
      こいつはありがたいぞ。そうなれば俺は何もかも大賛成だ。お前はあの女にどんな刑罰を与える気だ?
サラ  あの女を本当に傷つけてやる手段は一つしかないんだよ。
     それは恥をかかせてやることだ。もうここへ連れてきてもいいかい?
エゴン  いいだろう。ホロフェルネス王は奥のテントで仕事中だ、休んでいるのかもしれんが。
サラ  じゃ、その床几にお座り。オタ、マントを取ってくれ。
エゴン  そりゃホロフェルネスのマントじゃないか? その女に俺をホロフェルネスだと思わせるのか?
サラ  そうなんだよ。あの女は、苦しみに震えながらここへやって来る。
     しかし、頭の中は、王に対して女王に振舞おうという考えでいっぱいなんだよ。
     悪口雑言を浴びることは覚悟の上だが、覚悟はそれだけじゃない、
     ホロフェルネスをソロモン王に見立てて、自分はシバの女王を気取り、王様相手に恋の手管の一勝負をやってのけようという狙いなのさ。
     そこでお前さんが王と名乗って、王の身代わりにあの女を引見するんだよ。
エゴン  どうして俺がやるんだ?
サラ  あんたは口が上手だからね。あたしが言ったように、あの女は生娘なんだよ。ということは、まず何よりも物凄いおしゃべりだということさ。
     あんたなら口のうまいところで、この茶番の采配をふるえるよ。
     うんとあの女を脅かしたり、虚栄心を満足させたりしてもてあそび、国を代表したつもりでさせずらせるのさ、
     実にあんな向きの仕事じゃないか……
     挙句の果てに茶化されていたことが分かったら、あの女がどんな顔をするか考えてごらんよ、素晴らしい見物じゃないの! 
     そんな相手をやっつけても大したことないなんて心配は無用だよ。
     あの女は今晩、ユダヤ民族の運命を担っているんだからね。ユダヤ人は今頃ほっとしているよ。
     夜の明ける頃には、あの女がホロフェルネスを改心させて、一緒にこの陣地から出て来るのが見られるつもりなのさ。
103名前なし:2009/07/26(日) 10:22:31 ID:ZkPf94wN
オタ  エゴン、この茶番の面白みが分かったかい?
エゴン  俺に分かるのは復讐の面白みだ。もうすぐ俺の顔にひどく気高い表情が出てくるだろうぜ、それが復讐の快感のあらわれなんだ。
オタ  それに、王様のマントはお前によく似合うぜ。
エゴン  王様のマントなんてどんな奴にも似合うものさ、レディ・メードに限るってわけだ……
      じゃみんな、用意はいいか? 本物の王様にするように、慇懃に俺に額ずくんだぜ。
      大いに無理してくれよ、俺は事実上、君たちの色懺悔の打ち明け相手なんだから、本来それぐらいは当然なんだ。
ユリ  心得た、その通りだ。何しろ君はおかま専門の古つわものだからな。
エゴン  オタ、君はラミアスが死ぬときの苦しみを覚えているだろう。
      あいつの身体はあんなに立派だったのに、まるで死骸が二つあるように見えるほど、むごたらしくやっつけられていたな。
      左の半身は膨れ上がり、腫れ上がって、ぴくぴく動き、まぶたまでひきつって、最後まで女に色目をつかっているみたいだった。
      左半身は全く滑らかで、見事で、唇の合わせ目は非の打ち所がないほどきっとした一線に結ばれていた! 
      神と見まがうほど美しいラミアスが微笑みをたたえたまま、地面に投げ出され、
      その半身は見るも醜い姿になっていたありさま、君はあれを覚えているか? 
      今俺のそばに立っているのはラミアスの右半身だけだ、
      地獄の釜に煮えたぎる瀝青でこすられたように真っ青だが、
      それでもまだ、生々しく俺の胸に焼きついている右半身の幻なのさ……
      ラミアス、俺の左側に立ってくれ! その方がいい……
      (アシュール登場)アシュール、あの女はどうした?
アシュール  今ここへ来る。
エゴン  そんな女風情が我が軍の戦線をうろつくのを、なぜ放っておいたんだ?
アシュール  あの女が町を出ると、すぐ味方のスパイが後をつけたんだ。
         それのあの女は別に隠れようともしないでまっすぐ、ゆっくりとやって来たよ。
104名前なし:2009/07/26(日) 10:47:56 ID:ZkPf94wN
エゴン  あいつはどこから味方の陣地に入ったんだ?
アシュール  エザウ河の近くさ。今朝ユダヤ人どもが最後の突撃をした場所だ。
         あの女はユダヤ人の血で汚れた水の上に身を屈めて、その水を飲んだよ。
エゴン  そこから先は、誰が案内している?
アシュール  俺たちは、さらにあの女をあちこち引き回してくれと頼まれていたんだよ。
         だから、まず捕虜を入れた囲いまで連れて行ってやった。ちょうど捕虜どもが殺されているところだったよ。
         今は本陣の前まで来ているが、腰掛けて休みたくない、すぐホロフェルネスに会いたい、と言うんだ。
エゴン  ここへ連れて来い……

アシュール、退場。

ユリ  みんなの役割を決めよう、エゴン。
サラ  何も込み入ったことは必要ないさ。あたしたちはみんなで、ユディットに悪口を浴びせ、脅かしてやるんだよ。
     エゴンは反対に、あの女に気を惹かれたようなふりをする。
     そしてあの女がユダヤ人を許してくれと嘆願し出したら、少しずつ心が傾くように見せかけるんだよ。
エゴン  一度キスを許すたびに、少しずつというわけだ、ただのキスだけだぜ!
サラ  参った! あんたはいい度胸だよ。
エゴン  あのラミアスは女好きだったな……
      自分と同じようにブロンドの女だけが好きだった……
      ラミアス、君は去年ティヒリスで見た、北の国から来た姉妹の女を覚えているか?
      あの女たちはあの女たちは麦藁色の髪の毛をターバンで押さえて、明るい、こぼれるような美しい顔立ちを剥き出しにしていたな……
      サラ、そのユディットという女がブロンドでないといいな、
      それにラミアスと同じ肌色をしていなければいいが、さもないとこちらの恨みが弱められてしまう。
サラ  まあ当人を見てごらんよ。

ユディットが現れる。エゴンと他の士官たちは、女が着たのに気がつかないふりをして、笑ったり、冗談を言ったりしている。
105名前なし:2009/07/26(日) 10:54:55 ID:ZkPf94wN
第二場  第一場と同じ人物、ユディット

ユディット  私来ましたわ、ホロフェルネス。
ユリ  誰だ、王の名を口にする者は? お前は誰だ? たとえ言葉の上でも王の身に触れるようなことをしたら、死刑にされるのを知らないのか!
ユディット  私が誰か、この女が知っています。
サラ  おや! あたしを覚えていて下さいましたかい、ユディットさん。
    あんたは私があの色男のエドワールの手紙を持って使いに行ったら、お宅から放り出してくれたっけね。
    あれ以来、あたしもこの通り発展したんだよ、どうだい。
オタ  その女がお前の家の淫売なら、こりゃ家主と店子の口論だ、そんなことはよそでやれ! おい、ヤミ! 連れて行け!
サラ  この女は私の店子じゃないよ。一本立ちの女子学生さ。自分一人で身体を売ることを心得てるんだ。
オタ  おい、なんだってここへやって来たんだ? お前の仲間の女みたいにヒステリーにかかったのか?
    腹が空いたのか、それとも咽喉が渇いたのか? 何か飲み物が欲しいのか?
ユディット  私はエザウ河の水を飲んできたばかりです。
エゴン  この女は何を言おうとしているんだ?
サラ  この女はこう言いたいんですよ。自分はさっき、ユダヤ人の血で染まった水を飲んだから、ユダヤ人並の勇気をつけて来たんだとね。
    こういうのが気高い言葉という奴なんだから。
エゴン  黒い髪のべっぴんさん、名文句を口にするため、わざわざここまで来たのなら無駄足だったぞ。
      そんな名文句は一度口にされてから何世紀も立たなければ、ものの役に立たん。それも役者が使うときだけさ。
ユディット  それでは、百年前に口にされた気高い言葉が、今日の私の役に立つでしょう!
サラ  そら、また一つ出た。
106名前なし:2009/07/26(日) 10:56:51 ID:ZkPf94wN
エゴン  頼むから、そう粘らないでもらいたいね。わしは気高い言葉なんか分からん。
      わしの前で夫を取り返そうとした女ども、わしの前でわざとらしく微笑を浮かべながら男の兄弟より先に毒の盃を乾かした姉や妹たち、
      わしの前で縮れ毛や獅子っ鼻の孫を死刑から救おうとして狂乱した婆さん連、そういう女の数を数え上げてみろ、恐ろしいほどの人数だ。
      だから気高い言葉、気高い振る舞い、気高い態度なんてものは、わしの周りには腐るほどあったわけだ。
      しかしわしには少しも気高く思えなかったね。
      わしはただ、人間が死の門に入るまで、喋りたてたり、大げさな身振りをするのを眺めただけだ。
      お前はエザウ河の水を飲んだと言ったな? それがどうした? つまりお前は、血の塊の混じった泥を飲んだんだな? 
      それはお前の勝手だよ、しかし何も自慢するほどのことはないじゃないか……お前の名は?
ユディット  ユディットです。
エゴン  サラ、ユディットというのはどんな娘だ?
サラ  トップ・モードの娘ですよ。
エゴン  トップ・モードの娘か。なるほど、そうらしいな。
      本当に社交界の空気を身につけた女は、どんなに悪い時代でも自分の眼つきやドレスをその時のモード、
      例えば不幸とか、戦争とか、飢えとかいうものに調子を合わせることができるものだ。
      この女も確かにそういう才能を持っている……お前は未婚の娘なのか?
サラ  本当の生娘です。この生娘ほど男から狙われた女もいないし、男の手で直に撫で回されたのもいませんがね。
    それでもまだ男を知らないんですよ、大司祭の証明書がついているくらいです。着物を脱がせて見ましょうか?
エゴン  サラ、その娘に触ったら最後、罰にお前を打たせてやるぞ……
      何と言おうとこれは美しい娘じゃないか、それに、お前のいつも連れてくる女たちほど痩せてはいないぞ、どうだ!
107名前なし:2009/07/26(日) 10:58:46 ID:ZkPf94wN
サラ  この女はどうして痩せていないのか、本当に不思議ですよ。
     普通のユダヤ人は、食べ物がないから痩せたんですが、この女は並みの女ほども食べ物をとっていませんよ。
     なんでも人にやってしまうという芝居っ気があるんでね。なのに、目方は一オンスも減っていないんです。
     偉大な時代に生きているという気があるから、それで栄養をとっているんでしょうよ。
エゴン  それなら、大いに栄養分を補給してやろうじゃないか。何でここへやって来たのだ、お姫様?
      この娘には、ユダの王国の王女という空気が漂っているな。
サラ  いいえ、一流銀行の雰囲気ですよ。
    ちょっと見ると簡素なようだけれど、よく見ればスプリングつきの高級車や、盗難よけの鎖をつけた宝石なんてものの雰囲気が感じられるでしょう? 
    確かに着のみ着のまま髪もいじらないで、家を出てきますよ。この女は、恋のためにも死のためにも、特別の用意なんかしない階級の女なんです。
    畜生、こいつには金があるんだ、そうなんだよ!
エゴン  そう興奮するな、サラ。
サラ  何につけても神様は不公平すぎる、あたしには納得いかないよ! 本当の殉教者はいつも金持ちに決まってるんだ。
     この女の身体をごらんなさい。いつも香油を塗られて、憧れの的で、褒められてばかり来たんです。
     拷問にかけるのに、これほどいい見本はありはしない……聖女の香りなんて、実は香水の香りなんですよ。
     でも今はとにかくこの女もこの通り捕まえられ、恥じ入って、恐ろしさに息も殺しているんですよ。
エゴン  お前の言うことは当たっていない点もあるぞ、サラ。わしは勇気がどんなものか知っているからな。
サラ  いいえ、この女は恐がっているんですよ……
    見てごらんなさい、真っ青な顔で立ちすくんでいるところは、ストライキ中の労働者に囲まれた資本家の娘みたいじゃありませんか。
    最もこの場合の資本家はエホバだけどさ! 何も言わないね。
    ふん、娘さん、気高い言葉を口にするなら絶好のチャンスじゃないか、だがどうもうまく行かないってね!
エゴン  サラ、これ以上喋ったら、お前をヤミに引き渡すぞ……ユディット、お前はどういうつもりでここへ来たのか?
108名前なし:2009/07/26(日) 21:19:49 ID:ZkPf94wN
ユディット  偉大な王に面と向かって会ってみたかったのですわ。
エゴン  今、会っているじゃないか、別に想像していた王とかわりはあるまい?
サラ  気をつけたほうがいいですよ、殿様! この女の口にかかるとお世辞になっちまいますからね。
ユディット  私、別に前もって想像してなんか見ませんでしたわ。ここへ来るまで、絶望していたことは本当です。
        でも、今では望みが湧いてきましたわ。
エゴン  わしの目の中に何かが感じられるのだな、そうだな? それともわしの髪に何かがあるというのか?
ユディット  あなたの口調の中にですわ。
サラ  ほら、はじまった。
エゴン  わしの言葉が穏やかで、誠実な調子だからそう思ったのだろう、違うか?
ユディット  いいえ、でも、いかにも王らしい厳しさがありますわ、それからそうでないように見せてはいるけれども、
        芝居気も多いし、冒険好きで、好奇心の強いことが感じられますの。こういう感じはいいことを約束していますわ。
エゴン  それでは気をつけたほうがいいな。ホロフェルネスは今までの生涯に沢山の約束をした、
      テレブの女王には、もし驢馬と交わってみせたら一人息子の王子を赦してやると約束した、
      フェニキア人の神には姿を現したら、神殿だけは助けてやると約束した。女王は驢馬と交わった。
      フェニキア人の神は人間の姿を現した。しかしわしは王子を殺し、神殿を焼いたよ。
サラ  それはその女王や神が、ユディットではなかったからです!
ユディット  いいえ、つまり、それはあなたが本当のホロフェルネスでなかったからだわ。あなたは私が今夜話そうとする相手ではないわ。
エゴン  承っておこう……
ユリ  殿様、お願いです。この娘を罰するか、我々を罰するかどちらかにしてください。
エゴン  黙れ、わしはもう片方に決めておる……
オタ  もう夜が更けました、殿様、あと報告書を読む時間がやっとですよ。
エゴン  娘、話を聞こう。お前はどんな資格でここへ来た?
ユディット  今おっしゃった娘という資格よ。若い娘ってどんなものかご存知?
エゴン  昔はサラも娘だった。サラのようにこの世の恥になるような女でも、みんな娘だった。娘とはこういうものさ。
109名前なし:2009/07/26(日) 21:21:09 ID:ZkPf94wN
ユディット  若い娘ってどんなものかご存知?
エゴン  誰でも知ってるさ。知らないのは娘たち自身だけだ。お前が答えを知っているなら、お前はもう娘ではない。
ユディット  でも例外もありますわ。私は処女とはどんなものか知っているけれど、処女ですもの。
エゴン  そういうのは、もう女になりかけているのだ、女になるためのみっともない恥ずかしいことも我慢する覚悟が出来ているのだ。
ユディット  でも、処女ということが高い貴い事実をさすこともありますわ。
        そうなれば、処女にとってはどんな不幸も苦しみも物の数ではなくなります。
        そういう場合の処女という言葉は、人間性の中にも偉大なものがあるという希望にもなれるのですわ。
エゴン  それで勝利者のところへ来て、人間性の偉大さを見せつけようとしたわけか? 
      おあいにくさまだな。偉大さというのは、敗北者と犠牲者だけが貰う特別賞なのだよ。
サラ  そら来た、ユダヤ人を救ったエステル女王を気取るなら今だよ。旦那のアッスエルス王が話しを聞いてくれらあね。
ユディット  ユダヤ人を赦してください、ホロフェルネス、そうすればあなたの名前はユダヤ民族の名と共に永遠に生きますわ。
オタ  永遠なんてものを大真面目に信じているのは、ユダヤ人だけだよ。
    ユダヤ人は、ほんのちょっと慈善とか正直とかいいことをした報いに、永遠という利息を発明したのさ。
    つまりユダヤ人らしい、理想的な投資なんだよ。
110名前なし:2009/07/26(日) 21:27:14 ID:ZkPf94wN
エゴン  ところでユディット、真面目な話だがね、お前はわしが今まで、ユダヤ人の助命嘆願を聞いたことがないと思っているのか? 
      お前の市の城壁の上には銀色の月の光がさして、不安に脅えながら集った虫けらのような人間どもを照らしている。
      お前はこの光よりも、自分の言葉の方が雄弁なつもりなのか? お前はわしをつんぼだと思っているのか? 
      この戦場を蔽う沈黙、くちばしに人間の肉を加えた夜鳥の叫び、果物が不意に樹から落ちるかすかな音も、わしの耳に入って来る。
      この静かな夜に倒れる戦死者は、あの果実だけではないのだ。
      わしにはみすぼらしい屋根裏部屋で、飢えたユダヤ犬を撫でてやりながら、泣いて祈っている貧しいユダヤの母の姿も見える。
      冷たく瞬く星の光、蔑むように吹き渡る風の声、こういうものはみなユダヤ人を救ってくれとわしに訴えてきたのだ、それが分からんのか? 
      この心に響く哀願の声と姿は、全てユディットと同様なのだ。いくらユディットだって特別のことはないはずだ。
      それなのに、どうしてお前の訴えだけが他の全てを越えて、わしの心を動かすわけがある?
ユディット  私の訴えが一番強いからですわ。
エゴン  お前のが一番強いわけはないぞ。わしは、犬や、星や、人間の上に映える日の光が好きなのだからな。女など好きではない。
サラ  でも今じゃ、大きなことは言えませんよ。とにかくホロフェルネス様はこの娘相手に話をしたんですからね。
    この娘に触ってごらんなさい、殿様、お触りなさい。ユダヤ女を相手にする時は、目と手の勘を働かせなければ駄目なんです、
    そればかりでなく、うんと目を光らせて見張っていないと何をされるか分かりません。
    だけどその一方、全く目を塞いでいなくちゃ、我慢できませんからね。
エゴン  この女を連れて行って、鞭で打たせろ。
サラ  まあ殿様、あたしが何を言いました、何をしました?
エゴン  お前はわしの客を侮辱した。罰を受けろ。
サラ  許してください、殿様! あたしは冗談口を利いてただけなんです。
オタ  殿様、道化役を鞭打つことはありませんよ。
111名前なし:2009/07/26(日) 21:28:46 ID:ZkPf94wN
エゴン  ユディットがお前を哀れと思うなら、助けてやろう。もともとユディットから起こったことなのだからな。
サラ  ユディット! あたしを許して……
エゴン  ユディットが身振り一つするか、一言言うとしたら、お前を許してやろう……

(ユディットは黙ったままでいる)

      それでよろしい。上出来だ……
オタ  気をおつけなさい、殿様、気を許してはいけません。
    あなたがこの乙女を抱いたら、せっかく、もうほとんどこの世から消えかけているユダヤ人や、その象徴がまた生まれてこないとは限りませんよ。
    帽子職人や、高利貸しや、音楽の名人や、預言者などは、みなユダヤ系だ。
    それに例の永遠というやつもある。それは別としても、とりあえずユダヤ系の子孫ができるということを考えてください。
エゴン  みな揃ってそんな口のきき方をするとは何事だ、一体わしを誰だと思っているのだ? 
      オタ、お前は自分の頭の蝿を追う方がいいぞ。
      今日は我々の親友ラミアスの死んだ日だ。あのラミアスは、ユダヤの女に貸しがあったじゃないか。
      それを忘れるとはどういう料簡だ? わしはラミアスのために、ユディットの話を聞いてやるのだ。
ユディット  私の話をお聞きください。殿様、今あなたの後ろにそのラミアスという人が立っていることは確かですわ。私その人の名にかけて、お願いいたします。
エゴン  確かにラミアスはここにいる、少なくとも彼の一部分はいるのだよ。
オタ  じゃ、この女を勝手に喋らせるのですか? 
    王様のお気に入りの女がユダヤ人を助けてくれと訴えたら、我々まで巻き添えを食わなくちゃならんのですか? 
    ホロフェルネス様、ことわっておきますが、明日あなたがアフリカ部隊に虐殺を許さなかったら、私は何が起こっても責任は取りませんよ。
    連中は二ヶ月も前から、小麦粉とシロップだけの食事を、日に二回も食わされてるんですからね、
    何かに鬱憤をぶちまけなくちゃ我慢できないのです、だから彼らは血を……
エゴン  ユディット、話を聞こう。
112名前なし:2009/07/26(日) 22:43:00 ID:ZkPf94wN
ユディット  ああ、王様、私も、虐殺に際して少しばかりのお目こぼしをお願いするようなことはしないつもりですわ。
        私は看護婦として、毎日、負傷兵や死んでいく人たちを看護しております。
        その点では、あなたの軍隊の戦線まで出かけてきて大変得るところがありましたの。
        殺人や拷問の道具は、ユダヤ人の身体に適用された時、初めてそれぞれ独自の意義を持ち、独特の切れ味を発揮するんですのね。
        ですから、ユダヤ人の肌に一つ傷をつけるのにも、ずいぶんお金や手間がかかるわけですわ。
        私、自分たちの死もなかなか高くつくものだという自信が出来ましたの、それからあなたのところに来ましたわよ。
        戦いの神に先見の明があれば、私たちを皆殺しにしたりはしないでしょうね。
        でも、戦争で血を流すのを思いとどまらせるには、やはり血を流すほかありません。
        私は自分の新鮮な血を、あなたに差し上げに来たのですわ。
オタ  ユディットの血では、十一軍団には不足だ。
エゴン  黙れ。
ユディット  あなたはシトーズの市の話を聞いたことがおあり?
エゴン  ブロンドの市か?
ユディット  そうです、私たちの市を黒い髪の市と呼ぶとしたら、あの市はそう呼べますわね。
エゴン  我々があの市を知らないわけがあるかね? 
      我々がユダヤを攻める気になったのも、あのブロンドの市の青い瞳と黒髪の市の黒い瞳が虹色に瞬くのに心をひかれたからさ。
      しかしそれがどうしたというのだ?
113名前なし:2009/07/26(日) 22:45:54 ID:ZkPf94wN
ユディット  ここからシトーズまでは八里しかありません。
        あの市は、さなぎのように平和に溢れた市で、荒らされたことはないのですわ。
        宦官や、コーカサスの女や、貴婦人がいくらでもいます。
        あそこの貴婦人たちは、でっぷりした頬から足指まで脂肪がのり切っています。
        神を失った人間はみな太っているものですわ。
        反対に、私たちの市の納屋や、穴倉はみんな空っぽで、女は骸骨みたいに痩せこけています。
        だからあなたの軍隊には、こんな市の代わりに、
        シトーズの女の袋みたいに膨れ上がった身体や、金髪の子供や、豊かな富を与えた方がよくはありませんの。
        その方があなたとしても戦争の法則を守ることになるでしょう、
        戦争の法則というものは、安全保障条約をぶち壊して、平和を裏切ることではありませんか!
エゴン  ふむ、今の話はどう思う、オタ?
オタ  興味がありますな。しかし、別にユディットの許可をいただくにも及びますまい。この市の次にシトーズをやればいい。
ユディット  あなた方が少しでもぐずぐずしていたら、そうは行かなくなりますわ。
        私たちの市の評議会は、今晩シトーズに向けて飛脚を出して、戦争の準備をするか逃げるかしろという警告を送りましたもの。
        でも、あなた方がすぐに出発するなら、私は山越えの道を知っていますからご案内しますことよ。
サラ  見事なもんだよ、ユディット。それがお前さんの本当の使命なのさ。
     お前さんは人を滅ぼすために生まれた女で、人を救うには向かないんだよ。
     神様がお前さんを指名したのは、ホロフェルネスに罪のない人たちまで殺す気を起こさせるためだったんだね。
     それならあたしも、お前さんの指名に賛成だよ。こういう話なら、確かにお前さんのお手のものさ。
エゴン  ここへおいで、ユディット、喜劇は終わった。
ユディット  喜劇ですって?
114名前なし:2009/07/26(日) 22:47:15 ID:ZkPf94wN
エゴン  わしはお前に嘘をついたのだ、ユディット、わしはお前を待っていたのだよ。
      お前の名は前から聞いていた。このやり手婆から教えてもらったわけではない。
      捕虜の中でもひときわ目立つ美青年どもを拷問にかけると、必ずユディットの名前を呼んだからな。
      お前の名前は綴りがきっちりしすぎている。噂を聞くだけではこだまのように頼りなくて、はっきり覚えられない。
      歯を食いしばった人間の唇だけが、はっきり繰り返せる名前なのだ。
      ユダヤの軍隊は、まるでお前だけを護って戦っているような感じがしたよ。
サラ  許してください、ユディット。
番兵  黙れ。
エゴン  お前はとうとう、わしのテントに来た。そしてわしの捕虜になった。
      お前がこっちへ来れば、お前の同胞が助かるだろうと言う噂を流したのはわしではない。
      しかし、民衆の単純な想像力でも、話し言葉と書き言葉を区別する知恵はある。
      だから民衆の想像力は、この大戦争の中でも、実際に戦っているのは僅かな人間だということをちゃんと見ているのだ、そうは思わないか? 
      ユディット。今、わしとお前が一騎打ちで戦いを交えたおかげで、この戦争もようやく終わることが出来たのだよ……
      戦争は終わった。オタ、連隊長を招集しろ……
      シトーズへ進軍だと伝えろ。ユディット、お前は自由だ、行ってよろしい……
ユディット  自由ですって?
エゴン  早く帰ってユダヤ人に、助かったことを伝えるがいい……
      護衛にヤミをつけてやろう……ヤミ、分かったな? 
      お前が野蛮人だと思っていた人間がどんな風だったか、みんなに話してやれ。
      確かにお前は気にいった。しかし、だからといって何か条件を出したりはしないよ。
      何よりもまず時間がない。それに、わしは別にお前に好いてもらいたいという気持ちもないからな。
ユディット  殿様。
115名前なし:2009/07/26(日) 22:48:39 ID:ZkPf94wN
エゴン  そう思うのはわしの間違いかな? お別れの印にお前の顔をわしの顔に寄せて、そっと温かい気持ちを込めて、
      わしの額に唇を当てるというのはどうだ。それぐらいなら、大して嫌な気持ちもなく出来るだろう。
ユディット  ええ、出来ますわ……
エゴン  そうか、じゃあここへおいで……

ユディットはおっかなびっくり、エゴンの額に接吻する。たちまち、彼は彼女の身体を捕まえて唇に接吻してしまう。
この間にさまざまな嘲笑と愚弄の叫び声があがる。ユディットはもがいて身を振りほどく。彼女は短刀を片手に、一同に取り囲まれる。

エゴン  あばずれめ! すんでのところで怪我させられるところだったぞ! ヤミ、こいつは貴様に任せた!
サラ  ははは! ユディット! 可哀想な馬鹿娘が! お前さん、今どこにいるつもりなんだ? 
     許婚候補たちの口説きをきいていると思ったのか、さもなくば坊主たちとお寺にでもこもっている気だったんだろう! 
     ところが、お前さんはたっぷり赤恥をかかされたんだよ! 
     この男はおかま屋さんさ、それをホロフェルネスと間違えるなんて、
     お前さん、ユダヤの知性ってのはこんなもんだという立派な手本を兵隊さんたちに見せてくれたね! 
     ありがとうよ、エゴン、あんたはこの金持ちをやっつけて、世界中の貧乏人の仇をとってくれたようなものだよ。
     このおしゃべり娘に、世界中のどもりや唖が恨みをはらしたのさ、
     臍まで裸の淫売女たちがこの淑女に鬱憤をぶちまけてやったのさ。
エゴン  さあ、ヤミ、やれ。
ヤミ  嫌だ。
エゴン  俺の言うことが分からんのか? この女を貴様にやると言ってるんだ。
ヤミ  いらない!
エゴン  おや、貴様は俺に逆らおうというのか? どんな目にあうのか分かってるのか、貴様?
116名前なし:2009/07/26(日) 22:49:58 ID:ZkPf94wN
ヤミ  分かってる!
ユリ  よし、おい衛兵、やっつけろ!

衛兵はヤミを連れて行く。

サラ  エゴン、この女をあたしにくださいよ。まだ使い道があるんだから。あんたに接吻した時の可愛らしさったらなかったね! 
    キスの時、ほんの少し唾を吸われただけで我慢したところなんか、実に魅力があったじゃないか! 
    それに女王様みたいに弁は立つしさ……
    あのヤミの畜生は、この女の言うことを分かりもしないし聞いてもいなかったくせに、結構参っちまったじゃないかね……
    きっとこの女も、これで満足だろうよ、あのくろんぼをものにしたんだから、虚栄心も救われたというものさ。
エゴン  いや、お前にはやれない。今この場で、ラミアスの仇をとるんだ!
サラ  そら、大変だ、ユダヤ人たちを呼んだらどうだい! ユディット、預言者をお呼びよ! 神様をお呼び!
ユディット  ホロフェルネス! ホロフェルネス! 助けて!

奥の幕が開いて、ホロフェルネスが現れる。
117名前なし:2009/07/28(火) 00:34:05 ID:6yve4cLl
第三場  第二場と同じ登場人物、ホロフェルネス

ホロフェルネス  この女を連れて行って、殺せ。
サラ  あたしが何をしました、ホロフェルネスさま?
ホロフェルネス  お前がわしの名の発音を間違えたことにしておこう。アッシリア語ではHを発音するんだ。
サラ  あたしはエゴンの言う通りにしただけです、殿様、許してください!
ホロフェルネス  さあ、もう一度喜劇をやろうじゃないか、ただし今度は、本物だ。この娘がお前の助命を望むなら許してやる。
サラ  助けてください、ユディット。
ホロフェルネス  この娘が一つ身振りするか、一言言うかしたら、わしも考え直そう……(ユディットは動かない)
           よろしい。どちらにしろ、この女もユダヤ人のはしくれだ。どうせいずれは死ぬ身だからな。
サラ  畜生! ユダヤ人が死ぬと思っているのか、間抜けの兵隊め! 
    ユダヤ人は生き延びるよ、ユダヤ人には救世主が下るんだよ。
    でも、救世主はこんなブルジョア娘に下りはしない、女衒のサラに下るんだよ。
    教えてやらあ、お前は明日ユダヤ人を皆殺しには出来ないんだ。
    あたしは自分の商売を利用して、一月も前から毎日こっそりお前なんかの知らない地方へ、若い男や娘を一組ずつ送っていたんだよ。
    あの若者たちはユダヤの首府にかくまわれて、殖えて行くんだ、そしてお前の名前に唾を吐きかけるのさ。
ホロフェルネス  そのことならとっくに知っていたよ。毎晩あのらくだ隊を捕まえて、皆殺しにさせてある……
サラ  おのれ、殺してやる!

彼女はホロフェルネスに飛びかかる。兵士が彼女を連れ去る。

ホロフェルネス  お前たちは席をはずせ。

一同退場。
118名前なし:2009/07/28(火) 00:36:14 ID:6yve4cLl
第四場  ユディット、ホロフェルネス

ホロフェルネス  女というものは空を飛び、翼を使ってやって来る、とでも言おうか……
ユディット  ……
ホロフェルネス  美しいもぐらもちのように、地の下をくぐってやって来るとも言えそうだな。
           男が思ってもいない時、女という生物はこの世になくなったような気がする時、
           空中のトンネルをくぐり、地下の気流をたどって一人の女がやって来る。
           そして男が今まで知らなかった優しい気持ちや、むごい心のニュアンスを教えてくれるのだ。
ユディット  ……
ホロフェルネス  十年の間、征服に征服を重ねてきたが、結局のところ戦争という大事業の実行者は兵士ではなく、
           鍵のかかる事務所に閉じこもっている人々、さびしいテントの奥に隠れている人々らしい。
           戦争の指導者は、哲学者のようにさ迷い歩き、将軍として戦術を研究し、
           銀行家のように金を計算し、目に見えない糸を織っているようなものだ。
           その時、急に隣の部屋で引きずる音、つかみ合う音がした。
           行ってみると一人の女がとらえられているという次第だ……
           あとは、その女をそっと穏やかに放してやればいい……
           しかし今まで見た女の誰よりすぐれたこの女、この女はどこを通ってきたのだろう?
ユディット  屠殺場を通ってやって来たのですわ。
119名前なし:2009/07/28(火) 00:37:30 ID:6yve4cLl
ホロフェルネス  わしはいつも女たちがどんな風に立ち去り、わしの生活から消えて行ったかは忘れてしまう。
           しかし、来た時のことは詳しく覚えている、どんな色の衣装を着ていたか、その日の太陽がどんな色に光っていたかまで。
           女たちが始めて微笑む時の白い歯のきらめきも覚えている。
           あのきらめきを見ると女というものは体中の骨が象牙で出来ているような気がしたものだ。
           わしは本当にそう思い込んだ! 今でもそう思い込んでいる! 去る時の女はどれも同じだ。
           しかし今度の女は、今までの女たちとはまるで違う! 君はあの女たちとは正反対の女だ、ユディット。
           君は、あの女たちの記憶からわしを引き離してしまう。今までの思い出が、こんなに薄らいでしまうとは思いもよらなかったよ……
           では、君さえよければ……仕度をしたまえ……
ユディット  こんな場合ですもの、私は何事に対しても、仕度は出来ていますわ。
ホロフェルネス  愛の営みに対しても、仕度が出来ていそうかね?
ユディット  エゴンが私を汚しましたの。ですから私はもうあなたに近づく資格はありませんわ。
ホロフェルネス  君の唇からはみ出した口紅を拭きたまえ、そうすれば、もうエゴンの残したあとなどなくなってしまう。
           それとも君は、この下らん世界にあの男の跡形もなくなるようにしてほしいかね?
ユディット  いいえ! いいえ! 生かしておいてください。あの男のつけたいやらしい刻印が、いつまでも私の上に残る方がいいのですわ。
ホロフェルネス  それはただそう言ってみたいだけのことさ。一度顔を洗ったら、そんなものは消えてしまう、君にも分かっているはずだ。
120名前なし:2009/07/28(火) 00:39:18 ID:6yve4cLl
ユディット  いいえ、それでは済みませんわ! 
        一人の女が美徳と信仰を踏みにじられ、神まで、女衒と共謀してその女を嘲弄したのに、
        その女は平気で世間に顔向けできるというのじゃ、あまり虫が好すぎるじゃありませんか! 
        今の私という女は全身が恥に燃えています、ホロフェルネス。私は火のような恥ずかしさで燃えるようですわ。
        この恥という火の上に、エゴンの唇が真っ白くしるされているのが感じられるんです。
ホロフェルネス  いや、彼の唇のあとは、真っ白な雲、真っ白なクリームの上に、薔薇色に残っているだけさ。
           つまらないことだ。そんなのは色の配合としても趣味が悪いよ。ここへ来たまえ。わしが消してあげよう。
ユディット  いくらあなたでもこれは消せませんわ。これは、私の信じていた神がくれた偽りの接吻なんです。
        神はそれを私の頬いっぱいに浴びせたんです。この接吻ほど恥ずべきものはなかったのに。
ホロフェルネス  まず、エゴンの接吻から消そうじゃないか、それこの通り。これでもう、よくみがかれた清潔な顔になったよ……
           若いボーイ・フレンドたちも、この顔に接吻を浴びせたに違いないが、そのあとは一つも残っていないようだね……
           君の顔は怒っているので、乙女らしい赤みを取り返してきた、しかしそれと一緒に心の秘密まであらわにしてしまったね。
ユディット  私の表情に何が現れていまして?
ホロフェルネス  君は目を光らせ取り乱して、怒りに燃えているが、その怒りの原因が表情に出ているというのだよ。
ユディット  ええ、私怒っていますわ。でも、その原因はなんだとお思い?
ホロフェルネス  心が優しいから怒っているのさ。
ユディット  心が優しいですって? あなたは、私のドレスの下に短刀があるのを感じないんですの?
121名前なし:2009/07/28(火) 00:41:31 ID:6yve4cLl
ホロフェルネス  感じているよ。君の身体の一部がわしのせいで硬くなったようなものだと思っているさ。
           それに硬いのは短刀だけで、あとの君の身体は急に何の抵抗もなく骨抜きになり、愛を求めているじゃないか、それが分からないと思うのかね? 
           わしはそれほどうぶじゃない。君は、短刀の刃の上にぴんと張り詰めたまま、身を捨てているのだ。
ユディット  恥の上に身を捨てているんだわ!
ホロフェルネス  やれやれ、また「演説」かね! 人間は、享楽という空虚の中に入らなければ、自己を取り戻せない場合がある。
           君にはよく分かっているはずだ。今、君はそれを求めている。どうだ、欲しいかね?
ユディット  私が自己を取り戻す手段? それは自分自身を軽蔑することだわ! 自分の低さを知ることだわ!
        ユダヤ人の神様とユダヤ人は、二重年の間一生懸命私にお世辞を言い、
        私におもねってきたんだわ、そして私の信頼につけ込んで、私をこんな陰謀に投げ込んだんだわ。
        いいえ! 私はこんな恥を忍ぶことは出来ないわ。私はこんな下劣な冒険のために、元も子もなくしたんだわ。
ホロフェルネス  この恥はもう取り返しがついているのじゃないだろうか? 君の恥をそそぐ相手にこのわしでは、役者が不足だというのかね? 
           第三のホロフェルネスと探してきて、わしは姿を消さねばならないかな? 
           とにかく、君はわしに会いたがった、そして今、わしに会っている。
           君はわしと話をしたがった。今、わしは君の話しを聞いている。一体この上どうしろと言うのかね?
ユディット  どうしてもいりませんわ、もういいのです。
ホロフェルネス  君の神の話をしてくれないか。
ユディット  神が姿を現せばいいのにね。それくらいできるはずですわ、強い恐ろしい神ですもの。
122名前なし:2009/07/28(火) 01:20:05 ID:6yve4cLl
ホロフェルネス  しかし、君がいるおかげでわしがその神様に直談判をしないのは、神様にはありがたいことかもしれないよ。
           わしは自分の知る限りでは、弱い神様なら好きになれる性質でね、人間に愛してもらってやっと神様になれるようなのが好きなんだよ……
           ところで、君の同胞諸君はどうしたね? 
           二、三時間も前に君が彼らと別れたころには、彼らを救ってやろうなどとは思っていなかったじゃないか!
ユディット  私は、もう千年も前にあの人たちと別れたようなものですわ。
ホロフェルネス  しかし、彼らはまだ生きている。しかも叫んでいる。よく聞いてごらん。ここからでも聞こえる。君の名を呼んでいるのだ。
ユディット  私は、もう、あの人たちの言葉が分かりませんわ。
        私は、つい今しがたまで、あの人たちと同じ言葉を話していたのを恥ずかしく思います。
        そうです、今あの人たちは歌っていますわ。あの讃美歌はそらで覚えています。
        あの歌はさまざまなたとえを使って、私のことを歌ってますの。
        あの人たちは私が罪を知らない子羊で、しかも雄々しい虎なのだと歌っているのです。
        あの言葉や身振りには神が吹き込んだ誇張が溢れています。今の私には、あの誇張はたまりませんわ……
        私、これからは、なるべく口を利かないようにします。
ホロフェルネス  いや、それどころか。大いに話してもらいたいね。このテントの中では、何も心配要らないのだ。
ユディット  どういう意味で、そんなことおっしゃるのか分かりませんわ。
ホロフェルネス  分かっているくせに。君は、今君のいるところがどんなところか、はっきり見抜いているはずだ。
ユディット  私はどこにいるのでしょう?
ホロフェルネス  どこにいるの様な感じがする?
ユディット  離れ小島に、でなければ森の中の空地に。
ホロフェルネス  そらね。ぴたりと見抜いたじゃないか。
ユディット  何を見抜いたんですの?
ホロフェルネス  ここには神などいないということだ。
123名前なし:2009/07/28(火) 01:21:23 ID:6yve4cLl
ユディット  ここって、どこのことですの?
ホロフェルネス  この三十歩四方の中さ。この一画では、人間は全く自由だ、こういう場所は滅多にないのだよ、ユディット。
           この惨めな世界は神々に荒らされている。
           ギリシャからインドまで、北から南まで、いたるところにどんどん神々が繁殖して、それぞれ独自の悪徳と臭いとを広めている……
           自由に呼吸をしたい者から見れば、世界中が神の合宿みたいな空気になってしまった……
           しかし、神々の立ち入りが禁止されている場所も、まだ少しはある。それがどこにあるか知っているのは、わしだけなのだ。
           そういう場所は大昔の地上の楽園が残した汚点のように、平原や山の中に生き残っている。
           この世は虫けらまで原罪の汚れを負っているが、そこに住むものだけは原罪を知らないのだ。
           わしはそういう場所を選んでは、自分のテントを張ることにしている……
           わしは棕櫚の木の曲がり具合を見、水のせせらぐ声を聞いた時、このユダヤの神の都のまん前にもこの場所があるのを知ったのだ。
           この別荘は風通しのいい、清らかな広野に臨んでいる。この一夜のために君にこの別荘を提供しよう……
           君の神様の声や耳などはここへ捨ててしまいたまえ。それから、わしと一緒に奥の間へ入ろう。
           どうやら、君にもわしが何者か、分かってきたらしいな。
ユディット  一体、あなたは何者なの?
124名前なし:2009/07/28(火) 01:23:52 ID:6yve4cLl
ホロフェルネス  この神々の支配する時代にも、ただ一人の王が生き残ることが許されている。
           わしは王の中の王者なのだ。この王は地上の、この世界の人間なのだ。最高の人間と言ってもいい。
           わしは花壇に飾られた庭園や、建てつけのいい家や、テーブル・クロスの上に光る美しい食器を楽しむ。
           わしは、人間らしい機智も好きだし、人間らしい沈黙も好きだ。わしは神の敵ナンバーワンなのだよ。
           君のように可愛らしいお嬢ちゃんが、熱狂したユダヤ人に囲まれて何をしようとする気なんだね? 
           考えてみたまえ、あんな恐怖だの祈りだのから開放されたら、君の生活は平和な安らぎに満ちるだろう。
           思ってもみたまえ、地獄のことなど忘れてしまって朝の食事が出来たらどんなにいいか。
           綺麗なレモンを入れ、純白に輝く砂糖をつまんで五時のお茶を飲む時、大罪を犯してやしないかなどと脅えるなど愚の骨頂じゃないか。
           若者たちと娘たちは、綺麗なシーツの上で、薔薇色の踵を宙に突き出して、思うさま抱きしめあい、枕をぶつけ合ってふざけまわる。
           天使も来なければ、悪魔もいないんだ……こう想像したまえ! 罪の恐れを知らぬ人間を考えてみたまえ……
ユディット  これから私にも、罪の恐れのない時間を十五分ばかり下さろうというのね?
125名前なし:2009/07/28(火) 01:25:32 ID:6yve4cLl
ホロフェルネス  こういうプレゼントは馬鹿にしない方がいいよ。わしは君に、君の欲しいだけ、単純で平和な気持ちを差し上げよう。
           幼いころの君、さくらんぼや葡萄の実のようなあどけない言葉づかいだったころの君の、純真な心を返してあげよう。
           無邪気さという果物の中には、神が虫みたいに食い込んでくることはない。聞こえるかね、あの歌が? 
           あの歌い手たちも君にあげてもいい。彼らの歌うのは賛美歌ではなく、人間の歌なのだ。
           彼らの歌声は静かに、彼らの上に消えていき、我々の周りに落ちてくるだけだ。
           彼らの歌声は、神という名の恐ろしい真空掃除機で天に吸い込まれてしまうようなことはない。
           ユディット、わしの君に贈るのは、この世の快楽だ……
           快楽という快い言葉の前には、エホバの神などは姿を消していく。今から君も、それを味わうのだ……
ユディット  でも、エホバはすぐに帰って来るわ、帰って来るとなると、物凄く早いのよ。だからあなたが急いでくださらないと、駄目。
ホロフェルネス  急ぐんだって? とんでもない話だ。
           女が急に信心という飾りを捨てて裸になりながら、まだこの素晴らしい自由の中でためらっている姿、これほど甘美な見物はないのだよ。
           君が信仰の衣を脱ぎ捨てる時の美しさは、たとえようもないものだ! 
           何という美しさだ、ユディット。その美しさも急に素直な美しさになってきた! 
           君の体中が激しい言葉で真実を語っている! さあ! ユディット、君の望みは何だ?
ユディット  分かっていらっしゃるくせに……私の望みは自分を捨てることですわ!
ホロフェルネス  きっと君の身体に尋ねれば、君の望みをもっと甘く美しく伝えてくれるだろう。
ユディット  それは身体の勝手ですわ。
126名前なし:2009/07/28(火) 01:26:32 ID:6yve4cLl
ホロフェルネス  君の肉体はこう言っているのだ、もうこれ以上は耐えられない、男のたくましい力で地に横たえてほしい、さもなければ崩れてしまうと。
           力強い腕の中で息詰まるほど抱きしめてほしい、さもなければ窒息してしまうと。
           君の肉体は愛撫され、愛玩され、男の唇や手の平や額を押しつけてもらいたいのだ……
           それもただの男ではなく、王者の額であってほしいといっているのだ。君の肉体は呼び求めている。
           肉体がそのまま神でありたいと呼び求めている。君の望みは何なのだ?
ユディット  自分が辱められることだわ……自分が奪われることだわ……
ホロフェルネス  今、どちらの望みも叶えてあげる。
ユディット  ホロフェルネス! お願い! ちょっと待って!
127名前なし:2009/07/28(火) 22:36:30 ID:U0hbvn8/
第五場  ユディット、ホロフェルネス、アシュール

アシュール  殿様、ユディットが参りました。
ホロフェルネス  何だと?
アシュール  数時間ほど前に一人の女がやって来て、自分がユディットだと名乗っております。
         私はあなたが寝ておられると思っていましたので。
         ところがその女は今の声を聞いたので、どうしてもお目にかかると言い張るのですが。
ホロフェルネス  ホロフェルネスが二人、ユディットも二人か! 今日は代役の流行る日だな! そのユディットには、どうしてやったらいいのだ?
ユディット  私はその女を知っているわ、ここにお入れなさい。あなたは自分でどちらかを選べばいいわ。
128名前なし:2009/07/28(火) 22:38:06 ID:U0hbvn8/
第六場  ユディット、ホロフェルネス、スザンナ

ホロフェルネス  君はユディットか?
スザンナ  そうです。
ユディット  はっきり言う方がいいことよ。ちょっとそうは見えないもの。
スザンナ  私はユディットですわ。
ユディット  あなたはエステルでも、マグダレナでも、ローザでもいいのよ。
        また万事やり直しをしようというの? もう一度立候補してみたいというわけ? 
        とにかく、あなたはここへ現れたわ、それで沢山じゃないの、お帰りなさい。
スザンナ  あなたを残しては帰りませんわ。
ホロフェルネス  この女の望みは何かね?
ユディット  あなたの手から私を救うということ。
ホロフェルネス  ユディットを救う? じゃ、ユディットは危険に瀕しているわけだな?
スザンナ  そうです、もちろん危険と言っても、私の思っていたのとは違うようですけど、今の危険の方が悪いくらいですわ。
ユディット  あなたは私が髭だらけの権力者の足下にひざまずいて、おいおい泣いているはずだと思っていたのね。
スザンナ  私は生贄にされた女が、死刑執行人の前に立っている光景を予想していました。でも、現実に私に見えたのは、ラブ・シーンでしたわ。
ユディット  ラヴ・シーン、確かにそうだわ、それも神様の手引きなのよ。
スザンナ  それなら、神を罵らないで、感謝なさったらどう。だってあなたはこの人が好きになったのでしょう。
       でもユダヤ人は今頃、ユディットが半人半獣の怪物の前に立って、哀願していると思っているのよ。
ホロフェルネス  あ! それはその通りだよ。彼女の相手が何者か、よく見てみたまえ。
           若い娘は、みんな、それぞれ分相応な怪物を相手にするものさ。
スザンナ  彼女の相手ですって? それがどんな人かくらいは、私にも分かっています。
       今までこの女の心を揺さぶった男はありませんでした。あなたが始めてだわ。
ホロフェルネス  君をよこしたのは誰だ?
スザンナ  私をよこしたのは、ある男。この女をよこしたのは、神。
       でも、人間と神が入れ代わって、私たちをここに引きとめようとしているのですわ、
       助けてください! ホロフェルネス。
129名前なし:2009/07/28(火) 22:40:26 ID:U0hbvn8/
ホロフェルネス  何を助けるのだ? この上、まだ何か助けなくてはならないのか?
スザンナ  人間の世界の体面を助けてください。
ホロフェルネス  というよりユディットの操を助けろというのだろう?
スザンナ  こうなればどちらでも同じことですわ。ユディットの身が潔いかぎりは、人間の世界も潔いのです。
ホロフェルネス  誰か他の女がユディットの代わりをつとめるというのか……
           しかし、このことから何かが生まれるわけじゃない、だから彼女は処女と変わりはないさ。
スザンナ  いいえ、殿様、あなたは代わりの女をご存じないんだわ! 今あなたの前にいるこの卑しい女は、ユディットじゃありません! 
       私は昨日までのユディットの光が映えているだけです。それでも私は、ユディット以上にユディットだわ! 
       老人も英雄も含めて私たちの民族の中で、この女ほどユディットの資格のない人はいないのです……
ユディット  私を一人ぼっちでここへよこしたのは、その英雄たちじゃなくて。しかも私が恥辱を受けに行くのだと知りながらね。
スザンナ  でも私は違うわ、ちゃんとここまで来たじゃありませんか、私はあんたを救ってみせるわ。
ユディット  やっと本題に入ったわね! 神から送られた第二の女も、本性を現したわ。この女はホロフェルネスに嫉妬しているのよ。
スザンナ  殿様、お願いですわ、こんな言い争いをやめさせて。
ホロフェルネス  止める気はないね、実に面白いよ。
ユディット  ホロフェルネス、これがあなたの恋敵なのよ! あなたは、この女から私を奪い取らなくてはいけないのよ。
スザンナ  殿様、可哀想と思ってください! この女はあまりに背伸びしすぎて、目標を見失ってしまったのですわ。
       いきなり衣を剥ぎ取られ中身を引き抜かれ、一息に神聖な責任を解かれたんですもの。
       だから、今この女はもう夢中になって、自分を捨てようとするばかりなんですわ! 
       あなたは神様の偉大さを信じてはいらっしゃらない。でも人間の美しさは信じておいででしょう。この女を助けてやってください。
130名前なし:2009/07/28(火) 22:42:55 ID:U0hbvn8/
ホロフェルネス  今のところ、人間の美しさが危険に瀕しているとは思えないね。
           それどころか、こういう状況はますます人間を美しくするばかりなのだよ。
ユディット  私が夢中になっているですって! お馬鹿さん! 私を夢中にさせたのはあなたじゃないの! 
        じゃまた、ここで女と男が私を奪い合う戦いが始まるの! 私はいつもあれに悩まされてきたのよ! 
        女たちはいつも私に圧力をかけてきたわ。学校のお友達のキスの中にも何か後ろめたいものがあったわ、
        劇場で近くに座った女たちの目つきには、重苦しい欲情が潜んでいたわ、
        洋服のデザイナーは私の身体を撫でまわしたわ、私は無理にその理由を知ろうとはしなかったわ。
        でも今の私には、あなたのおかげで、女が女に抱く欲情ほど滑稽でよこしまなものはないということが分かったのよ! 
        お礼を言うわね、ありがとう。
スザンナ  そんなことじゃない、ユダヤ人の運命がかかっているのよ、ユディット!
ユディット  ユダヤ人の運命! なるほど確かにユダヤ人の運命がかかっていることよ! 
        あなたは神様が銀行家みたいに、とことんまで事業をやるものだと思ってるの、大間違いよ! 
        神様は私たちに手引きをしてくれるだけよ、それだけの話。ユダヤ人に関する限り、賭けはなされたのよ、
        私は、もうユダヤ人の運命なんか背負い込まないわ。
        彼らの運命がよくなろうが、悪くなろうが、知ったことじゃないわ。
        力強いホロフェルネスも、惨めな私も、もうそのことには関係なくなったの。
        でも、ユダヤ人でも、女は別だわ、女の話なら聞きましょう!
スザンナ  神様を涜すようなことは言わないで!
131名前なし:2009/07/28(火) 22:44:27 ID:U0hbvn8/
ユディット  私のほうがあなたより神様を知っているわ! 
        神様に興味があるのは全体の概観だけなのよ、細かいことはどうでもいいのよ。
        神様は私たちの仕事に犠牲という衣を被せておきたいだけなの、
        犠牲というゆったりした体裁のいい衣の蔭で一番低い本能を充たしたりしても、
        外に見えさえしなければ後はこちら任せという方針なのよ。
        神様のおかげで私は、本当のホロフェルネスに逢う前に、身代わりのでく人形に逢わされて、
        献身的な気持ちも、憎悪の念も出し切ってしまったわ。
        つまり、神様が必要だったのは私の行為で、私の協力じゃなかったのよ! 
        洗濯女だって、ホロフェルネスが変装して家来の中に隠れているのを、人目で見分けられたかもしれないわ! 
        ところが聖女ユディットはそれが分からなかったのよ! 
        神が私を駄目にしようとしているんですもの! 私は駄目になってみせるわ!
スザンナ  ホロフェルネス。この女の言うことを聞いたでしょう! あなたがこの女の心を引き寄せたと思わない方がいいわよ。
       この女はあなたの美しさや力にひかれて、身を任せるというのではないわ。ただ自己嫌悪でやけになっているからだわ。
ユディット  いいえ、違うわ。今はそれだけじゃないわ。あなたやあなたの同胞を、女というものを嫌悪しているからよ。
        女たちは私の肉体に目に見えない跡をつけたけれど、今それがみんな見えてきているのよ。
        私のコップを使う女もあったわ、私の唇に触れるためだったのよ。
        私の着物を借りる女もあったわ、私の肌の熱を味わおうとしたのよ……
        あの女たちは、私のドレスや手袋を撫でまわしたわ、それは私の肌や、手を撫でていることだったのよ。
        私は純真すぎたんだわ! さっき私はあなたを抱きしめ、あなたにキスしたわね、それからあなたは気を失って……
スザンナ  あれはあなたが気の毒でたまらなかったからよ。
132名前なし:2009/07/28(火) 23:10:52 ID:U0hbvn8/
ユディット  いいえ、あなたが私を愛しているからよ。いやらしい、出て行ってちょうだい。
スザンナ  でも、今のあなたは大勢のボーイ・フレンドを裏切っているのよ、それも何の理由もないじゃないの。
       やり口も下劣だわ。今、あなたの裏切っている人たち、ヨハネやアダルやエドモンは女なの?
ユディット  この世で、相手を手さぐり、接吻し、汚すもの、それはみんな女性なのよ。
        大袈裟なことはみな女性的だわ。今までに私に触れたもの、私の知っている泣き虫、気分屋、ため息ばかりついている人、
        あれはみんな私と同じ性を持っているような気がするわ。
スザンナ  ホロフェルネスさん、おめでとう、あなたはこの世でただ一人の男性なのですわ……さようなら。
       でも気をつけた方がいいわよ。この女はホロフェルネスを殺しに来たんですからね。着物の下に武器を隠しているわよ。
ホロフェルネス  さっき、その武器の話をしていたところだよ。この女の武器がどんな武器かも分かっている。
ユディット  そばに来ないで。この女も短刀を持っているわよ。
        復讐の女神さん、お望みなら明日私たちを殺してちょうだい、でも今日は、私の血は私のものだわ。
スザンナ  じゃあ、勝手に血を流すがいいわ!

退場。
133名前なし:2009/07/28(火) 23:12:29 ID:U0hbvn8/
第七場  ユディット、ホロフェルネス

ホロフェルネス  ユダヤの女、この腕の中へおいで。
ユディット  はい、ユダヤの女が来たことよ。
ホロフェルネス  君をユダヤの女と呼ぶのは侮辱にならないかね?
ユディット  いいえ、その言葉こそがあなたがどんな王でも、私をあなたと対等の立場に引き上げてくれますもの。
ホロフェルネス  しかし、ユダヤの女という言葉は貪欲や、汚い着物を意味するのだよ、
           恐怖や貪欲に対抗できない気骨のない女たちのことなのだよ!
ユディット  でもその名には、人間を超えた気高さと勇気も備わっているわ。
ホロフェルネス  つまりあの君のご親友のサラのようにね。
           ああいうユダヤ女たちは、小さな花屋でもやっているように見せかけて、実はこっそり上手に、麻薬を流し、女を売っているのだ。
ユディット  でも、ユダヤの女だけが知っていることもあるわ。
        神は人間の愛の抱擁を荒々しい情熱の発作にしたがっているけど、その実体を知っているのはユダヤの女だけだわ。
ホロフェルネス  君もそれを知っているのか? わしにそれを教えてくれるのか?
ユディット  神は、自分の信者には教えてくれるのよ。
ホロフェルネス  それじゃ神から呪われるのと同じことじゃないか。
ユディット  神がある民族や個人を選ぶときには、呪ってみるほか手がないのよ。
        いずれは神が微笑する日が来るわ、その時にはユダヤ民族が祝福された民族になるのよ。
ホロフェルネス  ご名答だ! 君が生き延びられて、将来、夫を持つようになったら、さぞかし夫婦の語らいは素晴らしいことだろうな!
ユディット  それはまた別問題よ。心配はご無用。そのことなら私はもう自分で解決してしまったわ。
ホロフェルネス  わしに処女を奪われてから、自殺するつもりなのだろう?
ユディット  処女ですって? 私は処女じゃないわ。
ホロフェルネス  いや、そうだ。
ユディット  私が処女のまま、見知らぬ恐ろしい世界に飛び込むと思っているの?
ホロフェルネス  それでは、処女だったら何に飛び込むのかね?
ユディット  私はここへ来る前に、愛する人に全てを与えたのよ。
134名前なし:2009/07/28(火) 23:14:39 ID:U0hbvn8/
ホロフェルネス  君は誰も愛していないよ。昨日はごく大まかに、この世を愛していた。今日は、この世の何もかも憎らしくなっている。
           普通、君のような女が始めて身を任せるときは、愛情のためじゃない。強制され力ずくで奪われなくちゃ承知しないものだ。
ユディット  そんな力があるのは神だけだわ。
ホロフェルネス  まさにその通り。神が代理を送ってくれるのさ。
           色魔や、作家や、総司令官なんて連中は、みな神の代理だよ。
           わしも神を代理して、何度もこの職務を果たしたことがある。
ユディット  それじゃ、今度はちょっと当てがはずれてよ。
ホロフェルネス  いや、決してそんなことはない。一人前の女は自分の本質を承知しているものだ。
           なのに、君はそれを捜し求めている最中じゃないか。だから君は処女なのだ。
ユディット  私の本質は捜し求めることなのよ。
ホロフェルネス  それは嘘だ。気味がけちか、金遣いが荒いか、天使のような性質か、じゃじゃ馬かは、明日にならなければ分からない。
           今日はまだ分からないのだ、わしの床の中で始めて子供をはらんだ時、君には自分自身が分かるのだ。
           ユディットが女になって目を覚ました時、優しい、おとなしい女になっていたらどうだろう、思いがけない喜びじゃないか!
ユディット  私があなたなら、それは当てにしないわね。
ホロフェルネス  ユダヤの女は新婚の夜でも、くどくどと長いお祈りを並べ立てるものだね。
           しかし、そんなものは、ある一言を優しく口にすれば全て消え去る、
           この国の牡山羊のはねたような形の丘や、後ろ足で立った牡牛みたいな山もろとも、一度に姿を消してしまう。
           その一言はホロフェルネスというのだ……
ユディット  優しい愛情を込めるにしては、ちょっと響きの悪い名前ね……
ホロフェルネス  しかし、さっき、君の口に上った時には快い響きがあったよ……
           どうしてあの時、神の代わりにわしの名を呼んで助けを求めたのかね?
ユディット  あの時、私が味わっていた苦しみを治せる薬は、一人の男だったのです。
135名前なし:2009/07/28(火) 23:16:52 ID:U0hbvn8/
ホロフェルネス  これはまた、前代未聞の話を承るものだね。
           わしの名に助けを求め、救助信号にわしの名を口にしたというわけか。
           あの時君はまるで海岸の水難監視人でも呼ぶみたいに、わしの名を呼んだな。
           もちろん水難監視人の役目は、体を抱いて助けてやることだがね。
ユディット  今度は何から私を救うというの?
ホロフェルネス  君の魅力を変えてしまうようなものからさ。
           つまり、大家族に囲まれて味気ない結婚の寝床で目を覚ますような境遇から救い出すのだよ、
           それから、君のくだらない過去の思い出からも救うのさ。
           君の過去が滑稽だったのは、相手の男たちを見れば分かる。
ユディット  恋愛からも救い出すというのでしょう?
ホロフェルネス  君には、自分でもよく分かっているじゃないか。今、君は身を売るのではなく、進んで身を任せるのだ。
           わしは若い娘が頑固なことはよく知っているよ。
           わしの髪の毛一本でも気にいらなかったら、わしの肉体の線に少しでもいやらしいところがあったら、
           君は何とかしてわしの抱擁を振りほどき、逃げ出してしまうはずだ。
           ところが、今の君は、どう見ても逃げ道を探しているようには見えないね。
           君はわしに触っていないつもりらしいが、実はこの通りわしにしがみついているじゃないか。
136名前なし:2009/07/28(火) 23:18:47 ID:U0hbvn8/
ユディット  じゃ、あなたはどうなのよ、あなただって私の耳の形や歯並びに少しでも欠点があったら、
        今私たちがこうやって身体を寄せ合っているのが宿命の業だと思えたかしら? 
        今は、出し抜けに世界の様子が変わって、私たちは大風に吹き寄せられたように抱き合っているわ。
        でも、私の肌がひびだらけだったり、私の目つきが悪かったりしたら、あなたは世界の様子が変わっても平気でいられたかしら?
ホロフェルネス  君は、我々が愛し合っていると言いたいのだね?
ユディット  私が言いたいのは、私のしようとすることに逃げ口上はないということよ。
        ユディットとホロフェルネスの決闘は、今度は皮膚の浅黒い身体と真っ白な身体との組打ちに変わったのだということよ。
ホロフェルネス  君の神は、共犯者同士の組打ちでなければ目もくれない。
           確かに神も我々が憎み合うことより、共犯である方がやりやすいのさ……さあ、来たまえ、何も言わずに。
ユディット  だって、私は憎んでいるんですもの、どうして何も言わないでいられるの?
ホロフェルネス  こうやれば黙っていられるさ。(彼はユディットに接吻する)ユディット、今までこういう瞬間を想像したことがあるかね?
ユディット  あるわ。
ホロフェルネス  自分がある男の、最初の男の腕に身を任せる姿を想像したことがあるかね?
ユディット  ええ、毎日、いつもそのことばかり想像していたわ。
ホロフェルネス  君は一人寝に苦しみ、自分しかこの身体を知らないことを悲しんでいたのだね?
ユディット  ええ、死ぬほどつらかったわ。
ホロフェルネス  そして、とうとう待ちきれなくなったのだな?
ユディット  もう待ちきれないわ。
137名前なし:2009/07/29(水) 00:31:49 ID:3hXlFt4R
ホロフェルネス  それは今が、自分の人生の最高の時だと思うからだな?
ユディット  最低の時だと思うからよ。私は神に見棄てられたのですもの。何故かは知らないけど、とにかく、見棄てられたのだわ……
        神は、自分の創り出した人間が犠牲という観念を持つのが好きなのよ。人間に犠牲を強いるのよ。
        そのくせに細かいことになると面倒になってしまうのね。私はあまり自分の操を誇りすぎたのよ。
        だから神は、私の操が台無しになるように計ったのだわ。
ホロフェルネス  だから喜びもないというのだな?
ユディット  おまけに、何の利益もないのよ。
ホロフェルネス  不平はやめたまえ。君は若い娘の本当の使命を果たすのだ。この使命を遂げるのは君が初めてなのだよ。今に分かる。
           若い娘というのは、みんな怪物に捧げられた存在だ。その怪物は美しいこともあり、醜いこともあるがね。
           ところが娘たちは、ただの男に与えられてしまう。だから娘たちは、一生を台無しにしているのだよ。
ユディット  だから、私の一生は輝かしいものになるというのね。

沈黙。

ホロフェルネス  ユディット、わしの床に入る前に、何か欲しいものはないか? お腹は空いていないか、それとも咽喉が渇いていないか?
ユディット  ここには一人も女がいないの?
ホロフェルネス  この時刻にいるのは、ダリアくらいなものだね。ダリアに君が脱ぐのを手伝わせよう。器用な女だよ。
           ただし、話しかけても、話を聞こうとしても無駄だよ、その女はつんぼで唖だから。
ユディット  たとえつんぼでも、唖でも、めくらでも、女でありさえすればいいわ。ここへよこしてちょうだい。
ホロフェルネス  今すぐによこそう……

ホロフェルネスは出て行く。
138名前なし:2009/07/29(水) 19:53:42 ID:3hXlFt4R
第八場  ユディット、つんぼで唖のダリア

ユディット  あんた……ダリアというのは? いいの、いいの、分かっていてよ、あんた、つんぼで、唖なんでしょう……
        もうこれで終わったわ……もうこれからは女の声が、娘としてのユディットを呼ぶことはなくなったのだわ……
        何か欲しいものがあるかって? 何もないわよ、ダリア、ただ、最後に少しでも女の人と一緒にいたいだけ……
        あんたは唖でよかったわ……唖だからこそ純潔なままでいられるのよ……
        あんたは今まで、人間を汚し神に背く恐ろしい罪や暴力ばかり見てきたんですものね……
        あんたの沈黙は、ただあんたが女で、昔は娘だったこと、あんたも呻いたり苦しんだりしたことを語っているだけだわ……
        あんたは処女なの、ダリア、処女なの? 違うと言っているのね、まるで私があんたに尋ねて、あんたがそれに返事をしているみたいだわ……
        気の毒なダリア……あんたは美しいとは言えないわね、あんたは醜いわ。
        髪のかわりにたてがみみたいなものをつけているし、歯のかわりに石をはめているみたい。目の中にも本当の好意はないようね。
        でも、今のところあんただけが、私の母であり、姉であり、私自身でもあるのだわ……
        あんたの男はきっと接吻もしないであんたを奪ったのね。
        だけどその男が、あんたの汚い肩に自分の顔を乗せていやらしい振る舞いをしている間じゅう、
        その目だけは純粋に敷物の図案を眺めたり、草の芽にとまった虫を見つめたりしていたのよ。
        いいえ、いいえ、私、寒くはないわ……あんたはつんぼね、それは結構だわ、いくら私が喋っても平気で聞いてくれるわけですもの! 
        あんたにはどんな親友にも、名付け親にも、打ち明けられなかったようなことを言っても平気なのね……
        いいえ、いいえ、私、咽喉は渇いていないわ。私は、あの人に抵抗するかしら? いいえ、今更身が汚れるなんて問題じゃないのよ……
        あの人が清らかな乙女として私を選んだ日に、神の眼差しが私を汚したんだわ。
139名前なし:2009/07/29(水) 19:55:28 ID:3hXlFt4R
        あんたには私が自惚れているように見えるでしょうね、ダリア、あんたがつんぼだから言えることだけど、神は私だけに興味があるのよ。
        ホロフェルネスにも、ユダヤ人にも興味はないのよ。
        神はさまざまの人種や、無数の人間に大動乱を起こさせておいて、
        その陰でこっそりとたった一人の人間を追い回し、その獲物を思うままに料理しようとしているのだわ。
        臭いつんぼのダリア、私の言うことが分かって? 
        諸民族の歴史なんてものはないのよ、歴史というものは、
        神が、知恵の足りない可哀想な男たちや、それほど美しくもない女たちを追い回す人間狩りの話をかき集めたにすぎないのよ、
        私はもう神に意のままだわ。ダリア……神が勝ったのよ……神から見れば、これでユディット事件の解決近しよ……
        私は、すっかり呪われた第二の神のものなのよ! 何ですって? 第二の神は美しいって? 
        そうよ、ホロフェルネスは美しいわ、ダリア……そこなのよ、自信のある女たちは、男の美しさに身を賭けるのよ。
        私も寝室の中で、誘惑者に組み伏せられて倒れるのよ……仕方ないわ、ダリア。
        あの人があんたみたいな怪物だったら、私はきっと逃げ出そうとしたはずですもの……あら、そう? あれはとても快適なことだって? 
        それは結構ね、ダリア、結構だわ……磔にされるような痛い目に逢うか、馬鹿らしいほど滑稽になるか、それだけとは限らないってわけね? 
        蕁麻疹みたいに痒いだけか、死ぬほど苦しいか、どちらかとは限らない、中間の何かがあるってわけね? 
        いいえ、まだそのカーテンはそのままにしておいて。あと一分……
140名前なし:2009/07/29(水) 19:56:56 ID:3hXlFt4R
        もっと無言の忠告を与えてよ……でも、もう時間ね、それならそれでいい……
        何という静けさでしょう! 一人の王が歓楽の宴を待ち、一人の娘が自分を棄てようとし、一つの民族が死に絶えようとし、
        一つの軍隊が殺戮を準備している、こういう状況からこの沈黙が生まれているのだわ。
        この沈黙の中では、つんぼで唖の神でも信じたくなってくるものね……
        私、神の赦しがほしいわ、ダリア、だってあんたに言ったことはみんな神を涜すことだということは分かっているんですもの、
        いずれは、あんたのような唖が口を利く権利が突如としてやって来るのよ、
        他人に恥をかかせた人たちに天の復讐が崩れ落ちるのよ、それから肉の快楽を味わわせた人の上にも……

彼女は寝室の中に入る。

ダリア  (つんぼで唖のはずだが、冷笑して)アーメン!
141名前なし:2009/07/31(金) 21:48:11 ID:kLxxj2f7
第三幕

ホロフェルネスのテントの中。奥に寝室を控えた広間。

第一場  スザンナ、ヨハネ、衛兵

スザンナは膝の上にユディットの着物をのせ、座って夜を明かしている。泥酔した衛兵がベンチの上に横たわっている……
ヨハネが用心しながら一つの入り口から入って来る。入り口を開ける時、蒼白い日の光がうかがわれる。

スザンナ  ヨハネ! あなたが!
ヨハネ  誰が来ると思っていた? スザンナ、もう大天使がユディットを助けに来るなんてことはありっこないじゃないか。
      やってきたのは二等大尉が一人、それでも十分すぎるほどだ……二人はどこにいる?
スザンナ  どうしてここへ来たの?
ヨハネ  サラが逃げ帰って来たんだよ。あの女が市の者に何もかも喋ったんだ。ユディットが義務を忘れ、祖国を裏切ったと話したんだ。
      あいつは市の者を扇動して、ユディットの敵にしてしまった。僕をこのテントまで案内してきたのもサラだ。
      忍び込むのにはわけなかったよ。サラが酒で衛兵どもを眠らせたんだ……みんなこの畜生みたいに、ぐでんぐでんなんだ……
衛兵  (ヨハネに小突かれて)ぐでんぐでんさ!
スザンナ  でも、あなたはここへ何しに来たの?
ヨハネ  分からないのか? 同じユダヤ人でも女で駄目なら、男ならうまく行くはずじゃないか……二人はまだ一緒にいるのか?
スザンナ  ええ。
ヨハネ  何とかして、ここへユディットだけ呼び出してくれ。僕は彼女の気性を知っている……
      彼女のことだ、神聖な女じゃなくなった以上、きっと死を選ぶはずだ……
      僕を見たら、大声で叫んで、男を呼びおこすだろう、そして自分から進んで殺されて、ホロフェルネスを救おうとするだろう……
142名前なし:2009/07/31(金) 21:50:14 ID:kLxxj2f7
スザンナ  二人ともよく寝ているわよ。
ヨハネ  二人ともよく寝ている……お前はそう言いながら震えもしない。しかしお前は、どういう意味があるのか知っているはずだ……
      今、よく寝ているユダヤ人は一人もいないのだぞ、スザンナ、ユディットだけが寝込んでいる……
      ユダヤ人はみな、子供や老人まで、まんじりともしないで夜を明かしたんだ。
      ユディットが眠って疲れを癒している間に、暁の光が差してきている。
      彼女はぐったりするまで淫らな行為を味わったが、その結果は、あの光と共に罪のない人々の上に落ちるんだぞ!
スザンナ  声が大きすぎるわ!
ヨハネ  じゃ、彼らが休んでいるのに邪魔だから、もっと小さな声で話せというのか。そうだ、癪にはさわるが、低い声で話そう! 
     我々二人は、彼女の新婚の床の前で落ち合った、これは運命の導きだ。
     しかしそれは、何も黙って泣きながら座っているためじゃないぞ。
     ああ! 彼女の新婚の夜の光景を、吟誦詩人に吟じさせてみたいものだ! よし、よくきけよ、僕が吟じてやる!
スザンナ  あなたの命が危ないわ! そんな大きな声で喋らないで!
143名前なし:2009/07/31(金) 21:51:33 ID:kLxxj2f7
ヨハネ  ユディットの新婚の夜! 僕はそれも語れるぞ、僕はお前より詳しいくらいなんだ。
      一晩中、心でこの光景を追い、この光景を聞いて過ごしたのだから。
      二人のちょっとした仕草、何気ない言葉の一つ一つが、僕の心に響いてきて、あの恐ろしい光景をありありと思い浮かべさせたのだ。
      スザンナ、新婚の夜は、気高い乙女たちにとっては恐ろしいものなのだよ……
      あのことが起こった時、お前はきっと今まで立てたことのないような声をあげただろう、
      お前は母の名を呼び、天に呼びかけただろう、しかも、母も天も今までとは違った名で……
      しかし、ユディットの場合は、普段の言葉遣いそのままでも愛をささやくには十分なのだ。
      大体普段でも感動的な言葉ばかり使っているのだからな。
      いつか、僕は、彼女の指をあやまって鎧にはさんでしまったことがある。僕はいつも不器用だった。あの時、彼女は小さな悲鳴をあげた……
      ある夜、彼女の友達が溺れかけたことがある。その時にも、彼女は甲高い叫び声をあげた……
      それから宴会でご馳走を食べている時やダンスをしている時など、彼女は知らず知らず、
      優しいため息のように咽喉を鳴らしたり、小鳩のように可愛らしく何かつぶやいたりするのだった……
      そうだ、これが新婚の夜のユディットの声なのだ……
      ああ、スザンナ! 何て僕らは惨めなんだ!
スザンナ  きっと、あの女は幸福なのよ!
144名前なし:2009/07/31(金) 21:53:39 ID:kLxxj2f7
ヨハネ  僕らが不幸になるなんて、不公平すぎるじゃないか。僕らは彼女を愛していたんだから。
      しかし、彼女は、自分で自分が不幸になるように挑発したんだ。彼女は、自分しか愛していない。
      あの娘は、本能的な生命欲を失くしてしまったんだ。
      彼女はその代わりに、必死になって、しかも冷静に、生きる情熱を作り出そうと努めた。
      プライドが高すぎるために現実の夫や愛人を求めようとせず、結婚や恋愛を抽象理念にしてしまい、その理念に、自分を捧げようとしたんだ。
      そして、そのために、手の届くかぎりのものを片っ端から実験しては、投げ棄てていった。
      もう実験材料がなくなったとき、見知らぬ一人の商人が、外国の市場からやってきた、
      そして、一匹の安魚でも買うように、彼女を奪ってしまったのだ……
スザンナ  いいえ、魚を釣り上げるのは漁師だけだわ。ユディットという魚は、空から舞い下りた鷲の爪に掴み取られたのよ。
ヨハネ  では、そうしておこう。お前の持っているのは何だ?
スザンナ  ユディットの着物よ。
ヨハネ  ユディットの着物だって? それじゃ、お前を使わなくても済むぞ、スザンナ。その着物を罠にして、彼女を捕まえることができるんだ……
145名前なし:2009/07/31(金) 21:54:48 ID:kLxxj2f7
スザンナ  でも、ホロフェルネスと一緒に出てくるかもしれないわよ。彼女一人かどうか、分かりゃしないじゃないの!
ヨハネ  そう思うかい? じゃ、お前はユディットをよく知らないのだよ、
      彼女は自分の犯した罪を、すみからすみまで味わいつくしたいと思っているに違いないんだ。
      まだ彼女の罪には、附録が残っている、彼女はこれから附録に取り掛かるんだ、やっと満足してうとうとしている男の傍らで、目を覚ます。
      男の顔は息のかかるほど近くにあるのに、遠く霞んで見える。冷ややかな目で、その顔のしわを見つめる。次に、ぐったりと横たわる男の身体をまたぐ。
      申し訳ばかりの掛け物を持ち上げて、すらりとした両脚で静かに、しかし、しっかりと立ち上がり、踏み台でも探すように絨毯の上の履物を探る。
      それから、この毒気に満ちた暁の光に、最初の一瞥を注ぐんだ。
      それに、他の部屋にいる奴らが夢をみていようがつるんでいようが、叩き起こしてやる手段もある……
      奴らを呼べばいいんだ、大声でこう呼べばいいんだ……ユディット! ユディット!
146名前なし:2009/07/31(金) 23:41:16 ID:kLxxj2f7
第二場  ユディット、スザンナ、ヨハネ(最初は身を隠している)

スザンナ  ユディット! あなたなの。
ユディット  私よ、というより、私みたいなものよ。今、何時?
スザンナ  (カーテンを左右に開いて)ごらんなさい。
ユディット  そうだろうと思ったのよ、もう間違いはないわ……確かに夜明けなのね……
        血に染まったクッションのように、真っ赤な太陽が地平線に上って来るわ。
        まだ木に止まっているふくろうの白い腹が急に赤黄色い光に染まり、凍るような夜明けの風が草や死体の髪の毛をかき乱すのね。
        このテントの端からは、あの人の鉛色の足と犬の尻尾が並んで、はみ出しているわ。
        あら、犬の尻尾が急にぴくんと動いたわ。朝露に濡れたこのテントは、
        この手のつけようもない世界の中で、たった一つの善意をかたどっているのだわ。
        空は金色の膿のような光に溢れ、男と剣は威嚇と錆に覆われ、そしてこのユディットをみたすものは恥辱と幸福と……
        本当に東雲はさまざまな色に光るものね。

ユディットは前に進んで来ている、ヨハネはもう通っても大丈夫と思い、正体を現す……ユディットはヨハネを引き止める。

ユディット  まあ、あなたヨハネじゃないの!
ヨハネ  そうだ、ヨハネだ……(ヨハネはユディットの方に行く)この一夜は楽しかったかい? 万事好調だったかね?
スザンナ  ヨハネ、やめて!
ヨハネ  スザンナ、お前は、僕ほど好奇心がないらしいね。
      女というものは、私生活の恥でも公の恥辱でも、すぐ胸にしまいこんで、自分の宝にし、秘密にしてしまうもんだ。
      しかしこの女は違う、僕はよく知っている、きっと何もかも打ち明けてくれる。この一夜は楽しかったかい、ユディット?
ユディット  短かったわ。
ヨハネ  君はもう処女じゃないんだね? ことは終わったんだな?
ユディット  終わったわ。
ヨハネ  君は知るまいが、ユダヤ人はみな、君の裏切りを知っているぞ。
ユディット  それは結構ね。どうやって彼らに知らせたものか、考えていたところよ。
147名前なし:2009/07/31(金) 23:43:00 ID:kLxxj2f7
ヨハネ  しかし、これも君は知るまいが、君の召使たちは石で打ち殺され、叔父さんは怪我をし、君の家は焼かれたのだぞ。
      通りという通りには群集が溢れて、君を呪っている。
ユディット  私は、みんなの共有財産みたいな立場を捨てただけよ。
ヨハネ  では、今度は誰のものになるんだ?
ユディット  当ててごらんなさい。
ヨハネ  君の神よりも強いあの男、君の民族よりも真実なあの男、
      君の好きだったボーイ・フレンドの誰よりも優しく、誠実なあの男のものだ、そうだろう? ホロフェルネスのものになるのだな。
ユディット  死ぬまでよ。
ヨハネ  君の死はそう遠いことじゃない。もうすぐだ。
ユディット  私は、死を歓迎してよ。今、あなたに斬られてもいいわ。
ヨハネ  僕の手は、もっと純潔な仕事を控えているよ……しかし君が死を逃れたいなら、急いだ方がいいぞ。
      評議会は、ホロフェルネスに市の鍵を届けることに決めた。そうすれば彼の気持ちが和らぐかもしれないと思っているのだ。
      預言者たちはみな変装して、ヨアキムの行列に参加している。
ユディット  それで私はどうなるの?
ヨハネ  預言者たちは、君を捕まえて罰してやると誓っている。君は彼らを知っているだろう。
      もちろんそんなことをしたら彼らはその場で虐殺されるに決まっているが、その前に何とかして君を殺してしまうよ。
      ただ殺すのではなく、一番酷い殺し方をしてやると言っている。
      君は姦通罪の犯人なのだからな、君は神という夫を裏切ったんだ。
ユディット  裏切ったのは神か、私か、まだそれは分からないことよ。
148名前なし:2009/07/31(金) 23:44:20 ID:kLxxj2f7
ヨハネ  やっぱり、君という女は、なるようになっただけなんだ! ユダヤ人のしたことは正しかったんだ! 
      この女の持ち物は、みな焼かれてしまった、もうユディットの衣装箪笥も、下着の山も、宝石も、ユディットの手帳もない、
      しかしそれでよかったんだ! 今残るユディットの財産は、この肉体だけだ。この豹のように美しい身体こそ、狙われている獲物なんだ。
ユディット  さあ、もう少し勇気を出せば私を殺せるわよ! 一度くらいは軍人をやめて、獲物を殺す猟師になったらどう?
ヨハネ  しかし、もう一人は、あの男は、あっちにいるじゃないか! あいつは君の肉体を堪能して、ぐっすり寝込んでいるんだ! 
      あれが、あらゆる男の中で始めて、飽きるまでユディットの身体をむさぼりつくした男なのだ、
      やつは目をくぼませて寝込み、いびきをかいている。君は、初めて自分の傍らに、男のいびきを聞いたんだ。
ユディット  堪能したかどうかは、まだ分からないわ! でもとにかく、あの人は寝ているわ、
        大理石みたいにどっしりと眠りにしずんでいるわ。そしてひっそりと!
ヨハネ  天の与えた好機だ、もう逃すものか!

ヨハネは剣を引き抜いて、ホロフェルネスの部屋に消える。
149名前なし:2009/07/31(金) 23:45:20 ID:kLxxj2f7
第三場  ユディット、スザンナ、次にヨハネ

ユディット  気の毒なヨハネ! あの人には、この運命のいたずらが分からないのね……
        きっと、あなたには何もかも分かっていたのね、あなたには! スザンナ!

ヨハネはすぐに、形相を変えて戻って来る。彼はユディットの足元に身を投げ出す。

ヨハネ  おお、ユディット、僕を赦してくれ! その着物を捨てろ、スザンナ、その着物を抱いている時じゃない。
      抱くなら、キスするなら、この女が今夜着たマントにしろ、この女がこの寝室に入ってほどいた髪にしろ。ユディットの憎しみに祝福あれ!
ユディット  憎しみですって! 何を言っているの! 自分こそ憎んでいるくせに!
ヨハネ  ユディット! 僕も君にふさわしい男になってみせる。

彼はまた寝室に駆け込む。スザンナはユディットの膝に身を投げる。
150名前なし:2009/08/01(土) 04:42:14 ID:0NxtnHOx
第四場  ユディット、スザンナ、衛兵(ずっと寝たまま)

ユディット  どうしたの、そんな格好で、どうしようというの?
スザンナ  あなたは聖女だわ、ユディット!
ユディット  身体を起こしてはくれないこと? なぜそんな馬鹿げたことを言うのよ!
スザンナ  だって、あなたは殺したんですもの!
ユディット  殺した……あなたは人殺しみたいな言葉を使うのね。
スザンナ  いいえ、これは兵士の言葉、勇士の言葉だわ。
ユディット  兵士も勇士も人殺しと同じことじゃないの。
スザンナ  神様でも、今の場合、他の言葉は使わないわ。
ユディット  それは神様の語彙が貧弱だからよ! とにかく、他の言葉がないなら「殺した」でもいいけれど、なぜ私が殺したのか、それは分かっているんでしょうね? 
        私、このことでは絶対に誤解されたくないんですもの。どうして私が殺したと思って?
スザンナ  神様があなたに憎しみの念を起こさせたからよ。
ユディット  憎しみですって! なら、今の私は憎しみの女神に似ていて?
スザンナ  ええ似ているわ、ただ憎しみといっても、今まであなたが知らなかった新しい憎しみなのよ。
ユディット  じゃ、ホロフェルネスが私を妻にする、私は朝方になってから、
        急に憎しみの念にかられて彼を殺す、あなたはそれを待っていた、というわけなのね?
スザンナ  私は、ユディットが使命を果たすのを待っていたのだわ。
151名前なし:2009/08/01(土) 04:43:50 ID:0NxtnHOx
ユディット  ユディットが使命を果たす? ユディットはそれどころじゃなかったのよ! 
        剣をふるった時の私には、ユディットの身分も、使命も、民族も、眼中になかったわ……
        その時、私はユダヤ人としての義務も、ユダヤの神の教えも無視して、自殺しようかと思っていたくらいよ、
        だって、これからの私に、この世で何が残されているというの? 
        私が棄てた民族は私を憎んでいるのよ、そして、私が愛している男は眠りに沈んで、もう私を忘れ、私を裏切っているじゃない! 
        眠ってしまったら、もうホロフェルネスはホロフェルネスではなくなるのよ……
        月曜日の朝、教会から遠い郊外の安ホテルに、可愛い売り子と泊まり込んだ美男子のセールスマンが、いつまでも眠りこけている姿と変わりなくなるのよ。
        可愛い売り子の娘は始めて外に泊まったの。彼女は彼の上に身をかがめて、感激と、苦しみと、嫉妬に悶えるのよ。
        白葡萄酒の酔いを借りて乱交の一夜をすごしたこの日曜が終われば、また苦しい毎日の仕事が始まると思うと、彼女は気もそぞろに恐ろしいのよ。
        彼女はこの幸福を守るために彼を殺し、自分も死のうと思うのよ。神の真実ですって。
        笑わせないでよ! 新聞の三面記事やそこらの店の売り子の方が、神の真実なんかより、ずっと宿命の真相をついているわよ……
スザンナ  そんなことないわ、だってあなたはまだ生きているじゃないの。
152名前なし:2009/08/01(土) 04:45:18 ID:0NxtnHOx
ユディット  ええ、私はまだ生きているわよ。でもそれには理由があるの。
        短刀を突き刺すのは優しいことだわ、あとから短刀を引き抜く方がずっと勇気と力がいることよ、その方がずっと現実的ですもの! 
        もうすぐ彼の部下の士官たちが、飛び込んでくるでしょう。私はそう思ったから、死ななかったのよ。
        私は死ぬことは嬉しかったわ。死を待っていたわ。この夜の間、彼の愛撫に答えながら、私はずっと不器用で、度忘ればかりしていたの。
        もちろんそんなことは大したことじゃないわよ、初めてなんですもの、大した罪でもないし、大目に見てもらえることだわ。
        それでも、私は、その罰が受けたかったの。自殺なんかでは罪が軽すぎると思ったの、罪の償いに虐殺されたいと思ったの……
        その時私はあなたの声を聞いて起き上がったの。生きて裁きを受ける前に、あなたに全てを打ち明けたいと思ったのよ。
        そうしておけば、みんながユディットの物語を憎しみの物語に変えてしまおうとした時、あなたが証人になって、それは嘘だと言ってくれるでしょう。
        事の真相は、ただの恋人同士が死んだだけなのだと言ってくれるでしょう。
スザンナ  いいえ、あなたは間違っているわ……あなたは殺したのよ……
153名前なし:2009/08/01(土) 04:47:11 ID:0NxtnHOx
ユディット  確かに私は殺したわ。私の立場で眠りから覚めて、それでも殺さないでいられる人があるかしら! 
        私も眠っていたのよ、スザンナ。ほんの一瞬だけ目をつぶったのよ。
        ちょうど、一晩中馬車を駆った馭者が、明け方になって疲れのあまり思わずうとうとするように……
        でも、私にとっては、その瞬間だけが夜だったわ、眠りでもあったわ……
        それから私は目を覚ましたの……そうだわ、生まれて始めて私は明け方、他人の側で目を覚ましたの……
        なんて恐ろしいことでしょう! 目が覚めた時は、もう万事は過ぎ去って昨日のことになっていたわ。
        思い出は素晴らしかったわ、でも、未来に待ち構えているのは疑惑と嫉妬ばかりだったのよ。
        寝床に横たわって永遠を味わったあと、起き直って立ち上がり、歩き回る生活をやり直す時が迫っていたのよ! 
        その時、私はもう永遠の死に包まれていたわ。でもあの人を見たとき、私は激しい哀れみに襲われたの。
        今は眠りという一時の死の中に逃げ込んで、これからやって来る恐ろしい毎日の生活から隠れてはいるけど、
        それくらいは取るに足らない慰めだわ! 
        毎朝、父親や息子の側で目を覚ました時、彼らを殺さないで、昼間の生活に送り出してやるなんて実に奇妙な話だわ……
        ああ、スザンナ、思った通りに答えてちょうだい。
        眠っている肉体を見たとき、このままこれを殺して醜い現実から救ってやろうという気持ちになる、それこそ、最高の愛情じゃないかしら!
スザンナ  眠る身体は、殺人の欲望を引き起こすのよ。
       これから何世紀もの間、あなたは神に選ばれた殺人者として崇められるのよ!
154名前なし:2009/08/01(土) 04:49:07 ID:0NxtnHOx
ユディット  そんなこと決してさせるもんですか! スザンナ、私か、でなければあなたがユダヤ人に真相を知らせますもの……
        あの音が聞こえて? 大勢の人が近づいてくるわ……私に罰が下るのよ……
        あなたはみんなに本当のことを言ってくれるわね? 言ってくれるでしょ? 
        私がキスしてあげたら決心がつくんじゃない? 今の私のキスを味わってごらんなさい……
        昨夜、私たちが交わした惨めなキスとは比べ物にならないわよ!
スザンナ  そんなこと聞きたくない、耳をふさぎたいわ!
ユディット  でも、よく考えてみたら、私は、あんたの耳なんかどうだっていいんだわ! まあ、私は馬鹿だったこと! 
        ここにこの男がいたんじゃないの……目を覚ましなさい、衛兵さん!
スザンナ  酔って寝てるのよ!
ユディット  酔っていようがいまいが、この男にも耳があるわよ。
        耳の中ではがんがん金鎚が鉄床を叩いているような音がして、鼓膜を刺戟しているところよ……
        この話の真相を数世紀の未来まで伝えるにはこの耳で十分だわ……衛兵さん!
衛兵  俺は眠っているんだよ……
ユディット  そうよ、あんたは眠っているのよ! 話を聞いて。
衛兵  (寝ぼけまなこで寝返りを打ち)俺が眠っているだと。どこのどいつだ、そんなことを言いやがるのは?
ユディット  起きなさいってば! それだけのことはあるんだから!
衛兵  女が一人いるな……いいぞ、女ならいつでも来いだ!
ユディット  この女が何をしたか、知ってる?
衛兵  何をしたんだ?
ユディット  あんたの王を、ホロフェルネスを殺したのよ。
衛兵  王様をどうしたって?
ユディット  殺したのよ……
衛兵  王様を殺した。うーん! そりゃまずいな!
155名前なし:2009/08/01(土) 16:39:42 ID:XDVjZjDu
ユディット  なぜ殺したか知ってる? 愛していたからよ。
衛兵  何だって?
ユディット  愛していたからよ。
衛兵  愛していたからだって! うーん! そりゃいいぞ!
ユディット  これでいいわ、スザンナ!
衛兵  (再び眠りながら)いいぞ、スザンナ!
ユディット  これでいいわ。私はこの眠っている男に真実を吹き込んでおいたわ。
        何世紀後か知らないけど、この真実が飛び出してきて、堂々と、将軍たちや司祭たちの真実に抵抗できるでしょう……
        もういいころね……彼らはここへ来るんでしょ? 誰と誰が来るの? 見てちょうだい!

スザンナはカーテン越しに外を見に行く。

衛兵  (眠りながら)彼女は愛していたから、ホロフェルネスを殺したと……その女の名前は何だ?
ユディット  (衛兵の方に屈んで)ユディットよ!
衛兵  ホロフェルネスはどうした、どうしてユディットを殺さなかった?
ユディット  心配要らないわ。その女はこれから殺されるのよ。
衛兵  うーん! そりゃいいぞ!
156名前なし:2009/08/01(土) 16:40:54 ID:XDVjZjDu
スザンナ  ユダヤ人が来るわ、預言者たちが先頭よ! みんな鋸や金鎚で武装してるわ! 
       なんだか手を振ったり、脚を振ったりしているわ!
ユディット  そうでしょうとも……預言者たちは、嗅ぎタバコでも分け合うように喋り合いながら駆けて来るのよ……
        私の手を縛る時も、まだ喋っているでしょうよ! きっと、私に唾を吐きかけながら、喋り続けるわよ。
        それぐらいは大して難しいことじゃないもの……
        でもその後で私に向かって鞭や棒を振り回しながら、一打ちごとに何か喋るとなったら、そう簡単にはいかないわね……
        まあいいわ……私としても唖の死刑執行人に殺されるより、お喋りにやられる方がありがたいもの……
        一口罵られるごとに、返事をしてやるわ、打たれるたびに答えてやるわ。
        あの連中はとても好奇心が強いんですもの、いくら大急ぎで私を殺す気でも、私が何か言えば、手を休めて聞こうとするに決まっているわ。
        私は、一つ傷を受けるたびに、昨夜味わった喜びを一つずつ話してやるのよ。

ユダヤ人たちがテントの中に侵入する。
157名前なし:2009/08/01(土) 16:42:10 ID:XDVjZjDu
第五場  ユディット、スザンナ、大司祭、ポーロ、ユダヤ人の男大勢

ユダヤ人の男たち  ユディット万歳! ユディット、おめでとう!
一人のユダヤ女  ありがとう、ユディット!
ユディット  一体何を言ってるの?
ポーロ  君の憎しみが勝ったのだ、ユディット。ユダヤ人は救われる。みんな! ユディットの足元にひざまずけ!
スザンナ  (ユディットに)お願いだわ! 何も言わないで! ヨアキム、ユディットに気をつけてね!
ポーロ  ホロフェルネスの同盟軍は、反乱を起こした。ヨハネが彼らの陣営を駆け回って君の殺した王の首を見せて歩いているんだ! 
      彼らは我々の味方として戦っている。ホロフェルネスに忠実な軍隊は退却中だ。
あるユダヤ人  食料運搬車はみんな味方の手に落ちた。ユディットさえよかったら、さっそく食事にしようじゃないか。
別のユダヤ人  飲み水の泉も取り返した。ユディットさえよかったら、さっそく水を飲もうじゃないか。
あるユダヤ女  ユディット、あなたはパンですわ!
別のユダヤ女  あなたは水ですわ!
ユディット  ユダヤ人のみなさん……
ヨアキム  (さえぎり)あんたは何を言いたいのだ?
ユディット  真実を。
ヨアキム  ユダヤ人は神の語った真実を知っている。ユディットの語る真実など、どうでもいい……
       ちょっと待ちなさい、もうすぐどちらも同じことになってしまうから……
       まあこれを聞きなさい……自分で自分の真実を知らないなら、ついでに教わるがいい!
158名前なし:2009/08/01(土) 16:43:32 ID:XDVjZjDu
二人の歌手(女)が群衆の中から出て来る。

第一の歌手  二日も前から、ユディットは衣の下に剣を佩いていた。
         動くたびに、驚くたびに、剣は、鳴り渡る鐘の舌のように、ユディットの肉を打ち、ユディットの膝を突いた。
第二の歌手  ユディットは戦場を横切って行く! 月はまだ昇らない。
         ユディットは恐れる野獣のように道を求めて、小川を遡る……ユディットの怒りは主の怒り。
ユディット  (まだ低い声で)あの時ユディットが後戻りしてしまわなかったのは、自尊心の虚栄心のおかげなのよ。神などとは関係なかったのよ!
ヨアキム  黙りなさい。
ユダヤ人たち  ユディットは何を言っているのだ?
第一の歌手  ホロフェルネスはテントの中で夢見ていた。夢の中で彼が退けたのは……
第二の歌手  ダマスコの女王。彼は、胸まで化粧して滴るような青い瞳をした女王を退けたのだ!
一人のユダヤ男  (猫の好きな男)彼は、牝猫のようなエジプトの女王も退けた!
一人のユダヤ男  (半身不随)シャムの姉妹も退けた!
一人のユダヤ男  (公証人)毛を剃って磨き上げた百人のモスクワ女も!
一人のユダヤ女  (醜い、しかし潤いのある皮膚を持つ)マスカットで捕らえられた人魚も!
一人のユダヤ女  (控えめな身振りで)腕と胸に花模様のあるベンガルの獣のような女でも!
第二の歌手  最後に、彼はユディットを認めた!
ユディット  嘘です! 子供だましです。ホロフェルネスは一人きりだったわ。みんな聞いて! あの人は司祭のように一人だったのよ!
ポーロ  黙って……あなたのように昂奮してはどんなことが起こったか思い出せるものか……
      ホロフェルネスは叫んだ。わしの気に入ったのはユディットだけだ、ユディットだけが甘美な魅力をたたえている!
一人の美しいユダヤ女  ユディットだけが、かぐわしいのだ……
第一の歌手  ユディットだけが、手の平も膝から腿の付け根にかけての手触りも、ビロードのように柔らかだった……
159名前なし:2009/08/01(土) 16:44:34 ID:XDVjZjDu
ポーロ  しかし、彼女の肌には、毒が宿っていた!
スザンナ  彼女の肌には、鋼がひそんでいた!
一人のユダヤ男  (猟師)落とし穴が! 罠が!
一人のユダヤ女  (右のまぶたは左のまぶたより早く瞬く女)硫酸が!
あるユダヤの農民  (森のはずれで)毒きのこが!
スザンナ  憎しみが宿っていた!
ユディット  あなたまで私を裏切るのね、嘘を言うのね……みなさん……
ポーロ  続けろ! 歌を続けるんだ!
第一の歌手  ホロフェルネスはユディットを裸にした。
スザンナ  しかし、神がまた彼女に衣をかけてやった。
第二の歌手  神が彼女にかけた衣は大気であり、光であった。透き通る衣がユディットを蔽った。
ユディット  嘘です!
ポーロ  (歌い手たちに)いいから、お前たちは続けろ! どんどん歌うんだ!
第一の歌手  ホロフェルネスは自分の前に、ユディットを横たえた。
ポーロ  ホロフェルネスは自分の前にユディットを横たえた。これは本当だろう、ユディット? 嘘だと言ってみなさい!
ユディット  本当だろう? ええ、本当よ。
ポーロ  みんな、聞いたか?
ユダヤ人たち  ユディットを讃えよ!
スザンナ  しかし、神は急にホロフェルネスの力を弱めた。彼はユディットの操を奪えなかった!
ユダヤ人たち  ホロフェルネスはユディットの操を奪えなかった!
ユディット  (前に進み出ることが出来たので)いいえ、ホロフェルネスはユディットの操を奪ったわ……
       彼があんなに力強かったことはないほどだったわ、ユディットは彼の愛撫に酔いしれて、神のことまで忘れてしまったほどだったわ……
ユダヤ人たち  彼女は何を言っているんだ?
ヨアキム  みな黙れ、そして、席をはずしなさい……ユディットと私は二人で話すことがある。
160名前なし:2009/08/02(日) 00:01:43 ID:wpKK5FJA
ユディット  いいえ、行かないで! ここにいて! 私はあなた方に話したいのよ。
        あなた方は、ユダヤの賛美歌を歌い、香をたいて、作り話を讃えているのよ。
        ほんのちょっとでいいわ、そんな役はおやめなさい! 
        真実をお聞きなさい、真実を語るのは簡単だわ。
        昨夜、一人のユダヤ女が進んで、ホロフェルネスの寝床に横たわったのよ……
ヨアキム  あんたは我々を破滅させてしまうぞ、ユディット。
ユディット  あの寝床は、詩篇にうたわれていたような神秘な長椅子ではなかったわ。
        枕もあり、シーツも敷かれた本当の人間の寝床だったわ。分かって? 
        お嬢さんたち、馬のたてがみの毛と鳥の羽根がはみ出すほどたっぷり使われたベッドだったのよ。
        あの真新しいシーツに入ると激しい愛欲に混じって、不思議に家庭や幼いころの思い出が蘇ってきたわ。
預言者  (武器を持って進みながら)復讐だ!
ユディット  そのユダヤ女は、ありとあらゆる寝床の喜びをきわめつくしたのよ、自ら求めたのよ。
        明け方近くになってきた時、夫にでもしてやるように、優しくホロフェルネスにかけものをかけてやったのよ。
ユダヤ人たち  我々は破滅だ!
ポーロ  力づくでも黙らせるぞ!
預言者  構うな! 娘、もっと話してみろ!
ユディット  その女は民族とホロフェルネスの板ばさみになって、遂に愛を選んだのよ。つまり、ホロフェルネスをとったのよ。
        それからというもの、彼女はただ一つのことしか考えてないわ。死んでホロフェルネスの後を追うこと。
スザンナ  (突然、進み出て)その女とは、私でした。
預言者  (スザンナを打ちながら)これで満足だろう!
161名前なし:2009/08/02(日) 00:02:38 ID:wpKK5FJA
倒れたスザンナは運び去られる。大司祭は、呆然として口も利けないユディットを、後の方へ引きずっていく。

ヨアキム  もう一度言う、みんな席をはずしなさい。
預言者  なぜです?
ヨアキム  ユディットが市へ帰還するについて、取定めておかなければならんことがある。
預言者  そうですか、では、急いでください! 
      ユディットが帰らないと、子供や老人が食べたり眠ったり出来ないから……あまり待たせては可哀想だ。

一同退場。ユディット、ヨアキム、ポーロと衛兵たちが残る。
スザンナの身体が衛兵の前を通る時、衛兵は眠ったまま、二言三言口を利く。

衛兵  いいぞ、スザンナ!
162名前なし:2009/08/02(日) 00:04:14 ID:wpKK5FJA
第六場  ユディット、ヨアキム、ポーロ、衛兵(まだ眠っている)

ヨアキム  あんたの条件を言いなさい。
ユディット  私に嘘をつかせるための条件ね?
ヨアキム  あんたが黙って生きるための条件だ。
ユディット  私がまだ生きるつもりに見えて?
ヨアキム  ユディット、ユダヤ人の運命はまだ安定したわけではない。
       あんたの言葉や、行動が、ほんの少しでも脱線したら、奇跡は価値を失ってしまうのだ。
ポーロ  華やかな羽根飾りのような大手柄が、鳥の尻尾のような下らんことになってしまう。
      雄々しい鳶が急に馬鹿鳥に変わってしまうようなものだ。
ヨアキム  あんたが、今後、人里離れて孤独に暮らしたいという気持ちは分かる。
       あんたは市の財産の一つに、湖に臨んで庭園に囲まれた家があるのを知っているだろう。
       市はあの家をあんたに送る。我々が気をつけて、あの家を訪ねる者もなく、何の心配事もないようにしてあげる。
       だから、今のところは我々の望みどおりにやってほしい。行列の先頭に立ってくれ。
ユディット  私の歳で、妾の古手みたいに、庭に木蓮の花と砂浜がある別荘に押し込められて、満足すると思っているの? 私はまだ二十歳よ。
ポーロ  昨日から見ると、あなたは酷く傲慢で怒りっぽくなっているな!
ユディット  でも、彼はそんなことはないわよ!
ヨアキム  彼とは誰をさすのだ?
ユディット  神のことよ! 私は、あの神とは違う他の神の名において、ホロフェルネスを殺したのだわ。
        あの神はただこずるく立ち回って、万事自分に都合いいように仕組んだのよ。
        あなたは、私さえよければ、私が神の最高の代理者として市に戻るのに賛成だというの? 
        私は死ぬまで後光をいただいた聖女になるわけね。後光なんて、いずれは取り返されるに決まっているけど。
衛兵  (眠りながら)ユディットは、愛すればこそホロフェルネスを殺したのだ……そいつはいいぞ。
163名前なし:2009/08/02(日) 00:05:46 ID:wpKK5FJA
ユディット  あの声をお聞きなさい!
ポーロ  誰の声だ?
ユディット  衛兵よ。
ポーロ  あなたは耳鳴りでもしているのだろう。こいつは何も言いはしない。
ユディット  いいえ、言ったわ。
ヨアキム  あんたが殺した理由はどんなことか、我々は大体感づいている。しかし、そんなことはどうでもいい。
       どんな女だって、恋人を殺す時は恋のためだと思っているものだ。
ユディット  あなたが恋と言う時の発音の下手なこと! 恋という言葉を発音する機会なんかないのね……
ヨアキム  いや、あったとも。犯罪を裁く時には、ほとんど一つの罪ごとに恋があったからな……
       ところで、あんたが復讐の天使であろうが、蠍だろうが、事は終わっている。大体我々の予想通りだ。
ユディット  私はあの快楽を味わい、あの快楽を好み、あの快楽に狂おしく溺れたのよ、それも予想していたというの?
ポーロ  細かい描写は容赦してもらいたいね。
ユディット  ではあなた方は、私に何を容赦してくれて? 昨日、あなた方は、怪物のようなホロフェルネスの描写を容赦してくれたかしら! 
        そうだわ、あなた方の勝利には、まだ足りないものがあるのね? 私に、ホロフェルネスが醜い男だったと証言してほしいんでしょう。
        ユダヤ中で一番澄んだ目だって、あの人の目に比べたら斜視同然だったわよ、ポーロ。
        彼の体は滑らかで、輝くほどだったわ、人間が本当に語る時は、身体で語るものなのよ。
ポーロ  そう、確かに彼の目は美しい。今でも、我々は、みんなそれを知っているよ。
ユディット  あなた方みんなが知っている! ヨハネがホロフェルネスの首を皆に見せたのね! 
        私はヨハネに復讐してやるわ。他の人にも復讐してやるわ。どんなに数が多くても構うものですか。
164名前なし:2009/08/02(日) 00:07:06 ID:wpKK5FJA
ポーロ  そら見なさい、あなたはこれから復讐しなければならないのだ、そのためには生きていなければならないじゃないか。
ユディット  (突然衛兵の方を振り向き)この衛兵は、今何か叫んだわ!
ポーロ  何も叫びはしないったら。眠っているじゃないか!
ユディット  どうして起き上がるのかしら? どうしてそこへ座って、私を見つめるのかしら?
ポーロ  彼は寝ているよ。あなたは夢を見ているんだ!
ヨアキム  落ち着きなさい、ユディット、真面目なお願いだ。そして最後まで我々に協力してくれないか。
       我が民族はほんのちょっと失望しただけでも、すぐ勇気を失ってしまう。
       今あんたがためらえば、それが既に罪を犯していることになるのだ。
       神と神の憎んでいたものと、どちらをとるかにためらっていることになるからな。
ユディット  私はためらってないかいないわ。もう片方を選んだわ。私は憎しみに逆らって、愛を選んだわ!
ポーロ  いい加減にしろ……しまいには我々も我慢できなくなるぞ!
ヨアキム  あんたは精神が錯乱しているのだ。
165名前なし:2009/08/02(日) 00:39:14 ID:wpKK5FJA
ユディット  それなら神は大喜びだわ。神は私を憎んでいるんだから……
        昨日からこの方、私は一度だって神の圧力も存在も感じなかったわ。
        神が私を操っているとしても、自分は私に手を触れようともしないのよ、
        自分の短刀が気に入らないものだから、ハンカチで柄を包んでいるようなものだわ。
        私は、神の力で、若々しく清らかで、力強く賢い大天使になって、ホロフェルネスに飛びかかるのだろうと期待していたのよ。
        ところが、今朝目が覚めた時の私は、うやうやしくこのマントを、この光を、神にお返ししたわ。
        あなた方のいわゆる奇跡が起こったのは、なぜだと思うの? 
        それは私が淫らな女だったおかげなのよ、私は兵士たちの前で口ごもるほど、
        あの男に心を動かされたおかげなのよ、そして、私が嘘をついたおかげなのよ。
        私は幼いころ、神を知っていたわ、青春時代にも、神を知っていたわ。
        なのに、私が成熟した娘になった時、神は隠れてしまったのよ。
        悪いのは神の方じゃないの。ああ! ヨアキム、私は、自分が男には不感症だと思っていたわ。
        男に寄り添っても、私の身体が何も感じないので心配なくらいだったわ。
        でもホロフェルネスが私の目を開いてくれたわ。
        私がホロフェルネスを裏切ったりするものですか、私は神に対して不感症だったんだわ……
        あら、どうしてあの男は立ち上がるの? なぜ私の方へ来るの?
ポーロ  誰の話だ、一体?
ユディット  衛兵のことよ!
ポーロ  あなたはうわごとを言っているんだ。衛兵が眠っているのが見えるだろう。
166名前なし:2009/08/02(日) 00:40:59 ID:wpKK5FJA
ユディット  そのきらきら光っているのは、衛兵の鎧なの?
ポーロ  あなたは幻覚を見ているんだ!
ヨアキム  我々の気をそらそうとしても駄目だ! さあよく反省しろ、この無分別者め! 
       我々は神の求めたものを授かったじゃないか、しかも真っ先にそれを求めたのはあんただったんだぞ!
ユディット  私が神に何を求めたというの? 私は神そのものを求めたのよ。
ヨアキム  あんたは奇跡が起こったのを否認するのか、あれはあんた自身がやったことだぞ!
ユディット  あの奇跡は、たくさんの醜い、下劣な、恐ろしいものから生まれたのだわ。
        あなた方神の僕は、神の許可を受けて、私を道具にして安っぽい奇跡を用意したのよ、
        私の処女ほど危なっかしいものはなかったし、私は無邪気どころではなかったんですもの。
        ただ私の名が金持ちのブルジョアとして有名だったから、いんちきが見えなかっただけよ……
        神の敵だけが気高くて立派だったわ。神が正しければ、もっと純潔で、優美で、神聖なものを好んだはずよ、
        もっともそうだったらこんな奇跡は起こらなかったでしょうけど。
ポーロ  そんなのは若い娘の空想する神だ、そんな神ならそうだろうさ、
      それじゃあなたは一人のユダヤ娘が、欲情におそわれたら……
ヨアキム  (ほとんど同時に話す)あんたには手のつけようがない! 
       片っ端から、神とのつながりをぶち壊している……もう当てにしても駄目だぞ……

その間に泥酔した衛兵は立ち上がっている。彼はユディットの方へ来る。
167名前なし:2009/08/02(日) 00:42:26 ID:wpKK5FJA
第七場  衛兵、ユディット、ヨアキム、ポーロ

ヨアキムとポーロは衛兵が立ち上がった瞬間から、時間外の存在となり、じっと立ちすくんだまま。
彼らの言いかけた言葉とやりかけた動作が、そのまま舞台の枠になる感じ。

衛兵  ちょっと失礼するよ。
ユディット  あんたは誰? あなたはどなたでしょう?
衛兵  お前はわしに、もっと打ち解けた話し方をしないのかね? それはどういう意味だ?
ユディット  あなたの周りは、まぶしいほど光っていますわ!
衛兵  光っている! わしが光っている? そうか、それでは、確かに今日はお前のために、
     そこらの泥も光を帯び、馬糞まで輝くことになっているのだよ。
     わしが真紅の衣をまとっている姿は、板についているはずだ、お前にもそれが見えるだろうな!
ユディット  ありのままの姿が見えますわ、あなたは緋色に、金色に輝いて見えますわ……
衛兵  わしが、体中から薔薇の香りを放っているのも嗅いでいるな! 
     わしの頬が、桃のようにつやつや紅いのも見えているな! 
     お前は、わしが思っていた以上に鋭いセンスを持っているようだ。大変よろしい! 
     さあ、ユディット、一騎打ちだ、かかって来い!
ユディット  どうして一騎打ちですの? なぜそんな戦いの叫びをお上げになるの?
衛兵  戦いが始まるからさ。娘さん……成り行きによっては肉体と肉体の組打ちだ……
     わしにも、今、お前のありのままの姿が見えているぞ、お前は、真っ裸になって神と戦おうとしている女だ。
     美しいパンツをはいた女力士なのだ。わしはお前の美しいうなじ、綺麗な腋の下に向かって、手を伸ばし、
     組みついていこうとしているのだ……さあ来い!
ユディット  私はあなたのおっしゃることが分からないわ。
衛兵  すぐ分かるようになるさ……どうだね、ユディット、おまえが昨夜自分の家を出た瞬間から今までに、
     少しでも飢えとか渇きとかを感じたり、何か生理的に困ったことがあったか? 
     今でもそうだ、胃が痛いとか、尿をもよおしているとかいうことがあるか?
ユディット  なぜそんな質問をなさるの?
168名前なし:2009/08/02(日) 00:43:53 ID:wpKK5FJA
衛兵  何一つそんなことはなかった、そうだろう? お前は戦場で草の茂みにつまずいたが、そのために履物が汚れたか? 
     あざみの刺で靴の革をすりむいたり、おおばこの草の茂みで、靴に緑のしみがついたりしたか? 
     お前の手には何か殺人のあとが残っているはずじゃないか? そう、そう、そうやって血のしみが手に出て来るかどうか見てごらん。
     もっと手をこすってごらん! お前の手は真っ白で純白なままだ。お前の身体にも何のあとも残っていない。
ユディット  でもこの身体には消えることのない印がありますわ。ホロフェルネスの残した印だ!
衛兵  その点については、大いに議論沸騰するだろうがね。市に帰ったら産婆に身体検査をしてもらいなさい。検査の結果を聞いたら驚くよ……
ユディット  あなたはどういう権利で、私にそんな話までなされるの?
衛兵  権利だって! なぜ、権利なんて言い出すんだ! 理屈っぽい娘だな……
     昨日の晩以来、大勢の天の使いがお前を護衛し、同情し、支えていたのだよ。
     お前の周りには天使の翼の大伽藍が出来ていた。
     しかし、お前のやることなすことが酷すぎるので、天子はみな、顔を隠して次から次へと飛び去ってしまったのだ。
     今残っているのはわしだけだ。わしは、お前の目にわしの姿を見せるために、やむを得ず、この衛兵という重くて臭い形を借りたのだよ。
ユディット  どうして、あなたはそんなことをなさったの? 神があなたの口を借りて、私に語ろうとなさるなら、もう遅すぎるわ!
169名前なし:2009/08/02(日) 00:46:01 ID:wpKK5FJA
衛兵  お前は、神がお前に語ると思っているのか! 犬は愚かな身体についた愚かな頭をさげて、主人の声を聞く。
     神は人間が犬みたいに神の声を聞くのが嬉しいから、人間に語ると思っているのか? 
     神は自ら選んだ人間に対しては、頭のてっぺんから爪先まで、聖なる油を塗って祝福してやりたいのだ。
     しかし神は、今夜はお前に直接声をかけるのをやめて、わしたちにお前を任せることにしたのだよ……
     わしたちはお前が戦場を渡って来る時、倒れている重傷者の中に忍び込んで、彼らが声を立てないように始末した。
     死骸の腐敗を遅らせて、お前が角を曲がるまでは臭くないようにした。
     お前の足元を血汐と血の塊が流れても、お前が気付かないように音を立てさせなかった。
     軍用犬がお前に吠え付かず、牙を向けないように追い払った。
     それなのにお前は、わしらがあの血膿にまみれ、あの獣の口に飛び込んでお前のために働いていたのを感じなかったんだな!
こだま  あの血膿にまみれ、あの獣の口の中に飛び込んで!
ユディット  なぜ今頃になって、そんな話をなさるの。どうしてあの時黙っていらっしゃったの!
170名前なし:2009/08/02(日) 02:59:50 ID:wpKK5FJA
衛兵  いやはや、ユディットともあろうものが、学校では一番の才媛で、神に選ばれた娘がこれなんだからな! 
     お前はあの時の神の沈黙が奇跡だったことが、まるで分かっていなかったんだな! 
     わしたちはこだまが響きそうになると、あわてて駆けつけて押さえつけた。
     レモンやマルメロの実が木から落ちてきたら、大急ぎで受け止めては音のたたないようにした。
     雄鶏のくちばしには、鳴き声を立てないように前もって細工しておいた。
     こんな苦労をする代わりに、ユディットの耳に綿でも詰めておけば沢山だったというのか? 
     我々はユディットが万事承知で我々にウィンクしているものだとばかり思っていたのだ。
     彼女は遠くからふくろうに愛撫の身振りを送り、傷ついた馬の口に接吻を与えた。
     その愛撫、その口づけは自分ら天使に送られたものだとばかり思っていたよ。
     ユディットは我々天使の一族に溶け込んで、絶壁を登る登山家がガイドとロープで結ばれているように、一心同体だと思い込んでいたよ。
     それなのにあの愛撫も口づけも、ただ、ちっぽけなふくろうや去勢された馬に送られただけだったのか!
こだま  あの愛撫も口づけも、ちっぽけなふくろうや去勢された馬に送られただけだったのか!
ユディット  ごめんなさいね!
衛兵  では、お前はわしの言うことを聞くのか? わしの言うことが分かったか?
ユディット  許して下さい!
衛兵  ユダヤ人に真実を言いなさい、そうしたら神は赦してくださる!
ユディット  どの真実を言うのです?
衛兵  神の予定していたように、お前が神の敵を憎んで殺したという真実だ。
ユディット  そんなことは真実じゃないわ、ご存知のくせに!
衛兵  わしは知らん。
ユディット  あなたは何もかも見ていたじゃありませんか、あなた自身が、私が真実を告げていることの証人じゃありませんか?
171名前なし:2009/08/02(日) 03:01:48 ID:wpKK5FJA
衛兵  お前は、それが真実ではないというのか! よろしい、もう一度、お前がどんな一夜をすごしたか、始めから終わりまでおさらいしてみよう。
     お前は入ってきた、ホロフェルネスはもう横になっていた、そうだな? 
     彼は肘をついてお前を待っていた。彼の右目には燃えるランプの灯が映って、きらきらと輝いた。
     左の目は影になって見えなかった。お前は人目見て、これから始まる角力の土俵の広さを測った……
ユディット  私はベッドを見ました、それっきりでしたわ。
衛兵  神は、女が立って角力をとるのは相応しくないと考えて、ベッドという土俵を与えたのだ。
     お前は、ホロフェルネスの鎧のように広い胸も、鎹のような筋肉も、恐れはしなかった。
     お前は着物を脱ぎ、櫛をとった。織物も、貝殻も身につけなかった。
ユディット  それか私はベッドへ行きました。
衛兵  それからお前は土俵に立った。我々は大喜びだった。裸になったお前の身体は完全な武装だった。
     尖った爪、磨いた歯、つやつやした張り切った頬、みな武器としか見えなかった。
     お前の額が力いっぱい、ホロフェルネスの額に突き当たったら火花が散っただろう。
     その他にもわしらは、お前が鎚のように膝を使って打ったり、万力のように腹で締め付けたりして角力えると知ってはいたが。
ユディット  でも、私が聞いた彼の声はみな現実だったのだわ、私が彼から受けたものはみな啓示だったのだわ……
衛兵  それはそうかもしれない。神の啓示と喜びとが、肉体を通じ、あまり上品でない部分の皮膚を通じて人間に届くこともある。
     しかし、神はそれを忌み嫌いはしない……いわば肉体は神のフィルターなのだ。しかし神はお前を愛していた。
     だからホロフェルネスが、お前の肉体に触れないように計ったのだ。
     神は天使を透きとおったマントに変えて、お前の身体に投げかけた。
     大天使ミカエルはお前の舌となり、咽喉となった。エフライムはお前のかける床几になった。
     そしてわしがお前の右手になったのだ。点は一晩中かかってお前の模型を作り、その中にお前の狂おしい欲情を移し入れたのだ……
     そして夜が明けてきた時、お前に殺意を起こさせたのだ。
172名前なし:2009/08/02(日) 03:03:15 ID:wpKK5FJA
ユディット  あれは自分に対する殺意でしたわ。
衛兵  そういってもいい、確かに、ユディットが自殺するというやり方も大いに可能性があったからな! 
     しかし神はただ、お前が自分の柔らかな皮膚を眺めて殺意を深め、殺意を純粋に発展させようとしただけだ。
     すると、不意にお前の目からは何も見えなくなった。ただ一つ見えるものは、眠っている男の胸の上の小さな白い丸い形だけだった。
     その白い丸は子供が鏡を反射させているように小さかったが、きらきら光っていた。
     あの時、神がどの子供の鏡を使って反射させたかは知らんがね。
     とにかく、お前は愛していると思っていた男の身体の真ん中に、あの円形の光を見つけたのだ。
     それを見つめているうちに、お前の胸には、射手が標的を見つめるような嫌悪が湧き上がってきたのだ! この通りだな?
ユディット  ええ、まあ大体!
衛兵  この通りだな?
ユディット  その通りですわ。
衛兵  我々天使たちは、ようやくお前の身体に憎しみが現れてきたのを見て嬉し泣きしたほどだった。
     憎しみの念は、最初は斑点のように硬く小さく現れたが、やがて太陽の黒点のように大きく広がっていった。
     それから我々は夢中になって、お前が一度死体に短刀を突っ込んだらもう抜けないように、鋲や釘を用意したものだ。
     そして、お前がその白い丸の上に短刀の切っ先を載せようという気を起こした時……
ユディット  私はただそっと触って、ちょっとつついてみるだけのつもりでしたわ……
衛兵  ちょっとつついてみる?
ユディット  今度はあなたが私を理解してくださる番よ! 分かってください! 
        もしあの時、私が毒を飲んでいたのなら、私は彼が眠っているうちに、
        無理にでも苦い毒をほんの一口だけ味わわせてやったでしょう。
        でも、それは彼を殺すためではありませんわ、ただ彼が優しく顔をしかめるのが見たいという愛情からですわ。
173名前なし:2009/08/02(日) 03:04:39 ID:wpKK5FJA
衛兵  お前がその白い丸の上に短刀の切っ先を載せる気を起こした時、我々はみんな、
     お前が飛び掛って、彼を傷つけたいというお前の気持ちを何倍も大きなものにしようとしたのだ。
     お前は、我々の力を感じなかったのか、ユディット?
ユディット  あの押しつぶされるような感じ、あれはあなた方だったんですの?
衛兵  あれこそ、お前の上に雪崩落ちる天使の群だったのだ! 
     そして彼は死に、お前は、何かを刺した蜜蜂のようにたわいもなく死を待っていた。
     その時、我々は再びそれまで沈黙させていた世界に音を返したのだ。
     お前の耳には蜘蛛が巣をつくろっている物音が聞こえた。
     陣営の下の中で、もぐらが穴を掘り、ベッドの後ろで野鼠が燕麦の粒をゆっくりと噛んでいる音がお前の耳に入ってきた。
     そして最後に、スザンナの声が聞こえてきたのだ……
     分かったか、この恩知らずが、神はお前を軽蔑しているぞ! さあ、立ちなさい……
     テントを開けろ、ユダヤ人たちの所へ行け、もう時間だ!
ユディット  いやです! いやです! 私をそんな殉教者にするのは許して下さい!
衛兵  殉教者だと?
ユディット  神のお望みなら、私は何も否定しません。どんなスキャンダルを押し付けられても我慢します。
        でも、あまり酷いことはしないでください! さもなければ、いっそ私を殺してください! 
        せめて、私がまだ心の優しいユディットであるうちに死を与えてください! 
        私が一生の間、一つの民族にとって殺人と憎悪の象徴になるなんて、神も望まないはずです。
        だって、私は子供の頃から、愛の象徴として神の印を受けて生きていたのですもの。
衛兵  お前はそう思っていたかもしれない。しかし、それは間違いだ。お前の同胞は、その点間違っていなかったのだ。
ユディット  私の同胞ですって? 私が一足歩くごとに、子供たちが追ってきて、薔薇の花を投げてくれましたわ。
衛兵  その子供たちは血を追っていたのだ。子供たちは血に向かって薔薇を投げていたのだ。
ユディット  私が新しいドレスを着て町に出るたびに、老人たちが街角でドレスを批評しては私に笑いかけましたわ。
174名前なし:2009/08/02(日) 03:07:10 ID:wpKK5FJA
衛兵  老人たちは、お前が真っ赤な大きなしみをドレスにつけているのを見て笑ったのだ! 
     強情はおやめ、実際このドラマの中にも、愛が登場することはした。
     しかし、愛の役割を担ったのはお前ではなく、スザンナだったのだ。
     誰もそれを知ることはあるまい。祭を捧げられ聖人にかしずかれるようなことは、愛には相応しくないからな。
     しかしスザンナこそ愛の象徴だったのだよ。それに、心配は要らないさ。
     今夜のようにユディットの心が優しくなごむことは、もう決してないのだから!
ユディット  ああ、呼びかけようにもあなたには名前がないのね、
        もう私に情が残っていないなら、こんなにまであなたの名を言えない苦しみを感じるかしら! 
        どうしてこんな遅ればせに、奇跡が現れたりしますの! 
        どうして偽りの誓いと乱交の一夜が、急に神聖な一夜になりますの?
衛兵  それはお前が心配することではない。神は慎重だからな。
     先ず千年ほど間をおいてから、?聖の事実に神聖の光を当て、
     淫乱な行為に純潔の影をうつすだろう。それは照明技術にすぎないのだ……
ユディット  私の生きながら皮をはがれるような苦しみも、照明を当てられるわけですのね、
        燃える炎でも、この照明の光ほど熱くないような気がしますわ。
衛兵  それくらいの火傷はまだ何でもないよ。陽の光を浴びてごらん。そら、陽が昇ってきた。
     日光よ、ここまで来い! ところで、お前は……お前の市へ変えるのだ。もう時間だ。
ユディット  私の市へ帰って、私に微笑みかける人々は、みな、死に向かって微笑みかけた人ばかりなのだわ。
        私の愛した友達、私の飼っていた動物、私の好きだった花、私の生きがいだったものは一夜であの市から消えているでしょう!
衛兵  友達は諦めなさい……しかし、花は、またお前を楽しませることもある!
ユディット  そうですわね、私には今から、年をとって白髪になり、薄い口髭が生えたユディットの姿が見えますわ、
        年をとったユディットは、日の長い秋の夕、桃の花と薔薇の花を見つけて喜ぶこともあるでしょう……でも、私の思い出はどうなりますの?
175名前なし:2009/08/02(日) 21:49:45 ID:vKY+TeTw
衛兵  どんな思い出だ?
ユディット  この暖かい幸福な身体の思い出も、みな年老いた干からびた体の中に朽ちてしまうのでしょうか? 
        ホロフェルネスの贈物はどうなるのです? 彼の息子が出来るでしょうか? 
        私は息子が持てるのでしょうか? お願いです……この苦しみから私を救ってください。
衛兵  もう呻き苦しむのは沢山だ、いい加減にしないと酷い目にあうぞ! 
     わしに何を言えというのだ、ユディット、わしはこれから神の元に帰り、神の罰を受けるのだぞ! 
     わしはお前を説き伏せてやるために、神の秘密を破ってしまったのだ。
     わしは位を落とされ、古参天使の格を奪われるのだ。
     それもいい、お前の苦しみが少しでも軽くなるなら、こう思っていいのだ、
     わしが下級天子の仲間に落とされたのは、わしにとってはユディットという名が愛の名であったためなのだと……
     しかし、すぐわしの言うことに服従してくれ、さもなければ、わしはこの場で、民族の面前で天使の形を取り戻して、お前に躍りかかるぞ。
     神の作った嘘をお前の咽喉から搾り出すためにお前と角力をとるぞ。
     わしは牛飼いが羊飼いの女を押し倒すように、お前を地面に組み伏せてみせるぞ!

彼は素早くユディットの方を押さえつけて、地面の方へねじ伏せる仕草をし、
それからまたベンチに身を投げる、泥酔した衛兵はまた眠りに落ちる。
176名前なし:2009/08/02(日) 22:12:41 ID:vKY+TeTw
第八場  ユディット、ヨアキム、ポーロ、衛兵(横になったまま)

衛兵がベンチの上に横たわるとすぐに、ヨアキムとポーロは再び生気を取り戻し、元気になり、途切れた台詞を話し始める。

ポーロ  ……神が特別の使者を送ったと思っているのか!
ヨアキム  神があんたに姿を現すものか!

彼らは非常に昂奮している。ユディットは我にかえり、驚いて、彼らを見つめる。

ユディット  ああ! あなたなのね、ヨアキム!
ヨアキム  この不信心者め! 神が身を隠す気でいるなら、神がどこに隠れているか、あんたに分かるはずがあるか!
ポーロ  あなたは神の光が眩しすぎて、目が潰れてしまったのだ、仕方がない。目の潰れたままでいろ!
ユディット  ご安心なさい……私はあなた方の言う通りにします……
ヨアキム  我々の言う通りにするというのか?
ポーロ  そんなことを言って、またスキャンダルをふりまき、恐慌の種を蒔こうというんじゃないのか? 
      駄目だ、駄目だ、我々の間で万事はっきりと決めるまでは、表へ出るわけにはいかないぞ……あなたの望みは何だ?
ユディット  私、何も条件はつけないで行くと言っているんです。
ヨアキム  条件はつけないと。しかし、こちらに条件があるのだ。あんたが脱線するのを警戒しなければならんからな。
ユディット  言ってください、従います。
ヨアキム  今度、あんたは教会の中に住むのだ。友達にも親類にも会ってはならん。
ユディット  なんでもないことですわ。私ほど汚れた女、私ほど名誉の高い女は、神としか交際できませんもの。
ヨアキム  もし、あんたの口の中にまだ愛と快楽という言葉が残っているなら、今その言葉を叫んでしまえ、もうその言葉を口にするのはこれが最後だ。
       これからあんたは気高い沈黙を守らねばならぬ、その前に、その言葉を唾のように我々に向かって吐くがいい。さあ、吐いたらどうだ!
ユディット  私の口は乾いています……
177名前なし:2009/08/02(日) 22:14:31 ID:vKY+TeTw
ヨアキム  自分の身体が汚れていると感じるなら、侍女を呼ぶがいい。体を洗いなさい、我々は待っている。
ユディット  私の身体は乾いています。
ヨアキム  あんたは明日からは、だらしのない家庭を戒め、規律のない学校を監督し、街の女たちを見張るのだ。
       あんたは教会堂の判事席について、そういう罪人を裁くのだ。罪人に与える刑罰を選ぶのだ。
ユディット  いいですわ、選びましょう。
ヨアキム  あんたは毎日肉食を断ち、粗布を着て苦行するのだ、自分と共に苦行するものは指名しろ、いいか?
ユディット  いいですわ。
ポーロ  では、ユディットに栄光あれ、急がなくてはならん。まだ万事取り返しはつく! 
      待て……このマントを着てくれ。これは黒い。神の花嫁に相応しい……
衛兵  (泥酔したまま)ホロフェルネスの寡に相応しいぞ!
ユディット  彼は何と言ったのです!
ポーロ  ただのしゃっくりさ。意味なんぞあるものか。
衛兵  彼女は愛していた、愛すればこそ殺したのだ……
ヨアキム  あんたはまだ、ためらっているのか?
ユディット  (衛兵に近寄り、愛情と嫌悪をこめて彼を眺める)この衛兵の舌を切らなければならないと思うわ、ヨアキム……
ヨアキム  分かった。
衛兵  ユディット、あの女はそういう名前だった! そしてあの女は、いい肉体をしていたぞ! 一晩中、ひっきりなしに……

ユディットは衛兵の口を手で塞ぐ。

ユディット  この男の舌を切る兵士たちは耳を塞いでおかなければならないわ……

衛兵は起き上がる。
178名前なし:2009/08/02(日) 22:15:12 ID:vKY+TeTw
ユディット  この男は気が変なのかしら?
ポーロ  この男のパントマイムは何のことだか分からない、とにかく、キスの身振りだ!
衛兵  俺のパントマイムか! これはユディットという淫売の真似さ。
ユディット  この男は殺した方がよさそうだわ、ヨアキム……
ヨアキム  よし、殺してしまおう……
ユディット  (衛兵に最後の視線を投げかけてから)行列をお呼びなさい……ユディットという聖女の支度が出来ましたわ。


−幕−
179名前はいらない:2009/11/14(土) 00:26:09 ID:kzMcbat8
あげー
180しんのすけ:2009/11/14(土) 00:40:09 ID:kzMcbat8

いつかの夏休み

ガソリン満タンの自転車で不思議の国を駆け抜けた

不安なんていうのはちっぽけなものだった

いいとか悪いとかじゃなく

素敵とかそうでないとかじゃなく

今はただ僕はあこがれている

僕のそばにいた君に対してあこがれていたように

181キース ◆mWXsJGoj6s :2009/11/14(土) 01:23:26 ID:RsTaTCmJ
詩板でスレたて出来る方ご協力お願いします。

お手数ですがこちらまで来ていただけませんでしょうか?

秘密基地
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/poetics/1257696276/
182名前はいらない:2009/11/15(日) 01:10:22 ID:zhF/Q5Gx
愛させて貰えるなら
あなたを愛させてほしい私は花になり
あなたを迎えに行く
布団に生まれ変わり
あなたを抱き上げる
そういう気持ちを
誰もが持ってる
183名前はいらない:2009/11/18(水) 23:51:36 ID:Vy5ebyPr
もってねーよw
184名前はいらない:2009/11/19(木) 00:40:40 ID:UUmX9kqc
不能者はひっこんでろ
185まるちーず:2009/11/19(木) 00:48:17 ID:I8Un2G+M
男女の愛なんて所詮種を保存する為のプログラムさ
次のプログラムはフォークダンス
それが終わったらキスしてもいい?
186名前はいらない:2009/11/19(木) 03:52:47 ID:1UR36FjB
「空色」

あたしを拒むかのように
歪んで錯視
たった4mmの壁
蹴り倒す気力もなくなった頃
猛威を奮って
あたしを狙うから
泣けずにまたどうしよもない曇り空


嗚呼 せめて涙というkey持って
大雨の後の晴れやかな空を身に纏いたい
生まれてきた意味があるのなら
教えて欲しい


あたしを疎むかのように
揺らいで隠し
また4mmの雨
振り切る季節じゃなくなった頃
同意を押し付け
あたしを庇うから
投げずにまたどうしようもない暗い空


嗚呼 全て笑顔というkeyを持って
大雨の後の晴れやかな空を身に纏って 雷の後の笑えない空も切り裂いて Yeahー

空色に染めて
今 明るい月が照らしてくれてるから
くれてるから
187名前はいらない:2009/11/19(木) 04:52:02 ID:WH1gKUXX
 マエヘナラエ


 マエヘナラエ に押し込まれる人々

 行進の手足を周りと合わせれず 

 罰を受ける僕達

 反抗のために準備した ヨコヘナラエ

 結局

 傷つけ

 傷つけられて

 生き残った方が 罰を受ける世界

 僕達を踏み倒して

 もっと ヨコヘナラエ
188名前はいらない:2009/11/19(木) 20:15:56 ID:v6fZpMVx
>>183
孤独な童貞か?・・・
189名前はいらない
かあちゃんが孫が欲しいと俺に言う