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名前はいらない:
『深海からの笑い』
ユーモレスクに誘われて家出した左耳が岸で見つかったと電話がきた
まだ従順な右耳でその話を聞いたとき、やはりな、と思った
頭のない左耳は前から見たがっていたリュウグウノツカイを見ようと
何も考えず海に飛び込んだに違いない
馬鹿なやつだ
左耳を迎えに車を走らせているとFMからマグマが流れてきた
曲名はわからないがコバイア語特有の発音はマグマに違いない
見えもしないのに見たがって
聴けもしないのに聴きたがる
薄いペンキが存在するならば
どうして割れた氷の上にペンギンの為の
レッドカーペットを引かないのだろう
暗く微睡む欲望が見えた気がした