〜〜詩で遊ぼう! 投稿梁山泊 19th edition 〜〜

このエントリーをはてなブックマークに追加
396人を好きになりました
オフィスワークは平和ボケしていて
あたしは左右に椅子を揺らしながら
灰色だらけの四方をフワフワと漂うような気持ち
暇に飽きて古い伝票を整理していると
赤茶色した1ミリ程の小さな虫がペチャンコに潰れて
エンマークの二番目の線にしがみつくように張り付いていた

「なんか切なかった」

あなたへの夜遅くの電話があたしの生きる頼りなのに
赤茶色い虫の汚らしい色味や赤茶色いひよった足や
仕様の無いはかなさについてひととおり熱心に語ると
1番言いたくない言葉で締め括ってしまって

「あんた可愛いな」

一言で済まされて
そういう話ではないのですが
もちろん悪い気はしないのです

人を好きになりました

あたしが赤茶色い虫なら
いっとう赤茶色い足もいで
あなたに全部あげたい
あたしは多分どこも痛くない
あなたはあたしを摘んで捨てるだろうか
あたしをプチリと潰すだろうか
それでもあたしは多分どこも苦しくない

後頭部は枕に吸い込まれ
足はだるく重くマットレスに沈んで行き
内臓達は揃って熱を出していて
あたしは両手でぐるぐるお腹を掻き交ぜながら
ひいぃひいぃと泣いていました

人を好きになりました

悲しい話ではちっとも無いのですが