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雪積もり、お山を照らす。
踏みつけきしんだ雪の音(ね)は、お山のものとなぜ違う。
あれ、やれ、とんと、雪降らん。
まあ、これ、さぶいが、空澄み渡らん。
お山のさぶさはわれにはわからん。
なんとまあ、不思議なことか、淋しきことか。
姉(ねえ)の帰りを待つのもあきた。
お山はちっとも笑いかけん。
そのうち日暮(ひぐれ)て、お山はだまる。
じぃ、と見つめてわれ泣かす。
泣き濡れて、泣きぬれて、お山の怖さにまた泣いて。
やい、こら、山よ。姉の怖さを知らんとみえる。
ちくりん坊の恨み知らんとみえる。
はげたお山はさぶかろう。
姉が来たりて雪が鳴る。
ズッ、ズズッと鳴りてわれに寄る。
姉の手の細いこと、やさしいこと。
恨みは、どこぞ。
にぎった手のあたたかいこと。