「幻想詩/雨」
雨が降っています
雨ばかり降っています
迎えは来ません
(とりのこされた黄色いロング・ブーツが
遊動円木の下で小さな甕となっている。)
虹は出ません
雨ばかり降っています
(稲穂たちは重い頭を垂れ、
時間の溶けるのを待っている。)
失われたボーリング場では
死んだアーケード・ゲームが雨に濡れ
その陰の下
どうしたわけだか赤い色した風船が一本
ふわふわと
くらげのようにとんでゆきます
(くらげのような、太陽だ。)
「この雨に沈んだまちのなかを
いったいどこへゆくと思う?」
遠くで乾いたかなしみが
ぽつぽつ濡れて泡を吐き
ひめますたちの願いもむなしく
冷たく透きとおってゆく世界
雨が降っています
音のすっかりなくなった
雨ばかり
降っているのです