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344ゼッケン ◆ZkkenDgUE6
「グラフ」1/3

風のない空から
ゆっくり降ってくる雪は
漂白された羽毛に見え、それが
西洋人の友人に
天国を連想させたらしい
天国とはトリ小屋のような場所らしい

死にたいと思ったことはない
死んでもかまわないのだが

こんな嘘をついて気さえ楽になれば
ぼくらもまだ生きていけるということだ

雪は地上の引力と空気の抵抗がつりあった一定の速度で
まるで
糸で引っ張られているかのように
地面まで落下してそこに積もる
地面がなければいつまでも降り続けるのだろう
一定の速度で
速くもならず
遅くもならず
どこまでも
ただ、決まった方向へ
その方向へ向かって
ぼくらが上昇し続けているのかもしれない、静かな
トリ小屋のような場所へ

会議室のドアがノックされ、窓の外を見ていたぼくらは振り返り
3452/3 ◆ZkkenDgUE6 :2007/02/21(水) 09:39:08 ID:aZn2wNoX
時間どおりに部屋へ入ってきた中国人と手を握りかわし
着席したぼくらの目の前のスクリーンには
グラフが次々と映し出される
死の瞬間さえスキップできれば
死そのものは怖くないのだが
脳のネットワークがぷちぷちとちぎられていく
その時間さえなければ

中国人はどう思っているのだろう

もっとも、彼らは死なないのかもしれない
そうじゃなければ
彼らの数の多さを説明できるのだろうか
いつかは死ぬとしてもそれは
ずいぶん先のことなんだろう
ぼくの国の人口は減る
それは毎日生まれてくるより死ぬ人間の方が多いということだ
ネットワークがぷちぷちとちぎられていく
虫食いの脳は幻覚を見るそうだ
白いシーツのベッドが並んだ清潔なトリ小屋のような病院では
その頃、老人となったぼくが片腕に孫のようなクピドを抱き
もう片方の手でむしった羽を地上に降らす
数の少ない人々の頭上にも雪が降るだろう
彼らはそれがどこから来たか分からない
ぼくが天国にいることを知らないからだ
3463/3 ◆ZkkenDgUE6 :2007/02/21(水) 09:39:48 ID:aZn2wNoX
ぼくだけでなく、みんながそこにいて
風のない空から雪を降らせる
少なくなった人々が
ふかふかのベッドにもぐりこめるように

グラフの数値について検討したぼくらは
ノートパソコンを閉じて会議室を出る
今日はダウンタウンのレストランにランチの予約を入れてある