429 :
宮坂純 ◆Q.YLOO/tn6 :
「或る裏切り」
もも、と云う物が居た。
美しく、可愛らしく、また、馨しい。
もも、もも と呼ぶと返事をしない。可愛らしい。
甘えるようなコケットリー。
とは裏腹な優等生ぶり。
さわると、むずがった。
其の内に僕の方がむず痒く成って来た。
気付くと、僕の掌に細かい物を残していた。
其の様な残滓だけでは足りなかった。
中が今にも滴り落ちそうなのは分かっていた。
張り詰めていた。
僕がか?ももが、か?
…奥の水流が、隙間から漏れ出ていた。
其れでも僕はまだ遠慮がちだった。
其れで頬擦りした、瞬間の裏切り。
ざらついた音を僕の頬の外側で立てながら、しっかりと傷付けて行く。
痛い。僅かな刺が無数に埋没して行く、が、僕へ執着を残す訳でも無く。
少しばかり込めた指の間から、どろりと流れ去った。
僕の名前は喚ばれない。
変わりに僕は言った、叫ぶ 代わりに呟いた。
もも……桃、桃。