幼稚園のときおれはヒーローだった
椅子取りゲームでは最後まで残り
跳び箱はおれだけが六段まで跳べて
お遊戯会では最後の取りで
三人でやる踊りでセンターを張っていた
小学校のときおれは優しいヒーローだった
浅野君派閥と石井君派閥にひっぱりだこで
どっちの派閥とも仲良く遊んでいたら
どっちに付くかと問われて
優しいおれはどっちにも付けずひとり遊びを覚えた
中学校のときおれは孤独なヒーローだった
誘われた野球部には入らず
陸上部でずっとハードルと遊んでいた
ひとり遊びを極めすぎてしまったためか
中学校三年の最後の大会で
最後のハードルに悪戯されていまい
いつ以来かの涙を流して
初めての仲間の肩の温かみに思わず
ヒーローマスクを脱ぎそうになった
高校のときおれは暗いヒーローだった
無口でいつも寝ていた
ある日消しゴム拾ってやった女に一目惚れされ
それからクラスの女たちの目がおれに注がれ
おれがクールなヒーローを演じていたのがバレてしまい
それからはクラスの女子の冷たい目と罵声がおれに注がれ
おれはそれでもクールなヒーローを演じ続け
三年間どんな時も机に突っ伏して
卒業式が終わり家のベッドで狂うまで
けっきょく何を演じていたのか分からなくなっていた
いま思えば
頭をぐらんぐらんと振り回して
おれは本当は浅野も石井も大嫌いで
ザリガニ釣りをしていた後藤君と遊びたかった
頭をぐらんぐらんと振り回して
おれは本当はハードルが大好きで
真剣にやりたかったのに孤独を気取って
あの涙の意味を分からないふりをしていた
頭をぐらんぐらんと振り回して
おれは本当はそれでもヒーローになりたくて
いつのまにか本当に分からなくなってしまったなにかを演じていた
そう、いつも家のベッドで
頭をぐらんぐらんと振り回して
そう、幼稚園のときおれは
お遊戯会では最後の取りで
頭についた白いたてがみをぐらんぐらんと振り回して
三人でやる踊りでセンターを張っていた
獅子王という演目の獅子のヒーローになっていたんじゃなく
ただ演じていただけだった
頭をぐらんぐらんと振り回して
五畳足らずの部屋で
マスターベーションの処理後のティッシュの山と
一週間放っておいた洗濯物の山と
後がつかえた書きかけの詩の原稿紙の山が
どこかのヒーローに助けを求めている
そう、いまは寮のベッドで
頭をぐらんぐらんと振り回して