111 :
名前はいらない:
「夜明け前」
夜の
うんと底に街があり
昼に蓄光した鉄骨たちが
節に光虫をとまらせている
プレアデス星団から注がれる
冷気が歩道のタイルを滑る頃
燐光は徐々に力を失くし
竜宮は漁礁へ貌を変える
窓枠の向こうの墨溜まりでは
新鮮な死体が監察官のフラッシュを心待ちにしている
体液と共にはみ出ては
ガラスを呼気で曇らせながら
死後初めての"ヨル"に昂る
歩道橋の下で
街路樹の輪郭で
空き缶の口で非常階段で
排水溝の合流点で
夜の生き物が東の大地の流産を祈祷している
今日こそ夜が終わりませんように
今日こそ日が昇りませんように
彼らの祖先が派生してこの方一度も叶えられなかった願い
勤勉な彼らが息づいてから一日も欠かしていない祈り
無音にも近い大詠唱の中
朝の到来を慢心して人は
ご大層な臥所で眠りこける
112 :
名前はいらない:2006/06/01(木) 23:21:30 ID:KJFqSU/e
夜がその深度を最も増した時
次の瞬間から展開する崩壊
黒糸は隅より解れていく
ジグソーパズルよりも細かいパーツで
黒は加速して失われ
夜の眷属は声も無く伏せる
累々の屍は融解し祓われ
露と変わっては華厳に
平行脈を加重する
熱線の
胸焼けを覚える様なノイズ
と沈黙の中
膨張の止まない畏怖と期待
今日も
遠くの地平線の灼かれる臭いが
悲鳴と共に放射線で劈き
弱々しく震える夜に
目前の死期を宣告する