「爪を見れば」
爪を見れば その人が見える
きれいにきちんと 切りそろえ
尖りがの一つもないように
指先に沿って滑らかな 弧を描いているならば
きっと怖れることはないだろう
きっと引っ掻かれはしないだろう
テーブルの表面をコツコツと
リズムもなしに叩く指先 響く音
時々“カツン” と音飛ばしても平然とした指先からは
苛立つ何かが伝わってくる
心ここに在らず の姿が浮かぶ
落ち着かせてはくれそうにない
甘さは自分に 神経を他人(ひと)に
向けているような気がしてくる
そうして自分の手を見れば
なんの変哲もない見慣れた爪
短か過ぎず 長過ぎず
頂度良いといえば 頂度良く
凡庸と呼ぶなら 凡庸そのもの
こんなものだと言い聞かせ
そんなものだと頷いている
そうした想いで爪を見る
煎じて飲みたい垢はない
煎じて飲ませる垢もない