タイトル 「蟷螂嬉遊自縛」
お題【お題はないです書きたいものを書きたいように書いて下さい】
「あん男は食い物だって言ってんでしょう?」
「ほうほう、んなこと言ってる割には蝶々みたいにおまえ、コ綺麗になりましたな」
何てこった何て欲深いのだろうと
再確認させられたのも突飛な覗きからで
買物がてら久しぶりに立ち寄った
女が勤めるネットカフェ
付き合い始めの舞い上がり妄想の程も漫ろにね
懐いた女の喜ぶ顔が見たいばっかりに
柄にも無く顔もスクラブ入り洗顔料にて丁寧に
洗い込み恥をかかせてはいけないと
万年スーツを脱ぎ捨てて季節感の装いなんて無頓着だが
ゴルチェのタートルで決め込んだが緑
俺は受付近くの隅の部屋 遅番出勤のはず
かの彼女の喜びの姿を見たいばっかりに
部屋を借り入れ潜んでいるわざわざ
馬鹿げているとは思うものの
全ては行動有るのみなんだから
「こないだの男は同級生、昨日スーパーで一緒にいた男は最近一緒にいるのが快適な男、関係ないのに、
あんた何しにきたの?」
「生き生きしてんなあ、おまえ」
使い慣れないパソコンで見るWebページに
かの彼女の名前の欠片から似ている言い回しなどを
拾い上げてはにんまりしている様これこそ幻滅されても
見せたい最も恥ずかしく見苦しい
愛されるべき様態なのであると思うのだったが
盗み聞きしているうちにかの彼女を
この上なく嫌いになって美人そうな写りの
写真をくれたチャット相手に大好きだと送信してみたりした
同じく7枚目のウインドウの中にある掲示板には
唐突にかの彼女を褒め称える書き込みを行った
そして久しぶりにかかってきた同級生からの電話は
浮かれ声で結婚式の招待の電話だったが
電池切れにてぶっつり切れたかを装った
俺が作り出した自分勝手圏外
「あん男はまだ食えるだけまし、あんたなんか何の役にも立たないわ」
「このアマ、俺と付き合っていたとき買ってやった洋服とたまごっち返せ」
彼女の声と知らない男の声が絡み合って
届いてくるPM17:19:13
ライブチャットお試しのウインドウのおねいさんが
必要以上に笑っている最中
腕を両頬に近付けて少しずつ動かすリーリーリー
構えた手を両頬に近付けて少しずつ動かすリーリーリー
鎌を両頬に付けて少しずつ動かすリーリーリー
「そんなの捨てちゃったわ呆れた、あんたキモイよしつこいよこの際だから全部言ってやるセコイし
早いし馬鹿だし嫉妬深いしで不細工あんたといると低水準な生活しか保障されないし、みすぼらしい
格好させといて連れ歩くプライドなしでおまけに耳毛が生えてるなんてサイテー」
「で、相変わらず尻軽で口の悪さはわかったから何が望みなんだ?」
緑色の服が似合うねまるで蟷螂みたいでも素敵よ
だからもう少し延長してくれたらムムフと
先立つものはどっちにしろ金
ライブチャットのおねいさんにも好きですと言ってみる
けれど俺を傷つけようとも愛でようともしない即答
ありがとうにも好きと返してみる
嫌いというはずの無い画面にうんざりしつつ
かの彼女と男の会話もしっかり聞いている俺がいる
「私が好きなら金頂戴、プロテア買えるだけ買って眺めていたいだけ好きなら金を頂戴」
「ここの代金払って残金4000円しかないけどそれで買えるなら金やるよ、で、プロテアって何だ?」
ハヤシライス大盛りください
ハヤシライス大盛りください
ハヤシライス大盛りください
「花が欲しいの」
「じゃ付き合ってくれるよな?」
なら好きな奴に使って散財破綻したほうがマシだと思うものの
破滅的なこの俺が注文したハヤシライス
お待たせしましたと運んできたかの彼女の微笑みを
赤の他人である一お客の所にたかがハヤシライスを
運んできた笑顔とはいえあんまりにも可愛らしく穢れ無き
美しさだったもので何よりも腹が立ち
まっ茶色過ぎるほどまっ茶色なハヤシライスを
制服姿の彼女にぶちまけて俺は蟷螂らしく
この場で許しを乞うことよりも彼女に頭から食われる事を望んで
カメラの穴に背を向けた
「買ってきな、買ってこいよ、口なんて信用しないよ財布の中身全部私に使ってよ、使ってみろよ」
「わかった、じゃそれで付き合ってくれるんだな、わかった」
腕を両頬に近付けて少しずつ動かすリーリーリー
構えた手を両頬に近付けて少しずつ動かすリーリーリー
鎌を両頬に付けて少しずつ動かすリーリーリー