〜〜詩で遊ぼう! 投稿梁山泊 17th edition 〜〜

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ツインタワービルに飛行機がつっこんでいる映像を俺は親父の病室で見ていた。
抗がん剤で頭はつるつるになってたくせに親父のひげはよく伸びていた。
6人部屋の窓際でゆっくり落ちるの点滴と爆発しているビルの色は
まったく同じオレンジ色であることがとても不思議だった。
親父と今後のアメリカの行方をいくつか推測してテロリストの正体を話し合った。

その日、お袋からきた離婚届に親父は下手な字でサインして
俺の両親は世界的に壮絶な事件の当日離婚した。

親父は冬になる前に最後までお袋の悪口を言いながら死んでいった。
点滴だけで生きながらえてガリガリに痩せていたのにもかかわらず
親父の悪口の口調は息を引き取る1時間前までずっと一緒だった。
お袋が出て行った原因も、病気になった原因も自分にあることを認めようとせず
全部あいつが悪いんだというお袋への悪口が余命以上生かしていたのかもしれない。
いいたいことを全部言ってすっきりした親父はきっと満足して逝ったのだろう。

棺の親父の顔は今まで見たことないほど穏やかな表情だった。

今日お袋から手紙が届いた。
離婚から5年経って今までずっと俺や親父に遠慮していたことを成し遂げたようだ。
姓が変わった送り主先を見て親父と見たツインタワービルが蘇ってくる。
俺の立っている位置は今はグラウンドゼロで、2つの塔はどこにもなくて、
見上げる空には邪魔をするものは何もない。

秋晴れだ。