「星空」1/2
砂漠にぼんやりと座っていると 目の前を
長いハシゴを肩に担いだ男が横切っていく
ちょっと
なんでしょう? 男が身体ごと振り返り、
うぉ、あぶねえ ぶぅんと風を切り、とっさにすくめた頭の上をハシゴの先端が通過する
あなた、そんなものを振り回しては危ない。気をつけて下さい
それは申し訳ありませんでした
いだあ!
丁寧に上体を曲げて詫びた男のハシゴがおれの頭頂を打つ
フ、ヌゥ…ふぬんっ! ふぬんっ!
歯を食いしばり必死に言葉を抑える
おれが何かを言えば、男は答える。次のその一撃におれは耐えられそうにない
男はおれをただ見て待っている。なにを待っているというのだ、ちくしょう
あ、
え?
不意に男が声をあげ、おれは思わず返事をする
あなた、頭から血が出ていますよ。大丈夫ですか?
男がおれに歩み寄り、前進したハシゴがおれの首にひっかかり、頚動脈を圧迫する
おれは くぇっ と言って失神した
目を覚ますと満天の星空で、かたわらでは男が火を焚いている。ハシゴは男の背後の夜に横たえられている
目を覚ましたおれに気づき、男は鉄のポットを火から下ろすとコーヒーを淹れ、湯気の立つカップをおれに差し出す
あ、どうも
血は止まったようです
そうですか。でもまだくらくらします
そうですか。無理なさらぬように
はい。おれはコーヒーを一口すすり、なんという苦さか! とても苦かった。カップを地面にそっと置き、
ところで
はい
どうしてハシゴを持ち歩いているのです?
ハシゴは便利です。たとえば高いところに登ることができます
しかし、ここは砂漠です。高いところなど空以外にありゃしません
ハハ、空に登るのはハシゴでは無理でしょう
まったくそうです。それで不思議に思ったのです
ハシゴは登る以外にもけが人を寝かせて運ぶことができます
けが人を寝かせて運ぶには、ハシゴの両方の端を持つ人間がふたり必要です。あなたひとりでは無理でしょう
たしかに。気を失ったあなたをわたしひとりで運ぶのは無理でした
そうでしょうとも!
しかし、もしも明日、けが人に出会えばあなたとわたしのふたりでけが人をハシゴに寝かせて運べます
しかし、おれはあなたといっしょには行かないような気がします。無辺の砂漠でふたりの人間が同じ方向へ移動する確率は限りなくゼロに近い
そうですね
それでもおれたちはいま、こうして同じところで夜を過ごしています
不思議ですね
不思議です
男がハシゴを立て、下で支える。おれはハシゴを登り、金星の下で出初式のわざを披露する
ハシゴのてっぺんで身体を水平に伸ばし、北斗に向かってかしわ手を打つと、くるりと回ってさかさまにぶらさがる
よ! 日本一!