445 :
口笛を吹きながら:
人間の漬け物を見たことはあるかい
彼らは甕の中で育てられるんだ
頭だけ出して
体は甕の中に閉じ込めて
萎びながら熟成させられるんだ
それは手脚と胴の区別も不確かで
うねりの彫刻をほどこした小さな肉の塊だ
いびつに発達したひとつの足だけが
この肉の漬け物が人間なのだと囁いている
ベトナムのうだる日射しの下
ささくれた茣蓙に転がり
睫毛にとまった蝿をまばたきで追い払う青年は
路上を行き交う人々の足音と
頭元に投げられる小銭の音と
天上で打ち鳴らされる無限律のシンバルを
しとやかな羊の面持ちで聞いている
父さん今日はもうかりましたか
ぼくはお腹がぺこぺこです
こうやって帰りみち父さんに抱かれてみる夕日がぼくはなにより好きですよ
神さまに向かってすすんでいるような気がします
しずかなしずかな時間です
ぼくがどこから来てどこへ行くのかわかるような気がします
なにもかもが過ぎていくようです
父さんぼくは誰のものですか
ねえ父さん、もっとぼくを抱きしめてください
千億の夜に人々は夢をみる
ひかれていく羊の黒い瞳とふるえる尻尾に憐れみの旋律があふれだす
しかし振りかえりながらも人々は
惜別の口笛を吹きながら雑踏へと消えていくのだ