「たこ」
ふたり
霧雨をさけ
吸いこまれた 店内に
骨壷のような しろい
コーヒーカップを あげさげ する
たちのぼるものが
男の顎を くらくする
あるいは
あかるく
はじめての町に よるが
注がれる
うるんでいく頬をこぼさぬように
はしら のようなものを
ささえ直した ら
男の背負う
ガラス張りのよるに
その頭の ひだりわきに
タコ焼きの屋台が
あって
おおきく染め抜いた字が
「たこ」
と よめるのだった
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309つづき:2005/11/08(火) 00:19:48 ID:rU+eLkxg
「たこ」
は 風にめくれて
ときどき、
男の頭の みぎわきにも
現れるのだった 男は
中野重治などについて
かたるが
もう だめなのだった
男のひだりの闇の袖から
あおいネクタイのような
ちぎれた鎖を垂らす
サラリイマンがつかつかと
あゆみ出て
ひかりの中で
タコ焼きを買っていく
男はなにひとつ
知らないのだった
ふたつ
骨壷のようなものが
ながれて
からに
なるのだった