鉄の箱庭のなかで
少年はヘッドホンのなかで叫ぶ
異国の少女のうたを口ずさんでいる
もう誰かが死んでしまったという
嘘をつくのをやめて
少年はヘッドホンのなかで叫ぶ
異国の少女のうたを口ずさんでいる
よこぎってゆく街と駅の風の色を
追っては失い
追っては失い
まるで、と
そこで少年は何かと何かを
結びつけるのをやめた
もう少女のうたは聞こえない
すり減ったリピートボタンから
少年はゆっくりと手を離して
となりの席の肩のぬくもりを確かめに
はじめて世界へと雪崩れこんでゆく
もう少女のうたは聞こえない
もう少女のうたは聞こえない
もう少女のうたは聞こえない
ぼくには感性があるらしく
たとえば君が愛を知ったときの
五分まえと五分あとの
色が何色かを決めてしまえたり
きみがあの月のひかりと
きみのなかのさらさらとした
羊水の嵩をくらべるとき
こっそりと波風をそよがせて
悪戯してしまえたり
きみのかみの毛を星と星のあいだに
架け渡してしまえたりするらしい
けれどぼくには声がないらしく
たとえばきみの一日の始まりや終わりを
いっしょに迎えることはできないし
きみがそのドアを押し開くまで
ずっと待っていなければいけないらしい
そしてぼくが一体なにものなのかは
ぼくにもきみにもわからない
そしてきみはわからなくなると
こわれたブリキの螺子のように
泣き喚いてしまう
母のない子のように
ネオンの下で
少女はせかいの速さについてゆけず
空に吊るされた星を?ぎにいった
つくり笑いをしながら
すこしだけ手を広げると
いつのまにか乳房がおおきくなっていた
けものはそれを遠くから見つけて
かなしくもうれしくもないのに
なみだを枯れた土へと落とした
星を仰ぐたびにふくらんでゆく乳房に
少女はまたつくり笑いをした
ネオンの上でも
少女はせかいの遅さにたえきれず
少女はつくり笑いしかできず
少女は少女でいられず
けものはそれを遠くから見つけて
空を飛べるはずもないのに
星を?ぎに枯れた土に爪を立てた
ネオンが消える頃
星を仰ぐたびにふくらんでゆく乳房に
少女はつくり笑いをしながら乳房を?いだ
ネオンが消えた後
街の遠くの方で
まだ吠え方も知らないけものの本能が
高くか細く誰かを呼び続けている
少女はさなぎを殺す
少女はさなぎを殺す
昨日は何もなかった
少女は毛虫を愛でる
少女は毛虫を愛でる
今日も何もなかった
少女は蝶を知らない
少女は蝶を知らない
明日が在るのかさえ
少女は疑う事でしか
少女は生きられない
少女ではいられない
少女はさなぎを殺す
少女はさなぎを殺す
殺したさなぎを見て
かわいそうと呟いて
また毛虫を採るため
森の奥へ駆けてゆく
ぼくらがまだ少女だったころ
ぼくちはなにもつくれなかった
ぼくらはなにもつくらなかった
ぼくらは空を飛べなかった
ぼくらは空を飛ばなかった
ただずっと空を飛ぶ神さまを見つめていた
気がつくと残り香だけがそこにあった
ぼくらはその残り香から
ぼくらに至ろうとしていた
そして気がつくとぼくらは
もうそこにはいなかった
◎一週間のあいだに夢の前に思い出したこと
・トタンの屋根の滑り台で遊ぶ初秋の雨の笑い声
・定年間近の垂れ目の教頭先生が語る星と数学のおとぎ話
・いつもと同じ音と場所で鳴る柏でつくられた階段のうたの練習
・アロエとチューリップの鉢をいつも売りにくるおばあちゃんのとぼけ顔
◎今日までの出来事
一昨日は図書館の本の位置を
ばらばらにして帰りました
昨日は遊園地着ぐるみに
時給はいくらですかと尋ねました
今日はスクリーンに耳をあて
チャップリンの声を盗もうとしました
明日はバッティングセンターで
145キロのストレートに
キャッチャーミットを構えようと思っています
◎ その他
一日考えた末に書いた“特になし”には詩の原石が詰まっている気がしてならない。
が、それを装った見掛け倒しの言葉の張りぼてで在りうることも肝に銘じておかなければならない。
詩と死が同義語で在るように。
以上、“故人の遺言嘘八百選”より抜粋
最上階の角部屋の西日を背に急に雨が降り出す
爛々とひかる丸い顔の輪郭とぶらさがる昔話
そろそろ恋でもしてみようかしらと女が言うと
虹が二重になって睡眠薬を投与する時間を
近くの寺の鐘が窓をすり抜けて知らせにくる
背なか背なか背なか背なか背なか
人という字は支えあっているのよと女が言う
長いほうが短いほうに寄りかかっているだけじゃないかと
もたれ合う背骨越しに女に言うとどこかのスクリーンが燃え出す
誰もいない誰もしらない町の映画館の白と黒の誰もが見た無声の映画だ
部屋の隅にはもう開けない日記帳がある
あとはたくさんの嘘と目次だけ見終えた小説と
日に褪せたレースのカーテンがゆれてゆれてゆれている
昨日
少女
夢を
食う
昨日
少年
夢を
創る
どうしてもっと簡単に生活はつくられないのだろう
今日
少女
夢を
夢む
今日
少年
夢を
儚む
どうしてもっと複雑に生活はつくられないのだろう
明日
少女
夢を
選ぶ
明日
少年
夢を
殺す
だれかの声がしずかな朝の支度を終えるまで
空っぽの地図にトゥルートゥルートゥルー
いっぱいのお腹にトゥルートゥルートゥルー
どうしてもっとトゥルートゥルートゥルー
トゥルートゥルートゥルートゥルートゥルートゥルー
トゥルートゥルートゥルーもうそこに詩はいない
鍵盤に手が這うと
彼女は取り憑かれた犬になる
眼光は楽譜を焼き尽くし
その先にある触れる音符を生み出す
それを類稀なる嗅覚で犯してゆく
黒の悲しいと白の哀しいの狭間をねり歩く
ああとかそうとかを使わず逃げずに
彼女は感嘆と感歎の季節をめぐる
そしてやがてかんじはこわれて
ヒラガナモコワレテ
katakanamokowarete
羅馬字迄破壊
……♪♪♪♪♪♪♪
♪♪♪♪♪
♪♪♪♪
♪♪♪♪♪♪♪
♪♪♪♪
♪
♪♪
♪♪♪♪……
ぼくは少女を犯した
ぼくは少年も殺した
ぼくは老婆も喰らった
ぼくはけものになった
渋谷で
原宿で
巣鴨で
青梅で
そこで
ふと
ふたり言の
途切れ芽に
ひどいまぼろしを蒔いた
東京の隅で
空白の行をまたぐまえに
ぼくはまたそこで
整えられた二六のローマ字の
つめたいボタンを押しこむのを止めた
楽しみにしてる。がんばれ。
あけましておめでとう
灰色の卒業式がはじまる
ひとつだけひかりの差す
窓の前に立つと
ぼくらは痛いと言って
ヘッドホンを耳にあてる
有明けのうさぎのつんざきが
降り止んだばかりの
汚れた迷子の綿雪の群れを
ひとつずつの名まえのかわりに踏みつける
そんな音さえも
嘘のような気がして
ぼくらは音の首輪を
くいくいと誘いながら
油くさい額縁のなかに
篭り熔けこんでゆく
ぼくらのためだけに
奏でられた音楽は
もう色で表すことができなくて
音符のひとつひとつが枯れては
腐葉土になるため
いつの間にか溶け込んだ
綿雪の群れのうえに
見えないまま不自然に積もってゆく
灰色の卒業式がはじまる
ぼくらの合わせあった机のうえの
ちいさなショートケーキの最後のひと口
痩せたイチゴが
寄りかかる場所をなくして
ただそれだけが鮮やかで
ぼくらはそれを
ふたたび赤と名づけ
もう誰も見ることない朝日に
最後の色付けをし
そしてぼくらはまた痛いと言って
ヘッドホンを耳にあてる
すべてにおいて
すべてにおいて
すべてにおいて
と口ずさんでは
すべてにおいで
すべてにおいで
消えてゆきます
消えてゆきます
ぼくらの言葉に
残された空には
きっと神さまも
知らないところ
最初に創られた
一羽の鳥はもう
そこに居られず
いつのまにやら
羽ばたいていた
すべてにおいて
すべてにおいて
すべてにおいて
と口ずさんでは
すべてにおいで
すべてにおいで
満ちることなく
消えてゆきます
消えてゆきます
羊水記T
@
せかいが
海のなかで
おるがんをひいている
けれど少年の手が
水を掻きわける音で
それは誰にもきこえない
それは誰にもきこえない
いかだだけが知っているひみつ
それは誰にもきこえない
それは誰にもきこえない
誰にもきこえるはずがないのです
A
きのうは大津波でした
あしたはきっと空が降ってくるので
きょうは遠足のまえの日のように
少年は夢のなかに
たくさんの文字を描いて詰めこむのです
B
そうしてあさって
海はまたひとつ
しょっぱくなってしまいます
どうか午後の子どもたちよ
もうまぶたを落とさないでください
羊飼いたちが夜を仰ぐころ
少年はまたひとつ
儚くなってしまいます
C
少年はさくらいろの貝がらと
せかいじゅうの名まえが乗った本を
うみねこと取りかえました
せかいじゅうでいちばんみにくい名まえを
少年は探しましたが
そのページにはひとつのおとぎ話が
書かれているだけでした
D
おおむかしのはなしです
まだひとつも名まえがなかったころ
えいえんという名まえを
のちのちつけられるなにかが
名まえがないいまのちきゅうと
まっくろなところでであったひ
えーんとなきだしたなにかとちきゅうは
だきしめあったといいます
E
まっさらなページを
またいちまいやぶって
少年はパズルをつくります
ちぎった千の紙のきれはしたちが
いびつなすがたを現すころには
少年はいつも疲れはてて眠ってしまいます
いいえ
少年は知らぬ間に気づいていたのかもしれません
きれいにととのった文字を
きれいな紙に端から並べていっても
そこにものがたりが熔けてしまうと
真四角にはならないことを
そしていつも手のなかにある
最後の紙のきれはしだけが
このことを知っています
F
とおい水平線のむこうがわからは
ときどきおとぎばなしが聞こえてきました
ふたつのちがった声でやさしく語られる
そのおとぎばなしの主人公は
どこか少年に似ていました
やがて少年はその主人公の名まえを
せかいじゅうの名まえが乗った本で探しましたが
その名まえはどこのページにも載っていませんでした
G
そうしてその日まっさらなページに
きれいな赤でひとつの名まえが書き足されました
ガリッ!
痛っ!
H
夢をみる日がだんだんすくなくなってきた少年は
これまでにみた夢を思いだそうとしました
・親とはぐれたイルカをつった少女の夢
・人形たちのおしゃべりを盗み聞きする詩人の夢
・まいにち太陽と月を転がすちいさなこびとたちの夢
・海の底でひらかれる深海魚たちの仮面舞踏会の夢
・空と地面のさかいをむしめがねで調べる私立探偵の夢
そうしてひとりごとを呟いているといつかのうみねこがやってきて
鉛筆と少年がみた夢のはなしを取りかえないかとたずねました
少年はたいへん喜びましたが
うみねこはどこかかなしそうでした
I
まっさらなページに
少年今までのできごとをはひたすら書きつづけました
けれども自分をあらわす文字を知らなかった少年は
とたんにかなしくなってそこで書くのをやめました
やっぱり文字は真四角にはなりませんでした
?
おぎゃぁ!
?
これで終わりですがここからが始まりです
羊水記U
@
新宿のアルタ前で見知らぬ人が掛けてくる声のなかには
少女たちの音階がひしめき隠れている
A
原始人の言葉を買い取った文学者は
次の日からマッチを擦って大切な論文が書かれた原稿用紙に火をつけ始めた
B
今日アイルランドの少女の歌は
マウスひとつで世界にとどいた
けれども昨日のセルビアの青年の叫び声は
銃弾となって世界に響いた
C
米粒の橋がかかる寝巻き
恐水病者の涙一リットル
まだにほわない言葉たちまたは意味不明のいたずら書きの原稿用紙数百枚
腐れゆく蛙と蝶と雲雀と犬と猫と浅蜊と蛸とばくてりあ
一本だけ弦の切れたマンドリン
先の尖った幅の狭い革靴
非理論的および感覚的なアフォリズム
手品用品一式
渋谷と新宿にある行きつけの酒場数十件
この現実と地続きの現実を出されたり入れさせられたりしている
被害妄想家で挙動不審者サクタロウ氏
D
三匹のけもの
皆あした生まれてくる
一匹は少女のすがたで
一匹は少年のすがたで
一匹は老人のすがたで
一匹は言葉をつくることしかできず
一匹は言葉をこわすことしかできず
一匹は言葉を忘れてゆくことしかできず
皆あさって死んでゆく
一匹は消えるように
一匹は燃えるように
一匹は知らず知らずのうちに
E
ハードルを跳ぶ少年は
好きな先輩との柔軟体操の時間に
914mmの高さに憂い
指輪物語のホビットになって
どうにかあのバーの下を潜り抜けられないか妄想している
F
ぼくたちのための古今東西ゲーム
ぼうしの下の顔のない人
くちべにを塗る赤ずきん
ためらいもなく渋谷センター街でナイフを見せびらかす十五歳の少年
ちょこんと道端に座りその鋭くひかるナイフを見て笑う女子高生
もふく姿のシンデレラ
むしを愛ずる按察使の大納言の姫君
かかしに着せられた罪
したいの腐植土で育つ彼岸花
はじめての夜
少子化問題に頭を抱えるセオ・ファロン歴史学博士
女郎蜘蛛
だたい
つめたい手足
ためいきと吐息の狭間
G
アンケートの結果報告書
Q.お菓子の家のお菓子には本当は魔女の毒が含まれていたかどうか?
A.はい 3人 いいえ 2人 わかりません 1人 どうでもいいです 94人
H
お父さんはマザーコンプレックスです
お母さんはファーザーコンプレックスです
去年おばあちゃんが今年おじいちゃんが死にました
昨日洗濯物をタンスのなかへしまう時
お母さんのへそくりと一枚の紙切れを見つけました
飼い犬はじぶんの影に怯えてはずっと吠えています
I
最高裁判所裁判長
ネイルアート技師
盲人按摩師
山田太郎くんを救おうの会代表
TV番組「世界が100人の村だったら」のVTR編集者
おるがんを弾く保育士
恐山のイタコ
サーカスのライオンと調教師
世界は今も少女の殻を脱ぎ捨てた人たちによってみたされている!
天使の悲歌1/2
いつの日かすべてを知ってしまったら
ぼくは天井に吊るされた天使に
へたくそな歌を聞かせてやるんだ
その日からどんどん澄んでゆく
こころのハンマーが
今までのよわいぼくやためらうぼく
死にたくなったぼくに触れて
ひとつの音楽が涙に変ろうとも
そのだれも知らない涙で
まだ名まえのない花が咲こうとも
ぼくは天井に吊るされた天使に
へたくそな歌を聞かせてやるんだ
なぁ夜よ
今も空の隅で体育すわりしている夜よ
その日からぼくたちは
親友になれる気がするんだ
夜な夜なぼくのために泣いてくれた
彼女のまっすぐに解きほぐされた髪に
ぼくももっと解きほぐれて
いっしょに泣けばよかった
それはたしかに
ぼくたちのこころのなかの
季節のひとつだった
いや季節であると同時に
四畳一間のボロアパートだったり
オートロック付のマンションだったり
一坪数億円の土地だったり
高架下のダンボールハウスだったりもした
ぼくはやっぱり都会とは無縁だった
そこはどこもかしこも
嘘つきで静まりかえっていた
「なにもない」という鋳型でつくった
金メッキの銅像が工場で大量生産されて
こっそりとみんなが寝静まったころに
そこらじゅうにばら撒かれていた
ぼくはそんな時
天井に吊るされた天使に向って
ひとつの物語をつぶやくんだ
天使の悲歌2/2
昔々、この地には「かなしい」たちが住んでいる谷間がありました。
「かなしい」たちは、あのビルを建てるために削られた大きな山で、採鉱を生業としていました。
採鉱ではさまざまな感情の原石が採れ、それを磨いて人々に売って「かなしい」たちは暮らしていました。
ぼくたちは雪の降らない冬に星を見ていた
あそこらへんにあるのが「騎者」そして「杖」
あそこに見えるはずのもっと星の数の多い星座は「果実の花環」
それからもっと極寄りに「揺籃」「道」「燃える本」「人魚」「窓」
ぼくたちは雪の降らない冬に星を見ていた
いつ見ても代わり映えのない空だった
いつの日かすべてを知ってしまったら
ぼくは天井に吊るされた天使に
へたくそな歌を聞かせてやるんだ
その日からどんどん澄んでゆく
こころのハンマーが
今までのつよがりなぼくやいつわりのぼく
死にたくなかったぼくに触れて
ひとつの音楽が涙に変ろうとも
そのだれも知らない涙で
すでに名まえのある花が枯れようとも
ぼくは天井に吊るされた天使に
へたくそな歌を聞かせてやるんだ
最初の歌い出しに
とてもかなしいと口ずさんで
あまりにもお腹がへったので
ぼくはそこにあった詩を食べた
口にいれたらぴりぴりと舌がしびれた
ところどころやわらかくて
ところどころかたくて
さいごは味がないガムのように硬くなった
けっしておいしくなかった
でもけっしてまずくもなかった
その味をたとえるなら
そうたとえば…
やっぱりよしておこう
ぼくのたとえなんて
この味にたいして
あまりにも陳腐で
あまりにも無粋で
あまりにも詩っぽいものだったから
そしてぼくは
あまりにもお腹がへっていたので
それがなくなるまで
ずっと噛んでは舌でころがして
ころがしてはまた噛んだ
あいかわらず舌はぴりぴりしていた
そのあと急に便意を催して
ぼくは大きらいな洋式便所へ腰掛けた
ぼくは洋式便所より和式便所のほうがいい
なぜならふんばれるから
でも和式便所よりぼっとん便所のほうがいい
なぜならうんこの臭いを嗅がないですむから
うんこはなかなかでなかった
五分してもでなかった
十分してもでなかった
でもお腹がそわそわして
お尻はうっすらと汗をかいて
三十分してもでなかった
一時間してもでなかった
そしてぼくは
この38行目に何となくまとまった終わりの行を書こうとして
2008/02/22(金) 05:47:01現在もまだ
うんこがお尻から出てこない
あなたの詩好きです
504 :
名前はいらない:2008/05/01(木) 00:40:48 ID:akgeyAlc
魔女になりそこなった少女が書いた魔女狩りの日に描いた絵本
おおきなお石のうらにらくがきした
おおきなクレヨンで
おおきなお顔をらくがきした
おおきなおはなをかいて
おおきなおくちをかいて
おおきなほくろやおおきなえくぼ
おおきなお顔をらくがきした
おおきなお石のうらにらくがきした
ちいさなクレヨンで
ちいさなお顔をらくがきした
ちいさなおめめをかいて
ちいさなおみみをかいて
ちいさなしわやちいさなえくぼ
ちいさなお顔をらくがきした
らくがきしおわったらねむたくなって
おめめのうらに夜をかいた
おおきくもちいさくもない夜をらくがきした
たくさんのお魚についばまれながらみなもにあがってくる
くろくピカピカとひかっているしなしなのあの子は
きっと今日みたいな三日月になりたかったんだ
いまあなたが見えているすべての空の色や
いまきみが見えているすべての空の形を
わたしたちはまだ完全に見ることができないらしいので
やっぱりぼくの脳みそも
まだまだ悪だくみを考えているに違いない
すべての空を一枚の絵におさめたという画家の遺言
がれきの病院のお医者さんは
美人な看護婦さんと夜な夜なワルツをまっている
聴診器をおたがいの胸にあてて
患者さんを雇いにいった少年をずっとまっている
なにもないという名のうたがありまして
なにもないという名のこえもありまして
なにもないという名のひとがありまして
なにもないという名のひとにきかせたら
なにもないという名のこころにひびいて
なにもないという名のなみだがながれて
なにもないという名の名がきえたとおもいでしょうが
なにもないという名のせかいがわらって
なにもないという名のなにもないものが
なにもないという名をすてただけだったのです!
貧乏で心優しい墓石屋の老人は
泣く子の崩した石を削りに
昨日から飯も食わずに
牢獄の地面を掘り始めたらしい
一羽のからすが大きな羽根を二枚落としてゆきました
少女はそれをひろい
朝早くからすたちの目をぬすんでは
まいにち羽ばたく練習をしました
すすけた空に向かって
こあい、こあい、と言いながら
くろく鈍くひかる羽根を羽ばたかせ
少女はそれからまもなく
こわい、こわい、戦闘機になったそうです
花子さんは洋式水洗トイレのウォシュレットで服を濡らしてしまって泣いている
メリーさんは少女のケータイ番号を知らずにマンションのゴミ捨て場で泣いている
神さまは使い古された万年筆を置いて
仏さまは合わせた手に掻いた汗をタオルで拭い
悪魔は塗るところがなくなった塗り絵を部屋の隅にしずかに飾った
514 :
bottom in the depths ◆hmvCcJH4do :2008/06/22(日) 14:13:15 ID:2E+bMNMM
天井のすみでおびえているのは誰?
どろどろした文字のなかでおびえているのは誰?
想像の空のたかさにおびえているのは誰?
街と街の終わりにある荒地の境界でおびえているのは誰?
サーカスのライオンをなでながらおびえているのは誰?
意思をもたない人形が書く詩におびえているのは誰?
あそこの詩から聴こえてくる音声におびえているのは誰?
再放送された午前四時のモノクロの映画のなかでおびえているのは誰?
四角いジャングルジム
三角のブランコ
ぐにゃりと曲がったシーソー
それは一羽のしろい鳥
それは一話のしろい物語
そしてそれは間違って羽根を生やしてしまった少女の夢です
515 :
bottom in the depths ◆hmvCcJH4do :2008/07/08(火) 21:45:59 ID:wyr+c9mw
ぼくの持っているものを
きみにあげてしまった日
すこしだけワルツを踊った
それからすこしだけ海を見た
ぼくがあげたものを
きみがきみのなかに隠した日
くらくらするほどワルツを踊った
それからずっと海を見た
海がないている
きみの顔のなかの小物たちに
さざなみのつめたい息がぶつかって
意味もわからないまま
ぼくたちをワルツへと駆り立てる
516 :
bottom in the depths ◆hmvCcJH4do :2008/07/13(日) 01:34:25 ID:S+wZ5NzH
季節を忘れてしまったサンタクロースが
最後に残ったプレゼントを抱えながら
一小節目の音符たちのうらがわを覗きこんでいる
チャイコフスキーの楽譜のなかを旅する少年は
かたどられた星の見えない夜にしかれた
白と黒のレールをのそりに乗って
迷子になったトナカイの飼い主を探している
ぼくたちが眠りにつくころ
地球はひとつのしおりとなって
星座たちが覚えたばかりの感情を
熱くあつくつめたく冷たく流す
朝を見たことのない羊飼いの少女の
瞳のいちばん浅いところに住みついた老人が
まっしろな狼を描いては瞳と地球を出入りしている
瓦礫の無数の尖りが濾され
きらきらとした老人の朝露で喉をうるおす少女
ぼくたちが眠りから覚めるころ
世界はひとつのしおりを捨て去って
星の群れが忘れていった感情を
日に陽に色褪せ日に陽に薫りながら記憶してゆくのだ
517 :
bottom in the depths ◆hmvCcJH4do :2008/07/16(水) 11:39:47 ID:PsJiSVUg
窓から灰色
気泡からとび出たビー玉の精
深海魚になりきれなかったんだろう
いびつになりきれずに
いびつよりもいびつでいて
窓から灰色
三日月の陣痛とともに
跳ねあがる白と黒のうたかた
518 :
名前はいらない:2008/07/16(水) 13:00:29 ID:CRPihL7R
馬鹿でも生きれる
519 :
bottom in the depths ◆hmvCcJH4do :2008/08/14(木) 23:36:38 ID:biG51PgM
ぼう、と考えるハムスターの檻のなか
ぼう、と青ざめた精神のネクタイが
ぬるいエアコンの風になびいている
ぼくは服を脱ぎ捨てた猿人類に
今年流行のコーディネイトを提案する
ボーダーガキテマスヨ
チビ襟ガキテマスヨ
言葉のあや取りが
ぼくの番でいつも終わる
趣味の悪いスーツが独りでにゆれている
ぼう、と考えるハムスターの檻のなか
ぼう、と青ざめた精神のネクタイが
ぬるいエアコンの風になびいている
520 :
bottom in the depths ◆hmvCcJH4do :2008/08/14(木) 23:37:09 ID:biG51PgM
521 :
ローカルルール変更議論中@自治スレ:2008/08/14(木) 23:55:24 ID:nabTLwj8
翻訳好きだね
522 :
bottom in the depths ◆hmvCcJH4do :2008/08/15(金) 00:39:12 ID:MDhvIhRm
お葬式のお花を買いにいったまま
帰ってこないお母さん
トタン屋根のうえで
娘のウエディングドレスを
召そうとしているお父さん
ガラスのシェードに
昔の恋人への嘘をともしたおじいちゃん
垣根のうえで猫に嫉妬したまま
錆びついたペンダントを撫でるおばあちゃん
のこりの一頁が破られた絵本を読み返しては
鉛筆をいつも右往左往させているお姉ちゃん
今日はここまで
明日はいつまで
昨日はあそこまで
明後日はまっしろ
523 :
bottom in the depths ◆hmvCcJH4do :2008/08/15(金) 00:42:47 ID:MDhvIhRm
>>521 ありがとう。
母国語でさえ理解できない毎日です。
僕の肉塊が何を生み出すだろう
僕が息を引き取った後
証明されるのは
僕の無能
罪を沢山作った
当然の報いかも知れない
さようなら幻の栄光
さようならエゴイズムの塊
雪が積もったよ
神さまのお腹のなかで少女の花が色をつけてゆく
おおきな古ぼけたはしら時計の長針が
気の遠くなりそうな朝の顔のかけらたちを拾い集め
月を刳りぬかれた夜はそのぽっかりとあいた空にプールをつくった
ピストルのかたちをした右手と
ちっぽけな地球のかたちをしためいっぱい広げた左手
まっ黒な空から堕ちてくるオルゴール
ソフトビニルの子どもたち
万華鏡の塔
風船と彼岸花
鍵がこわれた窓
真夜中の五分前と真昼の五分後
そのあいだで悶える朝もやのエスプレッソの匂い
鏡のまえのうさぎ
母をなくした夜想曲
温かくてやさしい孤独
爪がのびるように
雨のなかで放映され続けられるチャップリンの声、声、声
と、ねじ巻き人形のこわれる音
ねぇ、お母さん
ぼくが彗星だったころ
ありふれた単語たちの風景画を燃やしに
あのまっ黒な地球へと旅立った日
ぼくはようやくあなたへかなしみを伝えることができたのです
くそったれなきみへ
いつからかきみを書けなくなってから結構な時間が経ちます
でもはじめてほんのちょっとだけど
きみと目を合わせられた気がします
そしてますますきみがわからなくなりました
でもありがとうございます
心から感謝しています
なんだかちょっぴりうれしいです
それじゃまたいつか
と言いつつも
明日にはもう焦ってしまい
満足したいがために
書きたいきみを書こうと思ってしまい
まずそれに嫌気がさし
そしてそれすらも満足に書けない自分に
さらに嫌気がさしてしまう気がしますが
そうすると
きみの薄ら笑いが目に浮かぶので
歯を食いしばって我慢しようと思います
えへへ
ではでは
くそったれなぼくより