25 :
『憎々しい』:
筋肉の陰影と血管の浮き立つ太腕が
今まさに俺の鳩尾にめり込む0.3秒前
腹直筋を怒らせて楯と化すべきか
上腕三頭筋を振り上げ奴のどてっ腹に鉾を刺すか
大胸筋に隠された毛むくじゃらの大動脈弓が
大腿二頭筋からの緊迫のパルスに支えられ
パブロフの犬のような咆哮と共に
選択したのは肉を斬らせ骨を断つ古ぼけた格言
眼輪筋と口輪筋がカッと瞼を見開いたのは
内蔵が剥き出しのまま捻れた鈍痛よりも
三角筋を伸ばし切った爽快感に打ち震えたからだ
外腹斜筋の装甲を難なく貫く手応えに
一瞬だけ虎穴に体重を乗せたヒラメ筋が垂直に勃起する
コヨーテの雄叫びは前頭筋の電圧と共鳴し
広背筋は風呂敷を拡げて感触の余韻を包み込む
ピサの斜塔は修復工事の失敗を告げ
貿易センタービルの廃墟と転じて砂塵が舞う
ガルバーニの蛙の如くピクピク跳ねる奴の肉塊
俺の大腿四頭筋は金属の瞳で見下ろしている
突如襲いかかるホルスタインの反芻
胸鎖乳突筋が痺れるまで勝利の美酒を吐き続け
奴の後頭筋を褐色の土石流で労わる嗚咽
憎々しい
憎々しい
憎悪するのはリングに展示された肉のオブジェ
そして自らの鍛え上げた大殿筋が無様に天井を眺め
折り重なることで完成されたインスタレーション