コテ専用ポエム大会

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546竹輪ぽぇーむ ◆o0rnnbHBHo
『紺碧出刃包丁』#1



嗚呼 待てと暮らせど便りは届かずにっちもさっちもいかぬ日暮し女は
何処へ 聞いてください おとっつあん
毛筆の使い道も怪しげな女なんで心底心配しながらも憎んでおります故
学無さ過ぎ程苦楽自由自在と申しますか
短絡回路の洗脳 過剰木っ端病み付き 微塵ミジンコと大袈裟にも程がありますがそう例えるしかありませんこの私の状態
おとっつあんよ
私は今まで確かな正常倫理常識理性知識性格のもとに生活を営んでおりました
しかしながらそれさえも怪しく
不確かでマトモではありえないと疑い
自分以外の人間を心底好きになる事が出来ぬ事実を受け入れてしまった平成時代の話ではありますが
生まれてきてこの今の今まで私は心底自分以外を好きになった例しがありません事を恥を忍んで白状する次第これ仕方無し宿命
おとっつあん おとっつあんだってホームレスになりたくてなったんじゃありませんよね
勝手に世間っていう眼の束が注目しだしてそう区分分けされたんでしょう?
ダテにホームレスしてないって手みりゃわかるよおとっつあん
媚びるのが嫌なんだよね私にはそれくらい察知出来る
だからその手だよ 三分前まで見ず知らずおとっつあんに話しきり
おとっつあん欲しいものは自分の手で掴む掴まないと気が済まないソレ妥協が出来ず一撃転落その棘傷のあるその手に
抱き留めて欲しいんだ
この川の流れを聞きながら
 
 
547竹輪ぽぇーむ ◆o0rnnbHBHo :2005/09/19(月) 06:36:50 ID:VwKrOoJt
『紺碧出刃包丁』#2

 
 
名前がコロコロ変わる女は嘘吐きなようで正直だ
あれやこれやてんやわんやと泣き脅す
炊飯器に飯が無いと見れば泣き財布の中身を見せてと泣きマスカラが剥げ落ちて客寄せパンダみたいだと笑えば泣く

「「朧月爪鉤裂きの寝返りや」」

所謂押し掛け居候
店変わるごとに名前を変えついでに名前を呼ぶ位暇なら下拵えをしろと宣う
何様だ貴様等と口走ろうものならば直ぐ様飛んでくるのは出刃包丁
下拵えとは風呂に入れと云う事か察しの悪い私は付け込まれ
とっとと失せろと思う気持ちも相反して不器用な生き方にどことなしか共感をし
灰皿てんこ盛りを美徳とし雑然とした日常のぶち壊し的な女に現つ引き込まれるのでした

「「芥子咲けば蹴散らし赤憎みけり」」

丁度春画の話が弾む季節でありました
意を反して雪美と名乗り始めた女は書道の心得も無いままに筆遊びを覚えた時期で
とにもかくにも雪美は常識外れな破廉恥さで私の反応を見ながら日捲り暦裏に陰茎を描きまして隣近所に出来栄えを自慢して歩く事を日課にしておりました
咎めようものならば畳に突き刺さるのは本当に用意がいい研ぎ澄まされた反射神経で出刃包丁
548竹輪ぽぇーむ ◆o0rnnbHBHo :2005/09/19(月) 06:39:05 ID:VwKrOoJt
『紺碧出刃包丁』#3
 
 
 
「「好きならば切って頂戴花柘榴」」

出会いから片時も離れず我が住居に寄生した女は真理子と名乗り
一本気で入れ込んでいた岩絵の具黒線画を上達寸前ではたりと止めてしまい飲酒に打ち込んでしまいがちになっておりました
酔い記憶を失えば子供を作ると言って聞かず白い泥になって絡み付いてくる始末
かといって酒をかっくらう振りをしてうまく逃れた晩には「孕ませんなよアンタはアタイの子宮を利用して子孫を残したいだけのケダモノだろ」と
馬鹿の一つ覚えも錬磨すればサマになると不本意だが納得してしまうしかないヅカッと右手が半円を描き布団に刺さった出刃包丁
隣近所の主婦達は何やら真理子の気さくさと愉快さの受け皿であって和気靄々
横暴狂暴さは私が請け負い外面上手な真理子に殺意さえ持つ程感情移入が無かったのでした
つまり過激な馴れ合いと親密さは別な話でますます恋人やら夫婦的な感情からは遠退いている私がそこにいたのです

「「蚓腫れ鬼の霍乱くちづけを」」

余りまじまじと眺めた事の無かった身近に居すぎな黒髪玉虫よりじっとりと色艶沈んで
見やるように細部まで隈無く観察出来る時間は花奈絵の爆眠時だと我に返り
世間では朝飯の時刻眠る花奈絵をグウグウ繋ぎ合わせて見ていた
幼い寝顔 幸せに生きている人間の顔
頬艶も良く血管が浮き出たこめかみが目蓋下の眼球の運動と重なっているのを見入り
早く離れなければと私は強く思い
何をどう基準に思ったのか私より年上な女と知りつつも芽生えてしまったのは父親のような我が子感覚
549竹輪ぽぇーむ ◆o0rnnbHBHo :2005/09/19(月) 06:40:22 ID:VwKrOoJt
『紺碧出刃包丁』#4


「「折り畳む丁寧に足夜這星」」

花奈絵から聡子 菜々美と急激に名前を変えた菜々美は私の心の在り方を素早く察知したのか
帰宅すると部屋のカーテンがシンプルな灰色格子模様から花柄に変わっていた
ピンク地に色とりどりの極めて悪趣味なプリント花柄に嫌気がさし私は有無を言わさず灰色格子模様のカーテンに戻すよう菜々美に怒鳴った
それにしても灰色格子模様のカーテンはどこにも見当たらず菜々美は畳に足を投げ出しておんおん泣きじゃくっているだけで役に立つ事は無い
台所へ立ちコップに水を汲み見たこともない鍋掴みが二つ雑巾と一緒に引っ掛けてあり
灰色格子模様の雑巾鍋掴みランチョンマットコースターそういえば玄関にも見慣れないもんがと駆け足で脱ぎたての皮靴が揃えられた私の足元に灰色格子模様の玄関マット
電話にもよく作ったもんだの灰色格子模様電話カバー次から次へとカーテン地を利用した手芸品が蠢いていたのだった
菜々美は寝床を別にした私を恨むように大量生産を始めたのか
庭にはグラジオラスの白が揺れていても見向きもせず網戸を開け放った部屋に揚羽蝶が入ろうものならば叩き追い出して私にしがみ付いた
出刃包丁は灰色格子模様の包丁入れらしき布袋に入れられ木の持ち手だけが顔を出し
常に菜々美の周辺にあった出刃包丁
愛情を示すのが苦手な子供が好きなものを口に含むように
指先から舐める一から十迄舐め腐る
刃物を振りかざし挙げ句の果てに刃物を抱えて泣きじゃくる十八番に鈍感になっていたのは目撃している私であったのでした
550竹輪ぽぇーむ ◆o0rnnbHBHo :2005/09/19(月) 06:42:04 ID:VwKrOoJt
『紺碧出刃包丁』#5


「「宵闇や幽居標の彼岸花」」


ようやく賃貸の契約が切れる住居におさらばをする時がやってきてためらいもなく
月日は流れ私は故郷に帰ると告げた日初めて私は強く手を握る事もしたことがないと気が付いた
ただ二人で同居していたような別れ
そのままの名前でめずらしく続いた菜々美は何故か包丁をきれいな流れの川に埋めたと言った
何時に無く白い肌と正面からじっと見やる黒めがちな眼差しに動けないまま可憐で純真な少女を私は見ていた
死んでくれと表情も変えずに菜々美は声が枯れる迄呟き声がでなくなると
荷造りの終わった部屋に残った新聞紙にペンで書きなぐり始めた死んでくれから始まったはずが死ねに変わり
睡魔に侵された束の間私の首をありったけの力で締め耳を小さな前歯で噛み
「アタイにとってアンタは全てだったのよアンタは私を憎む程に思っちゃいないだからアンタからアタイと一緒に死んだり出来ないって言わせなくないのよ」
「包丁捨ててやったわアンタの為にアタイアンタの望む通りに生きてて欲しいから包丁捨てて生きてやるわ」
互いに落ち着いたら手紙を書く約束をし故郷の住所を交換しあった
海を隔てた住所に驚く事もなく今更別れを悲しむ事も無く

「アタイの名前は紺碧」