「ガキのころ、宇宙船に乗った」
半年前の ボロボロの少年マンガ雑誌
弟とふたり 飽きもせず同じとこばっか読んでた。
少年が押し入れを開ける。押し入れにはいる。
するともうそこは宇宙船のコックピットで
ふわふわの綿毛にシッポの生えたドーブツといっしょに
宇宙を駆ける。
かいつまんでしまえば 他愛もない内容のマンガで
オレと弟はいつまでもむさぼり読んでた。
ぬかるみにまみれたオンボロ県営住宅で
どこの家も くだらない小物で散乱してて
サイダーとビールの空き瓶ケースが階段と踊り場を占領してた。
そして押し入れはひとつきりしかなかった。
オレは県営住宅では年長でアニキ風を吹かしていたが
ガッコでは 誰からも相手にされない貧乏ヘタレだった。
そういやマンガの少年は 自分の部屋の押し入れを開けたんだ。
オレたちに自分の部屋を持ってるヤツはひとりもいなかった。
弟とふたり 家に戻って 母ちゃんに殴られるのを覚悟で
押し入れの布団 ガラクタ 重たい写真アルバム 端切れの入った段ボール
散らかった六畳間にぶちまけて
宇宙船のコックピットを確保する。
体を捩じまげて登る。うまく登れない弟がベソをかいている。
ビリビリのフスマ戸を閉める。
真っ暗になって 弟と汗臭い肌を寄せあう。
さあ 出発だ。