君のセンス五段階+αで評価するよ[vol.29]

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80んなこたーない
「アメリカ」

1.父の場合

朝七時 Y駅前のロータリー
人々の足取りは一方通行
そびえるビル街へ 経済都市の胃袋へ
それを眺め あらめてぼくは感嘆符を漏らす
追い抜きはしない
追い抜かれもしない
これが秩序ある文明のラッシュアワーだ
一体ぼくらは何十年かけて
この平和な朝の忍耐力を手に入れただろう
すると、ちょっとした騒ぎ
横断歩道の手前約十メートル
四、五十代のまぎれもない壮士が一人
流れに逆らいながら叫びはじめる
――諸君、
  私たちはもっと語り合うべきだ 
  魂を、未来を、さまよえる俗人を
  それだけで情念が直立するような!
ぼくは立ち止まる
父さん 革命はとうの昔に僕らを追い抜いたのです
ジェファーソンは独立宣言に署名をしなかったし
ホイットマンは何一つ予告はしなかったのです
父さん ぼくらは追い抜かれたはずじゃないですか
沸き起こる怒号 憤怒 歓声 嗚咽
やがて何事もなかったように人々は行進を続ける
そうして
そんな彼ら、つまりはぼくや君やあの人の
頭上に広がる清冽な朝の青空に
一筋の血潮が渦巻いているのをぼくは見た
81んなこたーない:2005/07/20(水) 18:20:30 ID:AqlQNS+1

2.ぼくの場合

ブロードウェイの舞台裏
突き当たりの右手に扉がある
扉を開けると姉がいる
清潔なソファに清潔なテーブル
テーブルの上には律儀にも拳銃が
なるほどぼくは高笑い
この世はすべてショービジネス
ぼくは拳銃を手に取り
姉に銃口を向け慎重に引き金を引く
が動かない
「なぜ動かない」
「そんなの知らない」
おや なにやらカーテンに怪しげな物陰
颯爽と花瓶を蹴飛ばしながら母が現れる
今日は珍しく緑の油性ペンで
顔中を複雑に縁取っている
そういえば熱帯地方にこんな顔した鳥がいたかもしれない
24歳にもなって 発情期の母を見るのは忍びない
ほれ 囀ってみな
母はおもむろに抱え込んでいた散弾銃を
ぼくと姉に向けぶっ放す
が動かない
「なぜ動かない」
「そんなの知らない」