【喪に服す】
さよなら
さよなら
わたくしは 遠い未来から墜ちて来ました
それは月蝕の下 横たわる肢体
日々 曖昧になっていく記憶が恨めしいのです
誰か そこから臓腑のすべてを掬い上げ
わたくしの愛の純粋さを 証明して下さいませ
動機は こぼれ落ちる悪意であっても構いません
ただ その腕をすっと這い伝い
幾筋にも枝分かれしてゆく 深紅の蛇こそ
真実であると
月は満ち 刻が欠けてゆく
どうか
どうか
夜の帳を纏い 過去への道を辿る
けれど
乾いたアスファルトを叩く靴音は 悲しいほどに今を刻み
孤独な影を責める 嘲笑いの讃歌そのもので
線香がわりに火を点けた煙草の先は ぼう と仄光り
一匹の螢が 連れ合い探して彷徨う姿に思えてなりません
静かに 街が朝日に溶けてゆきます
やがて
雑踏にかき消され 遠退いていく羽音が一つ
嗚呼 今日は十二年前に死んでしまった わたくしの命日であります
けれど それでもわたくしは
手向けるべき祝福の言葉を探して 明日も歩きだすのです
誰か そこから臓腑のすべてを掬い上げ
わたくしの愛の純粋さを 証明して下さいませ
動機は こぼれ落ちる悪意であっても構いません
さよなら
さよなら
月が満ち 刻は欠けてゆく