二段階評価スレ(仮)

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75長介ジュニア ◆kuJg2yitX6

失われつつある職人技を求めて(6)〜コントたらい〜

今は見かけることもなくなったが、一昔前までのコントでは
頭に「たらい」が落ちてくる終わり方が、よく見られたものだ。
じつはあのたらい、家庭用ではなく、コント専用のたらいで
あったことを、どのくらいの方がご存じだろうか。
たらい職人が、ひとつひとつ、コントのために手作りしてい
たのである。

現在日本に、コント用たらいを作っている職人は、一人しか
残っていない。小田原市で「孫田金物製造所」を営む
孫田銀一さん(67)さんである。
「とは言っても、もう十年は作ってません」と、さびしそう
に語る孫田さんは、昭和50年代には、コントたらい製造の
第一人者として広く世に知られていた。
「よく、ビートたけしなんかも、ビール下げて遊びに来てく
れました。<おっちゃん、このタライ、いいな。オレの頭に
ぴったりだよ>なんて言ってね」と目を細める孫田さん。
「最後に来たのはとんねるず。ウッチャンナンチャン?
来ませんねえ…。もう、コントたらいの時代じゃない」

さて、コントたらいは、普通のタライとどう違うのだろうか。
「軽く薄く、が基本です。素材はアルミニウムの合金」と孫
田さんは語る。「大事なのはまず、きれいにヘコむことでし
てね。底を当てたらきれいにヘコむたらいを作るのが、まず
職人の技です。底の金属を極限まで薄くする。機械で作った
んじゃ、どうしてもへこみ方に風情がないんですよ」
76長介ジュニア ◆kuJg2yitX6 :2006/09/22(金) 21:16:19 ID:0DJuVLBb
しかし、良いコントたらいの条件は、それだけではない。
「頭に落ちたときの衝撃を和らげるために軽くするけれども
同時に、重たそうに、きれいに落ちなきゃいけない。これが
難しくてね。業界では、<へこみ十年、落ち一生>と言われ
ていましたね」

孫田さんによると、コントたらいは作るのも難しいが、落と
すのも難しいという。「昭和の頃は、各テレビ局に、たらい
を落とす専門の人、いわゆる落とし師がいましてね。
落とし師ひとりひとりに合った重心のたらいを、作ってたも
のです」
時には、人気コント番組を支える落とし師と、つかみ合いの
口論をしたり、たらい落ちの美学について、夜を徹して議論
したりもしたという。

「熱い時代でしたよ。やはり、コントたらいは、美しく笑い
を取るために、どうしても欠かせない。
今はすたれていても、いつか復活すると思いますよ」
孫田さんの情熱は、少しも失われていない。
しかし、現在、後継者のあてもなく、昭和を彩った小道具、
コントたらいは、日本から失われようとしている。