「詩人の孵化」
夜は震えるゼラチンの塊
その底で
精緻な硝子細工で拵えたサナギの中
小さく足を折り膝を抱え
飽きるほど詩文を書き散らしている
極彩色の植物の花弁や蔓や葉脈の全てに
また極めて精細である菌糸の細胞列にまでにも
詩を、詩文を、書きつける
足下に沈殿する言葉という言葉は
今宵初めて垂れ落つ経血と混じり合い反応を始め
極めて純粋で輝度の高いフレーズになる
皹割れる背には
渡り鳥、渡り鳥、渡り鳥、
を
思わせる
いまだ濡れているような白き羽根
やぶれた皮膚と壊死した罪悪は
静かに剥がれ落ちわたくしは新しく生まれ
暗い空を回遊する黒い魚群と白い月を見る
唇
を
震わせる現象に
広げた羽根の鱗粉の仄ひかり