214 :
人形使い:
「空挺」
―降下
真っ青な空に水が満ち溢れている
惑星たちの運行は青空にきれいな螺旋状の航跡を幾つも描いている
(私は惑星たちの航跡に巻かれた繭である)
青空の白い月の下半分は宇宙を吹き抜ける風の浸食で崩れて、
臼で挽かれた粉のようになって、
名前を忘れ去られた丘の上に降り積もっている
降り積もった月の跡形には木が一本生えていて、
私は月の真下に着地する
その動きに埃ひとつたたない
―飼育箱
私は胸に取り外せない透明な箱があり、
それは乳で満ちていて、
その中に虚無の幼虫を飼育している
幼虫は乳の中にぽっかりとあいた穴としてその存在を認識される
穴は箱の中を這い回る
私は満たされることが無い
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215 :
人形使い:2005/11/23(水) 14:14:39 ID:1fuEm2VB
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―月
箱の中から幼虫が這い出て、
跡形の木を登りはじめる
頂点に辿りつくと、
幼虫は残った白い月を食べ尽くしていく
満たされた幼虫は光の色に色づき、
そのまま月のあった位置に寝転がる
それは上弦の月になって、
ときどき寝返りを打った
―後記
そうして私は満たされることとなり、
満ち足りるということは、
己の中の何かを失うことで入手するものなのだと知った
また、
月を見るたびに、
満ち足りた感覚の中で、
月の裏側でいくつものこうした物語が織り成されていることを思うようになった