〜〜詩で遊ぼう! 投稿梁山泊 14th edition 〜〜

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310名前はいらない
溶接アークの閃光を網膜に残したまま
半身を失ったきみの休日は目覚める
きみの若い筋肉は鉄の匂いを放っている
それは鉄を削り鉄を溶かすこの町の匂いだ

ヤマハX-MAX1200。野獣をかたどったオートバイ
エンジンに火が入った時、太陽はすでに傾きつつある
DOHC・X型4気筒の断続的な排気音を残して
きみはまだ見ぬ海を求めて走りはじめる
それは内なる鉄の本能

ハイウェイは都会をのたうつ巨大な蛇
きみは時速200キロの風に身をなげうつ
暗い戦慄のなかに、
溶解した鉄のほとばしりをきみは感じる
それは毛穴からにじみだし、
皮膚を薄い鋼に変え、きみの孤独を包む

速度があらゆる虚像を剥ぎ取ってゆくのをきみは見る
夕刻の濃い影に蝕まれた高層ビル群から
燃える風がコンクリートとガラスを剥ぎ取り、
隠されていたメタセコイヤの林があらわれる
巨樹はいっせいに噴煙のような花粉を放ち、
厚く空を覆って太陽をさえぎり、
大地はやがて凍てついてゆくだろう



311名前はいらない:2005/04/30(土) 22:38:29 ID:zVRbK8H4
速度は、あらゆる虚構を剥ぎ取ってゆくのをきみは知る
歴史のページは舞台の描き割りのように
きみを取り囲んでいるだけで
きみは弾丸のように薄っぺらな歴史を貫通してゆく
ピラミッドもアウシュビッツもきみが生まれた時に出現し、
きみと同時に歴史は消滅することを知るだろう

時速200キロを超え、狭搾した視野のなかで
オートバイは深海の雷魚のように身をよじる
きみはあらゆる筋肉を使って鋼管フレームのしなりを押さえ込む
きみはすべての神経を使って車体の挙動をさぐる
きみの骨は鋼化して慣性エネルギーを受け止めるフレームとなる
きみの神経をプラグに放電される高圧電流のパルスが走る
きみの血管を熱したあめ色のオイルが流れる

ハイウェイは丘陵の頂上に達する
ただれたような夕焼けの下に海は突然出現した
丘陵を駆け下りるきみの胸を圧して、せりあがる水平線

海は水の山脈となってゆがんだ太陽を呑み込もうとし
その唇が接したあたりの海水は沸点に達してゆく
海が抗う太陽を飲み下してゆくほどに雲があがり、
雲は陸をめざして奔り、押し寄せ、
陸を覆い、きみを包み、
果てしも無く続く乳白色の世界を
半獣神になったきみの影が疾走してゆく


312名前はいらない:2005/04/30(土) 22:40:26 ID:zVRbK8H4
>>310〜311 タイトル「世界」
記入漏れすいません。