〜〜詩で遊ぼう! 投稿梁山泊 14th edition 〜〜
溶接アークの閃光を網膜に残したまま
半身を失ったきみの休日は目覚める
きみの若い筋肉は鉄の匂いを放っている
それは鉄を削り鉄を溶かすこの町の匂いだ
ヤマハX-MAX1200。野獣をかたどったオートバイ
エンジンに火が入った時、太陽はすでに傾きつつある
DOHC・X型4気筒の断続的な排気音を残して
きみはまだ見ぬ海を求めて走りはじめる
それは内なる鉄の本能
ハイウェイは都会をのたうつ巨大な蛇
きみは時速200キロの風に身をなげうつ
暗い戦慄のなかに、
溶解した鉄のほとばしりをきみは感じる
それは毛穴からにじみだし、
皮膚を薄い鋼に変え、きみの孤独を包む
速度があらゆる虚像を剥ぎ取ってゆくのをきみは見る
夕刻の濃い影に蝕まれた高層ビル群から
燃える風がコンクリートとガラスを剥ぎ取り、
隠されていたメタセコイヤの林があらわれる
巨樹はいっせいに噴煙のような花粉を放ち、
厚く空を覆って太陽をさえぎり、
大地はやがて凍てついてゆくだろう
速度は、あらゆる虚構を剥ぎ取ってゆくのをきみは知る
歴史のページは舞台の描き割りのように
きみを取り囲んでいるだけで
きみは弾丸のように薄っぺらな歴史を貫通してゆく
ピラミッドもアウシュビッツもきみが生まれた時に出現し、
きみと同時に歴史は消滅することを知るだろう
時速200キロを超え、狭搾した視野のなかで
オートバイは深海の雷魚のように身をよじる
きみはあらゆる筋肉を使って鋼管フレームのしなりを押さえ込む
きみはすべての神経を使って車体の挙動をさぐる
きみの骨は鋼化して慣性エネルギーを受け止めるフレームとなる
きみの神経をプラグに放電される高圧電流のパルスが走る
きみの血管を熱したあめ色のオイルが流れる
ハイウェイは丘陵の頂上に達する
ただれたような夕焼けの下に海は突然出現した
丘陵を駆け下りるきみの胸を圧して、せりあがる水平線
海は水の山脈となってゆがんだ太陽を呑み込もうとし
その唇が接したあたりの海水は沸点に達してゆく
海が抗う太陽を飲み下してゆくほどに雲があがり、
雲は陸をめざして奔り、押し寄せ、
陸を覆い、きみを包み、
果てしも無く続く乳白色の世界を
半獣神になったきみの影が疾走してゆく
>>310〜311 タイトル「世界」
記入漏れすいません。