夜の随想

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174 ◆TPDxMezcT2
「秋雨」


「煙るような秋雨」が降る夕闇のなかを
ちいさな花がもう僅かに残るばかりの
金木犀の木から放たれる香りは
濡れながら迷走する
誰かの鼻をくすぐることも忘れて
ぬかるんだ庭土の上を

濃い影になった山々の頂を掠める
わずかな残光もまた
屋根瓦や楓の木や
少し媚びた甘い匂いを
誘うように赤黒く染めつつ
空と峰の狭間に段々と消えてゆく

たまらなく冷えて来れば
投げ出していた足をそっと戻して
立ち上がって僕は縁側を後にする
罅割れた土壁を伝い
ささやかな雨音を聴いて
あるかなきかの光りに背を向けながら