不安な夕べ

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130やわらかい蟹 ◆6P3vWUZtcI
「慈照寺」

いつか 失ったのではない
残されたわけでもない
あるものだけがあるように 疎水は碧い空をのぞみ 檜皮の先へと下った 
沿道から 桜がしだれていた
石畳は ひとつ濃い影を映し 
人は通わず 
ただそれだけの道を 影は己の主として
ゆくりない足つきで 一歩 また一歩とたどった
いつか 失ったのではない 残されたわけでもない 
あるものだけがあるように 
影はよるべない石肌を過ぎ
動くものたちが その芳醇をかくすために
道はひとりでに濡れた
桜は骨となるように
くぐもった教えを請いしげく 道へ ひらと落ちた