1 :
本気を捨て詩:
素的じゃなくて捨て詩
だ。
そこんとこよろしく。
2 :
本気を捨て詩 ◆2fJw.yxFzs :04/05/24 22:02 ID:KjnCdBG7
テスト・
3 :
本気を捨て詩 ◆2fJw.yxFzs :04/05/24 22:06 ID:3KlJA1VB
まず2chに詩書く時点で
終わってるな。金儲けの可能性
一厘でもあるかもなの捨ててるわけだから
じゃあ なぜ俺は書くのか
一種の自虐で
書くんでしょう。
4 :
本気を捨て詩 ◆2fJw.yxFzs :04/05/24 22:16 ID:P5J6jJ+c
君が拒絶する
貴族の君が 僕に唾をはく
恋なんてしてあっというまに
占領されし心に 君は素っ気なく
もうそろそろレジスタンスをと
震え
結局君の占領政策 美によって
わらわは物乞いのように
君を必要とし
軽蔑され 上から見下されし嘲笑に
私自身の弱さを憂う 梅雨の朝
5 :
名前はいらない:04/05/28 01:34 ID:MKrjq8bb
期待age
「んだ」
黒いクレヨンを食うんだ
赤い象が死んだからなんだ
赤い象は昨日の朝に死んだんだ
青い砂漠の真中で死んだんだ
赤い象の前でつっ立っているんだ
暗い太陽が顔を隠すんだ
黒いクレヨンを食うんだ
灼けるような甘いよだれを垂らすんだ
赤い象は腐ってドロドロになっているんだ
なにもかんじないんだ
黒いクレヨンを食うんだ
赤い象が青い砂漠の真中で死んでいるんだ
腐ってドロドロになっているんだ
黒いクレヨンをもっと食うんだ
灼けるような甘いよだれを垂らすんだ
なにもかんじないんだ
大木がへし折れているんだ
黒いクレヨンを食うんだ
7 :
名前はいらない:04/05/28 19:52 ID:jnMmMXQa
気軽にドン♪
8 :
本気を捨て詩 ◆2fJw.yxFzs :04/06/02 16:17 ID:b+xFu3d3
あげるなら
落差の残酷
知るがよい
9 :
本気を捨て詩:04/06/02 16:20 ID:b+xFu3d3
>>8 もしかして
誰だかわすれたけど
「せきをしても ひとり」
だったか それぐらいのに
>>8 はなってたかもしれん。
だからだ、本気を捨て詩
なんだ。。
詩の墓場かて・・・魂の墓場
からの脱却を試みて
聴こえない大声を カチカチカチ
勝ち進むキーボード いや むしろギター(エレキ)
テヘ あへ
10 :
本気を捨て詩:04/06/02 23:49 ID:b+xFu3d3
落ちる時はさ
ほんと急にだよ
凄い勢い
登ってるときとの勢いが違うよ
素でさナチュラルに 「自然」
そう本物 的に落ちるんだよね
上るときはさ そう 偽者
「化粧」でって感じで結構きつい いっぱいいっぱいなんよね
でさ、化粧落としたらさ うひゃひゃひゃーーーー
本気を捨て詩 自虐に息し
なんとか生きてる・・・
11 :
本気を捨て詩:04/06/03 01:09 ID:D84SbBhu
ナチュラルって心地いいんだけど。
あんたはどうよ?
12 :
本気を捨て詩:04/06/03 01:10 ID:D84SbBhu
自然体でつきあえるこ
見つかるといいな(いいおっさんモード)
13 :
本気を捨て詩:04/06/03 01:12 ID:D84SbBhu
誰か俺を賞賛し喝采し
崇拝し 偶像に祭り上げ
それからそれから
夕陽について語ろうぜ?(寝不足故)
14 :
本気を捨て詩:04/06/03 01:12 ID:D84SbBhu
評論はもういいよ。
絶対評価で
おまえがすきやねん!!
15 :
本気を捨て詩:04/06/03 01:14 ID:D84SbBhu
ああ
本気を捨て詩
中途半端を生きし
そして 俺は今たぶん
最大公約数のマニフェスト!!!
16 :
本気を捨て詩:04/06/03 01:24 ID:D84SbBhu
ほんとはね ほんとはね
きいてきいて♪
言葉遊びのテクニックにはなーーーーんにも
魅力感じないんよ、たとえ詩でもね
純粋な心に打たれるかな。。言葉じゃなくてもいいよ
それだけが希望のような気するよ。
17 :
本気を捨て詩:04/06/03 18:19 ID:D84SbBhu
本気を捨て詩
18 :
本気を捨て詩:04/06/03 20:38 ID:D84SbBhu
踏み台症候群
・・・・
ジャンプ!!!
20 :
本気で不安:04/06/04 01:20 ID:vHBsWw0g
不安を恐れるな
大丈夫 これは安らかさへと
繋がる 揺り篭なんだから!!
担がれるのは得意だったはずだ、、、軽くても
どんな風に言われようがしょうがない。。
21 :
本気を捨て詩:04/06/18 10:24 ID:MIopwHVe
自称改革派。
斬新な視点と惰性の濁流が
スクランブルエッグ交響曲13番
ちなみに白飯派
おならは時に芸術たりえる が持論
さあ どんとこい!!
よっしゃ!
22 :
本気を捨て詩:04/06/18 10:25 ID:MIopwHVe
3次元の虚無
を成しえるスレ。
水分多いで。
23 :
本気を捨て詩:04/06/18 10:28 ID:MIopwHVe
酒がなくても 酔える!!
不気味な静寂を怖がって、隣に寄り添う姿を見ると
安心できたし強くもなれた、確かに幸せ感じてたけど
なぜか胸騒ぎ、どうにも胸騒ぎ 黄昏時のノスタルジー
夕立の後の静けさ 風は心を通り抜けてさらっていく
べつに気にしていないけど、たまに感じる不安な夕べ
誰か再利用しろよ・・
「不安な夕べ」
送電線が 揺れる
たゆたう風が 褪せる
夕暮れに 静寂(しじま)が降りてくる
あなたはいない
あたしはいない
アナタガイナイ
ワタシモイナイ
夕暮れを無音が占める
夕暮れを陰が満たしてゆく
音無き音
姿無き姿
サビシイ
どこまでも
どこまでも走っていけそうな気がした
耳元のリズムに乗って
何の根拠も示せないまま
すべる車輪
夕焼けが広がる鉄橋
手を離し広げ 雄叫びを上げる
この微かな胸騒ぎに
闇はせまる
その幸せな愚かさを責めることなど
今更誰が出来るだろう
どこまでも
どこまでも走っていけそうな気がした
迫り来る
無間の闇を目の前にして
どこまでだって走っていけそうな
気がした
言い争う
敵はいない
僕は何を
涙雨
ああ それは確かだ
とてもとてもとても愚かだっただろうよ
だけど僕は僕は僕は
降り注ぐ
少しずつ
暗く
うな垂れる首
少しずつ
何もかもそのままに
暗く暮れていく
何もかもそのままに
少しずつ
崩れていく
降り注ぐ
涙雨
少しずつ
汚い泥水
浸り
濡れていく
何もかもそのままに
暗く暮れていく
29 :
名前はいらない:05/02/18 02:54:35 ID:1QonSX7H
オレンジに煙る夕景
ベランダのデッキチェアーに腰掛けて
地平線の煙突からは煙
眼の下の高速道路から排気ガス
また 明日が来る
また 明日が来る
まだ何も明日を迎える準備は出来ていない
ものうげに雑誌の頁をめくりながら
未来の憂鬱
未来の不安
31 :
名前はいらない:2005/04/03(日) 00:14:26 ID:I9nZYKdw
夜が嫌いである
安んじて眠る理由がないので夜が嫌いである
誰しも休息のなかにあるので夜が嫌いである
自らを憎むに次ぐほどに夜が嫌いである
32 :
名前はいらない:2005/06/25(土) 21:02:17 ID:1Wufy/FS
test
阪神《8R》 3歳以上500万下(芝2000) ヒューマンエラー 10着/12人/14頭
福島《11R》 安達太良ステークス(1600万下・ダ1700) エドモンダンテス 10着/1人/15頭
阪神《11R》 ストークステークス(1600万下・芝2000) カゼニフカレテ 7着/10人/13頭
33 :
名前はいらない:2005/06/25(土) 21:03:12 ID:1Wufy/FS
test
阪神《8R》 3歳以上500万下(芝2000) ヒューマンエラー 10着/12人/14頭
福島《11R》 安達太良ステークス(1600万下・ダ1700) エドモンダンテス 10着/1人/15頭
阪神《11R》 ストークステークス(1600万下・芝2000) カゼニフカレテ 7着/10人/13頭
34 :
名前はいらない:2005/06/27(月) 00:38:12 ID:Au1BAdil
test
函館《4R》 3歳未勝利(芝1800) スマイルフォライフ 3着/9人/14頭
阪神《7R》 3歳以上500万下(ダ1200) ゲッケイジュ 13着/13人/16頭
函館《8R》 3歳以上500万下(ダ1700) イエス 4着/2人/9頭
函館《8R》 3歳以上500万下(ダ1700) サンゴノウミヲ 3着/5人/9頭
阪神《9R》 舞子特別(500万下・芝1400) セイシュンジダイ 4着/7人/18頭
阪神《10R》 水無月特別(1000万下・芝1200) ステキプレゼント 4着/10人/11頭
35 :
名前はいらない:2005/06/27(月) 00:40:04 ID:Au1BAdil
test
函館《4R》 3歳未勝利(芝1800) スマイルフォライフ 3着/9人/14頭
阪神《7R》 3歳以上500万下(ダ1200) ゲッケイジュ 13着/13人/16頭
函館《8R》 3歳以上500万下(ダ1700) イエス 4着/2人/9頭
函館《8R》 3歳以上500万下(ダ1700) サンゴノウミヲ 3着/5人/9頭
阪神《9R》 舞子特別(500万下・芝1400) セイシュンジダイ 4着/7人/18頭
阪神《10R》 水無月特別(1000万下・芝1200) ステキプレゼント 4着/10人/11頭
36 :
名前はいらない:2005/06/27(月) 00:41:10 ID:Au1BAdil
test
函館《4R》 3歳未勝利(芝1800) スマイルフォライフ 3着/9人/14頭
阪神《7R》 3歳以上500万下(ダ1200) ゲッケイジュ 13着/13人/16頭
函館《8R》 3歳以上500万下(ダ1700) イエス 4着/2人/9頭
函館《8R》 3歳以上500万下(ダ1700) サンゴノウミヲ 3着/5人/9頭
阪神《9R》 舞子特別(500万下・芝1400) セイシュンジダイ 4着/7人/18頭
阪神《10R》 水無月特別(1000万下・芝1200) ステキプレゼント 4着/10人/11頭
37 :
名前はいらない:2005/06/30(木) 20:18:41 ID:xFQ/YuWK
test
【日曜】
函館《8R》 3歳以上500万下(ダ1700) イエス(☆56K・松岡)
阪神《10R》 加古川特別(1000万下・ダ1800H) オジャマシマス(53K・中村)
福島《12R》 3歳以上500万下(芝1200) ピアニスト(55K・後藤)
38 :
名前はいらない:2005/06/30(木) 20:19:19 ID:xFQ/YuWK
test
【日曜】
函館《8R》 3歳以上500万下(ダ1700) イエス(☆56K・松岡)
阪神《10R》 加古川特別(1000万下・ダ1800H) オジャマシマス(53K・中村)
福島《12R》 3歳以上500万下(芝1200) ピアニスト(55K・後藤)
いい大人が
寂しいとか
人恋しいとか
ましてや
愛してください
なんて言えないから
ここにこうして書くのです
「王様の耳はロバのみみ〜〜〜」
40 :
あぶく ◆OPBYKkBBNQ :2005/12/15(木) 22:22:03 ID:P36fFIKU
今日の私の口は
ご飯を食べるため
コーヒーを飲むため
煙草を吸うため
だけについていました
もう駄目かもしれないと思う夜
眠るという、ただそれだけのことが困難で
子供の頃はどうやって眠っていたのか
どうやって、などと考えもせず
枕に頭をのせれば
レールをすべる列車のように
スコンと眠りにおちていた
もう駄目かもしれないと思う夜
誰かにきいてほしくて
もう駄目かもしれないと
42 :
あぶく ◆OPBYKkBBNQ :2005/12/17(土) 04:34:24 ID:FFFURJH5
お題目を唱えよう
人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり人生は一度きり
〈使いきらなきゃ損、損〉
43 :
名前はいらない:2005/12/17(土) 14:15:50 ID:j2DfhegM
>>43 あ、あ、あ、ありがとう。しっかりsageてくれてて、ありがとう。
これからも時々sage忘れると思うけど、あたたかく見守ってやっておくんなさいまし。m(__)m
45 :
名前はいらない:2005/12/17(土) 23:35:08 ID:5tOARwDY
ハイ、忘れずsageますです(笑)
そして、しっかりあたたかく見守りながら読ませて頂きますです♪@43
歯痛には赤児も地頭も勝てません
ごめんなさい
ごめんなさい
ちゃんと寝ます
ちゃんと磨きます
煙草ひかえます
ごめんなさい
ご飯の食べられない私
『ノスタルジック』
昔
今の私のお乳までの背丈もなかった頃
私はいつもオカッパ頭で
水色のジャンパースカートがお気に入り
ケンケン石蹴り
縄跳び竹馬
たまに空き地でドッヂボール
地平は狭くて
空は広くて
夕焼けは大きなスクリーン小さな私は背高のっぽの影連れて
スキップ踏みつつ家へと帰った
『みなし児気分の夜に』
今日の夜も一人
誰かにゆっくりゆっくり
何度も何度も頭を撫でられたい
電灯の下
閉じた瞼に
寄り添う人の影を
体温の揺らぎを感じたい
大丈夫 大丈夫
と私の頭を撫でて
大丈夫 大丈夫
と私の頭を撫でて
みなし児の私は
うつらうつら
家族が取り巻く夕餉のテーブルの夢へと向かっていくでしょう
『庭は奥津城いのちが満ちてやがて土へと還ります』
泣いていたんかな私
ずっと長いこと
涙はでんかったけれども
泣いていたんかな私
おぎゃあ
と 産まれた時から
ずっと泣いていたんかも
涙ぼろぼろ
雨あがりの庭
生まれたての草
引きぬきながら
せっかくうまれてきたのにねぇ
せっかくうまれてきたのにねぇ
泣いちゃえ
泣いちゃえ
いろんな辛いこと
ぜんぶ涙で押し出しちゃえ
馬鹿になり〜たい〜♪
やわらかな馬鹿に〜〜〜♪
眠る眠るひたすら眠る
尿意にも犬の遠吠えにも負けず
眠る眠るひたすら眠る
朝日の眩しさにも空腹にも負けず
眠る眠るひたすら眠る
よだれの冷たさにも首筋の痛さにも負けず
眠る眠るひたすら眠る
今日生ゴミの日だったんだやべ〜
金ねーよ銀行行っとかないとぉ〜
などと思いながら
眠る眠るひたすら眠る
頭も身体も溶けるくらい
眠る眠るひたすら眠る
『おでん』
おでん三度目
中身たいらげては汁を足し
具材を入れて
おでんばっかり食べている
美味くて美味くて
ここ一週間
飽きもしないで
おでんばっかり食べている
広いテーブルの上にあるのは
ぐつぐつ煮えたおでん鍋と
皿と茶碗と箸と湯呑みがワンセット
それでもおでんを食べている
鍋料理
遠ざけてた月日の分だけ食べている
泣きもしないで食べている
空の椅子に座っていた人と一緒に
四年分食べている
『タロよ』
タロよ
私が死んだら
私をお食べ
わしわしがぅがぅぐぬぐぬと
私をお食べ
おまえの好きなこの指の
ほんとの味をあじわいなさい
私の亡き骸は
使い用ない抜け骸だから
おまえの腹を満たしたい
焼いて捨てるなんて勿体ない
バチあたります
タロよ
神の子にあらず
仏にもならぬ私を
食べてくれるのはおまえだけ
私をつくった人はもういないから
おまえがお食べ
とりあえず
生きてることに感謝して
ばぎぼぎべりばりずずずりと
骨の髄まで食べなさい
『ただそれだけ』
飯がうまくて
蒲団があたたかくて
ただそれだけ
人が嫌いで
人が恋しくて
家中の窓を開けたまま
煙草の吸いがらに圧し潰される
「おはよう」が言えない
「ただいま」が聞こえない
飯がうまくて
蒲団があたたかくて
ただそれだけ
『キリスト日和』
星を地上に飾りつけ
人々は集う
クリスマスの名のもとに
僕は街を見下ろす丘の上
コートに首すくめ
桜の下の大岩にすわり君を待つ
今日はみごとなキリスト日和
地上の星天高き星
さえざえ光をまき放って
あの光の中
ツリーとケーキとシャンパン・ワイン・キャンドル・ダンスとビンゴゲーム
それと笑顔があるんだろう
二千年のその昔
ユダヤでうまれた小男が
四肢から血を流し死んでいった
〈弟子を持たらば純朴で
六分の狂気四分の熱〜〉
「愛の教え」は五つの大陸七つの海を
血を流しながらひろがった
〈神を持たないイエローモンキー
問題なしんぐれっつらごー〉
キノコ雲の殲滅
実験室にされたこの国で
人々は集う
クリスマスの名のもとに
なにはともあれキリスト日和
僕は大岩にすわり君を待つ
君が来たなら
手をつないで腰かけて
ほんとの星を見上げよう
抱きしめあって
キスをして
神だとか愛だとか魂だとか救いだとか
そんな言葉宙にほおって
美とか理とか真とか己とか
そんな言葉を考えよう
君の言葉と僕の言葉がからみあって
ステキな言葉ができたなら
この大岩にきざみつけよう
日付をいれて
年号のかわりに年令をいれて
なにはともあれキリスト日和
君が来るのを
首をすくめて待っている
『拳』
おそらく私は一人で墓に入る
薄っぺらな涙に送られて
もの言わぬ骨として
先に逝った人達の傍らで眠るのだ
血も遺さず
言葉も遺さず
うつし世の日照り雨のように
ひそやかに消えてゆくのだ
墓の中
私は産まれたばかりの子供に還る
両の手を固く握り
口を大きく開け
突然の世界の重力に
わけもわからず泣き叫ぶ
あやす手にも
なだめる声にも馴染まず
ただ ただ
両の拳を奮わせ泣き叫ぶのだ
ああ
かつて産まれた日
私がその手に握りしめていたものは
こころざし
であった筈なのに!
『寝所にて』
死ぬも生きるも身ひとつのことなれば、不測の事態いつ起こるやもしれず、何があろうと悠然泰然、慌てふためき見苦しき様の無きよう、日々是れマメにつましく過ごさんと願えども、いかんせん暢気、もしくは怠惰、あるいは悄然、まさかの豪胆、/
年新たなる時節においてなぜにこのザマ、家人幾たり、玄関に打ち捨てられたる履物しめて九足、うち真夏のサンダルしめて四足、台風のさい骨折れし傘だらんと立ちて、折り目正しき新聞紙、チラシくわえたるまま積み重なる廊下は真白、/
控え座敷に置きし衣裳吊るせし衣裳の半袖目に痛く、羽根うっすらと埃まといし扇風機さらに痛く、寝所の畳、コミック雑誌書籍書類郵便物にて、坐して半畳寝て一畳を残すのみ、知識情報の混沌混濁目に痛く、はなはだ痛く、焦燥ひたひた湧きあがり、/
未開封郵便物のその一通、ゆるゆると口切ればまろびでる督促の文字、我が身ひとつのことなれど、金のことやら、金のことやら、金のことやら、すなわち金のことで、こころ落ちつけるはずもなく、封書一通かたづきしのみで、/
あとはただ金金金、金のことを考えて、ぼぉと座れば、悠然泰然、ただひたすら、こころ落ちつける場所ほしく、こころ凭れる人ほしく、赤児のごとく無心に涙す。
『道』
車を替えた
小さな空色の車
前のとくらべれば中はかなり狭いけど
それでも座席は四つある
急ぐ旅じゃない
お気に入りのCDかけて
お気に入りの珈琲かって
道ゆく景色に目をむけながら
国道を西へと走る
「ロープウェイで登るんぞ。
あんたも行こや」
あの人の声と
空白のままの納経帳をつみこんで
雲べりの寺を目ざして
反対車線に
大荷物せおった遍路が見える
白装束に杖ついて
《同行二人》
笠の文字もおそらくは杖
その昔
病得て家追われ
打ち棄てられた者達が住まった道
生きるために歩いた者達の足跡を
空色の車でたどってゆく
座席四つもいらないけれど
疲れた時に全部倒して休めるのは
少しうれしい
急ぐ旅じゃない
帰る場所に
誰かを待たせた旅でもない
新しい車のアクセルを
足踏み気分で踏みこんで
あれやこれや
語らうはずの話を思いながら
語った話を思いながら
雲べりの寺へと
雲べりの寺へと
《はるばると雲のほとりの寺にきて
月日をいまはふもとにぞ見る(雲辺寺御詠歌)》
CDにあわせて歌おう
同行二人嘘っぱちと毒づこう
バカヤロウと声かれるまで叫んでやる
思い出もない車の中で
歩くことが生きることだった者達の
影を踏んで
『新年の朝』
暴力の歴史を綴れば世界史になるとか
そんな私たちにも新年の朝はやってきて
雲たなびく空に
なにやらまっさらな子供の気分で
つつがなく、つつがなくと
祈りではなく呪文のようにつぶやいてみる
あの国の正義くんもこの国の正義くんも
世界中の正義くんの母親はおんなじなのに
腕力や体格や気質のちがいが
わんぱく坊主となきむし坊やにしてしまう
正義くんは母親を振り返ることなどしないから
兄弟喧嘩はこれからもつづくのだろう
殴られたら痛いのに
殴りつづけるわんぱく坊主は
《人の痛いは百年堪える》を
大人の狡さでうたってる
世には
痛覚をもたない人がいて
痛みを知りたいために
人傷つけることもあるという
痛いと言ってもやめてくれない
そんな話を思い出す
相手に伝わらない恐怖は
なんと底知れない恐怖なのだろう!
――けれど
どれもこれも
私たちの正義くんで
正義くんの母親も私たちだから
まっさらな子供の気分で
つつがなく、つつがなくと
祈りではなく呪文のようにつぶやくのだ
新年の朝
雲たなびく空に
そして
雲の果ての見えない空に
『鉛』
いつまでも波打ち際にいたら、体乾くはずないとわかってるけど、足立たなくて、動けなくて。嘘。
家で二人でテレビ観てたら、あの人、おなかが痛いと言って。鉛ができたと言って。そしたら急に雨雲おりて、雷おちて、まばたきごとに景色変わって、高波があたし達を一面の海へひきずりこんだ。/
あたし達は手をつないで立ち泳ぎして、つかまる物さがして。泡たつ波の中、なにやら白くて薬品くさい大きな板流れてて、それに乗っかって、とりあえず沈むことはないと。/
なんでこんなことになったのかと、言ってはみたけど、なってしまったものは仕方がない。二人、がんばろうねと励ましあって、陸探して、でも一面海。見上げても雨雲ばかりで、鳥も飛んでない。寒くて背中痛くて泣きたくて、だけど泣くわけにはいかなくて。/
ほら、どう見ても、あの人の座ってる方が沈んでる!おなかの鉛が大きくなってる!あたしは、大丈夫としか言えなくて、あの人はうなづくだけで。こんな板、こんな板、船じゃないと駄目。舵と海図と磁石ついてないと駄目。/
あの雲の上には青空が広がってるはず。この水の果てには陸地があるはず。そこへ行きたい。帰りたい。テレビの続きが観たい。あの人は板の上、おなかに手をあて、海面じっと見てるだけだった。/
二人言葉もなく、そんな時、雨雲に縄梯子見えた。助けだよ、助けだよ、助かるんだよ。あたしの声にあの人顔あげて、そしてその眼は輝いた。人間の眼ってね、ほんとの絶望のなかにいるときに救いがみえたら、ぱっと変わるんだよ。/
あたしそれ見て、あの人の絶望の深さ知って、でも縄梯子、流木が絡まったもので、波に放りあげられたもので、ひとときそう見せただけで、また海に落ちていった。 /
薬品くさい板の上、あの人かなしく笑って、ずるずるすべって、あたし、あの人の腕つかんで、落ちないで、落ちないでと。でもあの人、おなかに手あてたまま海じっと見て、海の底じっと見て、・・・とぽん、沈んだ。/
あたし、あの人の腕つかんだままだったのかな。よく覚えてないんだ。風吹いて波うねって、もう白い板はなくて、頭ぼぅとして、ぼぅとしたまま、気がつくとずぶ濡れで浜辺にいた。
体乾かないよ。だって波打ち際だもの。え、どうしたのかって?座ってるのよ。それだけよ。二人連れのくせに話しかけないでよ。夕焼けだ。晩ごはんの時間。ほしくないや。テレビもいらない。波しぶき浴びてたいの。ずぶ濡れでいたいの。
あの人と鉛、どこまで沈んだんだろう。あたし、手、離したのかな。
『波打ち際』
私は今も波打ち際にいます
二人テレビを観ていた居間から
突然ひきずりこまれた大海原
そのしぶきの中で
夕焼けを見ています
白く薬品くさい流木に乗って
助けを求めた日々
あの人のお腹の鉛は重量を増し
散弾銃のように砕け散り
漂流一年目のきさらぎの朝
別れの言葉もなく
あの人を水底へ沈めました
そのあと起こった嵐に
記憶はうすぼんやりと途切れがちで
たしかなことは
私は一人浜辺に打ち上げられたということ
たまに通りすがりの人達が声をかけてくれます
二人連れのくせに
波しぶきは私を沖へ誘う時もあり
追い立てる時もあり
どちらの時も私はじっとして
砕ける波の音に耳を澄まし
口もと流れこむ潮をあじわっています
あの人に言いたかったのは
ありがとう
それが言えず今日もずぶ濡れで
浜辺にすわっているのです
あなた
夕焼けがきれいです
『椿』
二月の寒い日
風こそないが寒い日
あの人ドライブに行こうと言って
ついた先は大きなお寺
椿がきれいだと言って
きみ花が好きだろうと言って
緑というにはあまりに黒い葉つらなる坂のぼった
ちょっと早すぎたかな
でももうすぐ咲くから
もうすぐ咲いたって
今つぼみなら意味ないじゃん
思いつきばっか
期待はずればっか
優しさに似た優しさばっか
だけど
満足そうなあなたの顔に
満足する私がいたんだ
つばき咲く春なのに
とうたう唄があって
あなたはいない
とうたう今
あなたの笑顔と
寒空に口つぐんでた
ひたむきな花を想うのです
『表札』
家の表札を[幸せ]に変えたら私は[幸せさん]になった
玄関を開けるたびにパンフレット手にしたセールスマンが
「幸せさん、買いましょうよ」
とにこやかに話しかけるものだから
〈住まいの泉クリーンセット〉やら〈酔いどれま専科銘酒百撰〉やら〈やすらぎの家具ホールドタイト〉やら〈東西アートギャラリー芸術は至上の愛〉やら
さては幸せとは物を得ることであったのかと
いささか腑におちぬながらも勧められるままに買い込み
果ては
〈私は海の吟遊詩人かもめよ碧いくちづけを〉なるクルーザーを勧められるにおよび
これはいかんと
表札を[不幸せ]に変え私は[不幸せさん]になった
すると今度は
玄関を開けるたびにざんばら髪の女が
「不幸せさん、これ買わないと・・・」
と鳴咽まじりで囁きかけるものだから
〈健康掛け軸医者ぽいぽい〉やら〈世界の奇石モダンマジック〉やら〈テロリズム指南報復こそ生きる術全三巻〉やら〈仏への道CD講話西方浄土に日はまた昇る〉やら
さては不幸せとは呪術的思考ないし妄想喚起力であったのかと
いささか納得しながらも勧められるままに買い込み
果ては
〈極東のノアの方舟象も飼えます広いです礼拝所だって建てられますよ〉なる宅地物件を勧められるにおよび
これはいかんと
表札を[いっさいは過ぎていきます]に変え私は[いっさいは過ぎていきます]さんになった
すると今度は
玄関を開けるたびにからっ風が吹きぬけ
砂埃天まで駆け舞い上がり
一点の隙間目を凝らして見ると
荒涼たる大地にひとすじの道がのび
〈ニヒリスト街道〉の看板が揺れていた
『枕をひとつ』
語るほどの人生でもなし
去りがたいほどの舞台でもなし
遊び足らぬおさな児の
ぐずり泣き程度にはかなんで
キャラメルみたいなあの墓に
俺も静かにはいってゆこう
枕をひとつ抱えてさ
『秋空』
突きぬけるような秋空に
太鼓の音が響いたら
喧嘩祭りの幕開けだ
ドンデンドン ドンデンドン
長足袋はいて鉢巻きしめて
地区の名いりの法被はおって
三十余りの太鼓台
辻から辻へと練り歩く
街路はすでに人だかり
警棒さげた奴も鈴なり
ドンデンドン ドンデンドン
高さはゆうに五メートル
重さは二千五百キロ
百の男じゃかつげない
金ピカ黄金(こがね)の太鼓台
馬鹿だろおまえら
ドンデンドンデン ドンデンドン
城から離れた漁師まち
伝統風雅は端よりもたぬ
ただひたすらにでっかく綺羅に
鈍と純を織りまぜて
二百の男の腕でかく
指揮者の笛がピピッと鳴れば
えんやさのさぁさぁ精魂こめて
括(くくり)の八つ房人の字に割り
力いっぱい差し上げる
天幕ふわりと膨らんで
空に飛び立つ風船のごと
見物客のざわめきは
太鼓台の鉢合わせ
いくかいかぬか一寸先は闇か明りか
熱情にきけ男たち
野次と怒号と笛と警告
「退いてください退いてください」
馬鹿だろおまえら
聞く耳もたぬ奴ばかり
ドドドドドドド ドンデンドン
日々営々と肩にのせ
高欄幕に龍のぼる
でっかい金ピカ揺れに揺れ
そおりゃあそおりゃあ
二百の男が
大地踏みしめぶちかます
ドドドドドドド ドドドドドドド ドドドドドドド ドドドドドン
浮世の重さに笑っているな
憤りながら笑っているな
馬鹿だろおまえら
せめても不敵に天高く
思いのかぎり
かついでかついで死んでゆけ
『タコンプレックス焼き』
キャベツと卵と小麦粉
とろっと混ぜて
ごさん十五の黒い穴に流しこむ
タコのかわりに
コンプレックスぽとぽと入れて
目うち棒くるっとまわして
ころころころんころころん
湯気たて皿にかしこまる
私の熱々コンプレックス
神妙な顔していただきます
『愛しい大地』
僕の愛しい大地には
さくらんぼのなる丘があって
冬でもないのに白いんだ
丘は恰好の遊び場で
とんでみたり
はずんでみたり
降りてしばらく歩いたら
小さな小さな落とし穴
片足つっこむのはお約束
さらに歩けば深い森
慎重に僕は進んでいくよ
何があるのか知ってるけれど
いつもワクワクさせられる
君も知っているはずだ
森の秘密は秘密の秘密
『押し花』
夜とあなたの重さが愛しくて
泣く花一輪
私のからだの真ん中が
涙をしとど流します
のしかかる
あなたの欲情に潰される
私は紅い
夜ごとの押し花
『花』
あかりをつけましょぼんぼりに
あやちゃん さやちゃん
いらっしゃい
今日はたのしいひな祭り
ひし餅 あられ ケーキにジュース
チョコボンボンがお待ちかね
お花のかたちのクッションは
まあるいまっかな雌しべが ちょこん
ロゼの雄しべがいかすでしょ
ふちをとり巻く波うつフリル
ペールピンクがかれんでしょ
花は きれいで はかなくて
おみなの 涙の ためどころ
スカートひろげてすわりなさい
じゅんくん ともくん やっくん来ても
けして立ってはだめですよ
スカートあげてはだめですよ
お花はだいじに だいじに うふふ
『まるで風船』
淋しい淋しいとひとしきり泣いて
天へとのぼりそうな心をしずめる
何もないのですよ
此の岸には
約束のないカレンダーがひらひらと
みなも流れてゆくばかり
涙が水際にぽとんと落ちて
錨になって
ゆうらりゆらり
からっぽの心をつないでいます
岸のむこうが滲んだままで
『声』
「なんも、おもんないな」と声がした。
にわかに海がざわめきだした。
そのうち、プニュプニュやら、モニュモニュやら、ジョワジョワになった。
「これや。これを待っとったんや」
次は、ブクブクやら、プカプカやら、スイスイになった。
「そやそや。こうならんとな」
間もなく、ノロノロやら、ズリズリやら、ピョンピョンになった。
「お。そうくるか」
そして、バサバサやら、ドスンドスンやら、ギャオーギャオーになった。
「こりゃ、おもろいやんけ」
やがて、ビュービューやら、ヨタヨタやら、バタンバタンになった。
「え。これで終わりかいな」
そのうち、キョロキョロやら、トテトテやら、キキキィーになった。
「これからや」
次は、ノソノソやら、パオーンやら、バッコンバッコンになった。
「まぁ、こんなもんやろな」
間もなく、ワァワァやら、グサグサやら、ドンドコドンドコやら、ゴォゴォやら、パッカパッカやら、チャンチャンバラバラやら、ザブンザブンやら、デアエーデアエーやら、パーンパーンやら、/
アーメンやら、カァカァやら、キンコンカンコンやら、グラグラやら、ジャジャジャジャーンやら、ガッタンゴットンやら、ハラショーやら、バタバタやら、ピカドンやら、キーンキーンやら、ダダダダダやら、ゴゴゴゴヒューンになった。
「えらいことになっとるがな」
そして、ドヨドヨやら、ヤンヤヤンヤやら、ピポパヒュードッカンドッカンドッカンやら、ギャーギャーやら、ヒーヒーやら、ゲェゲェになった。
「ひゃあ、おもろすぎるで」
やがて、モクモクやら、ザァザァやら、ソヨソヨになった。
「あー、ええもん見せてもろた。ほな、次行こか」
と、最後の声がした。
『ありがとおおきに勘忍な』♪
〜ありがとおおきに許してくれて
女手ひとつで育てた息子
今日からうちが守ります
ほんまはうちを憎らしいやろ
三々九度の盃を
笑顔で見つめるお義母はん
うちかて女やわかります
当たり前やなしゃあないな
せやかて惚れてしもたんや
この人空のにおいがするわ
青くて大きな空のにおいや
今日からうちもあんたの娘
どうぞよろしゅう頼みます
どえらい苦労してきたんやて
誓いのキスに目頭を
うつむきおさえるお義母はん
うちかて女や聞かせてや
とても真似などできません
せやけどうちも頑張るわ
淋しいなるな勘忍してな
いつでも遊びに来とくんなはれ
初孫すぐに抱かせるさかい
体気ぃつけ待っててや
〜この人を産んでくれはっておおきにな
ほんまにほんまにおおきにな
『三途の川の待ちぼうけ』♪
【1】
諦めなさいと旦那さん
すっぽかしだねと女将さん
三途の川の渡し場で
無理を頼んで船出待ち
あんたいったいいつ来るの?
あたし涙がこぼれてる
天の網島治兵衛小春の
真似したわけじゃないけれど
辛い浮世に二人さよなら
末は夫婦(めおと)と
あんなに固く抱き合って
みんないらいら待っている
ねぇあんた
早く早く早く来て来て
三途の川の待ちぼうけ
【2】
行くとこ行ってさ早いとこ
落ち着きたいよと御隠居さん
三途の川の渡し場の無理を承知の船出待ち
あんたいつまで待たせるの?
あたし不安で死にそうよ
《エッ!》
恋の道行徳兵衛お初
追い詰められて曽根崎で
所詮この世じゃ添われぬ運命(さだめ)
俺も後から
すぐに行くよと言ったじゃない
渡しの守もにらんでる
ねぇあんた
早く早く早く来て来て
三途の川の待ちぼうけ
《まだかいまだかい》
も少し待って
《まだかいまだかい》
もうすぐ来ます
《ほんとかほんとかほんとに来るのか》
もちろんもちろん
来ないなら
ちょっと戻って引きずってでも
《そりゃ無理だ!》
【3】
あんたどうして来ないのよ
あたし一人じゃ行かれない
浪花ロマンス治兵衛小春は
今頃きっとなごみ酒
地獄極楽どこであろうと
あんたとならば
咲かせてみせる恋桜
川の流れも急かしてる
ねぇあんた
早く早く早く来て来て
三途の川の待ちぼうけ
『弔春歌』♪
人の世に咲いた桜のはかなさよ
風にひとひらふたひらと
空の憂いに身をまかせ
ああ 私
花の盛りにやきつけた
深い契りを何としょう
春は逝く
舞う花びらもあでやかに
春は逝く
人の世に咲いた桜のせつなさよ
月は欠けても満ちるのに
咲いて散るのが定めとは
ああ 私
なんで蕾でいなかった
今日という日が来るならば
春は逝く
この心だけ置き去りに
春は逝く
人の世に咲いた桜のかなしさよ
風に吹かれて薄紅は
落ちて屍となりはてる
ああ 私
二度と戻らぬ遠い日を
想う涙にすべもなく
春は逝く
舞う花びらもしめやかに
春は逝く
ああ 私
楽しかったと云うべきか
苦しかったと云うべきか
春は逝く
弔う言葉もないままに
春は逝く
『君がため』
春の野にいでて
若菜摘みもうしておりますと
差し伸ばした腕に雪きよらに仄降りまして
無論わたくしの腕のみに降るはずもなく
菜の緑にふいと訪れた白は
それはそれは美しいものではございましたが
わたくしは
己の肌に落ちるや否やじんわりと溶けはじめる
名残の雪の冷ややかさに心をつかまれ
差し伸ばした腕をゆるやかに胸元引き寄せ
その溶けゆくさまを眺めておりますうちに涙があふれ
最早溶けているのは雪ばかりではございませず
頭をあげれば
遥か山の稜線は幾重にも揺れ
嗚呼もう二度とあの人の温もりに触れることは無いのだと
哀しみが今更のごとくに押し寄せまして
然りとて只じっと堪えるより他になく
わたくしが泣けど笑えど
此奴らは季節めぐれば人の哀しみなど知らぬ存ぜぬ
まこと呑気に蕾をつけおって
舞血侮知誣蚩奉躓
種より芽吹き
今まさに種を為さんとしつらえた穂の先を
舞血侮知誣蚩奉躓
丸まり土に還るがよい
あの人おらぬ春なぞいらぬ
縹の空に屠るべし
『地へ』
朝がきたようだ
葉の隙間からちらちらと光
葉の隙間にてんてんと空
ぼく達は行かなくちゃならない
誰に逐われたわけじゃない
行くあてもない
けれどぼく達は行かなくちゃならない
この森をすてて遠くへ
子供のときにみんなで一番の大木にのぼった
空はひろくて太陽はまぶしくて
風が背中を梳いて渡っていった
森の途切れたあたりは薄茶色で
ここの葉よりも淡い緑がぽつぽつあって
見たことのない生き物達が何十頭も立っていた
今はもうあの木の頂にはのぼれない
重くなりすぎたから
かあさんありがとう
ぼく達は行くよ
おととしの春に産まれたぼく達を
何かがせかすんだ
誰に呼ばれてるわけじゃない
行くあてもない
今までと同じように
木から木へと渡って
最後の幹にキスをして
それからゆっくりと木を下りる
おそるおそるこわごわと
三度目の春はどんなだろう
てのひらに初めての土を感じて
ぼく達は歩きだす
行くあてもないけど
行かなくちゃならない気がするから
この毛を爪を何かが衝きあげるから
『銀色の卵』
昔の男から宅急便が届いた
別れてすぐに海外青年協力隊でタイに行ったと聞いた
二年になる
箱を開けると繭玉のような緩衝材の中に銀色の卵がはいっていた
そのままにしておいた
ルルル・・ルルル
今の男からの電話はやけに心を弾ませた
次の日の夜家に戻ると卵が孵っていた
銀色のひよこだった
綿毛に埋もれ目は見えず嘴と爪が光っていた
そのままにしておいた
ルルル・・ルルル
今の男と明日逢う約束をした
次の次の日の夜家に戻るとひよこが死んでいた
傍らに銀色の卵があった
そのままにしておいた
ルルル・・ルルル
友達からの愚痴テルだった
次の日の夜家に戻ると卵が孵っていた
銀色のひよこが銀色のひよこを食べていた
ルルル・・ルルル
今の男に電話をかけた
話し中だった
ルルル・・ルルル
今の男に電話をかけた
伝言サービスが流れた
次の日の夜
ルルル・・ルルル
今の男からのコールカウントは九回で止んだ
次の日の夜家の中には銀色の卵と銀色のひよこと銀色の羽毛と銀色の骨と銀色の爪と銀色の嘴と銀色の二個の殻があった
繭玉が箱からこぼれていた
血が付いていた
ルルル・・ルルル
職場の出入り業者からだった
明日食事に行く約束をした
ルルル・・ルルル
今の男には「まだ決められない」とだけ言った
次の日の夜銀色のひよこに触ってみた
血の付いた嘴でつつかれた
死んでいる方のひよこは中身がないみたいに指がめり込んだ
目がなかった
三つの殻にこぼれた繭玉をいれてみた
銀色の羽毛をかぶせてみた
骨を爪を嘴を殻のかけらを散らしてみた
月明かりに虹のパノラマが流れていった
『夕焼け』
波がだんだん高くなる
ふうん
父さんも母さんもお祖父ちゃんも
みんなあの波にさらわれたんだ
波がだんだん高くなる
ふうん
こうやって死ぬのね
逃げ場はないのね
私の世界もいつかあの波にのみこまれるのね
崖の上で身じろぎもできず
ただ突っ立ってる気分
靄のかかった山も
鳶がくるぅりひらめく空も
しょぼくれわんこがくぅくぅ寝そべる公園も
いつかはあの波にさらわれるんだ
父さん達をさらった名残の水たまりも
水たまりにかかる虹も
いつかはあの波が消してしまう
かなしいな
波がだんだん高くなる
しぶきが陽にきらめいてる
いつかは私を
私の世界をのみこんで
波は静まり透きとおってゆくんだろう
そのとき誰かの世界に
私の名残の水たまりができて
虹がかかって
やがてそれも波にさらわれる
ふうん
とってもかなしい
波はだんだん高くなるよ
逃げ場はないよ
いつかは消えてなくなる涙がかなしいけれど
水底で
父さんや母さんやお祖父ちゃんの涙ととけあいそうで
すこしだけ安らぎおぼえて
だから今日はわんこと一緒に
天をおおう
はてない夕焼けを待っていよう
『すかされ候へども』
あんさん嘘つきはりましたなぁ
あんさん嘘つきはりましたなぁ
なんやの此処
なーんもないやあらしまへんか
温うも寒うも
ひもじいもくちいも
愛しいも口惜しいも
なんもないやおまへんか
此処があんさんゆーてはった極楽どすか
つまらんとこやな
眠とーなるほどつまらんとこや
あんさん何処いてはりますの
これが極楽ちゅーとこどすか
つまらんとこや
けど
なんやえー気持ちになってきたわ
わんわん泣いた後みたいな
お母はんの背中におぶされとった時みたいな
なんや知らんけどえー気持ちや
これが極楽なんやろか
あんさん嘘つきはりましたなぁと
おーて言いたいけど
わて眠とぉなりました
あんさん
あんさんも寝てはりますの?
『左側の女』
歩く私たちの傍らを車が通り過ぎてゆく
スカートがめくれる
あなたは気づかずにチェスの話をしている
楽しそうに
つないだ私の手をぐいぐいと握り込んで
車が通り過ぎてゆく
あなたは「駒をさらうのが快感なんだ」と笑う
私はあなたの横顔を黙って見上げる
車が肩先をかすめた
スカートがちぎれた
腿があらわになった
あなたは笑っている
車の男が尻を撫でてゆく
車の男が下腹をまさぐってゆく
喘ぎ声が洩れる
あなたはまだ笑っている
欲深い軍師だわ
私の手をただ強く握っているだけで
勝利の凱歌がうたえるとでも?
右側は歩かせないくせに
右側の手は別の女を握りしめてるくせに
車のドアが開く
獣じみた男が
ハンドルから少し両手を浮かせ
私を物欲しそうに見つめている
つないだ手を振りほどいて
砕けたヒールをあなたの高笑いに投げつけたら
思いきり走れ
車の入れない路地裏まで走るんだ
獣じみた男は追いかけてくるだろう
ぎらつく目と熱い吐息で
逞しい両腕を伸ばしながら
男は私を存分に抱いたあと
血にまみれた足を静かに舐めてくれるだろう
とまらない涙も舐めてくれるだろう
愛おしそうに
だから、さあ
こいつの手を振り払い
砕けたヒールを叩きつけてやったら
――走るんだっ!
『飯と布団と』
寂しいんですか
寂しいんですか
それでも生きているじゃありませんか
飯はうまいじゃないですか
布団はあたたかいじゃないですか
寂しさも
うまくてあたたかいものかもしれませんよ
いただきます
おやすみなさい
寂しさくんもまた明日
胃の腑がぐるりんぐるりん
煙草とcoffeeでぐるりんぐるりん
依存ぞんぞん〈甘えの構造〉
既存ぞんぞん〈斜めの標榜〉
胃の腑がぐるりん
世界がぐるりん
ぐるりんぐるりん気持ちわるぅ
この体をぬけだしたら
うつくしい世界がありそうで
ありそうで
そんな気がするだけなんだけど
うつくしい世界に行けたらいいなぁ
と思って
ひとつ深呼吸してみる
おだやかな海で遊んでいた頃のことを思うと
かなしくて
おだやかな海で遊んでいた頃の幸せが
かなしくて
雪のふった朝
一面の白にまぁるい石が浮かびあがってる
そんな感じ
言葉を失くして
白い月ばかり見あげるようになったら
どうか
黙って私の横顔を見ていてください
きっと幼な子のように
わらっているから
長寿の森の蔦の枝
からまる樹失くし倒れます
ずざんずざんと何処へゆくのか
這う地は冷たくやるせなく
螺旋の梯子を恨みます
長寿の森の蔦の枝
今日も地を這う地に嘆く
『The book』
〜時はすべりおちてゆく
やわらかな魂のうえを
ゆるやかに
ものがなしく
すべりおちてゆく〜
心がおだやかになりますように
すべてを赦せますように
終のゆうべに
私の生が
うつくしい挿絵のついた
一冊の物語になりますように
『switch witch』
世界の終わりがきたら
ちょっとした魔法をかけて
空から
花を降らせてあげましょう
終わりの日にも
明日を信じることができるように
つぎつぎと
花を降らせてあげましょう
『路 〜野に花うけて風うけて〜』♪
【1】
よるべなき身なれど 雲は今日も流れ
しるべなき路にも 天(そら)は陽をおとす
長い坂 ふり返れば
みんなみんな いい人だった
花は降る 花は降る
時の轍(わだち)いとしむように
花は降る 花は降る
この体中いだくように
【2】
ふかい笹の陰に 笑みを浮かべすわる
地蔵菩薩だれの 咎を背負うやら
ありがとう さようならも
云えず云えず 別れた人ら
風は吹く 風は吹く
つきぬ想い伝えるように
風は吹く 風は吹く
この人の世をあらうように
【3】
幸せも 不幸せも
みんなみんな 夢のように
花は降る 花は降る
時の背中いたわるように
花は降る 花は降る
この人生をつつむように
『あの男恋しい』♪
【1】
死ぬも生きるも 同(おんな)じことと 石を蹴りゃ
川面月 冷たく笑い あばよと消えた
すすき野にひとり
煙草ふかして 星見れば
あの男憎らしい 愛おしい
さよなら一言 それっきり
今頃どこかの 女宿
季節はずれの 花火が一つ
この恋も 打ち上げとくれ
【2】
追えば追うほど 逃げる男と わかっても
目をふせて 背中(せな)で呼ぶよな 女にゃなれぬ
馴染み店ひとり
桟敷の席に 腰下ろしゃ
あの男幸せか 飲んでるか
冷や酒三合 膳に据え
煮魚つまみの 手酌酒
相手いるなら 笑いもするが
鼻唄も でてきやしない
【3】
何を好んで 情無し男 胸に抱く
あきらめに 袖ひかれても 想いは消えぬ
時雨夜ひとり
石の地蔵に 手をあわせ
あの男帰るなら 戻るなら
明日という字は 知ってても
昨日という字が 絡みつく
雪の降る夜は もうすぐ間近
一人寝に あんた恋しい
ほどよくほどよく眠気がきた
抱かれりゃいいじゃないか
ヤツのあたたかさは知っているのに
なぜに不安がつのるのだ?
抱かれなさい
ひととき
なにもかも忘れなさい もう眠りなさい、私
107 :
名前はいらない:2006/05/26(金) 01:40:03 ID:9u7FEW0a
すなはた
『爪』
心ささくれた晩
けものの証の爪をきる
背をまるめ息をころし
けものの証の爪をきる
ほおった牙は月になれ
ひきちぎった尻尾は雲間に流れろ
心ささくれあわだつ晩に
けものの証の爪をきる
ぶつりぶつりと爪をきる
――東のあかつき
白い明星がコロリ――
『極東アジアの海原で』
私のメンタリティーには
狂うほどの甲斐性はなく
途方に暮れとりあえず海に来てみました
真昼の海はひねもすのたりの面持ちで
遥か水平線の向こうから
さざら光をのせた波がすべっては砕け
すべっては砕け
た〜らたらったらったら〜
「中央アジアの草原で」を唄いながら
波をちょっとつまんで持ち上げてもぐりこんでみました
砂はしっとりひんやり
口を開けた貝殻が腹にちくり
頭の上では泡が逆巻き
ずおおおお〜〜〜んと身体中に海の鼓動が走ります
私は長い手足を折り曲げて
ああ泣きたい
おとうさんおかあさん
私どこからきたんでしょう
た〜らたらったらったら〜
中央アジアの草原で
今日も陽は昇り陽は沈み
人々は語らい笑いあい
そして死んでいるのでしょうか
私しばらくここにいます
ほとんどの病気はよく眠れば治るそうです
波が変にめくれていても気にしないでくださいね
よく眠っている証拠ですから
た〜らたらったらったら〜
おやすみなさい
海が空が草原が墜ちてきます
『花火』
夏の花火は海に沈んだ
揺れるシフォンのスカート
脱ぎ捨てた銀のミュール
頬にかかる髪かきあげ
君はCokeのプルトップをひいた
欠けはじめた月
名も知らない砂浜で
名も知らない娘と
当たり前のようにすわっている不思議さ
ぷしゅるるる
暗闇が泡だちはじめている
「コーラって硝石でできてるのよ
人の唾液とまざるとパチパチはじける花火になるんだわ」
波は静かに打ち寄せ
僕たちは青白い焦躁を飲みほす
何処にいてもさびしい
誰といてもさびしい
ほんとうは
夏の花火は海に沈んだ
暗い水底でいまも
とぎれとぎれの発光を繰り返している
『はる』
さくら
大地のわきたつ泡のように花をひろげ
はる
ひざしは真っすぐ
天よりふり
ニヒリストも春には笑う
肺をうがつ紫煙
くちぶえ吹くように舞いのぼらせ
みえないものを見ようとする
『蟹』
三日続けて蟹の夢をみました
まだら赤いとげとげした蟹が寝ている私の口元に寄ってきてキスをしようとするのです
生臭い息を吐きねばい泡を盛り上げ鋏を鉄槌のようにかざし迫ってくるのです
一日目二日目はなんとかかわせましたが
三日目とうとう蟹の泡が唇にふれそれと同時に蟹の芥子粒ほどの目が飛び出し一瞬光り固く閉じていたはずの私の唇から泡はするすると喉元おちてゆきました
それ以来蟹の夢はみません
いつものように暗闇だけが残る夢にもどりましたが胸やけがするようになりました
いよいよ私の体内にも蟹の卵が着床したのでしょうか
父と母と祖父を喰らった蟹
今また私を喰らおうと細胞の奥深くもぐりこみわらわらと肉を穿つ爪蠢かすその時を待っているのでしょうか
カーテンを開けると大学病院が今日も病める人を飲み込み吐きだし増殖しています
やすらぎの園
という病棟ができたそうです
私は映画館で死にたいのに
『ツルルーツルルー』
日曜日のイオンは家族連ればかりで、目のやり場に困った私はとりあえずタワーレコードの前のベンチに腰をおろし、トートバッグに手をいれ探し物をしている振りをしました
携帯電話につけている金属製の象のストラップがやけにガチャガチャ響き、私は携帯を開き昔の男に電話をしてみました
ツルルーツルルー男はどうしたの?と間の抜けた声で言い私はプチリと切ボタンを押しました
その前の男はあやちゃん?と朗らかに叫び、その前の前の男はもしもしと沈鬱に呟き、その前の前の前の男は今頃なんだっと怒鳴り、その前の前の前の前の男はありがと悪いけど後でかけると言いざまプツッと切りやがり、
その前の前の前の前の前の男はまたかよと一言そのまま押し黙り、その前の前の前の前の前の前の男はあやちゃんあやちゃんあやちゃんああかけてきてくれたんだね俺どうしても言いたいことがあるんだ俺はあやちゃとまくし立て、
その前の前の前の前の前の前の前の男はでませんでした
右から左へ左から右へ家族連れが幸せそうに幸せじゃないかもだけど、絆しがらみ自由不自由それぞれ一つの塊となって流れていきます
携帯はライトオフで黒い画面に私の顔が映っています
少し小鼻をあげてみました
眉根をよせてみました
目を細めようとした時にまた着信件数が増えてライトオンになり、クリムトの接吻の待ち受け画面に「着信五件」の表示がでました
皆さん、拒否ってるってまだわかりませんか?
静かに垂れている象のストラップをこづいてやりました
『海底』
男は表札をだしていません
アパートの階段を上って一番奥のその部屋に
私が訪れるのは皆が寝静まった頃なので
男が誰かに名前を呼ばれているのを聞いたり郵便物を目にすることもありません
私はなおちゃんと呼んでいます
素直のなおちゃんです
なおちゃんは私が行くと実に嬉しそうな顔をして私を抱きしめます
大きな浅黒い顔を私の頭にこすりつけ体をまさぐり
私達は海底の昆布のように立ったままゆらゆら揺れています
なおちゃんはどこもかしこも浅黒いけれど目と歯は真っ白です
部屋も奇麗に片付けられていて
箪笥の横の低い籐ボックスの上には淡いブルーの造花と写真が飾られています
羽織り姿の女性とランドセルに背負われているような男児が手をつないで
笑いもせず映っている古いモノクロ写真です
私はこれを見るたび嫌な気持ちになります
夕陽の哀しさと同じです
ぱちんと電灯の紐が引かれ
豆電球の下でなおちゃんの体にまたがってゆらゆら揺れていると
私は小さな小さないくつもの浮き立つあぶくになり
ただひたすら上へ上へと息苦しさを覚えながら
海面をめざして何度も何度もかけあがってゆきます
昆布のなおちゃんは塩の結晶をときおり煌めかせ
私はぷくりぷくりと生まれ続け
あそこに光があるのに光があるのに
決して届かない届かないあの光には
霞んだ粒子の薄闇を
名前も知らないなおちゃんとさ迷うのです
『果実』
空に雲
地には風
ただよい流れ実を結ぶ
ねめつく桃
泣きむし西瓜
シニカルビターなグレープフルーツ
あなたの視線で私は孕む
『牙』
日暮れ
商店街の路地裏
毛もまばらに痩せこけた体縮めうずくまる子猫
鳴きもせずじっと
手近の雑貨屋竹輪買い
ちぎって口元運べばはぐはぐと
力無くも我武者羅な咀嚼
生えたての牙
白く
竹輪さざらに口元こぼれ傾ぐ首
頑是ない飢(かつ)えの懇望
地に這う
その腹にいくばくかの食い物を収めたところで
終(つい)える命
遠からず
艶やかに芽吹いた牙震わせ竹輪食む命
終わりの中に煌々と蹲(つくば)う
哀れさやりきれなく
『思い出』
思い出は
砂時計のなかにある
さらさらと
くりかえしくりかえし
流れる
118 :
名前はいらない:2006/08/14(月) 03:34:45 ID:m0qX1t2B
かけみず
119 :
名前はいらない:2006/08/14(月) 09:34:14 ID:BkYAjAJ8
神は創造した始めの日に色を
二日目に形を
三日目に愛を
四日目に言葉を
五日目にリングを
六日目に力道山を
七日目にきずいたのが世代が違うことだった
『束の間、それでも』
梅雨の晴れ間に陽ざしはあふれ
公園のベンチの背もたれがやけに心地よく
希望
とはこんなものかもしれないと
しろ、あか、あお、
おもたげに咲きほこる紫陽花のあざやかさに
笑みもこぼれる
明日ふたたび雨が降ろうとも
晴れ間にはベンチの背もたれ
身をあずけ
わたる風にこうべを上げて
光のしるべをとらえられますように
『靄』
忸怩たる思いにとらわれて
煙草をくわえ寝転ぶ
そよとも動かぬ空気の中を
靄のような煙が昇っては消えてゆく
鈍重な眠気が眉間に槌を打ち込んでいる
安眠の気配はない
失くしたものを振り返り振り返り
答えのでない問いかけを繰り返し繰り返し
もうあの人の時間は終わったというのに
連綿と悄然と
記憶の靄は日々をつらぬくばかりだ
『お茶碗』
最後の日には
お茶碗を投げるのです
帰ってきても
もうご飯は食べられませんよと
お茶碗を投げるのです
灰と煙になるために
旅立つ人の棺に向けて
現実ですか
まやかしですか
浮き足立った嵐の中を
別れのセレモニーは進んでゆく
心ならずも
帰ってきてはいけませんよと
空に放ったお茶碗は
さよならなのか
いましめなのか
地に落ち
つんざく悲鳴をあげて
あっけなくも割れました
“帰ってくると思ってはいけません”と
123 :
名前はいらない:2006/08/15(火) 01:13:40 ID:xFPIYkvk
「パンドラ箱」
扇風機の微細な光りが天井に存在を誇示して
モーターは単調なリズムと日々を重ね合わせる
コンポからの目は私を見守るかのように
しかして余計な思考をあぶり出し皮肉
いっその事
電気を点けて寝ようか
いや、クスリを飲もうか
足元の見えない坂を下るかのように
薬瓶を持ち上げ逃げ道を模索した
死んでいない父にはじめて会う
「不安」
ライトの端っこ
あともうちょっと
ダイヤモンドの屑に目を細め
ぶらぶらな僕の手
グロッキーな思考
星の数を数える程無謀なこと
何が足りたいのアインシュタイン?
ハリーポッターどうすればいい?
核融合も魔法も使えない
どうすればいい
ヒーロー達よ
瞬きの数を忘れてしまう
将来は、すいかのタネをひとつひとつ識別できる能力を活かしたい。
傷つけたのは誰なんかな
考えてもしゃあないので
やめます
愛をばかにしないでよ!!じぎゃくしこうね!!
「慈照寺」
いつか 失ったのではない
残されたわけでもない
あるものだけがあるように 疎水は碧い空をのぞみ 檜皮の先へと下った
沿道から 桜がしだれていた
石畳は ひとつ濃い影を映し
人は通わず
ただそれだけの道を 影は己の主として
ゆくりない足つきで 一歩 また一歩とたどった
いつか 失ったのではない 残されたわけでもない
あるものだけがあるように
影はよるべない石肌を過ぎ
動くものたちが その芳醇をかくすために
道はひとりでに濡れた
桜は骨となるように
くぐもった教えを請いしげく 道へ ひらと落ちた
ピラミッドの開口部から大量の掛け布団が飛び立つ
なぜかいわれもなくきっかけもなく
しあわせでいっぱいになったので
不安になるが
しあわせがぱくぱく食べてしまう
しあわせは不安でおなかいっぱいになる
どこから訪れるのか
眼を凝らしても
耳を澄ましても
鼻を利かせても
肌を張り詰めても
わからない
その方角はどこ?
あたかも
ここよりももっと近いところから
ここへと
近づいてくるような
不安のために唇のない未来を
歯並びの手紙を
「秋虫コラージュ」
激しい低気圧に 頭痛がひどくなる
向かいの婆ちゃんも歩きにくいみたいだ
木漏れ日に鳴く 僅かな蝉の音も止み
秋虫が遠く囁いている
(サ ビ シ イ)
夜ごと路地に繰り出していた人影も消え
急に宵闇が街を包み込み始めた
136 :
名前はいらない:2006/09/30(土) 14:28:14 ID:8J/8nig2
保守
137 :
とんぼ:2006/09/30(土) 16:03:23 ID:Em8FZcdQ
じろり。
138 :
沮喪:2006/10/21(土) 01:01:41 ID:DuYUjWVm
あと三日分の母親しかない。
『ランプ』
誰か
そっと
冷え冷えとした
孤高のランプに
息をかけて
炎をゆらして
臆病ばかりを選んできた
この指先が
わずかでも
狂うように
誰か
そっと
『鬼ですから』
ここがどこかもわからないあなた達は今日も私に尋ねます
「出口は何処ですか」
食事の支度をしたいのだと取引先の銀行に行きたいのだと今日も私に訴えます
「帰らせてください」
ここは地獄で私はただの鬼なのでそういう訳にもいかないのです
問答無用で朝は布団を引き剥がしホールに追い立て昼は口に飯を押し込み夜はベッドに投げ倒します
鬼ですからあなた達に咎があるのかないのか知る由もなく獄の掟に従うのみです
失禁はしない方がいいですよ
怒られますから
弄便もほどほどに
鍵付きの服を着せられますから
歩く時はしっかりと
車椅子に繋がれますよ
お仲間との喧嘩もよくないですね
個室隔離で病気になります
「トイレに行きたいんです」
忙しいので後にしてください漏らさないでくださいよ着替えが大変なんです
「しんどいので部屋の鍵を開けてください」
昼間は寝てはいけません少々の熱くらい我慢してください夜歩かれると転倒骨折の危険性が増すんです
「帰らせてください」
無理です私達はもう人間ではないのです
鬼ですからあなた達の懇願など針の山に突き刺します
鬼ですからあなた達の無念など血の池に沈めます
蜘蛛の糸など持たない
あなた達の悲嘆など平気な
地獄の鬼ですからね
『いばら姫』
エレクトラの話は決まってる
あんな男は駄目だと
男じゃないだろうと
ベビーピンクに濡れた爪で
ポンと煙草の灰を落としながら
男ってね優しいものなのよ
男ってね力強いものなのよ
男ってね女子供のする事なんか笑ってやり過ごすものなの
エレクトラは美味そうにショコラトルテを口に運ぶ
唇についたクリームをペロリと舐めとる
コーラルの口紅の下にオールドローズがのぞく
男は襟足をいつも綺麗にしてないと
散髪は月に二回ね
むさ苦しいのは嫌い
男は外股でゆったり歩かないと
コセコセしてるのはみっともないわ
低く穏やかな声で決して怒っちゃ駄目なのよ
ドアが開き五十過ぎの細身の男が隣のテーブルに座る
エレクトラはちらと目をやり脚を組み替える
店内に流れているのはフィンランディア?
貧相な男って悲しくなるわ
雄とは思えない
やっぱり男は撫で肩に見えるくらい体格がよくないと
いつも私を守っていてくれないと
エレクトラは艶のない髪をくるくると指に巻き付ける
白髪が一本光る
私を笑わせて私の疑問に答えて私だけを大切にする男じゃないとね
エレクトラはそう言って携帯電話を取り出した
「この人も駄目なのかしら」
初恋のいばらに眠るお姫さまは
時計の針を巻きつけて
鏡を全部くもらせて
今日ものんびり勇者が来るのを待っている
『杜』
杜は昂ぶろうとしている
群衆を呑んだ腹が
大地を踏みしめる胎動を始める
古来よりの青天幕に
ものどもの声が高らかに響き
十の金色の太鼓台が大きく揺れる
ちょーーーっさぁじゃあ!
ちょーーーっせぇじゃあ!
ああ男達よ
もう歩けない
どうか私もそのかき棒につかまらせてくれないか
太くつるりとしたその端っこにつかまらせてくれないか
髪が逆立つ
腕がねじれる
ヒールが割れる
男達よ
必死にしがみつく姿を笑わないでくれ
ちらりと盗み見て
ますます声を嗄らしてくれ汗の臭いで押し潰してくれ
ちょーーーっさぁじゃあ!
ちょーーーっせぇじゃあ!
杜はますます昂ぶり蟲き
ああ男達よ
もう立っていられない
どうか
その逞しい腕をわずかばかりかき棒から離したら
私の背中をかかえ
腰を抱き
足をきつく擦りあげ
おまえ達の頭上に放ってくれないか
危うい予兆に震えさせてくれないか
鬱蒼と燃えあがる杜のどよめきに
男達よ
節くれだった野太い指を広げ
熱い舌の息づく唇をひらき
荒ぶりそそり立つ体躯を轟かせ
神々にとどかんばかりの悲鳴を私に
ああ
騒然と犯したまえ!
『郷愁』
虚空にぽかり浮かんだ月は
こころぼそげに地球をてらす
るりりるる りり るるりる りるり り
りる るりりるり りりりりる るり り
かえりたいよと泣くのだ 月は
声もたてずにぽかりと 月は
『かくれんぼ』
僕はかくれんぼが好きで
今日もみんなと一緒に神社に行く
鬼の足音が近づきジッと息を凝らす
「やっちゃん、みっけ!」
の声がいつかかるのかドキドキしながら耳をそばだてる
足音が僕のまわりを回っている時のスリルときたら!
うまく隠れて舌打ち残して騒々しく気配が遠ざかっていく時なんか
まるで鳥籠から飛び立つ小鳥の気分さ
その日も暑くて
のんじが鬼で
僕たち五人は背中を向けたのんじの
「もういいかーい」
を合図にミンミンジイジイ蝉の鳴く境内に散らばった
「もういいよー」
と叫んだら僕はお城に忍び込んだ丸腰の忍者だ
敵の目にふれたら命はない!
一目散に石塔とそれを囲むように植わっているハイビャクシンの間に身を隠して
「もういいよー」と声を張り上げた
のだけれど一足先にこうちゃんが居て
あいつも同じように叫びながらあっちあっちと手で払うんだ
駆け出した首筋にヒリッと降ったのは蝉のションベンで
ほんとかどうか知らないけれど
昔かくれんぼをしていた子供が消えてしまったという古い祠に飛び込んで
僕はハアハア息をついた
蝉のションベンは拭っても冷たいままだった
あっけなくのんじに見つけられて
僕はなんとなく勇者になって
家に帰ると夕食のおかずはすき焼きだった
なぜか牛肉じゃなくて豚肉だった
父さんの嫌いなゴボウもはいっていた
母さんは
「いつもと同じじゃないの」
とご飯をよそいながら笑った
あの日から僕は毎日かくれんぼをしている
のんじが鬼で
僕は走ってこうちゃんに追い払われて
蝉にションベンひっかけられて
祠に飛び込んで
いつまでたっても半袖で
ミンミンジイジイ蝉が鳴く境内で
のんじに見つけられたら
家に帰って父さん母さんと豚肉のすき焼きを食べてるんだ
蝉のションベンがかかるたびに
首筋に冷たいものが走るんだけど
僕はもうがむしゃらに走って
暗い祠の中で
ドキドキしながら鬼が来るのを待っているのさ
『月は見るな』
あんまり月を眺めていると
どんどん大きくなるんですよう
しまいには地球が無くなっちゃうんですよう
『浮遊』
夜のまんなかに浮かぶのさ
タンスと姿見、本棚、テレビにかこまれて
夜のまんなか冷えた月
私浮かんでおりまする
偽札柄のコートで街をゆく
透かし模様はアッカンベー
陽射しにおどれ嘘の華
やさしい人にやさしくされてやさしくしたい
私ほんとはいい人なんですよと
あれ
聞いてくれる人もありゃしない
こんな日々が大事なんです
こんな日々が大事なんです
私ほんとはいい人なんです
いずれにしても失くなるのだね
途切れ目だけが見えるのだ
病気の猫が鳴いている夕映え赤い線路道
『依り代』
人は過ぎてきた日々を運命と呼ぶのでございますが、運命には幾通りもございまして、
果たして今私の握っている運命が当たりだったのか外れだったのか、もう置いてきた運命は知る由もございません故比べようもなく、比べようあろうとも詮なく、私は私の運命を愛しむより他なく、
さて、この運命はいくらの値打ちやら、高い買い物ではなかったかしらと考えるに、やはり相場というものの不明確さに判断の仕様がなく、資産という程のものではないにしろ、依り代を見いだす事はさほど困難ではないのでございます
猫の尻はしどけなく、横座りなどされた日にゃあ、あんたそれ誘ってんのと問いたいほどの艶めかしさで、猫の魅力は目ではなく毛でもなく、両脇を持ち抱き上げた時の餅のような伸びようでもなく、
まさにそのケツにあるのだと常日頃思っている私は、ブロック塀の上で尻尾をピンと立てモデル歩きをしている、アメリカンショートヘアーの血筋と思しい若い猫のケツをうっとり眺めていたのだが、
奴は知っている、絶対己の魅力を知っている、私の前を通る時、しなやかに尻尾を曲げて顎先を撫でて行きやがった、お客さん何見てんのよとでも言うように
「ベイビー」
僕はいつだって忘れてしまう
頭が真っ赤になって自分に殺されるんだ
気がつけばベールのように白く戻っていて
原因を赦してしまう
赦せない
温かい夜がBGM的な音がそれすら赦してしまう
布団にくるまれたようになって
ボロボロ崩れて溶けて平らな地平になってしまう
ベイビーベイビー僕は元気だよネオンがチカチカ光って
それが僕に見えた
ベイビー少し寒いけど僕元気だよ
ベイビーベイビー
元気だよ
『無償の娼婦』
体なんていらないの
神経をはしる痛みも快楽もわたしを閉じ込めるの
せつなさだけでいいの
かなしさだけでいいの
生まれては死んでいく
生まれては死んでいく世界で
裸のマリアになるの
世界は冷たいからあたたかいキスをするの
世界は突き放すからきつく抱きしめるの
「さあ、ゆりかごにもどりなさい」
生まれては死んでいく
生まれては死んでいくこの世界で
やさしさだけになるの
『漂泊より』
ようこ
今日は曇りです
風はときおり裸樹の間をすりぬけてどこかへ消えていきます
あつい雲にふさがれた空でも光は届いています
いのちに温もりをあたえています
ようこ
僕は巣の作り方がわからない鳥みたいなもので
ずっと一緒に居たかった君とずっと一緒に居られなかった
君のあたたかさが心地よく
その心地よさが照れくさく
果てない空にいまだ渡りをかさねています
ようこ
明日は晴れるそうです
青い空に太陽がひろがり
すこやかな吐息と律動が降りそそぐでしょう
ほんとうはそれだけで嬉しいのに
幸せなのに
僕はいったい何が欲しかったのでしょう
僕はいったいどんな空にどんな太陽を望んでいたのでしょう
陽子
幸せに居ますか
『口笛を吹きながら』
人間の漬け物を見たことはあるかい
彼らは甕の中で育てられるんだ
頭だけ出して
体は甕の中に閉じ込めて
萎びながら熟成させられるんだ
それは手脚と胴の区別も不確かで
うねりの彫刻をほどこした小さな肉の塊だ
いびつに発達したひとつの足だけが
この肉の漬け物が人間なのだと囁いている
ベトナムのうだる日射しの下
ささくれた茣蓙に転がり
睫毛にとまった蝿をまばたきで追い払う青年は
路上を行き交う人々の足音と
頭元に投げられる小銭の音と
天上で打ち鳴らされる無限律のシンバルを
しとやかな羊の面持ちで聞いている
父さん今日はもうかりましたか
ぼくはお腹がぺこぺこです
こうやって帰りみち父さんに抱かれてみる夕日がぼくはなにより好きですよ
神さまに向かってすすんでいるような気がします
しずかなしずかな時間です
ぼくがどこから来てどこへ行くのかわかるような気がします
なにもかもが過ぎていくようです
父さんぼくは誰のものですか
ねえ父さん、もっとぼくを抱きしめてください
千億の夜に人々は夢をみる
ひかれていく羊の黒い瞳とふるえる尻尾に憐れみの旋律があふれだす
しかし振りかえりながらも人々は
惜別の口笛を吹きながら雑踏へと消えていくのだ
『ゆらます2ndで会いに行きます』
タイムマシンを発明した。むほほ。発明したのだ。できちゃったのだ。
助手の横山君が感涙にむせびながら尋ねる。
「ああ博士、遂にやりましたねえ。どこ行くんすか、何するんすか、ねえ博士え」
そんなもん決まっとる。競馬の過去の大穴レースにどーんと張るのじゃ。ロト6の当たり数字をどーんと買うのじゃ。
とりあえずは金じゃの。むほほほほ。
しかし大金を儲け、横山君と今日はキャバクラ明日ソープと、とりあえず女に走っている間にタイムマシンを盗まれてしもうた。無くなってしもうた。
I am Oh No!わしの馬鹿!
なに、タイムマシンゆうても、製作に二十年程かかりはしたが過去にしか行けん。しかも通販で買った簡易サウナを、あ、ちょちょっと、ちょっくらちょっと手間隙かけて改造した物であるからにして運び出すのはそう難儀でもないのじゃ。
それから数日後、タイムマシン【ゆらめきの彼方へ・今会いに行きます】通称【ゆらます】を失い落ち込む我々が気慰みにとつけたテレビで、消えた筈の【ゆらます】を見つけた時の驚きを何と言おうか。
ずどんと鎮座するゆらますを挟み、ニュースキャスターらしき男女が「我々は真実をお届けます」と、政府広報のような厳めしさでガッツポーズをとっている。
「博士、あれ、ゆらますですよ、ゆらますですよおおおぉぉ」と、泣きながら画面を指さす横山君を尻目に番組は進んでいった。
「はい、私は今玉音放送の流れる皇居前広場に来ています。ご覧いただけますでしょうか。地に伏す人々を、号泣する人々を。
天皇の敗戦宣告を聞きながら、私達の偉大なる先人達は絶望と来たる困難に脇目もふらず涙にむせんでおります。暑い暑い真昼です。くらくらきます。うげげげげ」
年配の男性アナウンサーがしかめた顔から汗と唾を弾丸発射しつつ喋り始める。
かつて何度も放映された有名な場面が、鮮やかな色彩と臨場感あふれる音質を伴い映し出されていた。
そうじゃ、暑く悲しい夏じゃった、と遠い昔に思いを馳せている内に、テレビは広場に集う人々を淡々と映し、
「我々に歴史を変える事は許されません。ただひっそりとその場に立ち会うだけなのです」
とのテロップが流れ番組は終了した。
あの狭い簡易サウナにアナウンサーと機材を持ったカメラマン二人が乗り込み、かの地まで取材に行ったのか。テレビ業界の商魂凄まじ。
わしだってI am復興!負けるものか!金ならあるのじゃ!
わしはゆらます2ndを作る決意を固めた。
どういうルートでゆらますの存在を嗅ぎつけ盗み出したのか判らぬけれど、テレビ局に掛け合っても無駄だろうし、警察に盗難届けを出すのも憚られる。
いや、この年になると、しかもタイムマシン製作に二十年も打ち込んでいたともなると、探られたくない腹は結構あるのじゃよ。むはははは。
意気消沈の横山君のけつを叩き、設計図を覗きこみ再びタイムマシン製作に取り組む我々は、毎週土曜の晩に放映される『歴史宅急便・本物には敵うまい!』を欠かさず観た。
それは我々だけではなかったらしい。
〈黒船来航〉〈二・二六事件〉〈黄門さまに会いたい〉と回を重ねるにつれ視聴率はうなぎ昇りで、それに伴い番組内容に変化が表れ始めた。
〈卑弥呼は今でいう何美人?〉〈芭蕉隠密説は本当か〉〈関ヶ原の戦い・生首の謎〉と続いた次の週、〈信長の狂気に密着24時〉で若い女性アナウンサーが信長にインタビューを試み、「無礼者」の一喝と一刀のもと重傷を負う事態が発生。
カメラマンに助けられゆらますで息絶え絶えの帰還となったが、世間は「過去を侵すべからず」とひ弱に叫ぶのみで視聴率は一向に下がる気配を見せず、
〈江戸末期・夜這いの風習に肉薄〉〈応仁の乱・屍を喰う人々〉〈島原の乱・火炙り地獄〉とますますエスカレートしていき、
遂に西暦1945年8月6日、すなわち広島の原爆投下日時にゆらますはそのずん胴ボディを降り立たせ、開いたドアからはアルマゲドンさながら、白い防護服に身を包んだアナウンサーが重々しく、
「私は今からこの国の壮絶な痛みに立ち会います」
と告げた。
見馴れた町並みが映っていた。懐かしい町並みだった。
赤い煉瓦の大きな建物。あれは小学校で、みよちゃんはわしの隣の席で、いつもわしの左のえくぼに人差し指を入れては笑っていた。
みよちゃんは長い髪を二つに括って、まあるいほっぺで、わしは、わしは、みよちゃんが。
「空は澄み渡っています。しかし、もうすぐ人類史上初の核兵器を乗せた爆撃機エノラ・ゲイがこの地に白い閃光と巨大なきのこ雲と黒い雨を降らせるのです」アナウンサーの解説は尚も続く。
ああ、わしは生き残ってしもうた。ちょうど岡山の祖母ちゃんちに行っとって生き残ってしもうた。
わしはもう一度母ちゃんに会いたい。友達に会いたい。学校の先生に、みよちゃんに。そして。
「かすかに東の空から爆音が聞こえてきます。いよいよなのでしょうか」
カメラは雲ひとつない青空をとらえ、小さな黒点が徐々に大きくなる。
「見えてきました。現れました。銀翼の悪魔エノラ・ゲイです。この美しい広島の町を焼き尽くそうと、未来までもを焼き尽くそうと、その腹に狂気の爆薬を抱えこの地へと迫って来ます」
ボガーーーーーーーン!!
突然、爆発音と白煙を残し映像が途切れた。
「博士、どうしたんでしょお。原爆が落とされたんでしょおか?」
横山君が腑におちない様子で尋ねる。
「おそらくそうじゃろ」と言うわしに、
「でも、いくらなんでも投下地点は避けてルポするんじゃないんすかねえ」と尚も首を傾げている。
「あいつらのする事なぞ尋常な精神では測れんのじゃよ。ぬほほほほ」
そうだ、あれはゆらますの爆発音なのだ。万が一を考えて自爆装置を組み込んでいたのだ。安月給でこき使われている割には存外鋭いじゃないか横山君、むほほ。
右手に握った自爆リモコンスイッチはごみ箱に。見世物はもう沢山だ。
こんな爺ぃになっちまって、左のえくぼも一筋の皺になっちまって、いざとなったら会うのが怖くて、悪い事もいっぱいしてきた。けれど、心にはいつもあの広島の美しい町があった。
もう取り戻せない時ならば、わしはゆきずりの風になって懐かしい人々の傍らをそっと通り抜けてこよう。
ゆらます2ndで会いに行こう。
「博士え、まだ映らないですよお」
なにを呑気な事を言っておるのだ、横山君。ほれ、仕事じゃ仕事。時間は止まってくれんぞよ。ぬほほほほ。
『アジアのかたすみで』
わたしは籾
雨と日にそだつちいさな籾
枯れては実るつらなりの
穂から生まれたひとつぶの籾
琥珀いろの朽ち根のうえに
しろい根を張り若葉をひらき
風ふきわたるいしずえの地で
ともがら達と揺れている
世界の真ん中にいるひとよ
まるい地球で西も東もあるまいに
アジア
そんなところにわたしはいない
ただ日をめざし高く高く
ひかりの空へとのびるのだ
世界の真ん中にいるひとよ
わたしは名づけをこばむ稲
きのこ雲の閃く記憶と
海をへだてたナパームの焦げたにおいをきざむ稲
アジアと呼ばれる地平のすみで
屹立のうた
しずかに奏でるひとすじの稲
『百円シンガー』
あたしは百円シンガー
ドサまわりのシンガー
五色ひろしや美空すずめといっしょに
温泉宿のステージで
リクエストにこたえる百円シンガー
一曲百円
なんでも百円
レパートリーはひろいわよ
この道十年 嘘もっと
黒の船唄 君こそ命 浮草くらし 天城越え
赤い牡丹の振袖と
髪にちらした羽飾り
揺らしに揺らし歌います
恋の歌はいつの時代も
甘くせつなくおめでたく
出会わなかったひととの思い出に
胸が疼いてくるでしょう
きれいな空はいつだって
あの薄雲の向こうにしかないんだし
きれいな夕陽はいつだって
あの地平線の彼方にしかないんだし
はぐれやさぐれこぶしを回し
うなり身もだえ地球を回し
死んだ男も逃げた男も
捨てた男も殺したかった男も
みんな季節の風のように過ぎていきました
だから
ひびけ あたしの恋の歌
きらまぼろしの恋の歌
歌っていればあたしはハッピー
月の岩場で雪にふるえる兎だって見えちゃうの
百円シンガー
ドサまわり
一期一会の旅暮らし
朝露に咲く野菊のそばの
草にうもれた石碑のように
あなたと会う日を待ってます
『寂漠ランチ』
あたたかいというただそれだけで
ひとは幸せな気分になれるのだ
春がきた
ひかりをのせて春がきた
歩きはじめたみいちゃんが
おんもで空を見あげてる
わたしもおんもへ
桜ならぶ河川敷の公園で
寂漠のランチを口にはこぶ
からっぽなわたしのからっぽに
さらさらと砂が満たされてゆく
ああ
桜は夢のように咲くのだなあ
なんのことはなく
すべてはあるがまま
歩きはじめたみいちゃんは
こけて泣いては立ちあがり
そのうち上手にスキップで
遠くの空を追いかけるだろう
風に桜の花びらながれ
寂漠の砂にひらひらと舞いおちる
大河にくだかれ打ちよせられた砂つぶが
ひかりにつつまれてゆく
ああ
あたたかいなあ
もういちど何かを追いかけたい
いずれ朽ちゆくとしても
世界にひろがりたい
寂漠のランチはにがくて癖になるけれど
桜は夢のように咲いていて
わたしはさらさらと鳴るからっぽに
おおきく春を吸いこんでみた
怖いもの三つ
眠れない夜
起きられない朝
無駄に食い潰した時間
もう戻らない
春の陽射しの中、買い物帰りの道で神さまとすれ違いました。
神さまは「いい天気だね」と仰って、左の角を曲がって行かれました。
後ろ姿まで笑顔のようでした。
腹満ちて獣のように寝る
腹満ちて獣のように寝る
貪り眠り朝には人間の顔をする
へへん
数珠玉のように連なったいくつもの夜達が
ゆっくりとばらけて
星空に広がっていった
成仏しなされや
真夜中にストレッチ
いででででとストレッチ
縮こまるな
前を向け
お天道さんを睨みつけろ
まぁとりあえず
今のところは目をつむり
脱力に勤しみ眠りましょう
『俺達の空』
なあ兄弟
俺達が餓鬼の頃に見ていた空は
もっと広かったんじゃないか
仮面ライダーになりたかった頃の空は光っていて
野球選手になりたかった頃の空は青く澄んでいた
ネクタイ姿をぼんやり思い浮かべていた時も
雲はゆっくり流れていた
なあ兄弟
俺達がやっていることは
今でも遊びと言えるんだろうか
スロ屋の情報を集め具合の良さそうな店を選び
少しでも勝てそうな台に座る為に
こうやって毎朝開店前に列んでいるなんて
俺達にどうしてもできない勤め人のようじゃないか
生活を買っているみたいじゃないか
なあ兄弟
誰を楽しませるでなく
何も生まず
ただ金を出しその金の見返りに一日を費やし
ひたすらスロットのレバーを叩く
そんな俺達は結構真面目なんじゃないか
我慢強いんじゃないか
お前がどこではぐれたのか
俺がどこではぐれたのか
街は喧騒に沈み
友の行方はもうわからない
餓鬼の頃の俺が人影のない校庭で
少年ジャンプの浮かぶ空とキャッチボールをしている
やっぱりからっぽを抱えているんだろうお前と俺とに通う風は
泣きたいような地鳴りの響きだ
運否天賦が飯の種
今日は勝てるだろうか
お前の読みは当たるだろうか
俺は一寸先の闇を臆せず進んでいけるだろうか
太陽がやけに薄っぺらく
砂粒がこぼれていく感覚で見上げる空
もうすぐ店のドアが開き
俺達は俺達の椅子を求めて走りだすんだけれど
なあ兄弟
俺達はレバーを叩く為に生まれてきたんだろうか
俺達の世界はあんな小さな筐に納まっているんだろうか
確率の茫漠に脳を焼かれて掴む勝利に
どんな言葉を刻めばいいんだろうか
171 :
名前はいらない:2007/07/05(木) 02:59:08 ID:ZxiSiKo2
馬鹿はいつまでたっても馬鹿で
どこいらへんが馬鹿なのかわからなくて
馬鹿を治したくても治しどころがわからなくて
馬鹿を受け入れ諦めて
馬鹿なりに生きていこうと思うのだけど
馬鹿には馬鹿のプライドというものがあって
それは用足し中の便器並に譲れないもので
馬鹿じゃない人達には理解できないもので
馬鹿はとても悲しくて
馬鹿を治したくて
夜中にいろいろと反省したりしたりしているのだけど
そこは馬鹿のことだからたぶん反省のポイントがずれていて
それはおそらく火傷にウナコーワを塗ってるようなもので
痛くてもいやだからこそ効いてるはず!なんて
どーゆー因果関係なんだかわからんことを考えて
苦しいほうが価値があるように思えて
満足感にひたって
ヒリヒリした身体で眠れなくて
ぼーっとして
ますます馬鹿に拍車がかかって
世界は遠くなって
馬鹿は馬鹿をかかえて布団の中で丸まって
馬鹿は醗酵して
膨らんで
まろやかな馬鹿にまた一歩近づいてゆくのです
172 :
名前はいらない:2007/07/05(木) 03:03:29 ID:6aKrnARb
>171 そんなに自虐的になるなって!
自虐だろうかそうだろうか
馬鹿はやっぱり馬鹿だから
馬鹿の矜持と馬鹿の恥じらい
とっても大切にしています
欲しいと言ってもあげないよ
174 :
名前はいらない:2007/07/05(木) 03:51:35 ID:6aKrnARb
別にそれとこれとが繋がっているとは一言も書いていないが…
Mr.イミフ
あなたはちっともそそらない
Mr.イミフ
あなたの言葉はスペースデブリ
Mr.イミフ
暗い闇にただようだけ
オバQ うふふ バケラッタ!
>>171 バカバンザーーイ!!ヽ(゚Ο゚)ノ
177 :
o:2007/07/29(日) 01:58:43 ID:RBxV52kk
不安な夕べ
よなよな、アンヨが揺れる
大事な人のリズムに合わせて
若い、苦いアンヨが揺れる
わたしの大事な人とアンヨが楽しく笑う
私は喉をカラカラにしながらも
目を離せずに 障子をぎゅっとにぎる
不安でいっぱいだお(^ω^ )