S13
光があるから闇がある
何もなければ何もないのに
ほら病んだカラスたちが空を包んで
また夜が始まる
腐ったラブソングはいらない
人肉を食べれば幸せ
だめだ
僕はベジタリアンだったなんて
泣いてないでさ
また夜が明ける
果てしない無の世界に
僕を連れてってくれないか
5 :
名前はいらない:04/05/19 15:54 ID:EeQwS4Op
あーあ、一生懸命スレなんか立てちゃってさ…必死だね(藁
どうせくだらないレスしかつかないのにさ…無意味だよ。
ニヒリズム【nihilism】
@ツルゲーネフが小説「父と子」の中で既成
の秩序・価値を否定する主人公をニヒリスト
と呼んで以来、当時のロシアの革命的
民主主義者がこの名で呼ばれるようになり
(日本では虚無党と訳した)、後に一般化した。
A真理や道徳的価値の客観的根拠を認めない
立場。虚無主義ともいう。古くは老荘の哲学、
仏教の空観、近代ではニーチェ、20世紀では
シェストフなど。
B伝統的な既成の秩序や価値を否定し、生存は
無意味とする態度。これには無意味な生存に
安住する逃避的な傾向と、既成の文化や制度を
破壊しようとする反抗的な傾向とがある。
('A`) 意味ワカンネ
世間じゃマインドコントロールだなんて
カタカナばかり使いやがって
君を殺したのは誰だ
僕は忘れない
ただ その時を待つだけの僕らを
半月の夜にポアしてよ
君を殺したのは誰だ
僕は許さない
ずっとここから
静かに願い続けるよ
人類滅亡
純粋で鈍感な君のために
あの夜のこと覚えてる?
そうそう
たしか青い雪が降ってたわ
あなたは安っぽい服を着て
かっぱえびせんを食べてたでしょ
ポッキーの方が好きなのにって嘆きながら
忘れたの?
ねぇ暇だからモラルの低下について語りましょうよ
ああ
そんなことより
首相の名前ぐらい覚えてあげて
真実より嘘の方が美しいなんて言わないで
凶悪殺人鬼も
AV女優も
僕を興奮させない
11 :
曾村益廊:04/05/19 22:56 ID:mUXJ2S5T
ぼくはナメクジの王様だ
12 :
名前はいらない:04/05/19 23:28 ID:EDbntcyU
現代社会に生きる企業戦士達の表情を
注意深くみてみたまえ。何なら、朝の通勤電車のラッシュ時に
ペンとスケッチブックを持って行って、写生してみるといい。
君の明日一日分の給与を得るより、はるかに収穫を得るだろう。
そこに描かれているもの。それが、ニヒリズムだ。
もしそこに、押しつぶされそうな暗い表情をしている者がいたら、
にこやかに話しかけてみるといい。話題は今日の天気のことでもよい。
きっと君は一瞥され、見てはいけないもののようにあしらわれるだろう。
その時のその男性なり女性なりの面倒くさそうな表情、姿をよく
覚えておきたまえ。そして、その表情の意味を君なりによく
考察することが肝心である。君の老後の年金を払うために明日一日を
あくせくと働く為には無駄なことかもしれないが。
もしやりたくもない仕事を家庭なりプライドなりで嫌々やっているなら、
それは自ずから表情に表れていることに気づくだろう。君は子供の頃、
それをどのように思っただろうか。君はその当時は言葉ではわからなくても、
その概念に気づいている。それが、ニヒリズムである。
13 :
12:04/05/19 23:46 ID:EDbntcyU
>>11 君は、己自信を本当にナメクジの王様などとは
思ってはいない。嘘をついてはいけない。大方何やらの自信が
あるから、そのような発言ができるのだ。本当のナメクジの王様は、
自身を偉そうに宣言するはずがなかろう。ナメクジは口も無いが。
>>8 本当に人類を滅亡させたかったら、ブッシュを支持し、彼のように
なりたまえ。己を守りたい、己のみが正義だという慢心が恐怖の連鎖を生み、
破滅的な戦争を生み出すことを知るだろう。
14 :
12:04/05/20 00:01 ID:NtbiOOj2
このスレの主旨にそってややニヒリスティックにレスしているから、
心を汚さないでくれたまえ。
>>果てしない無の世界に行きたかったら、混迷を極めるイラクにでも
行ってボランティアなりするが良かろう。果てしなく続く血の抗争に
無を垣間見るに違いない。または家を出ずにネットに引き籠もるなりして、
安穏と暮らすのも良かろう。もっとも、無の境地からは遠ざかるかも知れないが。
15 :
12:04/05/20 00:03 ID:NtbiOOj2
長いから読むの疲れる。
>>1 なら、人生は虚無に成り立っているってこと?
うん。
たぶん。
>>18 なら、君は底辺(基礎の元)を詩作したいんだね。
20 :
12:04/05/20 01:29 ID:NtbiOOj2
>>18 的はずれなレスだったらすまない。
もしあなたが人生に対して虚無感を抱いているのなら、そこからスタート
して構わないと思う。幸せでなくてはならない、という無意識の観念が
虚無感を増大させているからかも知れないからだ。もしあなたが
私の長文を読むのに疲れるならば、それは私の文があなたの興味を
ひくほど価値の無いものの可能性もあるからである。読む必要は無い。
あなたのその虚無である理由をつきつめることこそ、基礎であるという
考えかたは、
>>19氏のレスはある意味、的を得ている。然し虚無であること
を突き詰めること自体も下らないことかも知れない。
そんなに深く考えてない。
暇つぶしに書くから暇つぶしに読んでくれ。
22 :
12:04/05/20 01:33 ID:NtbiOOj2
>>20 虚無感に浸りっぱなしは問題だが、
虚無の存在を無視することはできない。
それでは、底の抜けたバケツのようなものだ。
24 :
チョコ!p ◆07sfZapnrQ :04/05/20 01:34 ID:QGDloNFK
べいべ〜べいべ〜
意味なんかいらないぜ!
べいべ〜べいべ〜
ただ君がいればいい
26 :
12:04/05/20 01:39 ID:NtbiOOj2
>>23 そのとおり。虚無の存在をみつめてこそ、哲学が発展するのだ。
ヤスパースの、絶望にこそ哲学の根源があるという言葉に一抹の希望を
感じずにはいられない。
>>26 それでは死というものが甘味であるという観念が纏わりつくな。
俺はその観念よりのヴィジョンを常に描いている。
>>1 そう感じるのなら仕方が無い。
感覚として感じるものを誰にも否定できないからね。
俺は否定できないものがあるとしたらそれしかないと思っている。
耳の裏にあるホクロ並みの存在感
何もかも思い通りにならない
自分しか見えないのは
低下し続ける視力のせいだと思ってた
自問自答の末に辿り着いたこの場所が
何よりも美しい
僕が消えた瞬間
透明な未来だけが
まだそこにあって
ずっと深いところを
漂い続ける世界に
流れ込んでいく
31 :
@:04/05/20 12:59 ID:Udpi99su
またヒステリーな兄くんが
人間になりたいってさ
無理だって
無駄だって
お前、超メランコリー
少数派は叩かれるって
ママンが言ってたろ?
お前、超メランコリー
シンプルが一番だって
パパンも言ってたろ?
死んでも
死ななくても
メランコリー
何者にもなれぬ僕の存在を
宇宙の果てに飛ばしたい
このままじゃだめだ
逝くに逝けない
大切なのは自分だけ
ハッピーエンドは望まない
このままでいいか
逝くに逝けなくても
まだ死にたくないと思った
ネガティブとポジティブ飲み込んで
僕の中で消化した
きっと蘇生できるはず
きっと
きっと
きっとっと
泣かぬなら
殺してしまえ
ホトトギス
35 :
吟遊詩人F:04/05/21 13:37 ID:XDQPHkeZ
ヤスパースに捧ぐ(限界状況より)一部
そう いつか
何者かに与えられた
私の命
何者かに吹き消される
私の命
私の知らない所で
私は私でいなくなり
ついには彼の支配で
私は消失する
36 :
吟遊詩人F:04/05/21 13:42 ID:XDQPHkeZ
希望――
希望は遠くへ飛び去った
絶望――
まだ俺に絶望は残ってる
37 :
名前はいらない:04/05/21 18:55 ID:rUSfjcMC
ニヒッ
38 :
吟遊詩人F:04/05/21 19:00 ID:XDQPHkeZ
ニヒッ ニヒッ
萩原朔太郎 万歳!
まだ生まれたての
青臭い私に
キスをしたのは誰?
生温かくて吐き気がしたわ
だから私は天然パーマなの?
あなたのせいでしょ?
こんな世界の普通になるなら
村井の発明品で
コナゴナになった方がマシよ
結局結局
死にました
僕もキミも
死にました
結局結局
消えるなら
こんな命
どうでもいい
何かのドラマで
言ってたよ
人間人間
嘘つきで
8分に一度
嘘を吐く
結局結局
生きました
僕以外は
死にました
息が出来ないよ
17年前から
死刑囚が僕を見つめるから
生きていれるのかな
冷たい風が僕を通り越して
昨日ロンドンに着いたよ
なぜ
幸せは
僕を見捨てるのかな
オーケー
お前ら死ね
よーくわかった
お前らが だってことが
よし殺してやる
I don't belong here
わしはロンドンで生まれました
僕を殺してください
僕を殺してください
僕を殺してください
こんな自分に最優秀人間賞
白い少女が泣いて
黒い僕が笑う
渇いた太陽が落ちて
音のない世界が生まれる
黒いクジラは
涙を知らない
うほっ。
アリガトウ。
12さん&北さん
元気かい?
また来てくれたまえ。
真夜中
アスファルトの匂い
僕を見守るのは
ロックな星たち
驚くほどルーズで
マイペースなネズミ
ボクを指差し笑う
有り得ないほどの鼻血が出たから
もう線路で寝ちゃったぜ
ビリビリの制服は僕を
少しセクシーに見せてくれるから
ビリビリの教科書は僕を
悲しませないから
僕が生きてる証はトイレットペーパー
壁に刻んだ手形は
小さくて大きくて切ない色で
まだあの場所
呼吸を止めない
伸びる
伸びる
どこまでも
弱い俺を置き去りに
天から悲しみが降ってきて
俺の体を汚すけど
地に足をつけていれば
足の裏だけは無傷で
もう少し
生きていられる
te
52 :
名前はいらない:04/06/02 20:48 ID:4+dmqfor
エネルギーを感じる
>>47 元気だよ。君も元気そうでなによりだね。
がんばれよ。
56 :
名前はいらない:04/06/06 16:01 ID:e8sVc0xR
_Y_
r'。∧。y.
ゝ∨ノ
>>1が糞スレ ,,,ィf...,,,__
)~~( 立てている間に _,,.∠/゙`'''t-nヾ ̄"'''=ー-.....,,,
,i i, ,z'"  ̄ ̄ /n゙゙''''ー--...
,i> <i 文明はどんどん発達し r”^ヽ く:::::|::|:::〔〕〔〕
i> <i. ていく・・・・・・。 入_,..ノ ℃  ̄U ̄_二ニ=
`=.,,ー- ...,,,__ |,r'''"7ヽ、| __,,,... -ー,,.=' >ーz-,,,...--,‐,‐;;:'''""~
~''':x.,, ~"|{ G ゝG }|"~ ,,z:''" ___
~"'=| ゝ、.3 _ノ |=''"~ <ー<> / l ̄ ̄\
.|)) ((| / ̄ ゙̄i;:、 「 ̄ ̄ ̄ ̄| ̄| ̄ ̄ ̄\
))| r'´ ̄「中] ̄`ヾv、 `-◎──────◎一'
├―┤=├―┤ |li:,
|「 ̄ |i ̄i|「.//||「ln|:;
||//__|L_」||__.||l」u|:;
|ニ⊃| |⊂ニ| || ,|/
|_. └ー┘ ._| ||/
ヘ 「 ̄ ̄ ̄| /
ツッタカタツッタカタ
彷徨う兵士
リアリズムに殺されて
ニヒリズムに救われて
神はいない
ツッタカタツッタカタ
彷徨う兵士
寂しいという気持ちも
追いつかぬ間に
平日の午後はアリを潰して
休日の午後はカラスを食べて
うん
キミにはカルシウムが足りない
牛乳を飲め
牛乳を飲め
誰にも触れられたくない
僕だけの世界で
全てのものを混ぜ合わす
大きなミキサー製造中
一般的に悪とされていることは
絶対的に損で
一般的に正義とされていることは
絶対的に得で
そんな世界
僕はいらない
また雲が月を隠すから
また光が僕らを照らせない
結局誰も解けない宿題
エベレストよりも高く積み上げて
静かに自己満足
憂鬱には飽きたと嘆きながら
そんな自分を愛して止まない
それでも地球は回る
冷たい時間と共に
61 :
心霊写真:04/06/09 00:33 ID:duAb+WOy
はじめて読みました。
44と50と58がとても好きです。
これからもきっと読む。
砂時計
砂時計を見たまえ、
君は一番くびれた腰の辺りで、
見るだろう。
空がだんだん広がってゆく、
この空間が君の想像した世界だ。
時間は滝のように落ち、積もってゆく。
これは君の消化した記憶だ。
ほら、君の記憶を頼りにして、
大地にまた命が芽吹いてゆく。
いろとりどりの花が咲こうとしている。
そうして神の手で繰り返されるのだ。
すまん、誤爆だ。
>>61 ありがとう。
本気で嬉しいです。
これからもきっと読んでください。
僕は他人を裏切るし
他人も僕を裏切るけど
僕は僕を裏切らない
宇宙が壊れても
時間が止まっても
僕だけは無事でいて
僕はモグラだ
聞こえない言葉を
聞いたふりして
見えない太陽を
見たふりして
面倒くさい
土の中で死んでやる
こんばんは〜。
>>58 カルシウムが不足すると、ストレス溜まるらしいですね。
自分も気をつけないと。
>>59 僕も、そんな世界はいらないと思う。
>>66 一抹の希望を感じます。
全体的に言葉をぶっつけたパワーを感じましたっす。
では〜。
今夜は空を見上げないで
満月に殺されてしまうから
キミに触れる勇気が無いのは
明日から欠け始める月のせいかな
ちょっぴりエゴイズムを緩めたすきに
思い込みの恋に落ちた
どうか僕を見つけてください
71 :
セクシマン:04/06/17 18:39 ID:JNrzgJFE
海パンで走った。 商店街を走った。
そのうち海パンの束縛にも
耐え切れなくなってしまった僕は、海パンからも
自由になった。商店街を走った・・・ただ走った。
「YOU GET FREEDOM」古本屋のオヤジが
親指を立ててウィンクする。
もう僕は自由だ。なにも束縛するものはない。
GET FREEDOME (お前は自由を勝ち取った)
GET WININNG (お前は勝利を勝ち取った)
中世の騎士たちの唱が聞こえる!僕を讃えている!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・・ここはどこだ!!僕はどこにいるんだ?
「YOU GET PRISON」
同じ星に生まれ 同じ時を生きた
顔も知らない 声も知らない キミの存在が愛しい
まだ羽を休めないで ずっと飛んでいて
僕の上を
有り得ないほどの時が過ぎた
限界は近い いや 僕はまだ飛べそうだ
雨上がりの匂い キミも感じているのかな
先は永い
誰も僕を止められない
ナイフ片手に飛び出した
あぁ自由って素敵だな
ママもパパもいらない
トモダチもセンセイも消えてまえ
誰も僕に近づくな
ナイフ片手に飛び出した
飲んだ薬を吐き出して
あぁ僕は悪くない
17歳になったら
きっと死んでやる
人生の絶頂期こそが
死にどきルルル
キス ミー
キル ミー
9階から飛び降りたら
きっと死ねるに違いない
まだまだ先の話だけど
胸が躍るぜルルル
キス ミー
キル ミー
「消失点」
若者の部屋のスピーカーから
女性の微かな歌声が聞える
儚い恋が消えてしまったなら
夢の世界で逢いましょう
夢の世界って何処だろう
こんな糞みたいな家に留まるつもりは無い
だから彼はそのまま家を出た
財布は持ってきたけれど
中身は殆ど 美しくも零だ
地図を丹念に眺めていたのだが
突然気持ちが悪くなって道端に嘔吐した
体調を失ったのだろうか
彼はふと怖くなって走り出した
ふと振り返ると背後には見覚えのない地平線が
彼は帰り道をどうやら見失った
夕暮れが背後から音もなく迫ってくる
言語野がじわじわと変色をきたす感触
彼は猛スピードで前方の木々の濛々と覆い茂った
暗い森に向かって疾走した
流れていく風景
歌声はもはや聞えない
南無三、このヤロウ
追い着かれてたまるか
kono ano
kotobaga
de
a
このスレ、このまま沈んでしまうのか・・・。
パニック症候群を起こす大衆を眺めながら
ニヒリスト達は最高級のグルメに舌鼓を打ち
エリート気取る霊長類の無力さをせせらわらう
リズミックなギミック リインカネーションなループ
ガムが気管に詰まって神は死んだ 嗚呼、南無三
78 :
名前はいらない:04/09/09 12:34 ID:QStsh7TC
こっそりage
79 :
S13:04/12/11 22:07:06 ID:LY7i4XkP
ひび割れた胸に手を当てる
またありきたりな言葉が
静かに頬を濡らす
僕を支配する黒い靴下
温かさを失って鳴る
動く死体だ
80 :
あゆ:04/12/11 23:36:02 ID:d6wsxHSk
ニヒリズム・・・・危険な思想やけど嫌いじゃないです。。
S13さんの詩、今知ったのですが、かなり好きです☆
またお邪魔します。では・・・(*'-'*)ノ
81 :
名前はいらない:2005/04/14(木) 23:34:45 ID:Zs6hFm2z
冷笑の的
独りで悲しいから
宇宙は広がっていって
暗闇で何も見えないから
太陽ができたんだって
不安定に 笑え
笑え
笑え
もう二度と戻るな
あの娘は言ったよ
くしゃみしてわかった
淋しさに感染したなら
気が済むまで終わりを繰り返せばいい
僕もそう思うよ
83 :
名前はいらない:2005/10/10(月) 22:33:26 ID:JypVETeB
時は夕暮れ 寂れた港町
日々の仕事に疲れ果てた人々が家路へと向かう
常に思う事は 明日を養う為の術
ただ幸せだけを望んで いつまで苦しむのだろう?
そんな時に何処からか笛の音が聞こえてきた
「さあ、おいで 君達の望んだ シアワセに連れて行ってあげるよ」
鳴り響く笛の音に人々は群がる
笛吹くその男は 語り続ける
「苦しみ 悲しみ 飢えのない世界へ 君達の望んだ場所へ」
人々は列を成し笛吹く男についていく
瞳から光は失せ 顔から生気が抜けていく
彼らは二度と港町には帰れない
84 :
名前はいらない:2005/10/10(月) 22:41:47 ID:JypVETeB
時は深い夜 寂れた荒地
星々の光は無い 月明かりさえない漆黒
人々を誘い込む陽気な笛の音
ただ幸せだけを望んで どこまでも歩き続ける
ある場所で立ち止まる 笛吹く男の声が響く
「さあ、着いたよ ここが君達の 望んだシアワセだよ」
辺りには何も無い 地面すらない 真っ暗闇だ!
人々はざわめく 笛吹く男は語り続ける
「苦しみ 悲しみ 飢えのない世界へ 君達の望んだ場所さ」
笛吹く男は去っていく 人々を残して
人々は徐々に薄れ 全ては闇に溶けていく
彼らは二度と港町には帰れない
ただ幸せを望んだだけの人々
でも、その幸せって何だったの?
誰も答えられない
誰もいない
85 :
名前はいらない:2005/10/19(水) 11:02:50 ID:nTQWVcLW
86 :
名前はいらない:2005/11/02(水) 00:39:54 ID:JyT2nuj6
I
_,,_ ∩
( ゚音゚)彡 ほれ
87 :
名前はいらない:2005/11/06(日) 18:54:41 ID:djVa5bg0
ほら涙を拭い笑顔を作ってごらんなさい
それは諦め 世界との決別 孤独の証明
嗚呼 詩人のS13
悪いんだけど 貴殿のトリップ
無断で使わさせて頂きます
君の詩なんだか 危ないYO
良い病院を お探しなさい
89 :
S13:2006/01/21(土) 20:26:29 ID:qSvXtppU
どうぞどうぞ
僕自身はもう忘れてしまいました
17歳になったのに死んでいません
いや、もしかしたら動く死体なのかもしれません
わかりません
良い病院は必要ありません
91 :
名前はいらない:2006/06/10(土) 21:33:39 ID:8JONjbh8
アゲ
92 :
ぐるぢい人だずげでだずげないでいいよ(うましか):2006/08/27(日) 13:17:14 ID:PfdOpnJX
「高校球児なんて絶対嫌」
高校球児なんて絶対嫌
高校球児なんて絶対嫌
高校球児なんて絶対嫌
どっかーん
どっかーん
どっかーんと
破滅するまで
突き進むのだ
93 :
名前はいらない:2006/08/29(火) 21:57:08 ID:TfN1l0pA
女子高生が学校祭で
青春というハチマキをしていた
そのハチマキが
満員電車の中の彼女の足に絡まった
足をばたつかせる彼女の視線は週刊誌の中吊り。
94 :
S13:2006/11/14(火) 00:27:53 ID:MjE3EYtA
あと数ヶ月で18才になります
僕は13日の金曜日生まれです
それがどうしたという感じですが
今は進路のことを考えたりして
平和ボケしながらのろのろ生きているんです
あの頃から大きく変化したことといえば
体重が10`ほど減りまして
もはや僕は死神です
流れゆく雲のあまりの速度に僕は目を伏せます
それでも雲に隠れた月は何よりも美しい
明日のことを考えると憂鬱で
少しだけワクワクしたりして
懲りずに夜空の雲にぶら下る毎日です
楽しくて苦しくて泣きたくて何がなんだかもうわからなくて
もしも生まれ変わるならなんてもう考えない
世界中の人が不幸になればいいと願う今この瞬間です
95 :
S13:2006/11/17(金) 22:58:21 ID:q71+dHOI
当たり前のように過ぎてゆく時は軽く
こんな醜い腕では何も出来ないと幼稚な絶望に浸り
今日もしっかりとプリンを食す
汚れ無き少女時代は終わりをむかえ
いつしかこんなにも黒い私がここにいた
星は光り私は落ちる
美しい世界の終わりへ
96 :
S13:2006/11/17(金) 23:02:52 ID:q71+dHOI
どこまでも
どこまでも
三色の光が見える
寝転んだ僕は無敵で
誰にも負けないと思えた
頬に落ちる星屑は
冷たく溶けて無くなる
見渡せば一人
ここには誰もいないし
僕も消えてなくなるんだね
97 :
S13:2006/11/17(金) 23:08:51 ID:q71+dHOI
掟を破って暴れる
赤いムチを振り回して叫ぶ
乳首を噛み切って笑う
みんな殺してしまえ
こんな時代だ
誰も私を叱れない
飛び道具は不要
コーヒーゼリーを食いすぎて
最近2`太ったよ
98 :
S13:2006/11/20(月) 12:25:35 ID:H4ZpAF/B
寝坊の空はやけに明るい
ニヤけたベットと僕と机
逃げたくて
ただ逃げたくて
ずっと天井を見ていた
武士に生まれなくてよかったとか
テキトーに考えながら
ずっと天井を見ていた
99 :
S13:2006/11/20(月) 12:37:22 ID:H4ZpAF/B
青臭い映画の主人公になったつもり
鬱陶しい自己愛に苦しむふりも好き
遠い宇宙のことなんて知らない
神様の失敗
ただの肉のかたまり
神様の失敗
みんな変態
神様の失敗
人類誕生
100 :
S13:2006/11/22(水) 16:57:52 ID:D/zT0bO1
祝日はSEXとかSEXとかして
戦争?何それ?ってな感じ
おっぱい掴んでハーハーハーな彼らは
あの世に堕ちゆく戦士
性器擦ってアーアーアーな彼女らは
罪と罰に溺れる金魚
脳みそピンクで乱れ狂って菊咲かす
そして僕は妖精予備軍
101 :
S13:2006/11/22(水) 17:01:22 ID:D/zT0bO1
孤独を消すはコンビニのおでん
もしも生まれ変わるならキムタク
そんな夢物語もいい
たまには
少しくらい泣いてもいい
青い風船が飛んでゆく
ゆっくりゆっくり
僕の上を
どこまでも
102 :
S13:2006/11/23(木) 00:31:14 ID:JUD1cWhA
果てしなく深く深い細胞が泣く
全てを知る左手はニヤつく
最終決定権は小指のおやじ
ごめんなさい
全て僕がわるーございやした
なんてなんて
ごめんなさい
ごめんなさい
103 :
S13:2006/11/25(土) 03:29:30 ID:jDTqVS+H
細い目と太い腕
キラキラした街に胸が躍るよ
何度目の足跡
もうわからないくらい
ずっとずっと
キミが好きだよ
104 :
S13:2006/11/25(土) 03:37:47 ID:jDTqVS+H
それは僕の仕業です
無知な赤ちゃん食べました
あの死刑囚に憧れる
ただの幼稚な凡人です
ある日穴に落ちました
狭く暗い穴でした
僕はここで生きるのです
だれも僕を知らないし
僕も僕を知りません
105 :
S13:2006/11/26(日) 00:02:46 ID:jDTqVS+H
切り捨てた全てのもの
拾い集めてセロハンテープで
貼り付けて
そんなことを繰り返してる間に
何もかもがダメになった
気がする
ほしいものは何も無いけど
いつもの交差点の赤い光に
ほっとしたり
やっぱりここは素敵だなあ
と思ったの
106 :
S13:2006/11/26(日) 22:13:04 ID:PBjHJDOX
ぬいぐるみを抱いて寝ていた
あの頃の僕ではいられないんだ
そのころ読んだ絵本の中の少年は
とても賢い奴だったっけ
それでも
夜を待つ月のように
大人しくなんていられないんだ
時間は刻々と流れていくけど
変わらないものもあると
信じていたいんだ
現実や現世からの超越を主張する形而上学的立場がニヒリズムの温床だ
108 :
S13:2006/12/04(月) 04:19:45 ID:2Ore5VQD
夢を見つけましたと
濁った雲に暴露した日
何も無いようで
何かが変わった日
耳を澄ませば
確かに聞こえる
遥か彼方
遠く遠く
僕の声
109 :
S13:2006/12/21(木) 22:55:04 ID:PFaoFU7H
ずっと見ている
その隙間から
僕は見ている
いつも
いつまでも
手が見える
大きくてゴツゴツしている
体に合ってないよ
ねぇ
手帳を買った
ありもしない予定
妄想に浸る赤毛のアンか
僕は
110 :
S13:2006/12/21(木) 22:57:08 ID:PFaoFU7H
赤い服を着た悪魔
窓を叩き割って進入
子供の血を飲み
大人の血を浴び
もっともっと
真っ赤になってしまえばいいと
泣いていた
111 :
S13:2006/12/21(木) 22:59:21 ID:PFaoFU7H
猫にゃんにゃん
猫にゃんにゃんにゃん
こっち見んな
食べるぞ
なんてね
112 :
S13:2006/12/21(木) 23:02:30 ID:PFaoFU7H
おデブちゃん
私はいつでも脂肪と共に
ああ最愛の脂肪さん
好きよ好きよ大好きよ
ああ遂に体重が600キロに
ああ気持ちがいい
ここは宇宙?
それとも天国?
そんなそんなおデブちゃん
ああモテたい
答えをくれて...アリガトウ
?
114 :
S13:2006/12/26(火) 04:39:00 ID:uLtleKAp
女王様!女王様!
やめてくださいおねがいしますって
嬉しそうな顔を踏み付ける
頭が痛む
頑張れる気がしない
何もかも
頑張れる気がしないよ
明日は
自分ではない何者かを
演じなければならない
週に3回
演じなければならないの
止め処なく流れる紙切れ
拾うのを止めない
頭が痛む
115 :
S13:2006/12/26(火) 04:44:07 ID:uLtleKAp
今は今
明日は明日
時間は動かないし
何も隠さない
僕は忘れない
青い森で眠るとき
小さな空に
天使が降るよ
116 :
S13:2006/12/26(火) 04:50:03 ID:uLtleKAp
不安で不安で
逆にドキドキしたりする
眠れない夜を
今日も楽しむふり
未来も過去も
あったもんじゃないよ
正しい答えなんて誰も
持ち合わせてはいないし
それでも旅人は行く
真っ白な道をどこまでも
冬の匂いで
ご飯3杯いけそうだ
117 :
S13:2006/12/26(火) 04:54:54 ID:uLtleKAp
今
始めなければ
始まらない
想ったのとほぼ同時に
一歩を踏み出すとき
思い留まる勇気など
あまりにも必要無いのだ
ごめんなさい
不吉なことを考えて
知らなっかったんです
もう十分に
世の中が灰色だったなんて
僕が灰色だったなんて
!ニヒリズム神様は俺達が殺してしまったのだ!知性は神々を殺す!そして俺様が新世界の神性に成るのだよー!
120 :
詩:2007/08/08(水) 00:46:45 ID:pw4vFC+C
憎しみに刻まれて、憎しみに刻まれて
戦争は狂気だ
いたるところに、いたるところに
血と汚辱が
辺りを見回せ、辺りを見回せ
黙示録の世界だ!
抹殺しろ、抹殺しろ
究極の憎しみで
やっつけろ
やっつけろ
やっつけろ
やっつけろ
誰にふさわしいのか、誰にふさわしいのか
お前には俺のいっている意味がわかるんだろ
お前のねたみは総て、お前のねたみは総て
お前の血を流させてやる
なんで消えてくれないんだ
なんで消えてくれないんだ
もう二度と戻ってくるな
裏切り、裏切り
最低だ!!
なんで消えてくれないんだ、
なんで消えてくれないんだ
二度と戻ってくるな
裏切りものの虫けらめ
お前には魂などないのだ
最低だ!!
!ポケモンチャンネルのルリリトがマリリリルルのシルエットクイズがディズニーのミッキーマウスみたいだー!
122 :
名前はいらない:2007/09/21(金) 18:58:53 ID:TDNexHJS
age
フローリド■ニーチェ曰くの総ての神は死んだ
124 :
名前はいらない:2008/02/25(月) 21:39:43 ID:oUvZdXct
人間って何さ
恋って何
なぜ性別は男と女だけなんだ
つまらねえ
何が楽しいんだこの中で
もうすべてに飽きた
125 :
名前はいらない:2008/03/02(日) 23:37:33 ID:fCWcLC3C
ニヒリズム っていうと
辻潤や高橋新吉あたりですか?
126 :
名前はいらない:2008/04/11(金) 14:51:27 ID:3LGwZqdP
西沢利明(コム長官)とか堀内正美などが
m
128 :
名前なし:2009/12/15(火) 16:22:25 ID:2oQmidhI
シカゴのC・メインズの貸本屋。一九一二年八月八日午前。
(ガルガが店のカウンターの奥にいる。ベルが鳴り、シュリンクとスキニーが登場)
129 :
名前なし:2009/12/15(火) 16:23:07 ID:2oQmidhI
スキニー 看板を読んだのが間違いでなければ、ここは貸本屋だね。本を一冊借りたいんだ。
ガルガ どんな本です?
スキニー 厚い本だ。
ガルガ あなたが借りるんですか?
スキニー (答える前にいちいちシュリンクの顔をうかがって)俺じゃない、この方だよ。
ガルガ お名前は?
スキニー シュリンク、材木商。マルベリー通り六番地。
ガルガ (名前を記入する)一週間五セントでお貸しします。どうぞ探してください。
スキニー いや、あんたに選んでもらおう。
ガルガ これは探偵小説です、たいした本じゃない。こっちの方がましかな、旅行記です。
スキニー あっさり酷い本だと決めつけるのかい?
シュリンク (近づく)それ、あなたの意見だね? あなたの意見を買いたい。十ドルじゃ安すぎるかね?
ガルガ 意見なんてただで差し上げますよ。
シュリンク ということは、意見を変えて、これはいい本だと言うんだね?
ガルガ そうじゃない。
スキニー その金があれば新しいシャツが買えるのにな。
ガルガ 僕のここの仕事は本を包むことだけだ。
スキニー 客が寄り付かなくなるぞ。
ガルガ 僕に何の用です。あんたを知らないし、会ったこともない。
シュリンク この本についての君の意見を四十ドルで買おう。私の知らない本で中身なんかどうでもいいんだがね。
ガルガ 僕はあなたに、V・イェンセン氏やアルチュール・ランボー氏の意見なら売れますよ、でもこの本についての僕の意見は売れない。
シュリンク 君の意見だってどうでもいいんだ、買いたいと思っていることを除けばね。
ガルガ 僕だって意見をもつくらいの贅沢はしますよ。
スキニー あなたは大西洋を股にかける億万長者の息子だとでもいうのかね?
ガルガ 僕の家族は腐りかけた魚を食って露命をつないでいるよ。
シュリンク (喜んで)戦士だな! なぜって君は、私を喜ばせそうな言葉、気味の家族を腐った魚から解放する言葉を吐いてくれそうだからね。
スキニー 四十ドル! これだけあれば、あんた用どころか家族にも山ほどシャツが買えるんだぜ。
130 :
名前なし:2009/12/15(火) 16:24:21 ID:2oQmidhI
ガルガ 僕は淫売じゃない。
シュリンク (ユーモラスに)私だってたかが五十ドルくらいであなたの精神生活に立ち入る気はないよ。
ガルガ 値段をまた上げましたね。こいつは新たな侮辱だ、お分かりでしょう。
シュリンク (単純に)どちらがいいか考えるんだね、魚半キロより意見みたいなものが大事か、魚一キロか意見か。
スキニー 兄さん、突っ張っていると酷い目にあうよ!
ガルガ 外へ放り出してもらうぞ。
スキニー 意見を持とうなんてするのは世間知らずだからだよ。
シュリンク ミス・ジェーン・ラリーが、君はタヒチに行きたがっていると言っていたよ。
ガルガ どうしてジェーン・ラリーをご存知なのか伺いたいですね。
シュリンク 内職のシャツの縫い賃が払ってもらえないので、彼女は飢え死にしそうだよ。君はもう三週間も彼女の所に顔を出していないじゃないか。
(ガルガは本の山を手から落としてしまう)
スキニー 気をつけな! あんたはここの使用人だよ!
ガルガ あんた方にこんなに五月蝿く絡まれても、何も抵抗できないさ。
シュリンク あんたは貧乏だ。
ガルガ 米と魚を食って生きている、ご存知でしょう。
シュリンク 身売りしなさい!
スキニー あんたは石油王だとでも言うのかい?
シュリンク ご近所の連中も君に同情しているよ。
ガルガ 近所の連中を全部撃ち殺すわけにはいきませんよ。
シュリンク 大平原から出てきた君の一家は……
ガルガ 破裂した下水管の脇に三人固まって寝ているよ。夜はタバコを吹かす、でないと眠れないから。
窓は閉めたままだ、シカゴは寒いから。どう、面白いでしょう。
シュリンク もちろんさ、君の恋人は……
ガルガ 一枚二ドルでワイシャツの仕立てをやっている。純益は十二セント。お勧め品ですよ。日曜にはデートします。
ウィスキーは八十セント、それ以上でもそれ以下でもない八十セント、面白いですか。
シュリンク まだ泥を吐いちゃいないね?
ガルガ 当たり前さ!
シュリンク 純益十二セントじゃ生きていけないものな。
ガルガ 楽しみは好みに応じて選ぶものだ。タヒチが好きだからって、あんたに文句はないでしょう。
131 :
名前なし:2009/12/15(火) 16:26:10 ID:2oQmidhI
シュリンク 君はよく研究しているよ。これこそ素朴な生活だ。カップ・ハイには嵐が起こる。
さらに南へ下ればタバコ諸島。ざわめく緑の畑。みんなトカゲのように生活している。
ガルガ (窓から外を眺めて乾いた口調で)日陰で九十四度。ミルウォーキー通りの喧騒。行き交う車。午前。いつもの通りだ。
シュリンク 今日の午前はいつもの通りじゃない、この午前に私は君との戦いを開始する。まず君の生活の基盤を覆すことで戦端を開こう。
(呼び鈴を鳴らす。メインズ登場)お宅の従業員はストライキしてるよ。
メインズ なぜお客様のお相手をしないんだ、ジョージ?
スキニー (鋭く)こいつは全く頭に来るよ。
メインズ と申しますと?
スキニー 油染みたワイシャツで胸が悪くなったぜ。
メインズ 何てなりで店に来るんだね、ガルガ? うちは無料給食所じゃないんだよ! こんなことは二度とさせません、皆さん。
スキニー こいつは何か言ったぜ。袖に口を当ててもぞもぞ悪口を言ったんだ。神様にいただいた声で正々堂々と話したらどうだ!
ガルガ 私を新しいワイシャツが着れるようにしてください、メインズさん。週給五ドルじゃホモ商売のなりも出来ませんよ。
シュリンク タヒチへ行きなさい。あそこなら風呂に入る奴なんかいない。
ガルガ ありがとう。そこまで気を遣ってくださるとは感動的だ。妹を教会へやってあんたのために祈らせましょう。
シュリンク そうしてもらいましょう。妹さんは暇を持て余しているからね。
似合いの許婚のマンキーが妹さんのために靴を履き潰すほど奔走してくれている。
ご両親がくたばっても、妹さんは顔色一つ変えないでしょう。
ガルガ あんたは探偵事務所でもお持ちなんですか? 我が家にそれほどの関心を持ってくださるとは嬉しくなってもよさそうですね。
シュリンク あんたは見て見ぬふりをしているだけだ。一家の破滅は避けられないんだよ。
稼ぎ手は君だけなのに、その君が意見を持つなどという贅沢をしている。
タヒチにも行けるというのにな。(彼に持参してきた海図を見せる)
ガルガ あんたにはまだ一度も会ったことがないんですよ。
シュリンク 航路は二つある。
132 :
名前なし:2009/12/15(火) 16:27:17 ID:2oQmidhI
ガルガ この地図は買いたてだ、そうでしょう? まだまっさらだ。
スキニー 大西洋のことをまあ考えてごらんなさい!
ガルガ お願いです、この連中を追い出してください。何も買いやしません。
他のお客を追い出してしまいますよ。僕のことを調べ上げている。全然知らない奴らなのに。
(毛虫、登場。シュリンクとスキニーは毛虫を知っていることはおくびにも出さずに後ろに下がる)
毛虫 ここはメインズの貸本屋か?
メインズ 私がメインズですが。
毛虫 酷く薄暗い店だなあ。
メインズ 本ですか、それとも雑誌か切手のご入用で?
毛虫 じゃあ、これが本ってもんか? 汚い商売だな! 何の役に立つんだ? 嘘八百が並んでるんだろう。
「空は黒く、雲は東に流れる」だと。どうして南じゃいけないんだ? よくもまあこんなものを片っ端から読む奴がいるもんだね。
メインズ その本をお包みしましょうか?
スキニー なぜゆっくり見せてあげないんだ? この方は本の虫というくらいの本好きにように見えるが?
ガルガ こいつらはぐるなんだ。
毛虫 何てこった! 彼女は言った。「私にキスしてくれる時、いつもあんたの素敵な歯が見えるわ」だと。
キスしていてどうして歯が見えるんだ? 彼女はそういう女よ。後で詠む奴にはよく分かる。
こいつは盛りのついた淫売よ。(彼は靴の底で散らかした本をめちゃめちゃに踏み潰してまわる)
メインズ ああああ、あんた、めちゃめちゃにした本の代金は払っていただきますよ!
毛虫 本だって! そんなものが何の役に立つんだ? 図書館のおかげで、サン・フランシスコの大地震が止められたかよ?
メインズ 保安官を呼んできなさい、ジョージ。
毛虫 俺はブランデーの店を持っているんだ、これこそ立派な仕事ってもんよ。
ガルガ こいつは酔っちゃいませんよ。
毛虫 こういうごく潰しどもを見ていると、体中がわなわなと震えてくるよ。
ガルガ 仕組まれた陰謀だ。狙われているのは俺なんだ。
(ヒヒと呼ばれているカウチ、ジェーン・ラリーと登場。毛虫は彼を知っていることをおくびにも出さずに後ろに下がる)
133 :
名前なし:2009/12/15(火) 17:14:05 ID:2oQmidhI
ヒヒ さあ入った入った、雌鶏ちゃん、これがC・メインズの貸本屋だよ。
ガルガ 店を閉めてください、メインズさん。怪しげな紙魚みたいな連中があなたの蔵書に潜り込んできましたよ。雑誌が虫食いになってしまいますよ。
毛虫 俺はいつも言っているんだ、人生をまともに見つめろってな。
ヒヒ そこの人、顔をどけてくんな、本が見えないよ、新聞もな。
ガルガ ピストルを持ってきてください!
シュリンク (進み出て)どうか意見を売ってください。
ガルガ (ジェーンに目をとめて)嫌だ!
ジェーン ジョージ、これがあんたのお店? 何でそんなに睨んでるの? 私はただこの紳士たちとちょっとお出かけしてきただけよ。
ガルガ 出かけっぱなしにすればいい、ジェーン。
ヒヒ おやおや、これは穏やかじゃないね。あんた疑ってでもいるのか? 俺はかっとしたらこの本をびりびりに破くぞ。それでも疑うのか?
メインズ 疑ったらあんたをくびにするよ。本をめちゃめちゃにされちゃうじゃないか!
ガルガ 家へ帰れよ、ジェーン、お願いだ。君は酔っ払っている。
ジェーン どうかしたんじゃないの、ジョージ。この方たちはとっても優しいのよ。(ヒヒの酒瓶から飲む)
あんたはカクテルを奢ってくれたわね。今日は暑いわね---九十四度。ジョージ、この暑さがあんたの体に雷を落としたみたいだわ。
ガルガ 家へ帰れよ。今晩行くから。
ジェーン 三週間も来なかったじゃないの。もう家へは帰りたくないわ。仕立てのワイシャツの山の中に座っているのはもうご免だわ。
ヒヒ (彼女を膝に抱えあげて)もうそんなことはさせねえ。
ジェーン あら、くすぐらないでしょ、今はやめて! ジョージが嫌がるわ!
ヒヒ 要するに、この子の体は二、三ドルの価値は十分ある。あんたに払えるか? こりゃセックスの問題、カクテルの問題だね。
毛虫 あんたは多分このお嬢ちゃんを処女のままでおいておきたいんだろ? 掃除婦にして階段を拭かせるのか? 洗濯女にさせる気か?
スキニー こんな素敵な雌鶏ちゃんに天使様でいろと要求するのか?
134 :
名前なし:2009/12/15(火) 17:15:51 ID:2oQmidhI
ガルガ (シュリンクに)ここを荒野の決闘場にする気ですか? 武器はナイフ? ピストル? カクテルですか?
毛虫 待ちな! あんたはこの職場を離れられないよ。あっさり消されてしまうかもしれない。意見を売りなってば!
ガルガ 奇妙だぞ。俺以外の人間はみんなツーカーだ。ジェーン!
ヒヒ 答えてやりな!
ジェーン そんな目をしてみないで、ジョージ! 私にはもうこの道しかなかったの。
あんた、カクテルなんか買える? いいえ、カクテルのせいじゃないわ! 毎朝鏡で自分を見るせいよ、ジョージ。
もう二年になるわね。あんたはいつだって仕事に出かけると一月戻って来ない。
仕事にうんざりして何か飲みたくなると、やっと私の順番、私の所にやって来る。もう我慢できないわ!
寝られない毎夜毎夜、ジョージ! 私が悪いんじゃないわ、私のせいじゃない。そんなに睨まれる理由はないわ!
ヒヒ 頭がいいなあ。ほらもう一杯どうだ、飲めばもっと頭がよくなるぜ!
ガルガ ウィスキーのせいで頭がいかれてるんだよ。まだ俺の言うことが分かるだろう?
いいか、二人で出て行こう! 一緒に出発だ! サンフランシスコへ。いや、君の行きたい所へ。
男ってものが年中愛していられるものかどうかは分からないけど、でもいいか、約束する、いつも君の側にいるって。
ジェーン それはあんたには無理よ、ジョージ。
ガルガ 僕は何だってできるよ。僕には君を理解できる感覚ってものがある。
言葉なんかなくてもいい! 僕らはそのうちきっと分かり合えるようになるさ。今晩行くよ、いいか、今晩だよ!
ジェーン 言っていることはみんな聞こえているわよ、そんなに怒鳴る必要はないのよ。
それにここにおいでの紳士方に私と寝たことはなかったなんて言う必要はないのよ。
今あんたの言ったことはとても辛いことでしょう、もちろん私はそれを黙って聞いているべきなのよ。
私には分かっています、でもあなたにも分かっているはずよ。
毛虫 とんだ愁嘆場だ! こいつに言ってやりなよ、今日の九時から十一時までこのご立派な紳士と一つベッドで寝ていたことをな。
135 :
名前なし:2009/12/15(火) 17:18:01 ID:2oQmidhI
ジェーン これはよくないことでしょうね。でもそれがウィスキーのせいでも暑さのせいでもないってことをあなたに知ってもらうことは悪いことじゃないわ。
シュリンク 売りなさいよ! 値段をもう倍にしよう。分からず屋だな、君は。
ガルガ そんな手は通用しないぜ。九時から十一時までなんて二年という歳月に比べれば問題じゃないさ。
シュリンク 私にとって二百ドルなんて金ははした金だ。あんたに差し上げるというのも恥ずかしいくらいだ。
ガルガ あんたのお友達を追い出してくださるくらいのことはしていただけるでしょうね。
シュリンク お望みならね。私のお願いは、この地球の生存条件というものをよくお考えになって、意見を売ってくださいということ。
メインズ 君は馬鹿だよ、臆病者だ、もたもたした人足だ。考えても見ろ……
スキニー 罪もない、苦しみで腰の曲がったご両親のことを!
毛虫 妹さんのことを!
ヒヒ 恋人のこともな! この可愛らしい娘さんのことだよ!
ガルガ 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!
シュリンク タヒチのこともね!
ガルガ 拒否する。
メインズ 君はくびだ!
シュリンク 君が生きるのに必要な収入源だよ! 生活の基盤だ! そいつがぐらついているんだよ!
ガルガ こいつが自由ってもんだ。ほら、俺の上着だ! (彼は自分の上着を脱ぐ)誰かにくれてやってくれ!
(棚から一冊の本をつかんで)「偶像崇拝だ! 虚偽だ! 淫乱だ!」
「俺は獣だ、ニグロだ、でも多分救われるだろう。お前たちは偽のニグロだ、気違い、野蛮人、けちだ! 商人よ、お前はニグロだ、将軍よ、お前もニグロだ、
皇帝よ、老いぼれの癩病病みめ、お前もニグロだ、悪魔の製造した無税のリキュールを飲みやがった。熱と癌にのぼせ上がっている、この連中め!」
(飲む)「俺は形而上学は苦手だ」「法律は分からない。モラルは持たない、俺は野蛮な人間だ。お前たちは間違っている!」
(シュリンク、スキニー、毛虫、ヒヒはガルガの周りに押し寄せて、芝居でも見たように拍手喝采する)
136 :
名前なし:2009/12/15(火) 17:19:14 ID:2oQmidhI
シュリンク (タバコを吸いながら)どうしてこんなに興奮しているんだ! 誰も君に何もしていないのに。
ジェーン (彼の首にすがり付いて)そんなに具合が悪いの、ジョージ?
ガルガ そら、俺の靴だ! あなた、小さな黒葉巻をお吸いですね? 顎から涎が垂れませんか。
ほらハンカチをどうぞ。そうだ、僕は女房を競売に出します! 自分の身分証明書なんてあんたらの面に叩きつけてやる!
僕にヴァージニアの煙草畑とタヒチ行きの切符を下さい。どうか、僕に自由を下さい!
(彼はシャツとズボン姿で外へ飛び出す)
シュリンク (その後から叫ぶ)私はシュリンクです! 材木商のシュリンク! マルベリー通り六番地!
スキニー 奴さん飛び出して行ったぜ。この紙屑はいくらだ?
毛虫 本気で金を払ってやる気か?
メインズ 本全部で十ドルになります。
スキニー そら二十ドルだ。
ヒヒ (泣いているジェーンに)あれ! 酔いが覚めたのか! 泣くならスラム街でやってくれ。
毛虫 人生を真正面から見つめなくちゃならない。
シュリンク この屑はいくらかね?
メインズ 洋服ですか? 上着? ネクタイですか? 靴? 本当は非売品なんですが。十ドルいただきます。
スキニー とうとうあいつは脱皮して行っちまったぜ。これは持って行こう。
(シュリンクはゆっくりと後から出て行く。彼の後から衣類の束を抱えたスキニーが続く)
137 :
名前なし:2009/12/16(水) 02:06:39 ID:1JCCn8Xe
シカゴ、材木商C・シュリンクの会社の事務室。八月十二日の夕方七時前。
(シュリンクが小さなテーブルを前にして座っている)
138 :
名前なし:2009/12/16(水) 02:07:42 ID:1JCCn8Xe
スキニーの声 (下手裏から)ケンタッキーから貨車七両分。
毛虫 (裏で)入荷。
スキニー 二両分は切り揃え済み。
毛虫 シュリンクさんに会いたいって男が来てますぜ。
シュリンク 通しなさい。
毛虫 こちらがシュリンクさんだ!
(ガルガ、登場)
シュリンク (喜んで)やっぱり来てくれたんだね。あなたの衣類は保管してある。また着てください。
ガルガ 僕を待っててくれた? 着物もここに持ってきてあるのか? 汚いぼろですよ。(片足で衣類の束を蹴る)
(シュリンク、小さな鐘を叩く)
マリー (登場)ジョージ!
ガルガ 何だってここに、マリー?
マリー どこへ行っていたの、ジョージ? みんなとても心配していたのよ。それになんてなりをしているの?
ガルガ 何でここに迷い込んだんだ?
マリー 洗濯の仕事があったのよ。これで何とか生活できるわ。何でそんな目をして見るの?
あまりうまくいっていないようね。私はここでうまくやってるわ。みんなの話ではあんた仕事場を追い出されたんですって。
ガルガ マリー! すぐ荷物をまとめて家へ帰れ! (歩き回る)俺に何を企んでいるのかよく分からない。
俺は銛を打ち込まれてここに手繰り寄せられてきたんだ。ロープがついていたらしい。
あんたに綱を握られているから逃げられもしない。でも妹はこのゲームから外してください!
シュリンク お望み通りにしましょう。(マリーに)でもよろしかったら、兄さんに新しいワイシャツと上着を持って来てあげてください。
マリー 兄さんの言うことが分かりません、私にここを出ろだなんて。
シュリンク それにお願いです。取って来たらすぐ家にお帰りなさい。着るもののことは私には勝手がわからないんでね。
(マリー、退場)
139 :
名前なし:2009/12/16(水) 02:08:55 ID:1JCCn8Xe
シュリンク 飲んできたんですか?
ガルガ 飲んで来たらあんたの目論見に外れるというんでしたらどうぞ、仰ってください。
シュリンク うちには米の焼酎しかない。でもお好みのものを注文しますよ。カクテルはいかがですか?
ガルガ 僕は何もかもまとめていっぺんに片付ける男です。二、三週間ひたすらに酒を飲み続け女を抱き煙草を吸うことに専念するっていう習慣があるんです。
シュリンク 百科事典をめくるのもそういう時……
ガルガ ……何もかもすっかりご存知だ。
シュリンク あなたの習慣を聞いた時、これこそ立派な戦士だ、と思いましたよ。
ガルガ シャツが来るのは遅いなあ。
シュリンク 失礼しました! (立ち上がって鐘を叩く)
マリー (登場)ほらシャツよ、ジョージ、それに上着。
ガルガ ここで待っていろよ、後で一緒に帰ろう。(背景の後に入って着替える)
マリー お別れさせていただきます、シュリンクさん。洗濯物はまだ全部は済んでいません。こちらに住み込みさせていただいて本当にありがとうございました!
ガルガ (裏で)この服にはポケットってものがないじゃないか。
(シュリンク、指笛を吹く)
ガルガ (登場)誰を呼んだんですか? あんたのくたばる前の最後の数週間は他人を呼ぶのはやめていただきたいですね。
シュリンク あんたのご指示に従いましょう!
ガルガ あなたは荒野の決闘を挑んだ。私は受けて立ちますよ。あんたは自分の道楽で私の皮をすっかり剥がしてしまった。
新しい皮をくれたからって取り返しはきかない。あんたととことん決着をつけましょう。(手に拳銃を取って)目には目を、歯には歯を。
シュリンク 決闘を受け入れますか?
ガルガ 受けるさ! もちろん無条件で。
シュリンク 理由も聞かないでね。
ガルガ 理由も聞きません。何故あなたにこの決闘が必要なのかなんてわけも知る気はない。
どうせろくでもない理由さ。自分の方が僕よりもいい身分だってことを見せ付けたい、ってことでも十分ですよ。
140 :
名前なし:2009/12/16(水) 02:10:16 ID:1JCCn8Xe
シュリンク さて、ちょっと考えさせてください。たとえば私が建物や材木の会社を持っているから、
あなたに猟犬をけしかけることも可能になった、と仰るんですね。金の力は万能ですからね。
よろしい、私の家屋はあなたの所有にしよう。この材木会社もあなたの物にします。
本日以降、ミスター・ガルガ、私は自分の生殺与奪の権利を全てあなたに委ねます。
あなたがどんな方か私は全く知らない。今日からは私はあなたの意のままになる人間です。
あなたにちらりと見られただけで私は不安に慄くことになる。あなたのどんなお望みでも、予想のつかぬ要求でも私は喜んで応じます。
あなたの関心事は私の関心事、あなたの力即私の力です。
私の感情なんてものはそっくりあなたにお任せしますよ、悪意に満ちた感情でも従いますよ。
ガルガ あなたの申し出を受け入れましょう。そのうち笑い事では済まさなくなりますよ。
(音も立てずにヒヒ、スキニー、毛虫が入って来る。ガルガは彼らが自分と同じ服を着ているのを見て苦笑する)
シュリンク シカゴの不動産登記台帳にシュリンク名義で登録されているこの建物とこの材木会社は、本日からシカゴ出身のジョージ・ガルガ氏に譲渡されます。
ガルガ (シュリンクに)それがこの私だ。結構。皮を剥いだ材木の在庫はありますか? 何本くらい?
シュリンク おおよその見積もりで四百本。よくは知らない。
スキニー あれはヴァージニアのブラスト商会に売却済みです。
ガルガ 売ったのは誰だ?
毛虫 俺よ、またの名は毛虫、波止場の石炭倉庫の辺りでチャイナ・ホテルを経営しているよ。
ガルガ その材木をもう一度売ってください。
毛虫 二重売りか! そいつは詐欺だ。
ガルガ そうとも。
毛虫 売却の責任は誰が負うんだ?
ガルガ その材木にはミスター・シュリンクの店の焼印を押してフリスコで密売するんだ。
受け取った代金はシュリンクさんに手渡してください。僕が彼に寄越せと要求するまで保管しておいてもらおう。
何か文句がありますか、シュリンクさん?
(シュリンク、首を振る)
141 :
名前なし:2009/12/16(水) 02:11:13 ID:1JCCn8Xe
毛虫 そんな見え透いた横流しはすぐにばれちまうぜ、保安官に捕まえてくださいと言っているようなものだ。
ガルガ いつ捕まる?
シュリンク もってせいぜい半年だろうな。(彼はガルガに帳簿を持ってくる)
ヒヒ 泥沼に落ち込むぜ。
ガルガ 白鷺なんかは泥沼で結構暮らしているよ。
ヒヒ いかさま書類を扱うよりは剃刀使った一仕事の方がましってものよ。忘れちゃいけない、シカゴは冷たい町なんだぜ?
ガルガ あなたの仰っている材木会社はいかさまなものじゃないんでしょう、シュリンク? 建物も、材木も、在庫目録も本物ですよね?
シュリンク ええ、これが帳簿です。
ガルガ この帳簿にインクをかけるんだ。君がやれ!
スキニー あっしが!
(シュリンク、彼にインク瓶を差し出す)
スキニー (帳簿を開いて)みんなここに記帳してある! 取引は全て!
ガルガ それにインクをかけるんだ!
(スキニー、用心しながらインクをこぼす)
ヒヒ 一巻の終わり!
毛虫 二十年の苦労も水の泡か! こいつは嬉しいぜ! 俺にはまるで分からない。たいした材木商売だったのに。
ガルガ さあそこで電気のこぎりも止めろ、材木商売はお終いだ!
ヒヒ 分かったよ、ボス! (出て行く)
(外ののこぎりの音が止まる。シュリンクの一味の連中は上着を着て壁の前に整列する。ガルガは笑う)
142 :
名前なし:2009/12/16(水) 18:54:41 ID:Jhgf6jWQ
マリー 何やってるの、ジョージ?
ガルガ 黙っていろ! この若造を首にしてください、シュリンクさん!
シュリンク お前、やめていいぞ。
スキニー やめる? この四月で二十年もあんたの所に勤めているんですよ。
シュリンク お前はくびだ。
マリー あんたのやっていることはいいことだとは思わないわ、ジョージ!
ガルガ どうか家へ帰ってくれ、マー。
マリー 私と一緒に帰ってよ、こんな所にいたら酷いことになるわよ! 兄さんを帰してください、シュリンクさん!
シュリンク あんた、命令してください、ガルガ!
ガルガ するとも、もうあなたはここで何もすることがなくなったんだから、昔の商売仲間とポーカーでも始める音頭をとってください。
(シュリンクと妖しげな一味の連中はポーカーのテーブルを囲んで座る)
マリー 一緒に帰るのよ、ジョージ。みんなの慰み者にされているのよ、なのに兄さんはまるで分かっていないのね。
ガルガ 俺たちは草原育ちだ、マー。その俺たちがここで競売されているんだよ。
マリー 私たちが? 私たちをどうするつもりなの?
ガルガ いいか、お前は本命じゃない。お前はただ巻き込まれただけさ。
俺は半月前に俺の顔にサクランボの種を吐きかけた奴の面を拝みにここへやって来た。
ズボンのポケットにピストルを忍ばせてな。ところが逃げ腰のお辞儀で迎えられた。
野郎は材木屋をすっかり俺に下さるとよ。わけは分からないが、会社はいただいておこう。
俺は大草原に一人で残るぜ。だからお前のためには何もしてやれないんだよ。
毛虫 (後から二人に)あいつは取引詐欺の神様のつもりだぜ。だが下手ないかさまだ、間違いない。
ガルガ (シュリンクに)僕にはまるで分かりませんよ、あんた。こういう僕はニグロみたいだ。
白旗を揚げてやって来たのに、今度はそれを広げて攻撃にかかっている。
証券になっている財産はみんな渡してください、あんた、私有財産をね、そっくり懐に入れたいからね。
シュリンク 僅かですが額が少ないなんてけちをつけないで下さい。
(シュリンクとガルガ退場)
143 :
名前なし:2009/12/16(水) 18:56:29 ID:Jhgf6jWQ
スキニー ここは決して住み心地のいい場所じゃなかったし、雨が降ればずぶ濡れっていう始末だったが、
でもくびにされるというのはどんな場合だって不当だよ。
毛虫 ぐだぐだ言うな! (彼を嘲笑する)この野郎ときたら相も変わらず床にカビの生えた話くらいに思っているのよ。
スキニー 私、あなたを愛しますよ、お嬢さん。保護をお求めになるならこの私が……
毛虫 あれまあ! この野郎、自分のベッドもないくせに、女性を引きずり込むつもりだぜ。
スキニー 私についていらっしゃい。私はあなたのために働くよ。私にしなさい。
ヒヒ (他の連中と同じように前に出て来て)惨めな奴だ!
世間には、黒い女も、黄金みたいに黄色い女も、林檎みたいに白い女もいるんだぜ!
ニグロの女ときたら、ヒップから爪先まで筋金が入ったようにピンとしているぜ。
太い股、畜生、この女の鶏がらみたいな細い足とはわけが違う!
ああ、パプアの女! パプアの女なら四十ドル出しても惜しくない!
シュリンク (戸口に現れ、後に向かって叫ぶ)そうです、これが全財産です!
毛虫 何を言ってるんだ、手前は野蛮な野郎よ! 感謝の念というものが足りない!
このお嬢さんは純潔なんだぞ、なのにパイプを咥えるかよ。まだ未経験者だ。
ただし情熱の塊にならないと誰に言えるか。この女のためなら四十ドルどころか一切合財はたくぞ。
スキニー はたきたいだけ出すがいい!
ヒヒ もちろん白粉っ気なしだ。生娘のままの裸の肉体をいただくぜ。この腰の回帰線ときたらどうだ! この姑娘に七十ドルだ!
マリー 私を守ってください、シュリンクさん!
シュリンク 守ってあげますとも。
マリー 兄さんについて行けとあなたは仰るの?
シュリンク ここの連中は誰もあんたを愛してはいない、兄さんはあんたを愛している。
ガルガ (入って来る)せり売り市場は気に入ったか? ここは材木も山のように置いてあるが、
今は何ポンドかの肉の塊も競売にされている! それに柔術って奴が優しくって楽しい芸術だそうじゃないか?
シュリンク (不安そうに彼の方に行って)あなたのやり方は軽率すぎじゃないかね?
144 :
名前なし:2009/12/16(水) 18:57:34 ID:Jhgf6jWQ
マリー (ガルガに)兄さんが助けてくれなきゃいけなかったのよ。すぐ私とここを出ましょう、ジョージ。
何か恐ろしいことが起こったのよ。ここを出て行っても終わりにはならないわ。
兄さんは盲目になっているんだわ。自分がお終いだということに気付いていないんだわ。
(舞台裏で二つのギターと太鼓のかしましい音。救世軍の娘たちのコーラス「イエスは罪人を引き取り給う」)
ガルガ 分かったぞ、お前は破滅したがっているんだ。こここそお前を飲み込んでくれる泥沼だ。
ほらマリー、お前におあつらえむきの奴がやって来た、救世軍が!
(彼は小テーブルから立ち上がって後に行く)ほら、おーい救世軍!
毛虫 (マリーに)ここは川が氾濫して大洪水だぜ。夜になれば土左衛門になったネズミの幽霊が出る。親御さんの所に帰った方がいい!
ガルガ これを洗っておけ! ウィスキーを片付けろ!
(シュリンクが片付けようとするので、マリーが仕事を代わってやる)
ガルガ さあみんな、入った、入った!
(救世軍の若い男登場。彼の後にギターを持った二人の娘と太鼓を持った年老いた罪人が立っている)
男 私をお呼びでしたか?
毛虫 ハレルヤ! 救世軍!
ガルガ 俺はあんたがやっている仕事なんてなんとも思っていない。でももし建物が必要なら、この建物をそっくり自分のものにできるんだよ。
男 主があなたにお恵みをお授けになるでしょう。
ガルガ 多分な。(シュリンクに)あなたはこの建物や証券類を親から相続したんですか?
シュリンク 違いますよ。
ガルガ 四十年間の汗の結晶ですか?
シュリンク この手の爪を使って働いた。私は一日二時間しか睡眠をとらなかった。
ガルガ 裸一貫でアメリカに渡ってきたんですか?
シュリンク まだ七つだった。それ以来働き通しだった。
ガルガ ここの財産以外何もないんですか?
シュリンク 何もない。
ガルガ (男に向って)じゃあ、あんたにこの男の財産をくれてやる。ただし条件があるよ。
あんたはこの建物をねぐらに使う孤児やアル中のために、その我慢ならない面に唾を引っ掛けられるんだ。
私 私は聖職にある身です。
145 :
名前なし:2009/12/16(水) 18:58:53 ID:Jhgf6jWQ
ガルガ さあ、そこに立ちな!
男 そんなことは出来ません。
ガルガ 孤児には雪が降りかかっている。アル中はそこら中でばたばたくたばっているんだよ。それでも自分の面が守りたいのか?
男 やりましょう。私はこれまで自分の顔を汚されずに過ごしてきました。今、二十一歳です。
あなたにもそれなりの理由がおありなんでしょうね。どうか私の気持ちも分かってください。
お願いですからそこのご婦人に脇を向いていていただきたいのです。
マリー そんなことをさせたら、私はあなたを軽蔑するわ。
男 当然でしょうね。私の顔よりもいい顔は他にもたくさんあります。しかしこんなことに向いている顔はないでしょう。
ガルガ こいつの面に唾を吐いてください、シュリンク、よろしかったら。
マリー これはいいことじゃないわ、ジョージ。私はこんなことをちっとも偉いとは思わないわ。
ガルガ 歯には歯を。よかったらどうぞ。
(シュリンク、冷ややかにその男に近づいて、彼の顔の真中に唾を吐く。毛虫はメェーと山羊の鳴き声で笑う。年取った罪人は太鼓を叩く)
男 (拳をわなわなと震わせながら泣く)失礼します。
ガルガ (証券類を叩きつけて)これが贈与契約書だ。これを救世軍に。それからこいつはあんたにやろう。(彼にピストルを渡す)あんたは豚だよ!
男 私のミッションの名であなたにお礼申し上げます。
(ぎこちなく一礼して去る。コーラスの娘たちもそそくさと去る)
146 :
名前なし:2009/12/16(水) 19:00:02 ID:Jhgf6jWQ
ガルガ あんたのおかげで楽しみが台無しだ。あんたの残酷さときたらたとえようもないな。
お礼の何枚かはいただいておくぜ。ここに残っている気はない。
だってこれが肝心要の所だからね、横浜生まれのシュリンクさん。俺はこれからタヒチへ行くんだ。
マリー ジョージ、あんたは卑怯よ。救世軍の人が出て行く時に脇を見ていたじゃないの。私はよく見ていたのよ、兄さんがやりきれなそうな気持ちでいたのを。
ガルガ 俺は皮まで剥ぎ取られて骨だけの姿でここへやって来た。この二週間の酒浸りの生活を考えると身震いがするぜ。
俺が奴の面に唾を引っ掛ける、何度も。すると奴はそれをみんな飲み込んでしまうんだ。あいつなんか軽蔑してやる。もうけりはつけたぞ。
マリー 何てこと!
ガルガ お前は俺を見捨てたじゃないか。歯には歯をだ。
マリー 今度は私相手にその戦いを続けるつもり? 兄さんはいつだって際限がなくなるんだわ。
きっと神様に罰せられるわよ。私には何もしてくれなくていいわ。ただそっとしておいてくれればいいの。
ガルガ そうやって両親のために淫売になってパンを稼ぐのか。淫売の色香を売り物にしながら「私はそんな女じゃないわ」って言うがいい。
ベッドが繁盛して長生きするように祈っているぜ。(他の連中と退場)
マリー 私にはあなたがよく理解できません。でもあなたは他の人なら一方向にしか進めない時に、
どんな方向にも進める方なのね。一人の人間には様々な可能性が潜んでいるものでしょう、
違う? 私には分かったわ、人間には様々な可能性があるんだってことが。
(シュリンク、肩をすくめ、彼女に背を向けて退場。マリー、彼の後へついて行く)
147 :
名前なし:2009/12/16(水) 19:17:48 ID:RfjD95AV
ガルガ一家の居間。八月二十二日、夕方の七時過ぎ。
(汚い屋根裏部屋、後には屋根裏桟敷に通じる所にカーテンが、かかっている。ジョン、ガルガ、マエ。マンキーは歌を歌っている)
148 :
名前なし:2009/12/16(水) 19:18:57 ID:RfjD95AV
ジョン 何かが起こったに違いない、口には出せないようなことが。
マンキー お宅の息子さんのジョージは、ある事件に巻き込まれたって話ですよ。はまったが最後絶対に抜け出せない事件らしい。
なんでも黄色人種とのいざこざってことです。黄色い野郎がジョージに何かを仕掛けたらしい。
マエ かかわり合っちゃいけないよ。
ジョン あいつがくびになったらカビでも食って暮らすさ。
マエ 子供の時分から、あの子は負けず嫌いだったよ。
マンキー 娘さんのマリーを、あの黄色人種の所に勤めさせなければよかったってみんなが言ってますよ。
マエ そうね、マリーはもう二週間も家を出たきりだよ。
マンキー こうなってみると、みんな繋がりがあるんだと思わなきゃなりませんね。
マエ 娘が出て行く時には、材木会社に仕事口があって一週間十ドル貰えて、仕事はただ洗濯するだけって言っていたんだよ。
マンキー 黄色人種に洗濯が必要なのかってんだ!
ジョン こういう町に住んでいると、ここの隣の家のことだって分かりやしないだよ。決まった新聞を読んでいたって、その意味がわかる奴はいないさ。
マンキー それに電車の切符を買わされることだって分かりませんよ。
ジョン あの電車なんていうものに乗っていれば、連中はそのうち……
マンキー 胃癌になりますね。
ジョン あんたに分かるもんか。合衆国の小麦は夏でも冬でも育つんだぞ。
マンキー でも前もって誰からも知らされずに、突然昼飯にありつけなくなることもあります。
あんたが子供たちの手を引いて通りを歩いているとしますね。あなたは第四の掟に背いたわけでもないのに、
いつの間にかあんたの手には息子さんのと娘さんの手だけしか残っていないことに気がつく。
そして息子さんや娘さんの本体の方は、頭まで突然砂利の中に埋まってしまっているんです。
ジョン ハロー! 一体誰だ?
(ガルガが戸口に立っている)
149 :
名前なし:2009/12/16(水) 19:20:09 ID:RfjD95AV
ガルガ また例によってお喋りか?
ジョン どうやらやっと二週間分の金を持ってきてくれたらしいな。
ガルガ 持って来たよ。
ジョン お前はまだ勤めているのか、いないのか? 新しい上着なんか着て、何やら酷く払いのいい仕事にありついたらしいな、どうだ?
ほら、お母さんだぞ、ジョージ。(マエに)何だってお前、ロトの女みたいに突っ立っているんだ。
ご令息のお帰りだぞ、ご令息は俺たちをメトロポリタン・バーのディナーに招待してくださりにいらっしゃったんだ。
でも息子殿は大分顔色が悪いようだぞ。酔っ払っているのか、え?
さあ、マンキー、来いよ、俺たちは階段でパイプでもふかすとしよう。(二人去る)
マエ ねえ、ジョージ、あんたは誰かといざこざを起こしたのかい?
ガルガ 誰か家に来たのか?
マエ 来ないよ。
ガルガ 僕は旅に出なければならなくなった。
マエ どこへだい?
ガルガ どこかへさ、母さんはすぐにびっくりするんだから。
マエ 行かないでおくれ!
ガルガ 駄目なんだ。一人の男がもう一人の男を侮辱する。侮辱された男にとっては不愉快だ。
ところが相手は条件を出して、君を侮辱する代償に材木業をそっくり君にあげるっていうんだ。
そりゃ侮辱される男にとってはもっと不愉快なことだろう、こんな場合にはその男は旅に出るより他ないじゃないか。
ところがその男はそれも満更でもない気分になってきて、旅に出る気もなくしてしまうかもしれない。
でもともかく、その男は自由でなくてはならないのさ。
マエ お前は自由じゃないのかい?
ガルガ ああ、(間)俺たちは自由じゃないよ、朝のコーヒーの時からもう不自由が始まるんだ、
行儀が悪いと殴られる、おふくろの涙が子供らの食事の塩味をつけ、おふくろの汗が子供のシャツを洗うんだ。
来るべき氷河時代まで完全保護だよ。子供らのハートは情という根に縛られている。
一人前になって体を張って何かに打ち込もうと思っても、もうその時は、金で買い取られ、
清められレッテルを貼られて高い音で売りつけられているって言う具合さ。そうなればもう破滅する自由もないんだよ。
150 :
名前なし:2009/12/16(水) 19:21:19 ID:RfjD95AV
マエ さあ、話してごらん、どうしてそんなにおかしくなってしまったんだい。
ガルガ 話したって俺を救えはしないよ。
マエ 救ってやれるよ。お父さんを捨てて行ってしまわないでおくれ、そうしたらこの町では暮らしていけないよ。
ガルガ (金を渡す)僕はくびになったんだ。でも、ほら、半年分の金を渡しておくよ。
マエ お前の妹から何も報せがなくなったので、心配しているんだよ。でも、まだあのお勤めをやっているんだろうね。
ガルガ 俺は知らないよ、あの黄色人種の所はやめておいた方がいいって勧めてはおいたけどね。
マエ 分かっているよ、私は他の母親みたいに、何でも遠慮なくお前にいうわけにはいかないのさ。
ガルガ あーあ、他の大勢の善良な人たちか、他の全ての善良な人たちは旋盤を回して自分のパンを稼ぎ、
それでもって大勢の上流階級のいい食事を食う人たちにいい食卓を作ってやる、
こういう他の大勢の善良な人たちと、大勢のいい家族を持ったいい食事を食う連中の数は、あんまり多すぎる。
まさに大群と言えるくらいだが、そいつらのスープに唾を引っ掛けてやろうなんて奴は一人もいない。
奴らにストレートのキックを入れて、もっといい彼岸の世界に送り込んでやる奴も誰もいない。
こいつらに、ノアの大洪水が襲い掛かることもないんだぜ。「夜は嵐吹き、海は高まる」なんてこともないんだよ。
マエ ああ、ジョージ!
ガルガ 「ああ、ジョージ!」なんて俺に言わないでくれよ。我慢できない。そんなのは聞きたくないよ。
マエ もう聞きたくないだって? でも私はどうするの? どうやって生きていくの、
壁はこんなに汚いし、ストーブはもうこの冬もちそうもないのに。
ガルガ ああ、母さん、分かりきっているさ。ストーブももちやしない。壁だってもちやしない。
マエ 何てことだ、そんなことを言って! お前は盲かい?
ガルガ それに戸棚にはパンもなく、体には着物もつけず、あんたの娘だってもう長くないんだよ!
マエ 喚くがいいよ! みんなに聞こえるくらい喚くがいいよ! 何をやっても無駄、
骨折り損のくたびれもうけだって。でもあたしはどうやって生きればいいんだい? 私はまだ先が長いんだよ。
151 :
名前なし:2009/12/16(水) 19:22:05 ID:RfjD95AV
ガルガ だからよ、こんなに酷いことになったのは、何のせいかちゃんと言ったらいいじゃないか。
マエ お前は分かっているだろ。
ガルガ ああ、そうとも。
マエ その言い方は何だい? 私が何を言ったというの? そんな目で私を見るのはやめておくれ。
私はお前を産み、ミルクとパンで育て、殴りもしてきたんだから。そのお前には違った目で見てもらいたいよ。
夫なら自分でそうなったんだから何も言わないよ。父さんは家のために働いてきたんだから。
ガルガ お願いだ、俺と一緒に出て行こう。
マエ 何を言うんだい?
ガルガ お願いだ、一緒に南へ行こう。そこへ行けば僕は働くよ。木も切り倒せる。丸太小屋を作ろう。
そして母さんが料理をしてくれるのさ。僕には母さんが必要なんだよ。
マエ お前、誰に向かってそんなことを言っているんだい? 風にかい? (私は聞いてないよ)もし故郷に帰ることがあったらここへ寄ってみな。
私たちが最後の日を送った死に場所がどこか分かるようにしておくから。(間)いつ出かけるんだい?
ガルガ 今すぐさ。
マエ みんなには黙っていなさい。お前のものを纏めて、荷物の包みを階段に置いといてやるから。
ガルガ ありがとう。
マエ これでいいんだよ。
(二人去る。毛虫、用心深く登場して、部屋の中を嗅ぎ回る)
152 :
名前なし:2009/12/16(水) 22:28:25 ID:Q03iZfi6
マンキー 何だ、一体誰だ? (ジョンと登場)
毛虫 あっしだよ、ジェントルマンだよ。ミスター・ガルガかい、どうやらジョン・ガルガさんのようですな?
マンキー ここに何の用だい?
毛虫 あっしが? 何も用はない! あんたの息子さんにお会いしてもいいよ。ただし、あの人が風呂に入ってくれればの話だがね。
ジョン 何の用だね?
毛虫 (悲しそうに首を振って)なんて酷い客のあしらい方だ! ともかくお尋ねして差し障りなければ聞くがね、ご子息はどこにおいででございますか?
ジョン あいつは出て行っちまったよ、とっとと出て行ってくれ! ここは興信所じゃないよ!
(マエ登場)
毛虫 それは残念だ! 残念だな! 息子さんは我々にとっても欠くべからざる人何でね。それに娘さんの話もあったんだ。ご関心がおありならね。
マエ 娘はどこにいるの?
毛虫 チャイナホテルにいますよ、奥さん、チャイナホテルにね。
ジョン 何だって。
マエ 何てことだ!
マンキー そりゃどういうことだ? そこで何をしているんだ、え、あんた?
毛虫 無為徒食ってとこよ。シュリンク山河、あんたとあんたの息子さんにあの娘を引き取りに来いと伝えろとよ。
あの娘は高くつきすぎる。金がかかってしょうがない。何しろかの女性は、素晴らしく食欲がおありなんだ。
ここのものをたてにもしない、そのくせに俺たちを追い掛け回して、いやらしいことをさせてくれってせがむんだよ。
全く、あれじゃホテルの品が下がる、わざわざ警察につかまえてくれと頼んでいるようなものだ。
マエ ジョン!
毛虫 (喚く)要するに、あの女は俺たちの厄介者なのさ!
マエ 何てことだ!
153 :
名前なし:2009/12/16(水) 22:29:46 ID:Q03iZfi6
マンキー どこにいるんです、僕がすぐ連れて来ますよ。
毛虫 へーえ、連れて来る、あんたは猟犬か? ホテルがどこにあるのかどうして知っているんだ? お若いの!
こりゃそう簡単にはいかないよ、あのご婦人を絶えず監視していなければならなかったんだぞ。
何もかもあんたの息子さんのせいさ、息子さんにあの牝犬を引き取りに来てその心配をしていただきたいな、明日の晩になったら警察の手を借りるぜ。
マエ ああ、神様! あんた、どうか娘の居所を教えてください。息子がどこにいるかも、あたしは知らないんです。
あの子は出て行ってしまいました。どうかそんなに冷酷なことを仰らないで、ああ、可哀想なマー、ねえジョン、この人にお願いして!
マーはどうしちゃったんでしょう、どんな目にあっているのかしら? ジョージ! ジョン!
ああ、何という町だろう、何という人間たちだろう! (退場)
(シュリンクが戸口に現れる)
毛虫 (びっくりしてもごもごと呟く)ええと、あっしはその……この家の出入り口が二つあったな!
(こそこそ出て行く)
シュリンク (実直そうに)シュリンクと申します。前は材木屋でしたが、今は蝿をとる他は仕事がなくなった。
誰の面倒をみる必要もありません。お宅にねぐらをお借りできますか?
お代は払いますよ、下の表札に私が知っている男の名前を見かけました。
マンキー あんたがシュリンクさんかい? ここの娘を預かっているのかい?
シュリンク 誰のことですか?
ジョン マリア・ガルガだよ、あんた、わしの娘のマリア・ガルガさ。
シュリンク 知りませんね。あなたの娘さんなんて知りませんよ。
ジョン でもたった今ここに来ていた方が……
マンキー どうもあなたに頼まれて来たようですよ!
ジョン あなたが入っていらっしゃると、こそこそと逃げ出した男ですよ。
シュリンク あの人なんか知りませんよ。
ジョン だって息子はあんたと……
154 :
名前なし:2009/12/16(水) 22:31:14 ID:Q03iZfi6
シュリンク この憐れな男相手に冗談を仰ってはいけません。今は私はとるに足りぬ男です。
私は財産をすっかり無くしてしまったのです。どうしてこうなったか自分でも筋道がよく分からないことがあるもんですよ。
マンキー いいかい、俺が船を港に乗り入れる時にはちゃんと水路は心得ているぜ。
ジョン こいつに用心しなよ。
シュリンク 年をとって柔軟に状況に対応できなくなり、孤独に陥った私には、
一家の稼ぎ手である息子さんに去られてしまったあなたを見ていると、同情の念が沸いてきます。
これで私の仕事にも目的ができたと言えるのではないでしょうか。
ジョン 理由を言ってもらっても、腹は膨れないさ。俺たちは乞食じゃないぞ、イワシの頭は食えないしさ。
しかし孤独なあなたを石のような心で迎える気はない、
あんたは、どっかの家族と一緒に食卓につく身分になりたいと思っているんだね。俺たちは貧乏人だぜ。
シュリンク 私は何を食っても生きていける男です。私の胃袋は砂利でも消化する。
ジョン 部屋は寒いぜ。俺たちはヒラメのように重なって寝ているんだ。
シュリンク 私は床にでも寝られる。時分の背丈の半分の場所があればいい。
自分の背中を直接風に晒さないですめば、子供のように嬉しくなるのです。今家賃の半額を払っておきますよ。
ジョン よしきた、分かったよ。あんたは、戸口の外で風に晒されたくないというんだね。さあ、屋根の下に入んなさい。
マエ (入ってくる)夜にならないうちに、一っ走り町に行って来るよ。
ジョン おまえはお前が必要になるといつも出かけるんだな、俺はこの人に棲家を提供してやった。
孤独な人なんだぞ、お前の息子が家出したから、一人分空きが出来たじゃないか。この人に握手してあげろ。
マエ あたしたちの故郷は草原だったからね。
シュリンク 知っています。
155 :
名前なし:2009/12/16(水) 22:32:04 ID:Q03iZfi6
ジョン お前、隅っこで何をごそごそやっているんだ?
マエ 自分のベッドを階段の下に運ぶんだよ。
ジョン 荷物はどこにあるのかい?
シュリンク 私は無一物です。私が階段に寝ますよ、奥さん、私は入り込んだりはしません。
私の手には触れないですみますよ、分かっています、私の肌は黄色いですからね。
マエ (冷ややかに)私の手なら出しますよ。
シュリンク 私は握手していただくに値しません。私が今申し上げた意味でね。あなたは肌の色のことを仰ったんじゃないんですか、失礼しました。
マエ 夜は階段の上の窓を開けておくことにしよう。(退場)
ジョン あれで気はいいんですよ。
シュリンク 主があの女にお恵みを与えますように。私はつまらない男です。
私の口を開けて何かをいわせようだなんて考えないで下さい。歯が見えるだけですよ。
156 :
名前なし:2009/12/16(水) 22:52:07 ID:Q03iZfi6
チャイナホテル。八月二十四日、朝。
(スキニー、ヒヒ、ジェーン)
157 :
名前なし:2009/12/17(木) 13:54:48 ID:Ckte5NqI
スキニー (入り口で)お前たち、新しい商売をやりだすことは全然考えないのか?
ヒヒ (ハンモックに乗っている、頭を振って)ボスは波止場をぶらついているよ。
タヒチ行きの船客の面をいちいちチェックする仕事しかしていない、あの若造がボスの魂と財産をすっかりさらって、
行方が知れなくなったからよ、タヒチに消えたんだろうさ。ボスは奴を探しているのさ、
ボスは奴の残った僅かな持ち物を一切合財ここに運び込んで保管しているよ。煙草の吸殻までさ、
(ジェーンのことを言う)ここに飼っている女はもう三週間もボスにロハで食わしてもらっている。
若造の妹までここにおいてやっている。こっちは堅気な娘よ。
ボスがあの女をどうするつもりなのか皆目見当もつかない、ボスはあの女とよく一晩中語り明かしているぜ。
スキニー なのにお前らの方はボスに放り出されて黙っているのか、それでもお前らはボスを養ってやるのか、おまけにボスの女までな。
ヒヒ 石炭運びで稼ぐ二、三ドルの金を、ボスは若造の家族に渡してしまう。ボスが今下宿しているあの家だよ、
下宿といっても家の中には住めないのよ、毛嫌いされててな。若造はボスの財産をすっかり巻き上げたよ、
それで野郎は安いタヒチ行きの切符を手に入れて、ボスには材木詐欺の罪を背負い込ませた。
ばれればボスは一巻の終わりだ。だってよ、遅くても五ヵ月後には、材木の二重売りで裁判にかけられるものな。
スキニー それなのにお前らは、あんなポンコツ野郎をやしなっているのか。
ヒヒ ボスもたまにはお楽しみが必要だったのさ。ああいう人はいつだって信用で融資してもらえるよ。
若造が消えたままだったら、ボスは三ヶ月もすればまた材木業界の第一人者になれるさ。
ジェーン (服を引っ掛けて化粧しながら)私はいつも自分の末路はきっとこんなだろうと思っていたわ、中国人の淫売窟でくたばるだろうって。
ヒヒ まだこれからどんな面白い目にあうかご存じないのさ。(背景の後で二人の声が聞こえる)
158 :
名前なし:2009/12/17(木) 13:56:15 ID:Ckte5NqI
マリー どうしてあなたは私に全然触らないの? どうしていつもこんな薄汚れたずた袋を着ているの?
私、あなたの着られるような服を持っているわ。普通の男の人がみんな着るような背広を。私はよく眠れないの、あなたを愛しているわ。
ジェーン しーっ! 聞いてごらん! また二人の声が聞こえるわ。
シュリンク しかしそれには値しない。私は生娘のことは全然分からない。それに何年も前から、私の種族の臭いを意識してきました。
マリー そう、酷い臭いよ、酷いわ、その臭いは。
シュリンク そんな風に自分を責め苛んではいけない、いいですか、私の体は聞こえない耳と同じ。
これは私の皮膚にも言えるのです。人間の皮膚は、自然の状態では、この世界に触れていくには薄すぎる。
だからこそ人間は、皮膚を厚くしようとするのです。人間の生長を止めてしまえばこれこそ完璧な方法ですがね。
たとえばなめした皮はもう変わらない。ところが皮膚は生長します。次第次第に厚くなっていくのです。
マリー そうなってしまうのは、あなたが、敵を見つけられないからなの?
シュリンク 若い頃、揚子江のジャンクを漕いでいた時から。
揚子江がジャンクを痛めつけた、そこでジャンクが私たちを痛めつけた、ある男がいてね、
そいつは漕ぎ手の席を通るたびに、我々漕ぎ手の顔をぺしゃんこになるまで踏みつけていったものだ。
夜などは、我々は面倒臭くなって、顔を避けることさえしなくなった。その男のほうは不思議と疲れないのだ。
我々が苛めるものと言ったら、猫くらいしかいなかった。その猫も泳ぎを習わせようとしたら溺れ死んでしまってね。
俺たちを悩ますネズミを取ってくれる猫だったのに。こういう仲間はみんなこの病気にかかってしまってね。
159 :
名前なし:2009/12/17(木) 13:57:21 ID:Ckte5NqI
マリー 揚子江で働いていたのはいつ頃?
シュリンク 俺たちは朝早く葦の葉陰で横になっている時、この病気が進んでいくのを感じたのだ。
毛虫 (登場)若造は風をくらって逃げましたぜ、シカゴ中に奴の影も形もありません。
シュリンク 少し眠った方がいい。(外に出る)また消息なしか? (シュリンク、退場する)
(開け放した戸から、目覚めたシカゴの騒音が聞こえる。ミルク売りの叫び声や、肉運搬車のごろごろと通りを通る音)
マリー 今、シカゴは、ミルク売りの叫び声や、肉を運搬する荷車の立てるごろごろいう音で目を覚ましたわ、
新聞、新鮮な朝の大気、出て行ければ素敵でしょうね、水で体を洗うのも素敵よ、草原だって都会のアスファルトだって何かを与えてくれるものよ。
たとえば昔暮らした草原なら、今頃は涼しい風が吹いているところよ、きっとそう。
ヒヒ お前さん、まだ宗教問答の簡単な方くらいは覚えているかい、ジェーン?
ジェーン (お経を読むように)全て悪くなっていく、悪くなっていく、悪くなっていく。
(みんなは片付け始める。ブラインドを上げ、蒲団を重ねる)
マリー なのに私は、なんか息が詰まりそう。私はある男と寝たい。でもどうやったらいいのか分からない。
犬のような女たちもいるわ、黄色い女や黒人女や。でも私には出来ない。私はのこぎりで切り刻まれたよう。
この壁は紙みたい。息ができないわ。何もかも燃やしてしまわないと。マッチはどこかしら。黒い箱の。
水が流れ込むようにしたいわ。、そして泳いで逃げる時は、私の体は二つになるわ、そして二つの方向に泳いでいくでしょう。それが末路だわ。
ジェーン ボスはどこへ行ったの?
ヒヒ シカゴがあんまり冷たいんで逃げ出していく旅行者の面を改めに出かけたよ。
ジェーン 東の風が吹いている。タヒチ行きの船は錨を上げているわ。
160 :
名前なし:2009/12/17(木) 13:58:07 ID:Ckte5NqI
同じホテル。一ヵ月後、九月十九日か二十日。汚い寝室、廊下、ガラス張りのウィスキー・バー。
(毛虫、ジョージ・ガルガ、マンキー・ボドル、ヒヒ)
161 :
名前なし:2009/12/17(木) 14:08:23 ID:Ckte5NqI
毛虫 (廊下からバーに声をかける)奴は結局船出しなかったぜ。銛は思ったより深く食い込んでいたな。
俺たちは、大地が奴を飲み込んだと思っていた。ところが奴は今、奥のシュリンクの部屋に横になっていて、手前の傷口を舐めていやがる。
ガルガ (寝室で)「あいつを夢に出てきた地獄の夫と呼んでやろう」ってとこだな、犬畜生のシュリンクめ。
「私たちは夫婦とは名ばかりの生活。あの人にはもう部屋もない。
あの人の花嫁はヴァージニア煙草をふかし、身を売ったお金を靴下に貯め込んでいる」
これが俺ってわけさ! (笑う)
マンキー (ガラス張りの後のバーで)人生ってやつはおかしなものだね。たとえば俺の体験を言うが、ある知り合いの男がいた、
こいつは一流の人物だったが、ある女に惚れちまった。その女の一家は爪に火をともすような暮らしだった。
奴は二千ドルもの金を懐にしていたんだが、女の家族は平気で見殺しにしたのよ。
その男は二千ドルでその女だけを買ったからだ。それだけ使わなきゃその女をものに出来なかったのよ。
これは酷い話さ、でもその男は、前後の見境がなくなってしまったのさ。
ガルガ 「見ろ、俺は罪人だ、俺は砂漠を愛した、陽に灼かれた果樹園を愛した。
しょぼくれた店々を、生温い飲み物を愛した。お前たちは間違っているぞ、俺はけちな人間さ」
俺はもう横浜出身のシュリンクさんとは何のかかわりもないぞ!
ヒヒ そうよ、たとえば材木商のシュリンクがそうだぜ。奴は昔はハートのかけらもない男だった。
ところがある日突然情熱の虜になったせいで材木屋はパーになっちまった。
今は港で石炭運びをやっている、昔はこの地区を牛耳っていた男だぜ。
毛虫 俺たちは、今あいつを、弱りきった純血種の犬のように、ここで養ってやっているのさ。
でも奴が、また姿を現したあの馬の骨と手を切らなければ、こっちの忍耐にも限度があるぜ。
162 :
名前なし:2009/12/17(木) 14:26:19 ID:Ckte5NqI
ガルガ 「私はいつかあの人のやもめになるでしょう。それは確かです。その日はカレンダーに印がついているわ、
そうなったら私は、綺麗な下着を着て、あの人の亡骸についていくわ、日の光を浴びて、大股を広げて」
マリー (食べ物の入った籠を下げて入ってくる)ジョージ!
ガルガ 誰だ? (マリーと気付いて)お前、何てなりだ! まるで汚らしい乞食みたいじゃないか!
マリー そうよ。
毛虫 (バーに入って来る)奴はへべれけに酔ってるぜ。今は妹さんのご訪問を受けたところよ。
妹に向かってお前は薄汚いと言っているよ、ボスはどうした?
ヒヒ 今日は来るぜ。ここにジェーンを呼んでおいたからな。若造の餌にな。この戦いにはどんな手でも使わなきゃな。
ジェーン (頭を振る)あんたたちって分からないわ。飲むものをちょうだい、焼酎を。
マリー 前には私のことをもっと清らかだと思ってくれたわけ、ありがたいわね、
そこで今ここに私がいるのを見てびっくりしているのね、私だってまだ兄さんが女たちの憧れの的だった頃のことを思い出すわ。
あの頃はシミーを踊ってもラグタイムを踊っても、相手を有頂天にしてやった兄さん。
土曜の夜っていうと、ズボンにはきちんと折り目をつけて浴びるように煙草やウィスキーを飲み、女に打ち込んでいたわね。
これは男に許された悪徳だもの。私はあの頃のことを思い出してもらいたいわ、ジョージ。
(間)どんな生活をしているの?
ガルガ (軽く)ここは夜、冷えるだろう? 何か必要なものはあるか? 腹は減ってないか?
マリー (軽く首を振り、彼を見つめる)ああ、ジョージ、しばらく前から、私たちの上で禿鷹が舞っているわよ。
ガルガ (軽く)お前はいつから家へ帰ってないんだ?
(マリー、黙る)
163 :
名前なし:2009/12/17(木) 14:27:43 ID:Ckte5NqI
ガルガ お前がここに出入りしているって話は聞いているぜ。
マリー そう。家族の世話は誰がやっているのかしら?
ガルガ (冷血に)安心しろよ、どっかの誰かさんが面倒をみてくれるって話だぜ。
それにお前が何をやってるかも知ってるぞ、チャイナホテルがどういうところかも少しは知っているからな。
マリー そんなに冷酷になっていい気持ちなの?
(ガルガ、じっと彼女を見つめる)
マリー そんなに顔をじっと見ないで、分かってるわ、あんたは敬虔なカトリックだから告解させたいのね。
ガルガ さあ、やりな!
マリー あの人を愛しているわ、何故何も言わないの?
ガルガ 愛すればいいじゃないか、それがあいつの弱みになる。
マリー お願い、そんなに天上ばかり見てないで。私、あの人に愛してもらえないの。
ガルガ こいつは恥だぜ!
マリー 分かっているわ---ああ、ジョージ、私は二つに裂けてしまったわ、あの人に愛してもらえないからなのよ、
あの人の姿を見ただけで体が震えてくるの、でも面と向っては逆のことばかり言ってしまうの。
ガルガ お前にまともなことは言ってやれない、振られている女にはね。昔俺にも友がいた。
ラム酒一本の値打ちもない女だったが、男の気を引くことだけは心得ていやがったよ!
ただで身を売りはしなかったからね。自分の値打ちは知っていたんだ。
マリー ずいぶん厳しいことを言うのね、兄さんの言葉はアルコールみたいに私の頭の中に沁み込んでいくわ。
でもそれはいいこと? きっと兄さんにはいいことだって分かっているのね。
でも、私は今兄さんという人がよく分かったわ。(廊下からシュリンクが入って来る)
毛虫 俺もあんたに人生経験からいっておくぜ、人間って奴は、どんな非情な奴だって絵空事の夢にころりと参ってしまうものさ、
それに現実の人生ってやつほど空々しいものはないんだぜ!
(マリー・ガルガが戻ろうとしてシュリンクにぶつかる)
164 :
名前なし:2009/12/17(木) 14:29:12 ID:Ckte5NqI
シュリンク ここにおいででしたか、ミス・ガルガ?
マリー 女が男の人に愛を打ち明けるなんて、非常識なことです。私は言っておきたいの。
私のあなたへの愛はそれだけのものだって。あなたから何も求めはしません。
あなたにこんなことを言うのは生易しいことじゃなかったんです。多分よくお分かりでしょうけど。
ガルガ (寝室から入って来る)ここにいろ、マー。俺たちは草原の住人の面魂で、大都会に流れ込んで来たんだ。
堂々と振舞うんだ。お前のしたいことを、しなければいけないぞ。
マリー そうね、ジョージ。
ガルガ 今は、こいつが大馬力で働いているのに、俺はのらくらとアブサンの池に転がって寝ているのさ。
シュリンク 世界の征服者と言われるような人は、仰向けに寝転がるのが好きなものさ。
ガルガ 物持ちはあくせく働くものさ。
シュリンク 心配事でもあるのかね?
ガルガ (シュリンクに)俺があんたの顔を見つめると、あんたはいつもいろいろ気をまわしてくれるんだな。
あんた、競馬で大損しそうな気がしたのか。顔が嫌に老けたね。
シュリンク 私のことを忘れないでいてくれてありがとう。君は南方に行ってしまったんだと思いかけていたよ。
失礼をお詫びしたい。僭越だったけれども、私は君の不幸なご家族を、この手で働いて養っていたよ。
ガルガ 本当か、マー? 僕は全然知りませんでしたよ。潜り込んだんですか?
僕の家族を養っているという卑劣なお楽しみを満喫しているのか? おかしくてへそが茶を沸かすぜ。
(彼は下手の寝室に行って横になって笑う)
165 :
名前なし:2009/12/17(木) 14:30:38 ID:Ckte5NqI
シュリンク (彼の後について行く)笑いため、君の笑いが好きだ、君の笑い、それ、私の太陽だ。
ここは全く惨めだからな、君の姿を見られないのは本当に辛かったよ、もう三週間になるな、ガルガ。
ガルガ その間、僕は満足していたぜ、ともかくね。
シュリンク ぬるま湯につかったような生活をしていたものな。
ガルガ ただあんまり寝転がりすぎていたので、背骨が魚の骨のように平らになっちまったよ。
シュリンク 生きるというのは何と惨めなことだ、ましてやぬるま湯に浸かって生きるなんて、おまけにそのぬるま湯というのが酷すぎる代物さ。
ガルガ 俺は人生に用事がたくさんあるから、あんたを思い切り靴で蹴飛ばしたりしてはいられない。
シュリンク 私のようなつまらない人間のことや私の目論見は気にしなくていい。でも私は敵としてここにいるのだ。
君がこれで戦いを放棄するというなら、君は戦いの場を捨てた責任を負わざるを得ないよ。
ガルガ でも俺は放棄するぜ。ストライキだ。タオルを投げるぜ。大体俺はそんなに深く、あんたに食いついたかね?
あんたはちっぽけな固い檳榔樹の実だよ、こんな実は吐き出すに限る。歯より固くて、しかも殻ばかりってことが分かっているんだから。
シュリンク (満足そうに)君に分かってもらうためなら、どんな明かりでも使ってはっきりさせようとしているんだ。
私の姿をこの明かりの下に晒そう。(明かりの下に行く)
ガルガ 自分のあばただらけの魂を、ここで競売にでもする気か? あんたはどんな苦しみにも耐えられるほど、強靭なのか? 皮が厚いのか?
シュリンク さあ、この殻を噛み砕くんだ。
ガルガ あんたは後退りして俺のコーナーに飛び込んできた。形而上学的な戦いをやるといいながら、俺の身内を拷問にかけた。
シュリンク 妹さんにしたことを言っているのかね。君が庇っていたものを、私は拷問台にかけたりはしなかったよ。
166 :
名前なし:2009/12/17(木) 14:32:43 ID:Ckte5NqI
ガルガ 俺の使えるのはこの二本の手だけだ。俺にとって人間的だったものを、あんたは一山の肉のように、片っ端から飲み込んでしまった。
あんたに俺の生きる糧をすっかり塞がれたおかげで、初めて俺は、これが俺の兵糧だったのかと気付いたわけだ。
あんたは俺の家族まで手段にした。俺の手持ちの兵糧を食い潰していった。俺は日ごとに痩せていった。
ついに俺は形而上的なものになってしまった! その今になって、自分の飲み込んだものを、この俺の面に吐き出す気なのか?
マリー ジョージ、お願い、もう出て行ってもいいでしょう? (彼女は後ろに下がる)
ガルガ (彼女を前に引っ張り出して)とんでもない! たった今お前のことを話し始めたところじゃないか! 俺の目はお前に注がれたばかりだ。
シュリンク 私は運悪く君のウィーク・ポイントを蹴飛ばしてしまった。
後退しよう、君は自分が愛している対象の価値を、それが死体置き場に並ぶようになって始めて悟るようだね。
そこで私には、君の愛の対象が何か君に教えてあげたいという欲求が起こってくるのだ。
ガルガ でも犠牲はもちろん払うつもりさ。僕は拒んでいない。
マリー 兄さん、私を行かせてちょうだい。ここにいるのが恐いの。
シュリンク こっちへいらっしゃい! (廊下へ駆け出す)新しい家庭を築こうじゃないか!
マリー ジョージ!
ガルガ ここにいろ! (入って来る)人間的にやってください、あんた!
シュリンク 私は一瞬たりとも拒みませんよ。
ガルガ お前はこの男を愛しているのか? でも相手が乗らないのか?
(マリー、泣く)
シュリンク あまり無理をしない方がいいんじゃないですか。(寝室に引っ込む)
ガルガ 心配ご無用さ。この方が話がはかどる。今日は木曜の晩ですね? ここはチャイナホテルだ。
ほら、これが僕の妹のマリー・ガルガですよ、そうでしょう?
(外へ飛び出す)来いよ、マー! 俺の妹! これが横浜生まれのみスター・シュリンクだ。お前に何か話があるってよ。
マリー ジョージ!
167 :
名前なし:2009/12/17(木) 15:33:34 ID:Ckte5NqI
ガルガ (出て行って飲むものを取って来る)「俺は街中に逃れた。そこに燃える茨の茂みの中に、オレンジ色の口を歪めて、純白な夜の女たちがうずくまっていた」
マリー 窓の外は真夜中よ、今日は家に帰りたいの。
シュリンク お付き合いしましょうか、よろしかったら。
ガルガ 「彼女たちの髪は黒漆の林のよう。細い毛だった。彼女たちの涙は、酔いしれた夜の逸楽と、戸外に転がった生贄どもの上を渡る風によって拭われる」
マリー (小声で)どうか私にそんなことを頼まないで下さい。
ガルガ 「玉虫色の蛇の皮のような薄物が、絶えず苛立つ体に触れて、ひたひたと音を立てる」
シュリンク 私はあなたに本気でお願いしたのですよ。私は誰に対しても隠し事をしません。
ガルガ 「この薄物が彼女たちの体を、足の爪先まで覆っている。天国にいるマドンナでさえ、自分の妹たちのこんな姿を見たら青ざめるだろう」
(戻って来る。シュリンクにコップを渡す)のみませんか? 飲む必要がありそうだ。
シュリンク 何故あなたは飲むんです? 酒飲みは嘘吐きだ。
ガルガ あんたとお話するのは、実に愉快です。僕は酒を飲むと、手前の思想ってやつが半分くらい流れ出ていっちまうんだ。
それを僕は地面に注いでやる。すると思想はすっかり軽くなるんだ。さあ飲みたまえ!
シュリンク 飲みたくない気分です、お許しいただければ。
ガルガ 僕がすすめているのに、あんたは拒むんだ。
シュリンク 拒みはしない、ただ私には脳髄しかないものだから。
ガルガ (しばらく間をおいて)失礼したな、じゃあ半分ずつ飲もうじゃありませんか。あなたも脳髄を減らせばいい。飲んでしまえば愛するようになりますよ。
シュリンク (まるで儀式のように飲む)飲んでしまえば愛するようになるだろう。
ガルガ (寝室から呼ぶ)一杯飲まないか、マー? 嫌か? 何故座らないんだ?
ヒヒ 黙れ! 奴らの喋るのを、今まで我慢して聞いていた。もういい加減に黙ってもらいたい。
ガルガ (マリーに)こいつは黒い穴だ。今、四十年が過ぎた。俺は嫌とは言わない。台地が裂ける、下水が高まってくる。でもその欲望は弱すぎるのだ。
四百年間、俺は海に訪れる朝を夢見てきた。目には汐風を感じた。何という柔らかい風だったのだろう! (彼は飲む)
168 :
名前なし:2009/12/17(木) 15:35:13 ID:Ckte5NqI
シュリンク (へりくだって)私はあなたに求婚します、ミス・ガルガ。あなたの前に平伏しましょうか?
どうか私とお付き合いください。私はあなたを愛しています。
マリー (バーに駆け込む)助けて! 私を売ろうとしているのよ!
マンキー 俺がついているさ。
マリー 分かっていたわ、あなたが私のいる所に、必ず来ているだろうって。
ガルガ 「オペラのように一陣の風が仕切り壁に隙間を作った」
シュリンク (怒鳴る)バーから出ていらっしゃい、ミス・ガルガ、よろしかったら。
(マリー、サロンから出てくる)
シュリンク どうか体を投げ与えるようなことはしないで下さい、ミス・ガルガ。
マリー 私は何もない小さな部屋に行きたい。私はもうたくさんのことを求めることはしないわ。パット、約束するわよ、私はもう何かを望んだりしないわ。
ガルガ あんたのチャンスを守りなさいよ、シュリンク。
シュリンク まだ過ぎ去っていない長い年月の事を、お考えなさい、マリー・ガルガ。そしてもうお休みなさい。
マンキー 一緒になろう。俺は四百ポンド持っている。これだけあれば、冬にもねぐらが見つかるし、幽霊は死体置き場にしか出なくなる。
シュリンク お願いです、マリー・ガルガ、よろしかったら私と一緒になりましょう。あなたを私の妻のように扱い、あなたにかしずきます。
もしあなたを一度でも傷つけたら、人目につかぬように首を吊りますよ。
ガルガ こいつは嘘は吐かない。絶対に嘘は吐かないぜ、お前、こいつと暮らせば、今奴の約束したものだけ果てに入れられるぜ、掛け値なしに。(バーに行く)
マリー あなたに聞きたいわ、パット、私があなたを愛していなくても、あなたは愛してくれるの?
マンキー そうとも、それに君が俺を愛さないなんて、この天と地のどこを探しても書いてないぜ、君。
ガルガ 君かい、ジェーン。君、カクテルをすっかり平らげちまったのか?
君はどうも君とは似ても似つかない姿になっていくな。何もかもすっかり売り渡したのか?
169 :
名前なし:2009/12/17(木) 15:36:26 ID:Ckte5NqI
ジェーン この男を片付けてよ、ヒヒ。こいつの顔が嫌なのよ、うるさいったらありゃしない。
私がもうミルクと蜂蜜の中で暮らしている女じゃなくなったからって、からかわれるいわれはないわ、パブ。
ヒヒ お前のことをガバガバの使い古しまんこだなんて言う奴がいたら、鼻の骨をへし折ってやる。
ガルガ 奴らは君まで養ってくれたのか? 君の顔ときたら、中身を吸われたアイスレモンみたいに萎びちゃったな。
昔は君は、オペラの中の女のように、ぼろを着ていても上品に歩いていたのに、今は黒の白粉塗りだ。
でも君が自分から進んでここにやって来たんじゃないことは、大いに買ってやるぜ。
蝿どもにたかられて酷く汚れたからだろ、酔っ払いの牝鶏ちゃん。
マリー さあ行きましょう。出来れば、あなたのお世話をしたかったんです、シュリンクさん、でもできません。これは傲慢じゃないんです。
シュリンク よかったらここにいらっしゃい! お気に召さないなら、二度と求婚しません、
しかし穴に飲み込まれてはいけませんよ。男から離れても、いられる場所はたくさんある。
ガルガ 女にはそういう場所はないぜ、放っておきなよ、シュリンク、こいつが行こうとしている先が分からないのか?
お前だって、ジェーン、冬のねぐらの方を選んでいたら、今頃はまだワイシャツの山に囲まれていただろうぜ。
シュリンク 愛する前に、お飲みなさい、マリー・ガルガ!
マリー 行きましょう、パット、ここはいい場所じゃないわ、これがあんたの奥さん、ジョージ?
この人が? ともかくお目にかかれて嬉しいわ。(マンキーと退場)
シュリンク (後から声をかける)私はあなたを見捨てませんよ、それが分かったらまた来て下さい。
ヒヒ 使い古しのまんこだぜ、諸君、ガバガバのな。(彼は笑う)
ガルガ (蝋燭でシュリンクの顔を照らしてみて)あなたの顔は全く平静だ。そのあなたの善意ってやつで僕を丸め込むつもりですか?
170 :
名前なし:2009/12/17(木) 15:37:27 ID:Ckte5NqI
シュリンク これで双方とも、相当の犠牲を払ったわけだ。タヒチへ行くのに、あんたは何隻船が必要なんですか、
船の帆には、私のシャツを使うつもりですか、それとも妹さんの肌着にするか?
私は妹さんの運命の責任はあなたに負わせるよ。あなたは妹さんは永久に男たちの対象になる女だってことを妹さんに悟らせてしまったんだ。
私はあなたの計画をぶち壊しはしなかったようだな。本当は私は妹さんを処女のまま手に入れられたところなのだ。
あなたは私に傷物をあてがうつもりだったのにね。あんたが放り出していった家族のことも忘れないで下さい。
これで自分がどれだけ犠牲を払ったかあなたにも分かったでしょう。
ガルガ 僕は今、家族の奴らなんか、みんな叩き殺してやりたいくらいだ。分かっているさ---これからあんたの先手をうつつもりだからね、
あんたが石炭運びを屋って稼いだ金で、何故俺の家族をたっぷりやしなってくれたか、その理由もわかりましたよ。
僕から楽しみを奪おうったって駄目だぜ。あんたが僕のために保管しておいてくれた、
この小さな動物も、ありがたくいただいて参りますよ。
ジェーン 私を侮辱するのはよして。私はちゃんと独り立ちして、自分で食べている女よ。
171 :
名前なし:2009/12/17(木) 15:38:20 ID:Ckte5NqI
ガルガ それからお願いだが、あの二重売りの材木の代金を貰いたい。
多分これも僕のために保管してくれているでしょうね。いよいよ貰う時になりましたからね。
(シュリンクはその金を取り出して彼に渡す)僕は全く酔っ払っている。
しかしどんなに酔っていても、結構いい考えが浮かんで来るんだ、シュリンク、素晴らしい計画がさ。(ジェーンをつれて去る)
ヒヒ あれはあんたの最後の金だったんですね、ボス。その金の出所はどこです?
そのうち問い合わせが来ますよ、ブラスト商会はもう支払いを済ませた材木を早く寄越せと言ってきてるんだから。
シュリンク (彼の言うことには耳を貸さないで)椅子だ。(彼らは椅子に座ったままで誰も立ち上がらない)米と水をくれ。
毛虫 ここではあんたにやる飯はない。あんたの預金はマイナスだぜ。
172 :
名前なし:2009/12/17(木) 17:08:01 ID:Rf2xODvp
ミシガン湖。九月末。
(シュリンク、マリー)
173 :
名前なし:2009/12/17(木) 17:09:11 ID:Rf2xODvp
マリー 木々からは人間の糞みたいなものが垂れ下がっているわ、天は手が届きそうに近い、私を相手にもしないくせに。
寒いわ、私は凍死しかけたつぐみのよう。どうしようもないの。
シュリンク それで役に立つなら言いましょう。私はあなたを愛しています。
マリー 私は体を投げ与えてしまったの、一体どうして私の愛は、こんなに苦い実を結んでしまったのかしら。
他の人たちなら、愛する時が生涯で一番素晴らしい時だというのに、私は枯れしぼんでしまう。
自分の身を責め苛んでいる。私の体は汚れてしまったの。
シュリンク どんなにどん底かすっかり話しておしまいなさい。そうすれば気が軽くなるでしょう。
マリー 私は動物のような男とベッドで寝たわ。全身がつんぼのように無感覚だったけど、その男に体を投げ与えたわ、何回も。
それでも体はちっとも暖まらなかった。彼はその合間にヴァージニア煙草をふかしていたわ、
船員だったわ、私はこんな壁紙に囲まれながらあなたをずっと愛しつづけていたわ、
あまり熱烈だったので、相手が自分への愛と勘違いして、私を貶めたほどだったわ。
私は深い深い闇の眠りの中に落ちていったの。あなたに対しては何の負い目もないのに、私の良心は私を責めるのよ。
本当はあなたのものであるはずの私の体を、汚してしまったといって。あなたはその体を拒んだのにね。
シュリンク 可哀想だね、寒いのですか、私は、空気は生温くて暗いと思っていたんだが、
私は、この国の男たちが恋人に向って何と言うのか知らない。でもそれで役に立つなら言いましょう。あなたを愛していると。
マリー 私はとても臆病になったわ、純潔と一緒に勇気まで失ってしまったのね。
シュリンク 汚れはまた洗い流せますよ。
174 :
名前なし:2009/12/17(木) 17:10:25 ID:Rf2xODvp
マリー 私は川に身を投げなければいけないところね、でもできないの、まだ覚悟が出来ないのよ、ああ、この絶望!
どうしても満たされないこの心、私は何でも中途半端なの、愛してもいない、ただの見栄なのよ、
あなたの仰っていることは聞こえているわ、耳は聞こえるの。でもこれはどういうこと?
多分私は眠るでしょう、それからまた起こされる。多分私は、汚らわしいことをしていくでしょう。
住む屋根を手に入れるために。そして自分を欺き、そして目を閉じるんだわ。
シュリンク いらっしゃい、ここは冷えてきましたよ。
マリー でもあまり近すぎる天に比べれば、木の葉陰のほうが暖かくて優しいわ。(退場)
マンキー あの女の跡がここまでついている。九月という月には、たっぷりユーモアをもつ必要があるな。
交尾期の今頃は、カニの雄雌もつがい合うし、茂みでは鹿の雄が牝を求めて鳴いている。穴熊の禁猟期も開けた。
でも俺様の後ろ足は冷たいな。黒い靴下に新聞紙を巻きつけてやろう。あの女、どこにねぐらを構えやがったのかな。
こいつはまさに酷い話だ。あいつが今頃、薄汚れたバーで魚の骨みたいに、ごろごろしているとしたら、
もう二度と清潔な肌着は身につけられない身になってしまう。染み付いた汚れはもう取れない!
よし、パット・マンキー・ボドル、俺は手前自身を即決裁判にかけてやるぞ。
俺は手前の身を防御するには弱すぎるから、そこで攻撃に転じてやるってわけだ。
あのあばずれなんか、厚い皮ごとひとのみに飲み込んで、消化を早くするためにお祈りをしてやるぞ、畜生。
禿鷹は軍法会議で即決銃殺して、マンキー・ボドル博物館に吊るしてやる。
ブルブル! ただの台詞だ! 歯の抜けたような台詞だ! (ピストルをポケットから出す)
175 :
名前なし:2009/12/17(木) 17:11:26 ID:Rf2xODvp
これこそもっとも冷酷な解答ってやつだ。茂みの中を、女の尻の後を追いかけて這いずり回るなんて、何 ことだ!
この老いぼれ助平! くたばってしまえばいいんだ、俺なんか。おっと畜生、ここは自殺の森じゃないか!
いいか、しっかりしろ、パッディ! もしあの女がすっかりお終いになっているとしたら、その末路はどうなるだろう。
やめたやめた、パッディ。煙草を一服してちょっくら腹をこしらえよう。こんなものはしまって、さあ、前進だ!
マリー (シュリンクと戻って来る)そんなことは神様にも人間にも背いた行為です。あなたと一緒にはなりたくないわ。
シュリンク そんなのはもろい感傷にすぎませんよ。あなたの心の風通しをよくしておやりなさい。
マリー できません。あなたは私を生贄になさるおつもりね。
シュリンク あなたはいつだって、頭を男の腋の下に入れていなければならないんだ。相手は誰にしろね。
マリー 私はあなたにとっては何者でもないのにね。
シュリンク あなたは一人で生きることは出来ない。
マリー あなたは何て素早く私を捕まえてしまったの。まるで私があなたから逃げて行こうとしたみたいに。生贄のように虜にしたわ。
シュリンク あなたは狂った牝犬のように茂みに駆け込んだが、今度は狂った牝犬のように飛び出すんだね。
176 :
名前なし:2009/12/17(木) 17:12:16 ID:Rf2xODvp
マリー 私はあなたが今仰ったような、そんな女かしら? 仰る通り、いつもそうだったのね。
私、あなたを愛しています。あなたを愛していることだけは忘れないで下さい。狂った牝犬のように愛しています。
あなたがそう言ったのよ。さあ、ではお金を払ってちょうだい、そうよ、私は払ってもらいたいのよ。
お札をちょうだい、それで暮らしていくわ、私は淫売だもの。
シュリンク あなたの顔に雫が流れているよ、あなたが淫売だなんて!
マリー 私をからかわないでお金をちょうだい。顔を見ないで。私の顔が濡れているとしたら、涙なんかじゃないわ、霧のせいよ。
(シュリンク、彼女に札を渡す)
マリー お礼なんか言わないわよ、横浜生まれのシュリンクさん。これは全くのビジネスなんですもの。お礼はなしよ。
シュリンク 帰った方がいい、ここでは稼ぎにならないよ。(退場)
177 :
名前なし:2009/12/17(木) 18:38:55 ID:j8Lz5Lx2
ガルガ家の居間。一九一二年九月二十九日。
(部屋は新しい家具でいっぱいである。ジョン・ガルガ、マエ、ジョージ、ジェーン、マンキー、みんな仕立て下ろしの服を着て、結婚式の食卓につく)
178 :
名前なし:2009/12/17(木) 18:40:44 ID:j8Lz5Lx2
ジョン ここで名前は言いたくない、違う肌の色をしたある男が、知り合いのある家族のために、
石炭運びに波止場へ出かけて行って、その家族のために夜を日についで働いて、
俺の家の家族を保護してくれるようになってからというもの、ここの暮し向きはあらゆる点でよくなってきた。
今日うちの息子のジョージが大会社の重役並みの結婚式を上げられるようになったのもあの男のおかげだ。
でもあの男はそれを知らない。新調のネクタイ、黒いスーツ、口から漏れるウィスキーの香り、しかも新しい家具に囲まれて!
マエ あの男が波止場の石炭運びをやってそんなに稼ぐなんて、おかしなことじゃないかい?
ガルガ 稼ぎ手は俺だよ。
マエ お前たちはそそくさと結婚しちゃったね。少し早すぎたんじゃないかね、ジェーン?
ジェーン 雪だってとけてしまえば跡形もなくなるわ。間違った男を選んでしまうことだってよくありますよ。
マエ 選んだ男の良し悪しを言っているんじゃないよ。問題は長続きするかどうかだよ。
ジョン お喋りはよせ! ステーキを食って嫁さんと握手しなさい。
ガルガ (彼女の手首をつかんで)素晴らしい手だ。ここは全く素敵な居心地だよ。壁紙が剥がれていたって平気だ。
新調の服を着て、ステーキを食う。ここの石炭だっていい味だ。僕は指先くらいの厚さの漆喰を全身にかぶっていたんだから。
ピアノがあるな。愛する妹のマリー・ガルガの、写真の周りに花環を飾ってくれよ、
二十年前に大平原で生まれた彼女の写真の、ガラスの下に色褪せない押し花を入れておくんだ。
ここは座り心地も寝心地も実にいいじゃないか、黒い風もここまでは吹いてこないさ。
ジェーン (立ち上がる)どうしたの、ジョージ。熱でもあるの?
ガルガ 熱があるといい気分だぜ、ジェーン。(他の人たちも立ち上がる)
ジェーン 私はずっと考えていたのよ、あなたは私に何を企んでいるんだろうって。ジョージ?
179 :
名前なし:2009/12/17(木) 18:41:50 ID:j8Lz5Lx2
ガルガ 何故そんなに青い顔をしているんだ、母さん、放蕩息子がまた帰ってきて、同じ屋根の下に座っているのにさあ、
どうしてみんな石膏で固めた立像みたいに壁際に突っ立っているんだ?
マエ お前がそうやってべらべら喋っているのも、例の戦いの話なんだろ。
ガルガ 僕の頭に変な考えがちらちらしているっていうのか? そんな考えは追い払えるさ。
(シュリンク、登場)
ガルガ ああ母さん、ステーキとウィスキーをこのお客様に出してくれ。歓迎しなきゃいけない人だ!
何故って僕は今日結婚したんだからね、さあ、女房の君が話せよ!
ジェーン 私と私の夫は、今朝ベッドから起きるとそのまま真っ直ぐ保安官の所に出かけて行ってこう言ってやったわ。
「ここで結婚できますか?」すると保安官は言ったわ。
「俺はお前という女をよく知っているぞ、ジェーン---お前はこの亭主一人で通せるのか?」って。
でもこの髭面の男は気がよさそうで、私に悪意はもっていなかったと分かったので、こう言ったの。
「人生ってのはあなたの考えているようなものじゃないのよ」って。
シュリンク おめでとう、ガルガ、君は復讐の念にとりつかれているようだね。
ガルガ あんたは微笑んでいるけど、酷く恐いんだろう。それはそうさ、そう慌てて食わなくてもいいじゃないか!
時間はたっぷりあるんだぜ、マリーはどこだ? あの娘はちゃんと世話してもらっているだろうね。
きっと満足しきっているだろう。悪いけど今の所、あんたにおすすめできる椅子が空いていないんだ。
ちょうど一つ椅子が足りない。これさえあれば家具は新調で完全なんだけどね。
まあこのピアノを見てくださいよ! 全く居心地がいい。僕はこの一家団欒の雰囲気の中で幾晩も送りたい。
僕も新しい人生を始めることになったのでね、明日はまたC・メインズの貸本屋に行きますよ。
マエ ああ、ジョージ、そんなにお喋りをしないでおくれ。
180 :
名前なし:2009/12/17(木) 18:43:08 ID:j8Lz5Lx2
ガルガ お分かりになったでしょう、僕の家族は僕がこれ以上あなたと付き合うことを、望んでいないんです。
僕たちの付き合いは終わりですよ、ミスター・シュリンク、この付き合いのおかげで大変儲けさせてもらいました。
この家具がそれを雄弁に物語っています。家族みんなの新調の服を見ても明らかだ。現金だってたっぷりありますよ、本当にありがとう。
(静寂)
シュリンク すまないが、個人的なことでお願いがあります。私は、ここにブラスト商会からの手紙を持っています、
ヴァージニア州の裁判所の判が押してあります。私はこの手紙をまだ開けていなかったことに気がついた、
開けてくださるとありがたいのですがね。どんな悪い報せでも気分が悪くならないならね。
(ガルガ、読む)
シュリンク この私の個人的な問題で君に指示していただければとても気が楽になるのですが。
マエ 何故お前は何も言わないんだい、ジョージ? 何をするつもりなの? また何か企んでいる顔つきだね。
私はそれが一番恐いんだよ、あんたたちのやっていることは私には五里霧中だよ。まあ待っていろよ、と言ってあんたたちは出かけて行く。
そして戻って来た時には、もう見分けられないほど人が変わってしまっているんだ。
何をやってきたのか、私たちにはまるで分からない。お前の計画を言っておくれ、
分からないなら分からないと言いなさい、だったら私たちもそれに合わせて考えるから。
この鉄筋と塵垢の町で過ごした四年間ときたら! ああ、ジョージ!
ガルガ いいかい、その酷い四年間というのが、それでも一番ましな月日だったんだよ、それももうこれで終わりだ。
もう何も言わないでくれよ。両親であるあんたたちと、女房のジェーンに言っておく。俺は刑務所に行く決心をしたよ。
181 :
名前なし:2009/12/17(木) 18:44:38 ID:j8Lz5Lx2
ジョン 何だって? お前たちの金の出所はそんなことだったのか。
お前の末路は監獄だってことは、お前の顔に書いてあったよ、五つぐらいの時からな。
お前たち二人の間に、どんなことがあったのか聞きはしなかった。どうせ汚らしいことだと言うことはいつも分かっていたさ。
ピアノを買うのも牢屋に入るのも、山のようにステーキを買って家に運び込むことも、
家族から生活を奪うことも、お前たちにはみんな同じことなんだろう。
マリーはどこにいるんだ、お前の妹は? (彼は上着をむしりとって彼に投げつける)
俺に上着は返すぞ、こんなものは着たくはなかったんだ。でもこの先この町が俺をどんなに貶めても、耐えることには慣れているさ。
ジェーン ジョージ、どのくらい入れられるの?
シュリンク (ジョンに)材木の二重売りなんですよ、もちろん懲役にはなります、保安官には情状酌量などありませんからね、
彼の友人である私は保安官にいろんなことを明快に説明できますよ、
スタンダード石油の税金申告みたいにね。息子さんの相談にはいつでも乗りましょう。
ジェーン 口車に乗せられ茶駄目よ、ジョージ、人のことは心配しないであんたが必要だと思うことをしなさい。
あなたのいない間は、妻の私がこの家をやっていくから。
ジョン (からからと笑う)こいつがこの家の面倒を見てくれるとよ!
昨日お前が往来から拾ってきた淫売がかい。罪に穢れた金で養っていただくんだとよ!
シュリンク (ガルガに)あなたを見ていて家族思いだということが分かったよ。あなたはこの家の家具に囲まれて毎晩を過ごしたいと思っている。
あなたの考えも幾らかは友人である私に伝わってくるでしょう。
何しろ私はあなたたちみんなの障害を取り除くために、骨折っているんだからね。
ご家族があなたを失わないように努力するつもりですよ。
マエ 監獄なんかに行っちゃ駄目だよ、ジョージ!
182 :
名前なし:2009/12/17(木) 22:34:58 ID:j8Lz5Lx2
ガルガ そうだろう、母さんには分からないさ、一人の人間にダメージを与え、そいつをくたばらせるのがどんなに難しいか、これこそ不可能だよ。
世界は貧しい、俺たちは戦いの相手を世界に投げつける仕事で身を粉にするんだ。
ジェーン (ガルガに)また哲学を始めたわね、頭の上の屋根が腐って崩れ落ちようって時に。
ガルガ (シュリンクに)世界中を探し回ってみるといい、悪党なら十人くらいは見つかるでしょうが、
悪い行為ってものは一つだって見つかりませんよ。人間ってものは、ほんのちょっとした原因で破滅するものだ。
もうごめんだぜ、僕は清算するよ。これで勘定にけりをつけて、それからおさらばするぜ。
シュリンク 君の家族は、君に見放されるかどうかを知りたがっている。君が支えなければ破滅するものな。何か一言言いたまえ、ガルガ。
ガルガ みんなのしたいように、勝手にするがいいよ。
シュリンク 家族は野垂れ死にしていくだろう。君の責任だよ。
そうたくさんはいないと思うが、君みたいに綺麗さっぱりと片をつけたくなる気を起こす連中も、出てくるかもしれないな。
そいつらは汚いテーブルクロスをちぎったり、服のポケットの吸殻を叩き出したりする。
君のすることなすことを真似して、自由でいたい、
染みだらけの下着を着た酷い格好でいたいなんて言い出すかもしれないよ。
マエ お黙り、ジョージ、この人の言うことは本当だよ。
ガルガ こうやって目を細めてみると、冷たい光の中に、やっと何かが見えてきたぞ。
でもあんたの顔は見えない、ミスター・シュリンク。多分あんたには顔がないんだろう。
シュリンク 四十年の歳月は汚らしいものだったと分かった。そして今こそ大いなる自由ってやつが訪れるのさ。
ガルガ そういうわけだ、雪が降りそうだった、だが寒すぎて降らなかったぜ。
家族の奴らはまだ残飯を食い、ひもじい腹を抱えながら生き続ける。それをよそに僕は、僕は敵を打ち倒すのだ。
183 :
名前なし:2009/12/17(木) 22:36:11 ID:j8Lz5Lx2
ジョン わしには弱点ばかりしか見えないぞ、弱点だらけだ。生まれてこの方お前を知っているが、
お前はまるで駄目だ。さあとっとと出て行け、俺たちを捨ててな。なぜ家具を運び出しに来ないんだ?
ガルガ 本で読んだが、弱い水が大きな山を相手にも出来るそうだ。
そこで僕はあんたの面付きをよくよく眺めさせてもらうぜ、シュリンク、曇りガラスのように曖昧な君の悪いその面をね。
シュリンク これ以上君と話す気はないよ。三年か! 若い男にとってはドアが開くくらいの時間だ。
でもこの私にとってはどうだ! 私は君から何の利益も得られなかったよ、こう言えば慰めになるかな。
でも今考えてみると、君は僕の中に、ほんの少しの悲しみの傷痕も残していかなかったよ。
今私はまた喧騒の町に入り込んで、君と知り合う前のようにビジネスに勤しむつもりだがね。(退場)
ガルガ 僕は警察に電話さえすればいいわけだ。(退場)
ジェーン 私はチャイナバーへ行こう。警察なんかに会いたくないわ。(退場)
マエ 時々思うんだよ、マリーはもう二度と帰って来ないだろうって。
ジョン それも自業自得さ。罰当たりな仕事をしている連中は誰にも救ってもらえないのさ。
マエ まともだったら、いつ助けてもらえるのかね?
ジョン いちいち口を出すな!
マエ (彼の脇に座る)あんた、これからどうするつもりか聞きたかったんだよ。
ジョン 俺か? 何もしない、これで一巻の終わりよ。
マエ ジョージの企んでいることが分かってたんだろう。
ジョン ああ、おおよそはな。みすみすこうなったからなお辛いんだ。
マエ これから何で暮らしていく気?
ジョン まだ残っている金でよ。それにこのピアノも売れるだろう。
マエ そんなものは持って行かれちまうよ、どうせ真っ当に手に入れたものじゃないんだから。
ジョン ひょっとしたらオハイオに帰ることになるかな、何か手を打たなきゃ。
184 :
名前なし:2009/12/17(木) 22:37:29 ID:j8Lz5Lx2
マエ (立ち上がる)あんたにまだ言いたいことがあったよ、ジョン、でも言えないよ。
私は人間には突然破滅することなんかないと思っていたんだよ。
でも天ではいつもと変わらないごく当たり前の日に、神様がお決めになる、するともうその日から、破滅が始まるのさ。
ジョン お前は一体何を考えているんだ?
マエ これから、はっきり決めたことをするつもりだよ、ジョン。私はとてもやりたいんだよ。
何か理由があるだろうなんて思わないでおくれ、石炭はつけておくよ。晩御飯は台所に置いておくからね。(退場)
ジョン 階段の所で鮫の幽霊に食われないように気をつけろよ。
ウェイター (入って来る)ミセス・ガルガが下でグローク酒をご注文になりました。暗がりでお飲みになりますか、それとも明かりをつけましょうか?
ジョン もちろん明るい所で飲むぞ。(ウェイター退場)
マリー (入って来る)何も言わないで! お金を持って来たわ!
ジョン よくもいけ図々しくここに入って来られるな? 全く大した一家だよ! お前、なんてなりだ?
マリー なかなかいいと思わない。ところでこの新しい家具は一体どうしたの? お金が入ったの? 私もお金が入ったのよ。
ジョン どこから手に入れた?
マリー 知りたいの?
ジョン 寄越せ! 俺を飢えさせて、こんなざまにしちまったんだからな。
マリー ほらお金、取りなさいよ、新しい家具でいっぱいだけど。お母さんは?
ジョン 脱走兵は銃殺されるものだ。
マリー 家から追い出したの?
ジョン お前たちみんなせいぜい毒づいてどん底に落ち転げまわってグローク酒でも飲むといい。
でも俺は父親だぞ、俺を飢え死にさせていいのかよ。
185 :
名前なし:2009/12/17(木) 22:38:38 ID:j8Lz5Lx2
マリー どこへ行っちゃったの、母さんは?
ジョン お前も出て行っていいんだぞ、俺は見捨てられることに慣れているからな。
マリー いつここから出て行ったの?
ジョン 人生もお終いって時に、貧乏になって手前の子供のお情けに縋る運命に見舞われたとはいえ、
俺は道ならぬことにかかわりはもちたくない、躊躇ったりせずにお前を追い払えるぞ。
マリー お金は返してよ、父さんに上げるつもりじゃなかったんだから。
ジョン そうは問屋が卸さない。俺は棺桶に入れられても煙草を一ポンドくれ、と喚けるんだぞ。
マリー さようなら。(退場)
ジョン 奴らときたらせいぜい五分くらいしか喋る種を持ち合わせていない。それ以上は嘘が種切れになるからな。
(間)そうだな、言いたいことがある時は何だって、二分間黙っていれば済むんだ。
ガルガ (帰ってくる)母さんはどうしたの? 出て行っちゃったのかい? もう僕があらわれないと思ったのかな?
(彼は走り出て行くがまた戻って来る)別の服も持って行ってしまった。もう帰ってこないつもりだな。
(彼はテーブルに座って手紙を書く)
「エグザミナ新聞局長殿。何とぞマレー人の材木商C・シュリンクを注意人物として扱うようにお願い申し上げます。
この男は、私の妻ジェーン・ガルガにつきまとい、彼の所に勤めていた私の妹マリー・ガルガをレイプしたのであります。ジョージ・ガルガ」
おふくろのことは何も書くまい。
ジョン これで一家は離散だ。
ガルガ この手紙を書いて、ポケットにしまっておく。大事な書類だ、三年経ったら、
そのくらい豚箱を食らうだろうからな---釈放される一週間前に、この書類を新聞に売り込むことにしよう。
そうすれば俺が町に戻る時には、この男は俺の町から抹殺され、俺の目の前から消えているぜ。
俺が釈放される日を、あいつはリンチを求める連中の怒号によって知らされるのだ。
186 :
名前なし:2009/12/17(木) 22:54:02 ID:j8Lz5Lx2
C・シュリンクの事務所。一九一五年十月二十日、午後一時。
(シュリンク、若い秘書)
187 :
名前なし:2009/12/18(金) 02:06:04 ID:lps4HBGb
シュリンク (口述している)事務所の秘書に求職してきたミス・マリー・ガルガに返事してくれたまえ。
あの女ともあの女の家族の誰とも、もう二度と係わりたくないとね。スタンダード不動産宛だ。
「拝啓、当社の株券はもはや他社の手にあるものは一株もなく、また我が社の経営状態は安定していますので、
貴社の五ヵ年契約のお申し出にとって支障になるものは一切ございません」
勤め人 (一人の男を連れてくる)これがシュリンクさんだよ。
男 あなたにある情報をお伝えする持ち時間が三分あります、あなたがその事情を飲み込む時間は二分。
三十分前に編集局に刑務所からある手紙がきました。ガルガとかいう奴の署名がありましたがね、
この男はあんたにいろんな罪状を負わせていますよ。五分すると記者がここにやって来ます。これでお代は千ドル。
(シュリンクはその金を渡す。男は退場)
シュリンク (念入りにトランクに物を詰めながら)営業をそのまま続けてくれ。この手紙は送っておくんだ。私は戻って来るからね。
(急いで退場)
188 :
名前なし:2009/12/18(金) 02:06:52 ID:lps4HBGb
刑務所の向かいのバー。一九一五年十月二十八日。
(毛虫、ヒヒ、獅子鼻の男、救世軍の聖職者、ジェーン、マリー・ガルガ。外では喧騒)
189 :
名前なし:2009/12/18(金) 02:07:59 ID:lps4HBGb
ヒヒ リンチしろと喚いている奴の声が聞こえるだろう? ここの所チャイナタウンには穏やかではない毎日が続いているよ。
一週間前に、マレージンの材木商の犯罪が明るみに出た。三年前奴はある男を刑務所に送り込んだ。
その男は三年の間、じっと黙っていたんだが、釈放される一週間前になって、エグザミナー新聞に手紙を送って、一切をばらしてしまったんだ。
獅子鼻の男 とても優しい心の持ち主だな?
ヒヒ マレー野郎はもちろん高飛びしたぜ、でも奴はもうお終いよ。
毛虫 誰のこともあっさりお終いだなんて言えないぜ。この地球上の生存状況という奴をよく考えてみろ!
ここじゃ一回でお終いになる奴なんかいないぞ、少なくとも百回はかかる!
どんな奴だって有り余るほどの可能性を備えているからね。たとえば、ブルドッグ野郎、G・ウィッシューの物語を聞かせてやろう。
だけどこれには自動音楽機の伴奏がなきゃいけないな。ジョージ・ウィッシューは緑の島アイルランドで生まれた。
生後一週半にしてデブの男に連れられて、花の都はロンドンにやって来た。故郷は彼を他人のようにおっ放り出したというわけだ。
都で彼はやがて残酷極まりない女の手に落ちることになった。この女は奴を酷く責め苛んだのである。
あまたの悩みと苦しみに耐えぬいた後、ついに奴は脱走を試みたが、そこは緑の生垣の中、奴はハンターの追跡を受けた。
大きく危険な鉄砲が彼を目掛けて発射され、見ず知らずの猟犬どもが、幾度も彼を追いかけた。
この折に彼は足を一本失い、以後は三本足で歩くことになった。以後奴は様々な試みを行ったがいずれも失敗し、
人生に疲れ、飢えで半死半生の有様となったが、ある老人のもとでようやく隠れ家を見つけた。
この老人は奴と食べ物を分け合って食べた。かくて、失望と冒険を重ねた波乱万丈の生涯を送った彼は、
この老人のもとで、穏やかにも安らかに、七年半の生涯を閉じた。奴のお墓はウェールズにあるって次第。
どうかね、これを聞いてもあんたはいろんなことをあっさり一つに纏めてしまうかね、え?
獅子鼻の男 この人相書きの男は一体誰だね?
190 :
名前なし:2009/12/18(金) 02:09:22 ID:lps4HBGb
毛虫 こいつがお尋ね者のマレー人よ。奴は前にも破産したことがある。
ところが三年の間に、ありとあらゆる手練手管を使って材木業をまた元通りに建て直した。そのためにこの地区では酷く憎まれることになったよ。
もし刑務所にいる例の男が、奴の性的犯罪を暴露しなかったら、法的には後ろ指一つ指されないところだったんだ。
(ジェーンに)あんたの夫は一体いつ刑務所から出て来るんだ?
ジェーン そう、それなのよ、さっきまでは覚えていたんだけど、ねえ、皆さん、私が知らないなんて思わないでね、二十八日だから、昨日か今日ね。
ヒヒ くだらないお喋りは止めな、ジェーン。
獅子鼻の男 それで、あの趣味の悪い服を着ている女は何者だ?
ヒヒ あれは犠牲者よ、刑務所にいる男の妹さ。
ジェーン そうよ、私の義理の妹なのよ、私のことを知らないようなふりをしているけど、私が結婚した頃は一晩も家に帰ってこなかったのよ。
ヒヒ マレー人があの女を破滅させたのさ。
獅子鼻の男 あのガラス鉢で何をやっているんだ?
毛虫 俺には見えない、何か言っているぞ、静かにしろ、ジェーン。
マリー (お札を一枚鉢の水に入れてひらひらさせる)あの時、このお札を受け取ると、私は神の目が私に注がれているような気がしていたわ。
それで私は、何もかもあの人のためにしたのです、と答えた。すると神様はくるりと背を向けて行ってしまったわ。
煙草畑を風がざわめいていくような音をたてて。でも私はお札をとっておいたわ。一枚! 二枚!
私も崩れていく! 純潔を投げ与えてしまった私! 今はお金も消えていく! 楽じゃないわ!
ガルガ (C・メインズや他の三人の男と登場)僕と一緒に来るようにとお願いしたのは、
僕に加えられた酷い行為を自分の目で見てもらいたかったからです。
メインズさん、あなたにも証人になってもらうために来ていただきました。
三年経って戻って来てみると、女房はこんないかがわしい所にいたんですよ。
(彼は男たちをジェーンのいるテーブルに連れて行く)こんにちは、ジェーン、元気かい?
191 :
名前なし:2009/12/18(金) 02:10:58 ID:lps4HBGb
ジェーン ジョージ! 今日は二十八日だった? 知らなかったわ。知ってたら家にいたのに。
家の中はとても寒かったでしょう、私がここに暖まりに行ったのだろうと思った?
ガルガ これがメインズさんだ、知っているね。またこの方の所に勤めることになった。
それからこれが隣近所の方たちだ。僕の身の上を心配してくださっているんだ。
ジェーン こんにちは、皆さん、ああジョージ、あなたの出てくる日をすっぽかしたなんて、私は何と酷い女でしょう。
皆さんは私のことをどんな女だとお思いになるかしら。ケン・シー、皆さんのご注文を聞いて!
亭主 (獅子鼻の男に)これが例の奴を告発した刑務所帰りの男だよ。
ガルガ こんにちは、マー、僕を待っててくれたのかい? 妹もここにいますよ、ごらんのように。
マリー こんにちは、ジョージ、元気?
ガルガ さあ家へ帰ろう、ジェーン。
ジェーン あらジョージ、あんたはそう言うけど、一緒に家に帰った途端に怒鳴りつけるんでしょう。
今から先に言っておくけど、家はまるで掃除していないのよ。
ガルガ 分かっているさ。
ジェーン 知っているくせに意地悪ね。
ガルガ 叱りやしないよ。ジェーン、俺たちはこれから新しくスタートしようぜ。俺の戦いは終わった。
そりゃ当然分かるはずだ、僕は相手をこの町から追い出してしまったんだから。
ジェーン 駄目よ、ジョージ、何もかも悪くなっていくだけよ。よくなるばかりだと言っていても、実は悪くなっていくばかり。
悪くしかならないもの。皆さん、これが気に入りました? もちろんお気に入らなければどこか他へ行ってしまってもいいのよ……
ガルガ だって一体どうしたんだ、ジェーン。おれが迎えに来たのがいけないのか。
192 :
名前なし:2009/12/18(金) 03:16:50 ID:lps4HBGb
ジェーン 分かるでしょう、ジョージ。人間ってものはあんたの考えているようにはならないのよ、破滅した人間でもね。
いったいなぜあんた、このお方たちを連れて来たの。あたしは自分の末路がこうなるだろうってことは、昔からずっと分かっていたわ。
日曜学校の授業で弱きものの末路という話を教わった時、すぐに自分がそうなるだろうと考えたわ。
それをあんたがわざわざ証明してくれなくてもいいのよ。
ガルガ じゃ、俺と一緒に家へ帰らないのか?
ジェーン 聞かないでよ、ジョージ!
ガルガ やっぱり俺は聞くよ。
ジェーン じゃあ、私も言い方を変えなくちゃならないわね。いい。私はこの人と同棲していたのよ。
(彼女はヒヒを指差す)皆さん、私は告白するわ、どうしようもないのよ、これからよくなっていくわけがないわ。
ヒヒ この女は凄い魔女だぜ。
メインズ ぞっとするな。
ガルガ いいか、ジェーン。これがこの町で君の最後のチャンスだぞ。
僕は全て水に流すつもりだと言っているんだ。この方たちみんなが証人だ、さあ家に帰ろう。
ジェーン あんたはとっても親切ね、ジョージ。確かにわたしにとってこれが最後のチャンスだわ。
でもわたしは欲しくないの、私たちの間は真っ当ではないのよ、分かるでしょう、私はもう行くわ、ジョージ。(ヒヒに)さあ!
ヒヒ そういうことよ。(二人退場)
男たちの一人 この人は辛いだろうな。
ガルガ 家の戸は開けておくぞ、夜中にベルを鳴らしてもいいよ。
毛虫 (テーブルに寄って来る)多分あんたも気付いたと思うが、ここの俺たちの中に、ある家族の連中が混じっている。
家族と言うよりは、家族の生き残りと言った方がいい。それでもな、もう虫食いだらけになったその家族の連中でも、
もし、その一家の大黒柱だったおふくろさんが、今どこにいるか教えてくれる奴がいたら、喜んで最後の有り金まですっかりはたくだろう。
ところがこの俺は、ある朝の七時頃、歳は四十くらいのそのおふくろが、果物屋で掃除をしているところを見かけたんだよ、本当だ。
新しい仕事を始めたんだな、老けてはいるが、穏やかな顔をしていたよ。
193 :
名前なし:2009/12/18(金) 03:18:11 ID:lps4HBGb
ガルガ ところであんたは、例の男の材木屋に勤めていたでしょう。今シカゴ中が血眼で捜しているあの男の店に?
毛虫 俺が? 俺はそんな男に会ったこともないよ。
(退場。毛虫は退場する時、自動音楽機に小銭を投げ込んでいく。音楽機はグノーの「アヴェ・マリア」を流す)
救世軍の聖職者 (隅のテーブルに座っている。アルコールドリンクのメニューを言葉を味わうように一つ一つ硬い声で読み上げる)
チェリーフリップ、チェリーブランデー、ジンフィズ、ウィスキーサワー、
ゴールデン・スリッパー、マンハッタン・カクテル、それに当店の特性のドリンク、エッグ・ノッグ。
この飲み物はこれだけたくさんの材料で調達いたしました。卵、生卵、砂糖、コニャック、ジャマイカ・ラム・ミルク。
獅子鼻の男 あんたはこういうメニューの品を全部ご存知かね?
救世軍の聖職者 とんでもない! (笑い声)
ガルガ (つれてきた男たちに)分かってください、目茶目茶にされた僕の家族の有様を、
皆さんにこうやってお目にかけるのは、必要とはいえ、全く恥ずかしいことです。
しかし、あの黄色い野郎に二度とこの町の土地を踏ませてはならないってこともお分かりでしょう。
僕の妹のマリーはご存知のようにかなり長いことシュリンクの所に勤めていました。
今妹とちょっと話してみますがもちろん、出来るだけ気を遣って話さなければなりません。
妹はこんなに落ちぶれていても、まだ幾らかの感受性ってものを持ち合わせているでしょうからね。
(マリーの隣に座る)さて君の顔を拝ませてもらっていいかい?
マリー 私には顔なんてないわ、これは私の顔じゃないもの。
ガルガ それでも僕はまだ覚えているよ。君はある時、まだ九つの時だったが、教会で明日からあの方に私の所に来てもらうわって。
僕らはあの方って神様のことを言っているんだと思ったんだぜ。
マリー 私、そんなことを言ったかしら?
194 :
名前なし:2009/12/18(金) 03:19:50 ID:lps4HBGb
ガルガ お前がどんなに見放され、汚されても、俺はまだお前を愛しているんだよ。まだ愛しているなんて言うと、
お前は何でも自分の勝手をやっていいんだと思ってしまうことは分かっているけど、でもそう言いたいんだよ。
マリー この顔をじっと見ながらでもそう言えるの? この顔をよ。
ガルガ この顔さ、人間って奴は、たとえ顔が崩れても人は変わりやしないさ。
マリー (立ち上がる)でも私はそんなの嫌。兄さんにそんな風に愛してもらいたくない。
私は昔の私が好きなの。ちっとも今と変わっていなかったなんて言わないで。
ガルガ (大声で)金を稼いでいるのか? お前はお前を買う男たちの鐘で暮らしているのか?
マリー 兄さんはそれを知らせるために、この人たちを連れて来たの?
私に大っぴらに話せって言うのね、いいわ、私は自分の体を投げ与えたわ。でもそれからすぐお金を寄越せって言ってやったわ。
これは全くのビジネスなんだから。私は素晴らしい体をしているでしょ。
ただ、相手の男が煙草を吸っているのだけは我慢できないわ。セックスは私のお仕事。お金もこんなに持っているわ。
でももっと稼げるわよ。それをみんな使ってしまいたい。そうしたいのよ、
自分で稼いだんだから貯める必要なんか認めないわ、ほら、これ、これを鉢に投げ込むわよ、私の姿と同じ。
メインズ 酷いもんだ。
別の男 笑い事じゃすまないぜ。
救世軍の聖職者 人間というものはもちこたえすぎるのです。これが根本的な間違いですよ。
とてつもないことをやりだす可能性を持っている。そう簡単にはくたばらない。(退場)
メインズと三人の男 よく分かったよ、ガルガ、あんたがどんな酷い目にあったか。
獅子鼻の男 (マリーに近づく)淫売さんよう! (彼は高笑いする)悪徳とは女性の香水のことなり。
マリー 私たちは淫売よ! 顔は厚化粧、だから目も見られないですむ、昔は青く澄んだ目も。
(銃声一発)
亭主 あいつ、自分の咽喉を撃ったぞ。
(男たちが救世軍の聖職者を引きずってくる。彼をグラスののったままのテーブルに寝かせる)
195 :
名前なし:2009/12/18(金) 03:20:50 ID:lps4HBGb
第一の男 触っちゃいけない、手を引っ込めろ!
第二の男 何か言ってるぜ。
第一の男 (彼に屈み込んで、大声で)何かしてもらいたいことはあるか? 家族はいるのか? どこに運んだらいいんだ?
救世軍の聖職者 (呟く)もう峠は越えた。事態は好転するだろう。
ガルガ (彼に屈み込んで笑いながら)こいつはやり損なったよ、失敗の上塗りまでしてる。
自分の辞世の句を言ったつもりだったが、それは他人の辞世の句だ。しかも臨終の言葉にもならない。当て損なって、ほんの掠り傷さ。
第一の男 本当だ! ついてないな! 暗闇で撃ったからだぜ、明るい所でやればよかったのに。
マリー 頭が下がっちゃってるわ、何かをあてがってあげなさいよ! なんて痩せてるんでしょう。
この人が誰か今分かったわ、彼に唾を吐きかけられた男よ、あの時。
(マリーとガルガ以外の全ての連中が、負傷者を連れて退場)
ガルガ その彼の皮膚は厚すぎるんだ、何で突き刺しても曲がってしまうぜ、槍が何本あっても足りやしない。
マリー 相変わらず彼のことばかり頭にあるの?
ガルガ ああ、お前には本当のことを言おう。
マリー 愛と憎しみ、そのおかげでここまで落ちたわ!
ガルガ 愛憎ってものはそうしたものさ、まだ奴を愛しているのか?
マリー ええ、そうよ。
ガルガ 風向きがよくなる望みはないのか?
マリー あるわよ、時にはね。
196 :
名前なし:2009/12/18(金) 03:23:11 ID:lps4HBGb
ガルガ お前を助けてやりたいのは山々だ。(間)おれの戦いは、とんでもない所まで広がっちまったんで今じゃこいつを止めるとなったら、
シカゴ全市を動かさなけりゃ駄目なんだ。そりゃ奴自身も続ける気がしなくなっているかもしれないさ。
いつか自分にとっては三年とは三十年くらいに当たると、ぽろっと洩らしたことがあるからな。
こういうことまで計算に入れて僕は自分の姿は出さずに全く残酷な手段で奴にとどめを刺したんだ。
このとどめの一撃のやり方についてあいつと議論することはもうないだろう。
あいつが会いたくたって俺にはもう会えないようにしておいたからね。
今日、この町では、あらゆる街角でタクシーの運転手が、奴を二度とリングに上がらせないように見張っている。
もう今は奴は戦う前からノックアウトをとられてしまうことになっているんだから。
シカゴが奴の代わりに敗北のタオルを投げてくれたのさ。俺は奴の立ち回り先がどこか知らないが、奴もそのくらいのことは心得ているさ。
亭主 マルベリー通りで、材木倉庫が燃えているぞ。
マリー 兄さん、あの人を厄介払いできてよかったわね。私はもう行かなくちゃ。
ガルガ 俺はここに残るよ。リンチ行為の中心にいなくちゃな。でも夜には家に帰るぜ。これから一緒に暮らそうな。
(マリー退場)朝起きると熱いブラックコーヒーを飲み、顔を冷たい水で洗い、ぱりっとした服、
いやまず綺麗なシャツに着替える生活がまた始まるんだ。
毎朝脳に櫛を入れて、頭の考えを整理しよう。俺の周りでも、町の新鮮な朝の喧騒の中で、いろんな営みが行われていく。
俺はもう、俺を破滅の淵に突き落としそうだったあの情熱なんか感じなくなっているからな。
でも今はまだやっておかなければならない仕事がある。
(ドアを完全に開いて、笑いながらリンチを求める群衆の叫びに耳を傾ける。その声はますます大きくなってくる)
197 :
名前なし:2009/12/18(金) 03:48:37 ID:lps4HBGb
シュリンク (入ってくる。彼はアメリカンスタイルの背広を着ている)一人だけかね? ここまでやってくるのは大変だった。
あなたが今日釈放されることは知っていましたよ。君の家にも探しに行って来た。
私は追われているんだ。さあ早く、ガルガ。行きましょう!
ガルガ 気でも狂ったのかい? 俺は厄介払いするためにあんたを訴えたんだぜ。
シュリンク 私は勇気のある男ではない。ここへ来る途中、私は三度も死んだよ。
ガルガ そうとも、ミルウォーキー・ブリッジじゃ、連中は今、黄色人種なら黄色のシャツみたいに橋梁にぶら下げてるって話だぜ。
シュリンク だからこそますます急ぐ必要がある。承知しているはずだ、一緒に来なければいけないことは。まだ片はついていない。
ガルガ (シュリンクが時間の余裕がないのに気付き、殊更ゆっくりとする)
残念ながらあんたは、その希望を一番都合の悪い時に持ち出したね。俺はここではいろんな仲間と一緒だぜ。
三年前の九月に不意に堕落した妹のマリー・ガルガ、同じ頃、泥沼に落ちた妻のジェーン・ガルガ、それにまだ救世軍の聖職者もいるぜ。
こいつは名前は分からないが、あんたに唾を引っ掛けられて片付けられた男だ。こりゃ大した奴じゃない。
しかし他の誰よりも、俺のおふくろのマエ・ガルガ、一八七三年に南部で生まれ、三年前の十月に蒸発してしまった。
彼女は記憶から消え去ったのだ。もう顔もないんだよ、顔は黄色くなった枯葉のように落ちていった。(耳を傾ける)何という叫びだ!
シュリンク (同じように聞くことに没頭する)全くね。でもまだ本物の叫びではない、
純粋な叫びではない、その叫びになったら連中はここに現れる。
とするとまだあと一分はあるな。待て、聞いてみろ! あれこそ本物だ! 混じり気なしの叫びだ! さあ、来たまえ!
(ガルガはシュリンクと急いで去る)
198 :
名前なし:2009/12/18(金) 03:49:18 ID:lps4HBGb
ミシガン湖畔の石切り場の線路工夫が移動した後のテント。一九一五年十一月十九日。午前二時頃。
(シュリンク、ガルガ)
199 :
名前なし:2009/12/18(金) 03:50:36 ID:lps4HBGb
シュリンク 絶え間なく続くシカゴの騒音はやんだ。三七二一日間、空は蒼ざめ、空気はグローク酒のように青く澱んだ。
何という静けさだ。何も隠しておけない。
ガルガ (煙草をすっている)あんたはあっさり戦えるんだな。凄い消化力だ。
俺は子供の頃のことを思い出した。青いアブラナの波打つ草原、峡谷に巣食うイタチ、軽やかに流れる渓流。
シュリンク そうだ、そういったものはみんなかつては君の顔に浮かんでいた! だが、今の君の顔は琥珀のように硬くなった。
透明な琥珀の中には、時々昆虫の死体なんかが閉じ込められている。
ガルガ あんたはずっと、孤独だったのか?
シュリンク 四十年間。
ガルガ 死に際の近付いた今になって、あんたは人と触れ合いたいという、この地球の命取りの病気にとりつかれたってわけか。
シュリンク (笑いながら)敵同士になることで?
ガルガ 敵同士になることでだ。
シュリンク 俺たちが、ライバルであることに君は気付いたのだ、観念的な戦いの相手であることにな!
俺たちの付き合いは短かったが、一時期は戦いに打ち込んでいた。だがその時期もあっという間に終わった。
人生の段階は記憶の段階とは違うものだ。到達したことが次の目的にはならない。
最後のエピソードだからといって、以前のエピソードより重要だということにはならない。
かつて私は、二度にわたって材木業を経営した。二週間前から、その店は君名義になっている。
ガルガ 死の予感がするのか?
シュリンク これが君の材木業の元帳だ。いつか、数字にインクをかけた所から後がそうだよ。
ガルガ それを肌身離さず、持ち歩いていたのかい? 自分で開けたらどうだ。きっと汚いんだろう。
(読む)きちんと決算してある。貸し方ばかりだな。十七日材木取引、ガルガに二万五千ドル。
そのちょっと前、洋服のため二十ドルか。その後に一度、二十二ドルをマリー・ガルガ、つまり、「俺たち」の妹に渡しているな。
結局またもや、店はみんな焼き打ちにあって灰になったわけだ。
あんたの死体に石炭がかけられる時になったら、俺は嬉しくて夜も眠れないだろう。
200 :
名前なし:2009/12/18(金) 03:51:43 ID:lps4HBGb
シュリンク 過去を否定するな、ガルガ! 帳簿なんか見るんじゃない。
俺たちが考えた問題のことを思い出してくれ。いいか、しっかり聞くんだぜ。俺は君を愛しているんだ。
ガルガ (彼をじっと見据える)なんて胸糞悪いことを! あんたみたいな老いぼれには吐き気がするよ!
シュリンク 答えはもらえないかもしれないな。しかし君に答えが出た時には、私のことを思い出してくれよ。
腐った死体になって泥で口も開けぬ私のことを。何に聞き耳を立てているんだ?
ガルガ (面倒臭そうに)あんたに感情のかけらがあることが分かった、老いぼれたもんだな!
シュリンク 歯を剥き出すことが、そんなに素敵なことかね?
ガルガ 歯が綺麗ならな!
シュリンク 人間の果てしない孤独化は、敵を持つことさえ不可能にしてしまう。でも、動物たちとでさえ、理解し合うことは出来ないんだから。
ガルガ 理解し合うには、言葉なんて不十分なものさ。
シュリンク 私は動物たちを愛した。愛、体と体の触れ合う温もり、それはこの暗闇の世界の中でただ一つの恩寵だ。
だが、セックスの結合というものも、ただ一つの結びつきではあっても、言葉による亀裂を埋めることは出来ない。
そのくせ、どんな奴でも抱き合うのだ。絶望的な孤独化の中で、自分たちの絶望的な孤独化の味方をしてもらえる存在を生み出そうとしてな。
だが、親と子の世代なんて冷たく睨み合うだけだ。船にはちきれるほどの人間どもを詰め込んだとしても、
みんな凍えつくような孤独しか生まれてこない。一体聞いているのかね、ガルガ?
そうさ、孤独化はそれほどに果てしなく、闘争すら起こりえない。森だ! 森から人類は生まれたのだ。
毛むくじゃらで、猿の歯を持った立派な動物。生きる術を心得た動物。何もかも酷く簡単だった。
互いに肉を引き裂き合うだけのことだった。私ははっきり見える。
脇腹を震わせ、目と目で睨み合い、首に噛み付き、木から転げ落ちる。木の根元で血まみれになって、くたばっている奴、
そいつが敗北者だ、木から一番沢山相手を蹴落とした奴、そいつが勝利者だった! 何を聞いているんだ、ガルガ?
201 :
名前なし:2009/12/18(金) 11:01:49 ID:lps4HBGb
ガルガ シュリンク! 俺はこれで、三週間ってもの、あんたのお喋りを聞いてきた。ずっと、俺は待っていたんだ。
たとえどんなつまらない口実でもいいから、何かのきっかけで、怒りが俺の全身にこみ上げてくる瞬間をな。
だが、今、あんたを見ていて分かったぜ。あんたの無駄口を聞いていると腹が立つ。あんたの声には吐き気がするだけだ。
今日は木曜の晩だろう。ニューヨークまで、どのくらいある? 俺はどうしてここに座り込んで、時間を無断にしているんだろう?
俺たちは地球が軌道から外れたんだと思っていた! でも何も起こりはしなかった。雨が三回降った。夜中の強風が一回だけ。
(立ち上がる)シュリンク、もう、あんたも靴を脱いで休息する時だと思うぜ。その靴を脱いで、俺に渡すんだ!
もうあんたの持ち金だって、いくらも続かないだろう。シュリンク、俺はこの戦いをこれで終わりにするぞ。
戦いをはじめて三年目、ミシガン湖のほとり、この森の中で。だって、戦いの材料がすっかり尽きてしまったんだからな。
今この瞬間に戦いは中止だ。俺はナイフで片をつけるわけにはいかない。それを告げるご立派な言葉の持ち合わせもない。
俺の靴は穴だらけだ。あんたのお喋りじゃ、俺の足は暖まらない。月並じゃないか、シュリンク、若い方がゲームに勝つんじゃあな。
シュリンク 今日は、時々線路工夫のシャベルの音が、ここまで聞こえてきた。君がそれに耳を澄ましていることは、気がついていたんだ。
立ち上がるのか、ガルガ? 行ってしまうんだな、ガルガ? 私を裏切るのだな、ガルガ?
ガルガ (だらしなく横に座る)そうさ、シュリンク、そうするつもりですよ。
シュリンク ジョージ・ガルガ、この戦いには、決して結末はないのだろうか? 理解しあうということは、決してありえないのだろうか?
ガルガ ないとも。
シュリンク だが、君は裸一貫の人生だけを元手に出て行こうというのか?
ガルガ 裸一貫の人生でも、他のどんな人生よりもましなんだ。
202 :
名前なし:2009/12/18(金) 11:03:52 ID:lps4HBGb
シュリンク タヒチへ行くのか?
ガルガ ニューヨークさ。(皮肉に笑いながら)
≪俺はそこへ行き、そして、帰ってくるだろう。鉄の手足と、黒い肌と、憤怒に燃える目をもって。
俺の顔つきを見て、人々は俺を不屈な種族の輩だと思うだろう。俺は黄金を手に入れ、怠惰で、残虐な人間になるだろう。
女どもは、灼熱の国から帰ってきた、これら凶暴な病人を嬉々として看取るのだ。
俺は泳ぎまわり、草を踏みにじり、狩をする。とりわけ煙草をふかすだろう。
煮えたぎった金属のような酒を飲もう。俺は生活って奴に手を染め、そして、救われるだろう≫
ふん、なんて馬鹿げたことだ! ただの台詞さ。太陽系の中心にあるわけでもない地球での戯言だ!
老いぼれた奴は消してくれる自然の摂理のおかげで、
あんたがとっくに石灰詰めの死体になっている頃に、俺は自分の楽しみを自分で選べる人間になっているさ。
シュリンク 何だ、その態度は? くわえパイプくらい離してもらいたいな。インポになりましたという告白なら、もう少し殊勝な声で言ったらどうだ。
ガルガ あんたには退屈した、と文句をつけているだけなんだよ。
シュリンク 文句だって! 君が文句をつけるだと! 雇われボクサーのくせに! 酔っ払いの店員め!
十ドルで、私が買い取ってやったんだぞ。人と自分の足の見分けもつかない観念論者め! あんたは虫けらだ。
ガルガ (笑う)若者だよ! ちゃんとそう言ってくれ。
シュリンク じゃあ白人だ。私を片付けるために私が雇った男だ。俺が死の味を舌で味わえるために、口に嫌な味の泥を詰め込んでもらおう。
ここから二百メートル離れた先の森には、俺をリンチしようとしている群衆が来ているぜ。
ガルガ そうさ、どうせ俺は爪弾きにされる男だろう差。だが、それが何だってんだ。あんたは自殺するんだろう。
まだ何かくれるものがあるのか。俺を雇ったと言ったが支払いはまだ済んでいないぜ。
シュリンク 君みたいな奴が欲しがるものを、君にやったではないか。家具も買ってやったぞ。
203 :
名前なし:2009/12/18(金) 11:05:39 ID:lps4HBGb
ガルガ そうだったな。俺があんたからせしめたものは、ピアノが一台、もっともあれはすぐに叩き売る羽目になった。
一回だけステーキを食ったな! それに、服を一着買った。でもあんたの世迷言を聞くために俺は眠りまで犠牲にしたじゃないか。
シュリンク 眠りだけではない、君の母親、君の妹、それに君の奥さんまで犠牲にしたじゃないか。
そして君のくだらない人生を三年も無駄にした。それなのに腹が立つじゃないか!
今こんな惨めな終わり方をするなんて。結局は君は今までのことを何も理解していなかったのだ。
君は私の死を望んだ。しかし、私は闘争を望んだ、しかも、肉体的な戦いではなく、精神的な戦いをね。
ガルガ 精神的なものなんて意味ないぜ。分かっているだろう。問題は勝利者になることではなく生きていくことだ。
俺は、あんたに勝つことは出来ない。キックでぶっ倒すくらいはできるけどな。
俺は裸一貫で、冷たい雨の中に出て行くぜ。シカゴは寒い。その寒さの中へ俺は行く。
間違いかもしれないさ。だが、俺には、まだたっぷり時間がある。(去る。シュリンク、倒れる)
シュリンク (立ち上がる)とどめの一突きを交し合い、思いつく限りの最後の言葉を交わしたのだから、
今はもう、私という男に寄せてくれた君の関心に感謝するだけだ。俺たちはいろんなものをなくした。
残ったのは裸の体だけくらいになってしまった。あと四分すると、月が昇る。
そうすると君のけしかけたリンチ集団がここに現れるだろう。
(彼はガルガが去ったことに気付き、その後を追う)行かないでくれ、ジョージ・ガルガ!
若いからといって戦いをおりないでくれ。森は開墾されてしまった。禿鷹はもう食い飽きている。
そこで、貴重な答えは謎のまま大地に葬られてしまう! (振り返る。ミルク色の光がジャングルに立ちのぼる)
十一月十九日! シカゴの南三マイル、西風! 月の出る四分前、魚獲りに出かけたのにあべこべにこっちが溺死ってわけだな。
マリー (登場する)お願い、どうか追い払わないで下さい。私は不幸な女よ。(叢が明るくなる)
204 :
名前なし:2009/12/18(金) 11:07:24 ID:lps4HBGb
シュリンク でもうようよと寄ってくるな、沢山の魚が口に中に泳ぎ込んで来る。この狂ったような明るさはなんだろう? 私はとても忙しいのだ。
マリー (帽子を脱いで)私の顔は酷くなったでしょう。私を見ないで、ネズミに食い荒らされた顔よ。残骸を引きずってあなたの所へやって来たの。
シュリンク このミルク色の光はどうだ! ああそうか! 酷い味だって! そう言うのかね?
マリー 私の顔はむくんでいるでしょう。
シュリンク いいですか、ここにいてモップにつかまったら、あなたもリンチされてしまうよ。
マリー 構わないわ、そんなこと!
シュリンク 私の最期の時には、どうか一人にしておいてください。
マリー さあ、いらっしゃい、叢の中に隠れるのよ、石切り場には隠れ場があるわ。
シュリンク 何てことを! 気でも違ったんですか? 私がもう一目ジャングルの見納めをする必要があるのが分からないのか?
そのためにこそ月が登ってくれるのだ。(入り口の方へ行く)
マリー 私に分かるのはただ、あなたは破滅したのだということだけ。もっと自分を大事にしなければいけないわ。
シュリンク そういう形の最後の愛の奉仕をやってもらえるだろうか?
マリー 私はただあなたを見守っていたの。私は、自分の居場所がここだということが分かったのよ。
シュリンク そうかもしれない! ここにいなさい! (遠くで時刻を告げる音)二時か、私が絶対安全な所へ逃げる潮時だ。
マリー ジョージはどこにいるの?
205 :
名前なし:2009/12/18(金) 11:08:29 ID:lps4HBGb
シュリンク ジョージだって? 逃げたよ! 何という計算違いだ! 安全な所へ逃げたよ!
(彼はマフラーをむしりとる)樽はすでにいやな臭いをたてだした。脂ののった、素晴らしい、自分で獲った魚たち!
よく乾かして、箱詰めにした! 塩漬けだ! 前もって池に放し、払いすぎるくらい金を払い、買い取り、
脂のつくまで飼育した魚たち、死にたがってまるで聖餅を食うように向こうから餌に食いついてきた自殺志願の魚たち、何てことだ畜生!
さあ急がなければ! (彼は机に行って座る。小瓶の中身を飲む)私、シュリンクと呼ばれたワン・イェンは、北部横浜で生を享けた。
魚座の星のもとに! 材木業を営み、米を食い、いろんな人種と取引した。
私、シュリンクと呼ばれたワン・イェンは、享年五十五歳、シカゴから三マイル南で生涯を終えた、後継ぎもなく。
マリー どうかしたの?
シュリンク (座ったまま)ここにいるのかい、あなたは?
私の足は冷たくなってきた。顔にタオルをかけてください、私をいたわって! (彼は崩れ落ちる)
(叢の中で喘ぐ息、足音、後の方からしゃがれた罵声)
マリー 何か聞こえる? 答えて! 眠っているの? 私はこんなにあなたの側にいるわよ! タオルをどうするの?
(この瞬間にテントにナイフで入り口が開けられる。音もなく、いくつかの入り口から、リンチ集団の連中が現れる)
マリー (彼らに向って行く)お帰りなさいよ! この人は死にました。姿を見られたくないです。
206 :
名前なし:2009/12/18(金) 12:19:25 ID:lps4HBGb
死亡したC・シュリンクの事務所。一週間後。材木会社は、焼け跡になっている。「この店舗売ります」という何枚か貼り札がしてある。
(ジョージ・ガルガ、ジョン・ガルガ、マリー・ガルガ)
207 :
名前なし:2009/12/18(金) 12:20:34 ID:lps4HBGb
ジョン この店を焼き打ちさせたのは愚かだったぞ、お前。今は炭になった棟木の中でぽかんと座っているだけじゃないか、こんな店を誰に売る気だ?
ガルガ (笑う)安いもんさ。でも持ってたって何も始められないだろう?
ジョン 一緒にここに住もうと思ってたんだがね。
ガルガ (笑う)俺は出て行くよ、働く気かい?
マリー 私は働くわ、でもお母さんみたいに階段拭きなんかしないけど。
ジョン わしは軍人だ。土管の中にも寝たんだぞ、顔の上を走って行くネズミの方が太っていた。
鉄砲を取り上げられ、軍務が終わった時、これからは誰もがみんな頭にナイトキャップをかぶって寝るんだな、って思ったぞ。
ガルガ 要するに、誰だって寝るんだよ。
マリー もう出て行きましょうよ、お父さん、日が暮れるし、まだ今晩寝る部屋のあてもないんだもの。
ジョン よし、出て行こう! (周りを見回す)行こうぜ! お前には旧軍人がついている。都会のジャングルに向って出発だ!
ガルガ 俺はもうそんなことは済ませちまったよ。やあこんにちは!
マンキー (ポケットに手を突っ込んだまま、喜色満面で入って来る)
俺だよ、新聞で広告を読んだよ、君の材木会社があまり高くないなら俺が買おう。
ガルガ いくら出す?
マンキー なぜ売るんだ?
ガルガ 俺はニューヨークへ行くのさ。
マンキー そして俺がここに越して来るわけだ。
ガルガ いくら払える?
マンキー 材木屋の他にもう一つ手に入れたいものがある。
208 :
名前なし:2009/12/18(金) 12:21:20 ID:lps4HBGb
ガルガ この女性まで引き取ってもらって六千ドルでどうだ。
マンキー O.K.
マリー お父さんも一緒よ。
マンキー お母さんは?
マリー お母さんはもういないのよ。
マンキー (しばらく間をおいて)よしきた。
マリー 契約をやってしまってよ。
(男たち、サインする)
マンキー ちょっと食事に行きたいんだが、一緒に来ないか、ジョージ?
ガルガ 断るぜ。
マンキー 俺たちが戻って来るまでここにいるかい?
ガルガ いいや。
ジョン 達者でな、ジョージ! ニューヨークをとっくり拝んで来い。やばいことになったら、またシカゴに戻って来ればいい。(三人退場)
ガルガ (金を収める)一人ってのはいいもんだ。滅茶苦茶やれるだけやった。人生であれが最良の時だったな。
↑これって詩なのか?