ぃぇーぃ

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319向日人
H2O

僕の渇きは一向に納まらない 僕は常に雨の上に居る
いくら掘っても砂下に吸い込まれてしまう湧き水のように

アタッシュケースに入れた 猫のぬいぐるみがミイラになっていた
僕は煙草の箱に入れておいたライターを徐に点火する
ライターの火をその真っ白な瞳に近づける しかし彼の目は曇ったままだ

真っ暗で静かで 埃臭い倉庫に押し込められた二人は朝日が差し込む日に
一度だけ雨水を啜ることが出来るという 明太子のような舌を突き出して
屋根に空いた大きな穴から伝って降りてくる水滴 それが細かく分かれて
土の下に埋まっている細っこい根っこに染み渡る
水分のように 小さいパイプを通って彼らの
喉に行き着く 二人が救われることはないが天の神は満足げだ

私はこんな惨めな話を聞くと頭が冴え渡りそうになる
日々の肉体との離脱を魂が気にも留めず走り続ける 大勢の姿を
私はフォークリフトの旋回範囲より遥かに小さいグランドで見た
ライターの火を目の前にかざして 彼らを眺め続ける補欠の僕
彼らの汗は地面に染み渡る それは流れる場所を作らない海抜となる
ぐるぐると回って知らぬ間に埋め立てられることの繰り返しを
彼らは知らないのでは

猫の彼の 尻尾を掴んでみる
硬く硬く雑巾絞りをしてみる
僅かながら僕の手を彼の水分が湿らした

「にゃー」
彼は最後に間違いなくそう泣いた