〜〜詩で遊ぼう! 投稿梁山泊 11th edition 〜〜

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水曜日には
お気に入りのアクアバイクに跨がって
積めるだけ積みこんだジャスミンの花束を届けに
海上に浮かぶ列車整備駅まで出かけていく

海に囲まれたプラットホームで
彼は私を待ってるだろう
明日やってくる海洋特急の準備に大忙しで
流れる汗と機械油にまみれて
彼は私に手をふってほほえむだろう

明日はマリーノ超特急がやって来る
海に敷かれたレールをしずしずとやって来る
停車時間は一時間 次から次へ迫りくる仕事を
彼はひとりでこなしていくだろう

エンジンの点検と調律 車輌のサビ落とし
滑車にこびりつく塩塊の除去 客車に機器に侵入するフナムシ退治
フナムシ退治にはジャスミンガスが有効で
それは彼の独自の研究成果で
私は毎週ジャスミンガスの原料を届けにいく

かつて駅には整備士がふたりいて
私の入り込めない硬い友情で結ばれていて
ある日ジャスミンガスの効能を管理局に報告した同僚は
めでたく上級技術職に転身して
彼はひとりになった

(だってさあ
 エラくなって迎えにいくなんて不可能だよ
 えっ 誰をって?)

たったひとつの彼のこだわり
それは
ジャスミンガスは使用前日につくること

ジャスミンを抽出している間に
私は彼の庭をのぞきにいく
武骨な駅舎の片隅に設けられた
こじんまりとした花壇に
ひと株の野バラが取り残されたように咲いている
色褪せた小さな花と乾いた葉っぱ
吹き荒れる海風のなか枯れずに咲いてるのは奇跡だった

(ここには潮の香りしかない)

葉っぱにしがみつくアブラムシをちくちく取りながら
私は野バラに話しかける ねえ 結婚しない?
私はあなたの助手もできるし
それからプラットホームでジャスミンを育てよう
海に侵食されたこんな世界だけど
この駅だけは花の香りでいっぱいにしよう
そしていつか私の子供たちが
広いジャスミンの庭ではしゃぎまわるそんな日を夢みよう

(マリーノ超特急の旅人よ もしあなたが
 海風のなかにジャスミンの香りを感じたら)

いつの間にか 見渡すかぎりの海に月がのぼって
私は今週も帰りそびれてしまった
明日は彼の助手をしよう ジャスミンガスも出来たし
彼もまんざらでもないふうで
実のところ海洋特急はいつ到着するのかわからないし