〜〜詩で遊ぼう! 投稿梁山泊 11th edition 〜〜

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319「言葉」屋 (前編)
「言葉を売ります」と書かれたプラカードを掲げて街角にサンドイッチマンが立っていた。そこに書かれている地図を頼りに路地裏に足を踏み入れた。
 麻雀店や中国整体、風俗店などが入っている雑居ビルの狭い階段を昇ると四階にその店はあった。中を覗くと、蝶ネクタイを結び白髪をきれいに後ろに束ねた老人がひとり、カウンターに座っていた。
 店主は私に向かって軽く会釈すると、その店の豊富な品揃えと品質の確かさをひとくさり述べた。
『日持ちしますよ。勉強しますから』
 そう言っておもむろにガラスケースから取り出したのものは、「永遠の愛」と箱に書かれた商品だった。箱の中には結婚指輪の真珠のような光沢を持った「言葉」が魚市場のイクラのようにきれいに粒を揃えて並べられていた。
『どれぐらい持つの』
『冷蔵庫に入れとけば三日ぐらい』

 次に取り出したのが「ぜったい」というブランド名の商品だった。「ぜったい儲かります」「ぜっだい合格させます」「ぜったい痩せます」と烙印を押された饅頭が、うまそうに薄紙に包まれていた。
 それでも私が買い渋っていると、『最近、入荷したばかりのものですが』と言いながら、店の奥から出してくれたのは、「癒し」というパッケージに入った錠剤だった。効能書きにはこう記されていた。
320「言葉」屋 (後編):04/06/13 11:45 ID:G1cXRdU9
 悲恋失恋胃痙攣。左遷リストラそうはさせん。夫の浮気妻の浮気、単なる浮気、本
 気の浮気―は浮気じゃない。不倫絶倫金輪際しません不倫の三輪車。将来の不安、
 現在の不満、過去の失敗、いつも必敗、失敗は成功のもと、でも必敗は何回やって
 も必ず失敗。顔の悩み、体の悩み、足の悩み、手の悩み、上腕二頭筋の悩み、そんな
 悩みあるか。心の悩みはみんなの悩み、悩みのないあなたはオツムが悩み。痔ろう早漏
 勘九郎、歌舞伎役者に大根役者、また旅役者が好きなのはうちのタマ。心の傷からタマ
 の昨夜の喧嘩の傷に至るまで 何にでも効きます。朝昼晩、三度三度の三度笠、三度笠は
 また旅役者、ああこれはさっきやった。三度三度の三々九度、披露宴での食前食後、食前
 のスピ―チが長い早く食わせろ。朝飯抜きは朝飯前、朝飯食べたら二度寝する妻。就寝前
 に起床後に、仕事中も勉強中も、一日に何度でも発情、じゃなかった服用できます。

『心が痛い、と言って最近お客さんが見えて、よくこれを買っていくんです』
 店主は目を細めながら言い、続け様に言う。
『あなたもどこか、痛い心がありますか』
『実は、私も十年来の心の痛みがありましてね。思い切って先日、手術で切除したところ、すっかりよくなりました。ご心配には及びません』
『それはよござんした。それでは、ほかに何かご入りようの「言葉」はござんせんか』
 なおもしつこく聞くので、私は仕方なく
『それじゃ、「永遠の愛」を50グラムください』
 親爺は素早く目方を測ると包みにくるんで「愛」を差し出した。
『保冷剤を入れときました』
 私は包みを受けとると五千円札でおつりをもらい店を後にした。