ひらかれた窓のために
風はもう尋ねてこない
明日花咲く紫陽花や
空に捨てられる歓声について
季節は切れ目なくかがやきを纏い
遠い由来から口をつぐむ僕に
目覚めを呼びかけにくるのだが
瞥見する鳥は平らかな闇をあおって
わずかな波を起こし去ってゆく
午睡のおおきな夢が身じろぎする
僕は暗い川のほとりを歩く
黄色い花が仄かな明かりを吸って
ひととき光合成をしている
うしなわれた風景の骨を拾い集め
その太さと頑健さにおどろく
盲目のままで指が骨頭にふれる
はるかな幼年時代の肺腑が
いまも僕の呼吸をかぞえている
その呼気と吸気に意味を求めている
僕は目を閉ざし口をつぐんで
薄い膜のなかで緩やかに対流する海におぼれる
だが窓はひらかれている
魚類の開閉する鰓にあこがれながら
閉じた海のなかで僕の身体は弛緩する
だが窓は風を待っている
風はもう尋ねてこない
鳥はここではない空を飛んでいる
この部屋は夜のように暗い
だがまだ瞼を持ち上げるちからはある
手を振るちからはある
言葉はまた拾ってこれる
ひらかれた窓のために
その向こうにある未知の風景のために
まだ希望をやめないくらいのちからは