ただ書きたい。

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656アマモリトオル ◆yjVBsR9W2A
ひらかれた窓のために

風はもう尋ねてこない
明日花咲く紫陽花や
空に捨てられる歓声について

季節は切れ目なくかがやきを纏い
遠い由来から口をつぐむ僕に
目覚めを呼びかけにくるのだが

瞥見する鳥は平らかな闇をあおって
わずかな波を起こし去ってゆく
午睡のおおきな夢が身じろぎする

僕は暗い川のほとりを歩く
黄色い花が仄かな明かりを吸って
ひととき光合成をしている

うしなわれた風景の骨を拾い集め
その太さと頑健さにおどろく
盲目のままで指が骨頭にふれる

はるかな幼年時代の肺腑が
いまも僕の呼吸をかぞえている
その呼気と吸気に意味を求めている

僕は目を閉ざし口をつぐんで
薄い膜のなかで緩やかに対流する海におぼれる
だが窓はひらかれている

魚類の開閉する鰓にあこがれながら
閉じた海のなかで僕の身体は弛緩する
だが窓は風を待っている

風はもう尋ねてこない
鳥はここではない空を飛んでいる
この部屋は夜のように暗い

だがまだ瞼を持ち上げるちからはある
手を振るちからはある
言葉はまた拾ってこれる

ひらかれた窓のために 
その向こうにある未知の風景のために
まだ希望をやめないくらいのちからは