287 :
曾村益廊:
『お下げ』
「アイスピックで刺した。
お下げを。
いっちょまえに痛がりやがって。
ざまあみろ。
優等生だからって調子にノってるからだ。」
そいつの後頭部にはそれから穴が空いたままになった。
たまに虫が出てくることもあり、夏になるとそこから変な臭いがした。
後ろの席の林由理子は先生に席替えを申し出たくらいだ。
冬は乾燥しているのかポロポロと白い粉がこぼれ落ちていて、それが肩や背中に付きフケみたいに見えた。
汚らしかった。
新学期、野郎は穴を塞いで来やがった。
なんでも東京の大学病院で手術をしたらしい。
しかし噂だとそこの病院はヤブでアイツの穴には鰯の頭と木屑が詰め込まれていると言う話だった。
臭いは増した。
しばらくして奴は学校に来なくなった。
いっちょまえに登校拒否というやつらしかった。
穴の空いたお下げが登校拒否?
ちくしょうなんて生意気なんだ、いっぱしの人間気取りのつもりか?
しかし奴にクラス全員が手紙を書くことになった。
馬鹿のクラス委員の上田の提案だった。
みんなそれなりのことを書いてるらしかった。
俺は「早く来い、もう一回刺してやる!」とだけ書いた。