362 :
鍵卍黒蟲:
『8ミリの残像』 1/2
低域に化粧した夜 まさに夜そのもの
発電機のような猫の交尾から漏れる喘ぎ ゆらぎ
景色を街灯の嘔吐光が八つ裂きにして 薄く引き伸ばす
ブルーフィルムの中には清掃員や立ちんぼ男娼が居て
これからの淫靡な物語を予感させたまま 観客は眠りにつく
そういう夜は決まって部屋にひとり私
私の頭頂骨の裏側にはクロム製ヒキガエルが張り付いている
今まで体に染み込んだあらゆる過失を込めたような膨張した舌を
ヌラヌラを垂らして私の喉から無理矢理
糞面白くもないジョークを喋らせるので
私は間違って自分の舌を噛み千切ろうとしてしまった
二酸化炭素の過多は自虐嗜好を促進させる危惧がある 部屋を出る
自家製の硝酸溶液が入った酒瓶をぶら下げて歩く
道には浮浪者がちらほらと
暗闇の外陰唇に包まれて気持ち良さそうにイビキを鳴らして
私の行く先をぶっきらぼうに導く
等間隔に配置された煙草の自動販売機は
見送るように不規則な点滅する
夜よ お前は私の真似をしろ
363 :
鍵卍黒蟲:2005/07/27(水) 00:29:40 ID:ChcWw899
『8ミリの残像』 2/2
放置された軽自動車は末期の胃下垂で 惨憺たる呟きを轍に撒いていた
私が同情して窓に手を置くと 中では半裸の男女が真っ最中で
私はますます同情してしまった
酒瓶に鳴るちゃぽん ちゃぽんは足音を愛す
視界に入る光は減衰していき
生命の出す独特のナマ臭さは遠退いていく
クロム製ヒキガエルの寝息がだけ聞こえ
情がかかってしまわぬうちに トンネル内を抜けるまで 全力疾走した
海に面した草原に出る
奴が目を覚ました お得意の舌使いで私を幻滅の果てに送り込む
波の律動 風の旋律 カエルの唾液が 誘う
私は一気に硝酸溶液を飲み下す
夜が痙攣してケレン味を帯びる
暗闇の陰核が自我を喪失する
水平線がガラクタのように卒倒する
腹の中がちゃぽん ちゃぽんに私は愛される
あ あ
朝が見えてしまった
クロム製ヒキガエルの舌の慈悲が
あらゆる運命を許してしまったまま
私は空えずきして歌った
朝は何も見なかったように睫毛を刺した 私に