ヽ(*｀Д´)ノ　お前のせいで私は欠陥人間　

『花を摘む』（１）

　行方不明なんです。　あれからパッタリ連絡が取れなくて。
たぶん、電波の届かない高嶺の山で花を摘みに行っていると思うのです。

ああ、刑事さん、もう一度話さなくてはいけないんですか？
先ほどの若い刑事さんにも話したのですが…わかりました。
細かい事は先ほどの若い刑事さんに聞いてください。
一気にに話しますので質問とかは最後にしてください。
　彼女に会ったのはその日で２回目なんです。１回目は麻布のバーで新聞紙の
話題で盛り上がって意気投合したんですよ。　新聞紙の話題ですか？　色んな誌の４コマ漫画の話題で…刑事さん、質問は最後にしてください
　で、電話番号を交換してその２日後ぐらいに連絡があったんです。
今度は落ち着いた店でゆっくり食事をしながら夜景の見えるフランス料理屋で会いませんか？　と向こうから誘いがきたのです。
　彼女は美人だし嬉しかったですね。フランス料理屋なんて縁がないですが、
ネットで調べてすぐに完全予約制のお店を予約しましたよ。
　２日後、待ち合わせの時間の３０分早くきて待ってました。
フォーマルな格好して店前で待ってました。店のガラスに自分の姿が映って
胸にポケットにハンカチを入れるか悩んでいるうちに、彼女が時間ぴったりに現れたのです。
化粧は薄目で白のをベースにしたシックな出で立ちでした。
初めて会ったバーは酒も入ってし照明が薄暗かったので気づかなかったのですが、
明るいところで見えると小顔で可憐な感じがしました。

（２）
　店に入ると亭主みたいな人に頭を下げられ、席に案内されました。
彼女はこのナントカは美味しいとか食べ慣れている感じでしたが、
自分には緊張して料理の味なんてさっぱりわかりません。
　緊張を和らげようとグラスのワインを２杯空けた時に、
彼女が『お強いですねボトルを頼んだ方がいいですね』　
『あっソムリエさん　ボトルメニューください　赤がいいわね　ああこれシャトーなんとかの８６年』
　ええ、あんまりワインの味はわからないですけど、これは美味しかったです。
２人で３本あけましたよ。
そして、しばらくしたら彼女が言ったのです。

『すいません、ちょっとお花を摘みに行ってきます』って

すぐにトイレの事だとはわからなかったですよ。
ずいぶん、可憐な人だなぁと思ってたぐらいですから。
でも、帰ってこないんですよ。３０分しても、１時間しても
覗きに行くのも変だしずーっと待ってたら、とうとう閉店の時間になって店を追い出されたんです。
それから、パッタリ連絡も取れなくなって
　ひょっとしたら本当に花を摘みに行ってるかも知らない。

えっなんですか？　刑事さん
そのフランス料理の値段ですか？　ええ、自分が払いましたよ。
６３万というべらぼうな値段でした。
でも刑事さん何でこんな事聞くんです？　これって捜査の参考にはならないでしょ
えっなんです？　だ、だまされた　食い逃げ？
違いますよ、間違いなく彼女は花を摘みに行ったんですよ　それで行方不明になったんです！
きっと、今でも山とは場違いなフォーマルな格好で花をさがしまわっているんです。
あのテーブルに似合う一輪の花を求めて

刑事はセブンスターに火をつけて呟いた
『高嶺の花には魔力がある』