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1 ◆peaceYu/Hg
なにを がんばればいい
なにを みつめればいい

ふこうは じゅんばんまちなんて
してくれるほど あまくない

ふこうは ようしゃなく きみを
つぶしに やってくる

つらくて くるしくて せつなくて
まるで

せかいじゅうの だれからも
みはなされたような こどくを

きみは あじわっているんだろう

なにを がんばればいい
なにを みつめればいい

そのこたえを さがしにいこう
きみのえがおを さがしにいこう

2名前はいらない:03/04/23 06:47 ID:Z1tPfshb
いませかいで いちばん わたしはかわいそう
いませかいで いちばん くるしいめにあってる
いませかいで だれにも わかってもらえなく
いませかいで ひとりで ただなくしかない

きみは まちがっている 
きみは まちがっているよ
3名前はいらない:03/04/23 06:55 ID:Z1tPfshb
しあわせってなあに 
しあわせってなあに

それは さむいひの しちゅー

それは まんてんの ほしぞら

それは いちおくえんの だいやもんど

それは 100まんねんの いのち

しあわせってなあに
しあわせってなあに

それは たんぽぽの わたげ

それは あなたの ねいき

それは かんどうの えいが

それは おーる5のつうしんぼ

しあわせってなあに
しあわせってなあに

4名前はいらない:03/04/23 06:59 ID:Z1tPfshb
わたしより ふこうだった かこをもつしょうじょが

わたしより こうふくな いまをあるいてる

あなたと わたしのちがいは なに


いつでも かわいそうにと どうじょうしてたしょうじょ

わたしより こうふくな えがおでいきている

あなたと わたしのちがいは なに

ふこうになってしまえ
ふこうになってしまえ
5名前はいらない:03/04/23 07:15 ID:Z1tPfshb
あのね がんばるなと いわれてもいいひとは
がんばって いきているひとだけだと

あのね かわいそうと いわれてもいいひとは
せかいじゅう さがしてもひとりもいない

あのね がんばれと いわれるのがいやなのは
がんばって いきていないひとだけだと

なにを がんばればいいの
なにを がんばればいいの

あなたは こんらんして くるしくなって
せつなくて こどくで そうさけぶ

なにを がんばればいいの
なにを がんばればいいの

あなたは めのまえのきょうふに うちかてなくて
みとめたくなくて ひたすら にげてる

なにをがんばればいいの
なにをがんばればいいの

じぶんを あいすることを がんばりなさい
いま いきることを がんばりなさい
6名前はいらない:03/04/23 07:18 ID:Z1tPfshb
あなたが はやく きづきますように
ふこうを ちょちくせず いまがんばりますように

ふこうに なれるのはもうやめなさい
あなたを くるしめるのは やめなさい

あなたが はやく きづきますように
あなたが はやく きづきますように
7金正日:03/04/23 07:18 ID:iPQ8aRZ8
   ,rn                 
  r「l l h.                / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  | 、. !j                | 
  ゝ .f         _      |  
  |  |       ,r'⌒  ⌒ヽ、.  │  http://www.nuryou.gasuki.com/hangul/index.html
  ,」  L_     f ,,r' ̄ ̄ヾ. ヽ. │   こんなのあったニダ
 ヾー‐' |     ゞ‐=H:=‐fー)r、)  | 
  |   じ、     ゙iー'・・ー' i.トソ   | 
  \    \.     l ; r==i; ,; |'  .人_ 
   \   ノリ^ー->==__,..-‐ヘ___
     \  ノ ハヽ  |_/oヽ__/     /\
      \  /    /        /  |.  
        y'    /o     O  ,l    |
8名前はいらない:03/04/23 08:58 ID:f0Al/TCU
だれもがあきらめて
あなたからさよなら

ほんとにすきだった

ふしぎめでみつめた
あなたのわらいがお
なんでわらってるの?

ふしぎめでみつめた
きみのはなしことば
おしゃべりはほんと?

やっときづいたんだ
ぼくをばかにしてた
そしてうそついてた

ふしぎめはふしあな
でももうとまらない

すきでもだめになる

だれもがあきらめて
あなたからさよなら

9名前はいらない:03/04/23 09:29 ID:f0Al/TCU
いきるみちをきめた
うたうたいはこどく
ひとりでいきるいみ
ひとりでかんがえる
きみのながすなみだ
きみのせつないうた
きみのこころはただ
いきるみちをたどる
げいじゅつはこどく
うたうたいはうたう

10 ◆peaceYu/Hg :03/04/24 06:54 ID:8uLhnyRP
てんのめぐみ

こどくとのたたかい

やさしいめろでぃ

くさのもえるにおい

やがてさすひかり

おおきくかかるにじ

あるく あるく

ただゆめみて

やがてさすひかり

おおきくかかるにじ

11 ◆peaceYu/Hg :03/04/24 07:02 ID:8uLhnyRP
はじけてしまえ
そんなみえなどすてろ
はじけてしまえ
おまえならできるだろう

どうせならとことん
おちるとこまでおちてしまえ
どうせならとことん
くだけてはじけて
こわれちまえよ

はじけてしまえ
あまいどうじょうなどいらない
はじけてしまえ
おまえにはわかるだろう

あまえんなとことん
おちるとこまでおちてしまえ
あまえんなとことん
そこからはじまる
あしたがあるから
12名前はいらない:03/04/24 10:26 ID:5IQSp6St
たかいところでわらうきみ
きみをみあげてうたうぼく
ぜんぶなくしておちてゆく
ぼくをおとしたきみわらう
きみがきらいとさけんでも
こころのなかはすきのまま
ぼくをおとしたきみがすき
たかいところのきみがすき
13 ◆peaceYu/Hg :03/04/24 18:39 ID:8uLhnyRP
いじをはり みえをはり
よくにまけ ごうじょうなきみ

せかいじゅうでいちばんふこうなきみ

だれがきめた だれがそうした
いつになれば すなおになるの

せかいじゅうでいちばんふこうなふり

どうじょうと あいじょうと
ゆうじょうと やさしさのくべつ

せかいじゅうでいちばんふこうないま

きみがしあわせにきづくまで
ずっとみまもっていてあげるから

いじをはり みえをはり
よくにまけ ごうじょうなきみ

ぼくはなたできみをきりつけつづける

きみがすきだから
きみをすきだから
14名前はいらない:03/04/24 18:43 ID:PKK4pWwW

まざーの

えむをとったら

たにんです
15名前はいらない:03/04/24 19:36 ID:5IQSp6St
やはりきみはちがうひと?
さがしてるひとじゃない。
いまそのひとみのなかに、
すてられたむかしのぼく。
きみにはなしすぎたかも。
16 ◆peaceYu/Hg :03/04/25 07:22 ID:iPmrTsZV
眠れない夜
眠れない日々
堕落していく毎日
それでも夜は明ける

降り続く雨
黒く被う雲
消えていく笑顔
それでも晴れる日は来る

君は忘れてないか?
幸せの眠りを
君は忘れてないか?
空にかかる虹を

塞ぎ込む日々
後悔ばかりの毎日
それでも明日は来る

17 ◆peaceYu/Hg :03/04/25 07:31 ID:iPmrTsZV
目を閉じ耳を澄ませば
聞こえてくる寝息
左半身に感じる体温
ああ、一人じゃないんだ

ケイタイ越しの声じゃない声
ケイタイ越しのキスじゃないキス
あなたの確かな体温
ああ、一人じゃないんだ

「愛してます」
言葉にすれば嘘になりそうな言葉
「愛してます」
伝えきれない想いを確かな想いを

ねぇ、あなた
ずっと一緒に生きていこうね
神様ありがとう
今日も笑顔の朝がはじまる
18 ◆peaceYu/Hg :03/04/26 07:37 ID:2VCNaGur
さっきまで

まるで台風みたいな強い雨が
嵐のような風が夜を包んでた

あなたが眠りから覚めないように
その疲れたカラダ起こさないように
ただ、祈っているしかなかった

木々は揺れ
窓に打ち付ける雨
暗闇でもがき苦しむあの子のよう

あの子が早く這い上がれるように
その疲れたココロ乱さないように
ただ、祈っているしかなかった

日が昇り今はもう
嘘みたいなお天気
季節は初夏へ向かい
天気は晴れ
青く輝く季節

よい一日になりますように
あなたが笑顔で過ごせますように
19 ◆peaceYu/Hg :03/04/26 07:38 ID:2VCNaGur
あの子が笑顔で過ごせますように


(最後付け足し)
20名前はいらない:03/04/26 15:24 ID:jsxxvvrY
満ちる姿色は 
闇雲に潰える
半ばの身にて
弧の月は澄む
21 ◆peaceYu/Hg :03/05/15 07:37 ID:9KncmE58
朝が嫌いだった
人が嫌いだった
街が嫌いだった
愛が嫌いだった
夢が嫌いだった
夜が嫌いだった
私が嫌いだった

嫌いだった日々
もう、バイバイ
22山崎渉:03/05/22 02:52 ID:HGif30+j
━―━―━―━―━―━―━―━―━[JR山崎駅(^^)]━―━―━―━―━―━―━―━―━―
23 ◆peaceYu/Hg :03/05/26 03:15 ID:lj99b4y2
ひとりでなかないで
ひとりでなやまないで
ひとりで

あなたがおもっているほど
あなたをたかくひょうか
してるひとはいない
あなたがおもっているほど
あなたをつよいひとだと
おもってはいないから

もっとここにきて
かたをならべてわらって
もっときょりをちぢめて
なみだかれるまではなそう

ひとりでなかないで
ひとりでなやまないで
ひとりでくやまないで
ひとりでへこまないで
ひとりでくじけないで
ひとりで  
24 :03/05/26 17:09 ID:igBKYdeF
バイバイにバイバイ
キッスな嘘
りんご 

ぐれーぷ
閉じ困った檻の悪臭
女は見据えて にらみ微笑み 舐め輪まして喜ぶ
ミルクあふれ

子供が産まれ
はな子と名づけよう
25山崎渉:03/05/28 10:44 ID:91alohpq
     ∧_∧
ピュ.ー (  ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  =〔~∪ ̄ ̄〕
  = ◎――◎                      山崎渉
26 ◆peaceYu/Hg :03/06/02 00:43 ID:rveHfXIa
きれいなおねえさんはすきですか?
はい、すきです
できればなりたいです
そうおもってかっただつもうき
けっこうたかかった
ていしげき
いまならわりびき

きれいなおねえさんってたいへん
ぬけたけがぽろぽろおちます
いたくてなきそうです
ぬけたあとあかくぽちぽちです

きれいなおねえさんをみるめ
すこしかわったよ
さてこのだつもうき
つぎにつかうひはいつになるかなぁ
27 ◆peaceYu/Hg :03/06/04 05:28 ID:vnX9Gn1J
さみしさをまぎらわすため
つめをきる
さみしさをまぎらわすため
こうちゃをのむ
さみしさをまぎらわすため
うたをうたう
さみしさをまぎらわすため
こいにおちる

まちがっているとはいわない
でもただしいとおもえない
がんばらないあなたに
がんばらないでとはいえない
わたしはあくまなのでしょうか
28名前はいらない:03/06/04 05:52 ID:58nwuHSY
http://homepage3.nifty.com/coco-nut/
/(^口^)/
踊ろうゼイ! ζζζζζ ・・・。ξξξξξ 祭り♪
29山崎 渉:03/07/12 11:49 ID:Gu5iF5xl

 __∧_∧_
 |(  ^^ )| <寝るぽ(^^)
 |\⌒⌒⌒\
 \ |⌒⌒⌒~|         山崎渉
   ~ ̄ ̄ ̄ ̄
30山崎 渉:03/07/15 11:54 ID:iuxfPmjy

 __∧_∧_
 |(  ^^ )| <寝るぽ(^^)
 |\⌒⌒⌒\
 \ |⌒⌒⌒~|         山崎渉
   ~ ̄ ̄ ̄ ̄
31山崎 渉:03/08/02 01:34 ID:TahhWmQI
(^^)
32山崎 渉:03/08/15 13:49 ID:jFO+cPAl
    (⌒V⌒)
   │ ^ ^ │<これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  ⊂|    |つ
   (_)(_)                      山崎パン
33Mana魔名:03/09/27 17:31 ID:qPIH6u8T
okayed sign is wink and wine
teachers shout being on the hell
heroin , amen , drawn to the lake
ego and id are deadly ugly jewel
reason why death of God never known
34名前はいらない:03/10/05 04:17 ID:vJYu6k3b
僕達があの頃見た夢は
今もまだ変わらずここに残ってる
僕達はたちどまったままじゃない
僕達が手に入れたもの
これから先ずっと
35名前はいらない:04/02/05 22:19 ID:/I4P7Gyv
そのた大勢と省略される人々
36 ◆lSR/LoveAA :04/02/14 03:59 ID:T+dRNYpa
あのころはまいにちがくつうで
あのころはまいにちがじごくで
まいにちしにたくてしにたくて

あのころのわたしにいまを
あのころのわたしにみらいを
わたしにおしえてあげたい
37 ◆lSR/LoveAA :04/02/14 10:23 ID:T+dRNYpa
http://team-kirin.oops.jp/img/214.gif

 (  ∧ ∧        ぁぃドゾー。ドキドキ
c⌒っ*゚д゚)っ♥
゛"゛"゛"゛"゛"゛゛"゛"  
38名前はいらない:04/03/13 02:08 ID:ad5fQ3oB
>>37
ありがd
39名前はいらない:04/03/19 03:42 ID:p9vuJ59O
そのた
それはどこにでもいる
わたしたちのお友だち
40Mana魔名:04/04/11 02:32 ID:iTmMyN2/
off-beat music stream
thin head empty mind
have a break , cool down
ephedrine-epinephrine/equal
revolving in front of the mirror
41豆腐 ◆POM/5/.7A. :04/07/10 23:34 ID:c3mUQj/Y
取りあえず、昔のを出来るだけさりげなくそれとなく
詩っぽく改変改悪してなにげなくこんなところでひっそりしてみる
―――
『マンホール男』

どうしてこんな所にいるのだろうか・・・

マンホール男は今日も蓋の下
頭の上を人が歩く音に耳を澄まして
こつこつ・・・コツコツ・・・頭に響く音は自由の音
耳を蓋に押し付けて
目は暗闇を睨み

・・・・・・・・・

マンホール男は今日も蓋の下
42豆腐 ◆POM/5/.7A. :04/07/10 23:45 ID:c3mUQj/Y
男には頭がなかった。
首から上がスパッと切り落とされたかのように、何もなかった。

男は女に恋をした。
その恋はいつしか愛になり、女も同じように男を愛した。
薄汚れた塀に囲まれた、灰色のアパートの一室だった。
二人は愛し合った。
なぜかしら、男にとってそれは無感動なことであった。
女はくたびれた顔で、そしてどことなく冷たい目で男を見た。
女の視線から逃げるように、男は後ろを振り向いた。
鏡があった。
頭がなかった。

「頭がない・・・」男が驚いたように言った。
「頭はないわ」女が諦めたように言った。

男はふと思った、「おれは人間なのか?」
女はふと思った、「私の頭はあるかしら?」

頭のない男。
男は今でも信じている。
「森の中を彷徨っている時、おれは確かに髪の長い女だったんだ」
43豆腐 ◆POM/5/.7A. :04/07/12 23:53 ID:0cLFJeDz
『オヤジャー』

オヤジャーは突然にやってくる。
まだ青春を謳歌しようとしている30前後の男性がお好み。

苦笑しか生まないギャグが好きで、
どこでも放屁するのが好きで、
へそを出して横にゴロンとなるのが好きで、
そしてちょっぴりセクハラが好きで、
そんな人物がいたらよく見てみたらいい。
きっと肩のあたりにオヤジャーがちょこんとのっている。

最近はオヤジャー受難だ。
世間の風当たりが身にしみる。
だからオヤジャーは活動範囲を広げたみたい。
この前女性の肩にちょこんとのっていた。
44豆腐 ◆POM/5/.7A. :04/07/14 00:43 ID:OPQmG+UQ
『キリン男』

キリン男は追跡者。
長い足をカッポカッポさせて追ってくる。
獲物を見失うことは決してない。
キリン男の長い首からは逃れられない。
川を泳ぎ海を渡ってもキリン男はついて来る。
キリン男は泳げない。
でも顔を水の上にあげて海底を歩いてくる。
これはちょっとホラーだ。

キリン男に目をつけられたら逃げ場はない。
どこに逃げたって追いかけてくる。
歩みが遅いだけにむしろ怖い。

逃げ場がなくなったらあえて捕まってみよう。
そうなると困るのはキリン男。
捕まえたあとのことは考えていない。
困ったキリン男はとぼけた顔で捕まえた獲物を解放する。
そして再び追いかける。
45豆腐 ◆POM/5/.7A. :04/07/16 00:13 ID:V/n1aST9
『殺人サンタ』

虹色に輝く夜道を歩いていると屋根の上に男がひとり。
遠くからでも分かる太ったおなか。
毒々しく赤い服。
男はすばやく煙突に滑り込む。
そうか 今日はクリスマスだったのか。
ぼくは興味が湧いて窓から部屋の中を覗き込む。
部屋の中には男がふたり。
ひとりはさっきの男。
ひとりは死体。

ぼくは怖くなって近くの炭鉱に走り込む。
男は見えない。
でも見えない男の恐怖が追ってくる。
雨の降る炭鉱は暗くて長い。
ぼくはあてもなく走り回る。

出口が見えた。
眩いばかりの光が出口を示す。
そこに浮かぶシルエット。
太った身体と手に包丁。
46豆腐 ◆POM/5/.7A. :04/07/17 00:35 ID:hL8PZ5tW
『サル男』

相変わらず薄暗い部屋、壁はセメントで窓は小さい。
京劇の仮面をかぶった男がひとり。
上半身裸のジーパン姿。
真っ白なベッドに腰掛けて、大きな鏡をじっと見つめている。
首から肩にかけて皮膚が焼けただれていた。

太鼓の音が聞こえてきた。
男の肩が小さく震える。
最初は小さく、トン・・・トン・・・トン・・・
トン・・・トン・・・トン・・・
段々大きくなる太鼓の音にあわせて、男の肩も大きく動く。
男の背後から仮面をかぶった女が出てきて、妖艶に踊る。
女の手が、焼けただれた男の肩をぐいっと掴む。
血が滲み出る。

男がゆっくり仮面に手を伸ばし、そして仮面をとる。
赤くひび割れた肌、ぎょろつく眼、広がった鼻腔。
人間離れした大きな口がサルのように隆起していた。
男は鏡に向って、その大きな口を開ける。
ワニのように広がった口に、小さな歯がギラギラ並ぶ。
そして男は咆哮する。

しかし、その声は聞こえなかった。
47豆腐 ◆POM/5/.7A. :04/07/22 22:52 ID:ZR0gPN84
『バッタ男』

月に薄い雲が張り付き、それでいて蒸し暑い夜だった。
家を出て散歩に出かける。
ふと迷い込んだ荒れた広場。
広場の片隅で煙草に火をつける。

広場の向こうのほうにうずくまる人影を見た。
どこかしら奇妙なシルエットだった。
ふいにシルエットは影を地面に残し跳ね上がる。
そしてバッタンバッタン跳ねながらぼくの方に近づいてきた。
ぼくは怖くなって、それでもその場を動けずにいた。
シルエットがぼくの足元に着地し、その姿を月光にさらした。
ひざの関節が逆になっていた、そうバッタのように。

男はゆっくり立ち上がり、こう言った。
「勝手に工事現場に入っちゃ駄目じゃないか」
身長はぼくよりも低いけど、すごく筋肉質だった。
「工事現場?」
「そう、見ての通り今は整地中だ」

男が煙草をねだったので、ついでに火もつけてあげた。
うまそうに煙草を吸いながら、なぜか寂しそうな表情。
男は吸い終わった煙草を投げ捨て、また仕事に戻った。
ぼくは背を向け家路を急いだ。

いつまでもバッタンバッタンと男が地ならしする音が耳に響いた。
48うきわ:04/09/22 10:00:36 ID:skHPOwBF

あんだー
きみけされるために生まれてきた
かざみどりのほうがく
くるりきたへむかうとき
あんだー
あいしているとむねだけでつぶやく

あんだーせかいじゅうにあまいだけのコーラと
やすあがりの色彩があふれて
よろこびが二倍
かなしみが半分
しんじられないバンビ

あんだーすろーてきすとジャンク
きみのもとへ手紙がとどかない
まんなかに切手をはって
さよならと雲間へとなげた

49名前はいらない:04/11/06 18:23:44 ID:h5/d2iIR
まあ落ち込むことはあるわな
50名前はいらない:2005/04/21(木) 20:35:55 ID:i3OkIhBB
東京には、人がいっぱいいました。
東京には、たくさんの建物が立ち並んでいました。
東京には、情報がたくさんありました。

でも、東京には 私の居場所はありませんでした。。


51名前はいらない:2005/06/21(火) 04:34:01 ID:F86DfzF/
o
52名前はいらない:2005/06/21(火) 05:25:40 ID:F86DfzF/
夢遊病者のように這い回る
きみの居場所を盗る事だけが
怖くてならないのです

僕の着せた夢に縛られ
もがきあがき守ろうとしてた

誰へ帰れと言うの?
言い繋ぐ口上が
虚しく響くのです
53名前はいらない:2005/06/25(土) 15:45:37 ID:wPlrBrQ4
やけな物音軋む階段
玩具車に乗っている
はだかんぼ男の子いなかった
サイレントサイレン
冬の覗く薄戸のいかり肩持たれさせ
怯え喚きおらびだす火(ほ)の粉
ホースたくり消防服被って
さら地の借家何一つなかった
焦げだ柱の僅か腕を伸ばし
折れてった
いろりを囲む井戸端会議
悪意と嘲笑に見知らぬさまさまは
コケ脅す僕を哀しく鏡に映してた
隣で女の子連れだって
電信柱をくくりつけ、縄をとんで回してた
はぜる煙、もくもく天まで昇ってく
くるおしくくるおしく


始めから何もなかったように
日常はそこにあったのに

暖かなひかりの中で
ここにぼくはいなかった
54名前はいらない:2005/06/25(土) 16:08:57 ID:wPlrBrQ4
「ほこりがかったギターケース」

悲しみの肩に降りかかる空白は
一瞬のうちにきえさるためにしかない

築きあげる
崩れさる
そのなんとあっけなさ!!
55名前はいらない:2005/06/25(土) 16:24:34 ID:wPlrBrQ4








       男だから










56名前はいらない:2005/06/26(日) 06:28:01 ID:MkoITKSW
「眼を抜かれるために珠をもつ龍の絵」

触れたら割れた

硝子の階段

崩れさる浪の上で継ぎ創り

急斜面を駆け降りる 鹿角

木陰の端のちらほらを

朧眼に過ぎ去りながら

一つ足りぬことを哀しんで

扉がそこにあるんだ

開け放つ全てを曙にかえて

扉がそこにあるんだ
ほら直ぐ前に
57空色蛙:2005/07/05(火) 00:31:44 ID:jA+gMl65
大嫌い

見上げた天に
黄色い花火
恋をした瞳をした
見知らぬ少女がそこにいた
垂れる頭は
「覚悟してたつもりでもやっぱ痛えや」

ドアがこころもたない南京錠
捨てたはずの鍵は便箋の中
かち合わせた隙間に差し射る署名欄

涙に溶けたゆきだるまん♪
58anjella:2005/11/09(水) 06:00:47 ID:LMc2lGAG
眠れない夜

眠れない夜には
眠れないだけの
誰にも 伝えられない
理由(わけ)がある
59名前はいらない:2005/11/16(水) 01:55:21 ID:9JsPC5Sg
「プラトニック・アイロニー」

 その昔 プラトンは言った

    ―― すべての人は、
  
      何かを愛している時に詩人である ―― と


 … 愛って 何だ?…

 僕の

 コトバは

 宙に浮く


 
60闇黒腎臓犬歯 ◆7CRAYONRAY :2005/11/24(木) 23:21:15 ID:wReZ9vBr

       字           青               牛
           at              よく見える?
      of           味                    虎
          点               尾                家
                  砂                 上
  背伸びするの?   綱                間
                      all    風            傘
      one       木                 other
桜                   向こう側に             網
       わりきれない              energy
   刃               衾                 壁
         嘘            どちらも              boat
   beart        目前に                  so
           昼               広がる世界
61名前はいらない:2005/12/05(月) 20:07:37 ID:wkZn7cRD
てすと
62 ◆Kaco/u.gO6 :2005/12/21(水) 01:37:50 ID:bUeZhkgn
テsト
63名前はいらない:2006/01/24(火) 05:42:28 ID:fZ4SSagl
心なし冷めてる

バグダッドから

Calling You...

フ、ッ
64名前はいらない:2006/02/22(水) 13:40:10 ID:3NBkj09P
テスト
   .∩_∩ ∩
  ( ・(エ)・)彡
      ⊂彡
65名前はいらない:2006/02/22(水) 13:50:57 ID:3NBkj09P
もういっこ♪

    ∧___∧
   / -    - .\
   |    .●    .|
 /| =(_人_)=. |   
/  .ヽ、______ノ   
|    _____ ノ ⊃
∪⌒∪     ∪ 彡
66名前はいらない:2006/03/03(金) 03:49:53 ID:emC3HIAI

【春の便り】

あなたの心に
なごり雪が降る頃
それは静かに
ひっそり届くでしょう

67名前はいらない:2006/03/22(水) 03:07:05 ID:rTv6DZJw
【なんにもない】

なんにもないんだ なんにもないんだ
ほんとに なんにもないんんだ

生まれたよ 生まれたよ
”なんにもない” だけが生まれたよ
68名前はいらない:2006/03/22(水) 03:08:57 ID:rTv6DZJw

言葉にしてしまえば きっと
ラクになれるだろう時に限って
一言も出てこないものなんだ


69名前はいらない:2006/03/22(水) 03:19:57 ID:rTv6DZJw

おそらくは誰も
憎しみや怒りといった感情だけをエネルギーに
生きつづけることはできないだろう

あまりにも虚しいことに
気づかざるを得なくなるから

そして 誰よりも
"やさしさ" というものやら
"ぬくもり" というものやら
"愛情" などというものを
捜し求めて やまなくなるのだろう

人は
憎しみや怒りという感情を 抱きつづけることに
慣れてしまうことなどできない
そんな生きものだから



・・・早く 気づくべきなんだ
70名前はいらない:2006/03/22(水) 03:34:11 ID:rTv6DZJw
一山いくら、で 差し出せるような
その程度の 親切ならば
いくらでも あげようじゃないか

スマイル0円並みに ふりまけるような
そんな やさしさで良いなら
惜しみなく 振舞おうじゃないか

容れ物にこだわるなら
包装紙に 大事そうにくるんで
お飾りのリボンもつけて
お届け物にでもしてあげたなら
きっと 大はしゃぎで喜ぶんだろう

愛と情との間で
宙ぶらりんの君のことだから


71名前はいらない:2006/03/22(水) 03:41:18 ID:rTv6DZJw

喜怒哀楽の
キもドもアイもラクも
気紛れに おしみなく振りまきながら

でも実のところ
本当は 一体何がしたいのか
自分自身でさえ わかっていない

72 ◆DQDP54TKJE :2006/04/11(火) 01:42:44 ID:Q+QoGdxw
河川敷の果てに、
星が散らばり、
落っこちて、
一つの街を作った。

アンドロメダ幻光の滴る街を。
その原を、
焼き尽くすような光において。
73穢土 ◆KJXrENozYs :2006/04/13(木) 01:45:00 ID:WdxWmIGf


女です
74黒猫 ◆zr3DIhKaRU :2006/04/19(水) 18:39:35 ID:iqphElx7
・・・・
75黒猫 ◆izGUHZ.H0I :2006/04/19(水) 18:40:35 ID:iqphElx7
・・・・
76名前はいらない:2006/05/05(金) 19:01:39 ID:yRYTiG+y
「なにもない」というあいさつを明るい声で
77名前はいらない:2006/05/05(金) 22:24:28 ID:oMjYNujk
器なんて決まってるんだろう

同じものを見たって感じる感性は違う
大らかに受け取れる人もいれば受け取れない人もいる
鍛えたって変わらないんだろう

所詮これまでの経験が物をいう
運がものをいう
78万華鏡倉庫:2006/05/06(土) 00:24:14 ID:TQMauq47
背中に突き立った短剣に気付かないのが取柄
思い切りベッドに倒れ込んで死ぬ
ぐっすり
79万華鏡倉庫:2006/05/06(土) 07:07:44 ID:yspMFqkw
長い
長い
階段をどこまでものぼって
力では動かせない無闇に縦長の

の前についたらノックをして
「ちわー、被造物ですが」
と言うこと
その際帽子は取ってください
80万華鏡倉庫:2006/05/06(土) 12:50:34 ID:AADFPqOi
物語られることを希望していないがゆえ
物語のとば口を持っていないことがらを
名前を付けずに呼ぶ方法として
人相書を掲示する
81万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/05/07(日) 14:32:10 ID:4NsW8/4e
重力がたっぷり沁み込んだフレンチトーストを食う
82名前はいらない:2006/05/07(日) 16:34:44 ID:pjhcSKU9
ちらし裏
想い綴れば
それもて表

我の心は 裏にあらず

83万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/05/07(日) 19:32:45 ID:2KuDtB/X
自分の体のなかでいちばん好きなのは腸壁
84万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/05/14(日) 16:28:25 ID:WM095xPi
誰かの胃袋におさまってはじめて
じぶんが飲みやすいシロップ状だと気付く
85万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/05/17(水) 17:07:46 ID:ahdY7G6Y
おそるおそる砂の中から頭を出してみると海は全力で走り去っていくところで
みるみる水平線は地平線に変わる
二度と戻る気はなさそうだな
86万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/05/19(金) 06:03:01 ID:YGUmaV39
感情の周期律表
87万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/05/24(水) 01:36:50 ID:1EA9LjE7
朝焼けの色
起きがけのあなたの頬に映るとき
寝過ごした昨日の夕焼けの色
88名前はいらない:2006/05/25(木) 03:27:35 ID:Sg5D6dWU
新し物好きな彼らは
覚えたての言葉を纏って モードな気分でファッション

素顔を知られたくない彼女たちは
言葉で化粧 着飾って 変装

売れ線目指す 作家志望は
リクエストに応じてばかりの 媚び瓜

そして本音はいつも
ため息混じり 愚痴まみれ

聞かされ続けて 一言返す
「どれも あなたの 一部には変わらぬ」
89万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/06/20(火) 03:19:44 ID:M9n7K7Xo
留まるもの汗染みて揺らぎ
油膜を割り約束を絡め
鳴り出す前の目覚ましを睦む

一拍遅れて打たれる寝返り
醒めかけた夢に働く
遠心力に振られて
夢の隣りに醒めるひととき
90万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/07/10(月) 11:02:24 ID:QwclqxFd
前提を左腕とさだめ砂を去る足跡こそ鼓笛と知らめ
91万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/07/18(火) 11:48:48 ID:A/McuDo0
自鳴琴を目差して試験勉強する戦没者慰霊碑の席替え
92万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/07/28(金) 20:37:22 ID:NIOMI5h1
怒りを敷き詰めた舗道から
滲み出す鞭毛のメトロノーム
93万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/08/03(木) 03:36:10 ID:ET3dtBnr
哲学に留まり続ける中性浮力
94万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/08/10(木) 23:10:47 ID:TvDn7gdD
太陽を吸ってふかふかになった枕に
王位継承権一位を譲るものとする
95万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/08/17(木) 01:54:28 ID:Z+pHnTR3
白い目で「見る」のは難しい
96万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/08/26(土) 02:27:21 ID:2AHdDoC3
散歩の神様にお参りしてから散歩にゆく
97沮喪:2006/08/28(月) 18:47:36 ID:AwzWTHqw
やわらかい階段をのぼるやわらかいもの
98万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/08/29(火) 19:57:39 ID:X4tyKRpf
捕食される草食の天使
99万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/08/31(木) 21:03:12 ID:/3rKBA66
絶海の孤島の翡翠の城に
ピーマンがだんだん好きになる魔法を取りに行きました
100夜間閲覧室 ◆yaGg4cC206 :2006/09/05(火) 15:30:52 ID:ZIGADhdb
意訳された授業料を払い
慕わしい髄質をすがめる

へなへなの糸状の校舎
渺茫たる空に繋がり
泡の階段をはじかせ
辟易の乱雲を踏み切って
神の腰回りに似た
脂をのせた娘を
鐘として割る

新奇な擬声語が雲となって湧きやがてけたたましい
雨となる
101万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/09/12(火) 22:59:27 ID:SC1nYVGA
ひとつ使い啄ばむ
石油を孫に
腰をこごめて
数えゆ
ふたつ使い足摺る
土塊を姪に
刃をあてて
眩むゆ
みっつ使い謀り図る
葦原を祖母に
渓を狭め
絞るゆ
102万華鏡倉庫 ◆8zHol6NAOo :2006/10/18(水) 17:31:31 ID:vY6tK0Em
今日もまた病室を持ち出されるまでの肘で
103名前はいらない:2006/10/22(日) 15:51:41 ID:Srn3JIiA
104名前はいらない:2006/11/17(金) 04:12:23 ID:i0IDLwWB
another day
another night
another life

同じ世界に
いるのだたとしても

105名前はいらない:2006/11/17(金) 04:15:48 ID:i0IDLwWB
あるひとつの選択肢としての

返事をしない
    
    という 返事

106名前はいらない:2006/12/04(月) 17:24:26 ID:NLhGR20c
幸福の青い鳥

それはカラスのことだったのだと

知らされても

きっと私は肯くだろう

そして朝焼けとともに羽ばたいていく

その鳥の羽音に目を覚まし

真っ黒なはずのない姿を

じっとこの目で追ってみるんだ

そこにある

窓をすべて開け放って

その中にたった一羽のカラスを探そう

私を探しているであろうその一羽を


鳥籠の扉はもういらない


107 ◆78455.Memo :2007/04/05(木) 06:50:11 ID:QzuwSFDP
何でもかんでも 悪い方へ悪い方へ
どんな慈しみも偽善だ裏があると
貴方はいつも苦しんでいる

世界一世の中を知っているつもりになって
世界一不幸を背負っていると思い込んで
毎日がしんどいでしょう?

自分が嫌い
大嫌い

白馬の王子を夢見る少女は
全てを受け入れ幸せにしてくれると
今日も瞼の裏で待っているけれど

ただ待っているだけじゃ
しわくちゃの老婆になるまで
きっと誰も迎えに来てくれない

一人で後悔しながら死んでいくつもり?

来る予定だった王子様への恨み言で
最後の最後まで気付かないまま死んでくのかな

変わる事に億劫にならないで
受け入れる事に億劫にならないで

生きてるついでに歩いてみよう
ご飯のついでにお茶を飲むように

眠るついでに瞼を閉じるように
全てを受け入れ 全てを感じように

貴方はいつも苦しんでいる
辛い目に合いたくないのに辛い毎日

そこから抜け出すのは今
明日じゃなく今ここから
108 ◆peaceYu/Hg :2007/04/07(土) 03:44:43 ID:87tkKbf2
納得出来ない言葉の羅列
消費者の声なんて反映されない大企業
威張っているだけの医師看護師弁護士教師政治家他人
怠けているだけのニート天下り爺さん隣のおっさん
愚痴しか言わない友達同僚親親親
病名付けるのが仕事な心療内科の先生
処方箋と重ねられる薬と飲まずに溜まってくイライラ
テレビでは暗いニュースと煽るコメンテーター

どこもかしこも不安だらけ
どこもかしこも不満だらけ

ゴロゴロ転がって大きくなる爆弾
雪みたいに
どんどん大きく
どんどん重たくなってく

導火線に火をつけるのは誰?
君を吹き飛ばすのは誰?

君の欠片を拾い集めて
キラキラ光る瓶に詰めて
「まだ見ぬ誰かへ」手紙を書こう

明日はいいお天気
雲ひとつ無い青空

君の欠片を拾い集めて
キラキラ光る瓶に詰めて
明日は海へ出かけてみよう

この世の中の不安を全部
この世の中の不満を全部

君の欠片と同じに砕いて
ガラス瓶に詰めて流してしまおう

明日はきっといい天気だしね
109 ◆75PSbtSdd2 :2007/06/19(火) 02:26:38 ID:gG6uA2kK
『一コマ分の機微』


大きな岐路
小さな岐路

標識なんて
あったようで
ほんとうはなかった

いつだって
道先案内は
欲しかっただろう

それでも
迷うことには変わりなかったと
今になれば
そう言えるけれど


大きな岐路
小さな岐路

いつか訪れるだろう
振り返る時

たとえそれが
ただひと筋に
つづいている
一本道になっていたとしても
110 ◆75PSbtSdd2 :2007/06/19(火) 03:02:51 ID:gG6uA2kK
『開封通知』

同朋宛ての一斉メール
あいさつ 近況 連絡事項
開合 日時 二次会の場所

心配を "心配"と書かずに気に掛ける
「開封通知希望」の添付文字
返事が無理なら かまわない

ただ これが読めるのかどうか
その状況にあるのかどうか
それだけわかれば それでいい

なんの無理強いもない心遣いは
連絡内容にではなく
欄外に小さく付記された
あたかも事務的かのような オプションの中

互いの了解
気遣いの心根

読みました、ぜんぶ了解です。
でも出席はできそうにありません、申し訳ないです。
みんなのこともわかりました、ありがとうございます。
メールは読めます、でもまだちょっと今は……

何も書かなくていい
開封通知さえ送れるのなら

そして
そうして
それだけで 
今もずっと通じている
111 ◆75PSbtSdd2 :2007/06/21(木) 00:01:20 ID:9WjRiJ7J
「蚊」


小さなテーブルランプの下
その日の事をつれづれに書く日記帳
そこに添えられた左手は 意識の内になく
照らす灯りからも少しはみ出し
半ば暗がりの中

平凡な日常の他愛もないあれこれや 
綴られさえしない 当り前の雑事
その文字と空白からも 置き去りの左手

その甲の わずかに存在する柔らかな場所に
とまっていた 一匹の蚊
いつのまに入り込んで来たのか
チクリという気配もなく


血を吸う間に払いのけると その吸い口から
皮下に微量な毒を注ぎ込み
それが腫れとなり痒みとなり残る
そのことを思い出し

さとられまいと 体の動きを止め
透き通りそうに薄色の躯体が 血を吸う様を
うかがっていた

満足に吸い終えれば
肌を離れる前に
先に注いだ毒までも吸いとっていき
腫れも痛みも残さないという


刻々と とくとくと
吸った血で
膨らんでは 赤みを帯びるその姿を
息もひそめ 眺めて居れば
それは 一匹の虫の ひとつの営みであると
なんと 生々しい営みであるかと


我が血を吸いたまえよ

日記の端の仄灯りの中
何よりも
実に実に生きている

蚊よ
我が血を吸いたまえよ

そして満たされて 何も残さず飛んで行け
112 ◆75PSbtSdd2 :2007/07/08(日) 01:55:32 ID:bAINC0iU
『一度きり』

どうせ生まれてくるんだったら
時代遅れ
そんな言葉もないくらい
うんと昔に生まれてたらな
遅れたまんまで間に合っただろう


どうせ生まれてくるんだったら
最終戦争が終わった後の
残され島
みたいなところ
ポンと産み落とされたらな
看取りの使者に命ぜられ
一人になって終わるだろう


いつの時代の何処だろうと
お前はお前
どうせ同じ

そんな風に言わないでよ
今だけはさ
今だけは


どうせ生まれてくるんだったら
君とすれ違いもしない時代と場所
そうすれば
僕は一人

何も知らずに済んだだろう
君を知らずに済んだだろう


変わりはしない
どうせ
違う誰かに出逢うんだろう

そんな風に笑わないでよ
今だけはさ
今だけは

後にも先にも
一度きりしか言わないんだから


どうせ生まれてくるんだったら
はじまりの前
おしまいの後


それっきり、

これっきり。
113 ◆75PSbtSdd2 :2007/07/08(日) 02:02:16 ID:bAINC0iU

『雨の匂い』

雨の匂いがありました
寝静まった露の夜の
その隙間から忍び込み


雨の匂いがありました
染みた空気は辺りを漂い
重みは つぅ と肌を撫ぜ


雨の匂いがありました
水路を伝い 河に注ぎ
やがて 闇を貫く一筋の

黒く輝く影となり
逆らうことなく 低きに向かう
粒たちの


明日と今日の谷間にある
澱み沈む者に
尋ね来て


今 この瞬間
この場所から


このままともに 流れましょうか

遥か 遥かと 流れましょうか
114 ◆75PSbtSdd2 :2007/07/08(日) 02:07:07 ID:bAINC0iU
 【ちぇりー】

さくらんぼ
                   
あめんぼ
とんぼ

とうせんぼ

田んぼ
なんぼ

かくれんぼ


さくらんぼ
さびしんぼ

ちぇりーじゃなくて

さくらんぼ
115 ◆75PSbtSdd2 :2007/07/08(日) 02:08:35 ID:bAINC0iU

空からは雨

空からの雨

それだけで
何も降りてこない夜だから
116 ◆75PSbtSdd2 :2007/07/16(月) 03:33:50 ID:n1Eq31+3
『白紙』

残そうとする
そのそばから
逃げるように

存在は
永遠にも似た時間の中で
瞬間の
その一欠けをも満たさぬ微細

滑り落ち

どんなに強く筆圧を込めようと
形跡のみ
薄く、浅く

かすれゆくインク

それを目の前にして
力無く

深く
焼き付けようとしながら
俯瞰

その表面をさすり
せめて感触だけを掌に、と
願うのも束の間

裏返し、伏せてはまた

白紙
117 ◆75PSbtSdd2 :2007/07/19(木) 19:10:47 ID:3scjKUl6
『東へ』

北の地の異変を知る


鈍色は
崩れ流れひび割れた大地
覆う空
それよりも

生きながら
歪められた重み
そのいくつもの瞳の奥を
深くどこまでも貫いている


届けられる
切れ切れの報せにも
ただ竦むことしか知らない私たち

朝が明けきらないままのような
風さえ微々ともしない
低く垂れ込めた一日の

ここは情報の街
通り過ぎるもので溢れ
なにものも捉えられることなく

手の中には、いつも、何も、ない


同じ頃西から
次の新しい天気を
ツバメとなった電書が告げる


カラリと晴れ上がった
なんと
青く、青い夏空の訪れであるか、と


叶うのなら
ささやかでも
あの北の地へ真っ先に送りたい

空だけは
今日も東へ
変わることなく、東へ向かっているのだと
118 ◆75PSbtSdd2 :2007/07/31(火) 04:30:14 ID:kc4dhbZh

 『 笑顔 』

ひまわりみたいな笑顔 って

そんなふうに
よく聞きます
  ―― ときどき聞きます


どうして笑っているのかは 誰も
ひまわりには 訊かないのですが

それでも ひまわりの様な笑顔だと
ときどき聞きます
  ―― たまに聞きます

ほんとうに笑っているのかな


暑い暑い夏
  ―― 涼しい夏でも

真っ青な空と 入道雲と
高い所から照りつける太陽と
夕立や 雷や 台風と

少しくらい ひび割れそうに乾いた地面にも

ひまわりは
向日葵色をして咲き
ずんずん背を伸ばし ひと夏中をめぐります

いつも笑顔で
向日葵のように笑って
その顔いちめん 日焼けさせて


田んぼの畦道の脇
そこだけ よそより日当りの良い
ちょろちょろと用水路の流れるそばに

すこし咲き急いだ 背の低い
今年最初の ひまわりの花をみつけました

ほんとうに笑っているのかな


かがんで のぞき込むと

笑顔の私が見えますか?


ひまわりは
 そう、 はずかしそうに言いました 


二〇〇七年七月 向日葵

     梅雨の長引く 夏のはじめ
119 ◆75PSbtSdd2 :2007/07/31(火) 04:40:19 ID:kc4dhbZh
 『かくかくしかじか』

「大海は芥(あくた)を択(えら)ばず」
 とは、大義名分
「金の切れ目が縁の切れ目」
 そんなものです、足元を見られ。

「蛇の道は蛇」 
 いや、そうでなく
「傍目八目」 
 遠目にすれば

「壁に耳あり、障子に目あり」
 「目は口ほどにものを言い」
 
 その目には入り居りませんか、
「悪事千里を走」ります。


「桃栗三年柿八年」 「待てば甘露の日和あり」
 「塵も積もれば山となる」 そう、

「一事が万事」
それを以って「他山の石」とす。

嗚呼、「人間万事塞翁が馬」。


「山高きが故に尊からず」
「石が流れて木の葉が沈」めば

 「一寸の虫にも五分の魂」 
 「山椒は小粒でぴりりと辛」く
 「牛に引かれて善光寺参り」

「油断大敵」 とはこのことか
そう、「一寸先は闇」 という。

「善は急げ」、
「急がば回れ」。


「一石二鳥」 「漁夫の利」 ですと
  そんなことを、よくもまあ。

「五十歩百歩」
 であろうとも

「万事休す」
 いや、
 「そうは問屋が卸さない」。

遊びみたいに
遊ぶようで
遊びじゃないのよ生きるって、嗚呼。

 かくかくしかじか
 かくかくしかじか

そうそう私も 折れられませぬ
120 ◆75PSbtSdd2 :2007/07/31(火) 04:47:23 ID:kc4dhbZh
『天気予報さん』


 明日の午後
 台風が過ぎ
 雨のあがったその後には
 久しぶりの
 鮮やかな虹に逢えるでしょう


 天気予報は そう言った

 本当ですか と聞いてみた

 確率40%


 残念ですね
 
 残念ですね
 それでは 答えと呼べません
121 ◆75PSbtSdd2 :2007/08/02(木) 23:39:41 ID:U9tGha9D

『扇風機』


首をかしげた扇風機がまわる

随分さっきに ぶつかって
ぞんざいにしたままだった

カタタ… コトト…
カタ コトン


一息つきたい わたしは
ペシャリ
あなたと向き合い 座り込む


あなたは汗をかかないの

カタタ…、 コトト…
空気は踊り 風になる


わたしは じりり

じりじりじりり


外では世界が融けはじめ
影の焦げる匂いがする

カタタ… コトト…
カタ、 コト
コトン


さっき握った汗がそうっと
冷たい感じに変わったら

わたしも一緒に傾いて
夏にかまけて マワリだす

うぅき うぅき
せんぷうぅーき


かたこと と

カタ、コト、 トン
122 ◆75PSbtSdd2 :2007/08/06(月) 03:04:39 ID:2sq7q/9v

頬染めて

みのる鬼灯 ほろほろと

恋すその身は 酔いて候え



(ナンチャッテーダ夏!眠レナイワケ)
123 ◆75PSbtSdd2 :2007/08/11(土) 05:04:28 ID:jKufzOfx

鈴生りの
アカらむ前の鬼灯の
緑を一枝
水に生け
124 ◆75PSbtSdd2 :2007/08/11(土) 05:05:38 ID:jKufzOfx

夜ル鳴ク蝉ワ
朝焼ケノ刻
最モカナシク
鳴キ
飛ビ去ル
125名前はいらない:2007/08/23(木) 16:49:33 ID:jMsqgARf
126 ◆75PSbtSdd2 :2007/08/27(月) 20:29:19 ID:e0+NY4Aj
(無題/散文)


2007年の夏は
それだけで記録的で
長梅雨で 猛暑で

日中の陽射しは
眩しさを通り越し
瞳を焼き 遮るものを突き刺すように
痛いほどで

見上げる空は
冷めない空気が高い所を
流れず漂い ずっとずっと淀んでいる

朦朧と 体は
まるで温水の中
歩を進めたり 留まったり留まったり


涼を探し 涼を待ち
日の翳りにやっと呼吸し
逃げ場の端に辿りつく


その夏の流星群は
目に見える時間には 既に遅く
真昼の太陽に溶けてしまった

物憂い八月の中旬(なかば)
気怠さに溺れ
ただ
振り払いたくて 抜け出したくて
新月の暗がりの下に這い出した

やわらかくなったコンクリィ
早生の果実の 行き過ぎた匂い
眠れない ため息の数々
死ぬに死ねない蝉の声

夜の底
くたびれた遊具の眠る公園の
それでも一番の高さにある滑り台
たよりないハシゴを昇り 展望台へ
127 ◆75PSbtSdd2 :2007/08/27(月) 20:29:50 ID:e0+NY4Aj
(つづき)


ひとつ目は カシオペアの近くかをすめながら
スゥっと短い線を引き流れた
新月の空は 奥まった色で
星たちは 普段よりも じいっとしていて

ふたつ目は あっという間の素早さで
視界の真ん中を通り過ぎた

こんな夜に空を見上げていると
色々なことを忘れてゆく
こんな夜に流れ星を待っていると
たくさんのことを思い出す

そして三つ目は
大きく炎えて長い尾を引き 天頂を横切った
ああ、という 声よりも長く鮮やかに

そうして
たくさんのことを忘れられ
色々なことが思い出せる

蝉の声が一段と大きい

斜面に座り
寝そべりながら滑ってみる
遊ぶように 遊ぶように
ぢょうとよく背もたれになった
狭い滑走路の中で 空を仰ぎ見る
気分がよくて眠りに誘われそうで

よっつ目は その時走った
赤く炎えていた
炎えた星が大きく大きく落ちてきて

そのまましばらく待っていた

吹き始めた風の中

色んなことが忘れられ
色んなことが思い出される
そんな夜の中 待っていた

そんな夜を待っていた
128 ◆75PSbtSdd2 :2007/08/27(月) 20:31:40 ID:e0+NY4Aj


  『消失』 昔日 惜別

君が消え
ひとつ事実が消え
君が死に
ひとつ真実が死んだ

わたくしは 君の形を拠り所に
一日を歩き 或いは留まり
そして眠っていたが

それが消え
それが死に

拠り所なく
花は摘めず 花は贈れず
拠り所なく
春夏秋冬(ひととせ)を過ぎ
朝を迎えども
拠り所なく

ため息のかなしさせつなさ
忘れた呼吸は 時を進めず
夜がまた 降りて来ようと
暗いばかり
それでいて ひとり
拠り所なく 涙もなく

君が消え 事実が消え
変わるものは ひとつとなくなり
君が死に 真実が死に
わたくしには 消失のみ唯一遺され

今日というのは
生きるを忘れた
生という名の亡骸棲まう容れ物
その一日であるだけでした
129 ◆75PSbtSdd2 :2007/08/27(月) 20:38:16 ID:e0+NY4Aj

『跳べない蛙』


砂漠から 連れられてきた
跳べない蛙 そいつは
跳べないのか 跳ばないのか

跳べなくなったのか
跳ぶ必要がなくなったのか
重たい瞼の下の目を
ときおりギュル と動かすが

ガラスケースの中に入れられても
それでもお前は変わらない
まだ 跳ばないままでいる

白衣を引きずる研究員が
こいつは跳ばなくてもいい蛙
跳べないんじゃなく
跳ばないんだ

そういうけれど
そう言われても そのままで
お前は黙って
砂漠の中に居ることを思っているのか
それとも


ギュルと動かす彼の目を見ている僕に
おまえは どうなんだ
白衣の研究員はそう
訊ねるでもなく 言葉を放つ

ギュルと重たい瞼を閉じた
行き場をなくした研究室の
蛙と 僕と 白衣のアイツと
ガラスケースの中の 跳ばない答え
130 ◆75PSbtSdd2 :2007/08/27(月) 20:41:54 ID:e0+NY4Aj

 『 零下のもの 』
    〜やがて冷たい人になる〜


責任や義務や
そういったものでなく
むしろ
そういったものから 一番遠いところにあるような
自由


あれは彼の自由ですし
それは彼女の自由です

またそれも君の自由であり
そしてこれは私の自由なのです

そう 言う自由

どれも自由になっていき

私人の自由
ワタシノ ジユウ

口にし 耳にし
重ねる度ごと心は

晴れ晴れと 軽くなるどころか
沈鬱と
垂れ下がり心は

やがて冷め
そして冷たく

いつか零下のものとなり

やがて 冷たい人となる


ワタシハ ツメタイ ヒト ニナル
131 ◆75PSbtSdd2 :2007/08/27(月) 22:02:55 ID:e0+NY4Aj

 『新しい日記』

表紙の厚みとざらつきは
"Campus Wide"のロゴ入りの

ノートの重み
抱える贅沢

逸る季節が手にした色

オリーブ
    /グリーン

ちょっと口にしたかっただけ
なんとなく言ってみたかっただけ

オリーブグリーン

オリーブグリーンの日記帳から
132 ◆75PSbtSdd2 :2007/09/07(金) 06:17:54 ID:ijlivfZW
『 台風の年 』

台風、という漢字がまだただしく書けなかったので
わたしは、大風と書いていた 書けないというよりは
それでまちがっているとは思わなかったから
だって、つよくたくさん降る雨のことは 大雨って書くのだから
たいふうが 大風という字なのは
台風という字よりも ずっとあっている気がしていたし

先生には まいかい赤い字でバッテンをつけられて
また違っちゃったと頭をかいたけれど
それでも あんまり間違ってるとは思えなくて
つぎもまた 赤いバッテンをもらってポリポリしながら
結局は笑っていたのだ


その夏休み 大風が来た
ほんものの台風だった
いつもはそんなにしっかりしない家じゅうの雨戸を閉めきって
なぜだか玄関にもしっかり鍵をかけて
昼間から暗かったというのに 夜になる前にはよけいに暗くしていて
少しだけ変だなと思った
でもバタバタと人が動いているのは なんだかいつもと違って
どきどきする、のとはちがうんだけど、ちょっとだけおもしろかった

雨戸のない窓から外をのぞいて見ると
大きな雨のつぶが 道の上をバシャバシャとたたきつけて
降ってきた雨とぶつかるくらいに はねあがっていた
風がつよくて 道路を雨の束がうねうねと 海の波みたいに痕をつけていた

わたしは そのことが話したくて ひさ子ちゃんに電話をかけたくなった
大風のせいで 夏休みなのに昼間もちゃんと遊べなくて
ちゅうとはんぱなまま バイバイしなくちゃいけなかったのが
ものすごく いやだったから
だから 雨と風がすごいよ、って電話で話することくらいしてもいいと思ったのだ

でもしなかった
大風の日というのは、そういうことをしてはいけないらしかった
ひさ子ちゃんと話したいなあ…… と誰にも文句も言えずに
大風のせいだ、と思ってみた。でも大風のことをひさ子ちゃんと話したかったから
なんだか それは理由にならない気もした


133 ◆75PSbtSdd2 :2007/09/07(金) 06:19:41 ID:ijlivfZW

テレビは夜になってからずっと大風のことばかりだった
いつも見ているテレビはどこでもやってなかった
テレビにうつっている台風は 窓からのぞいて見た わたしの大風よりも
もっとすごかった。
海の、船のある、港ではほんものの波が魚をとりに沖のほうまで行く大きな船の
それよりももっと高くて大きくなっていたのだ

いなかで海水浴をした しょっぱい味のする海の波とはぜんぜん違っていた
大きな船が 海のうえで上がったり下がったりするくらい揺れて
そのうえから大波が さらにおおいかぶさっていた
ぜんぜんかわいくなんかない波だった
大きく砕け散って 怒ったような白いしぶきをあげて船や桟橋にあたりちらしていたから

海のそばじゃなくてよかったと思ったけれど
そんなのは次の瞬間にすぐに消えてしまった
わたしは、あまいな と思った
海だけじゃなかったのだ。
海につづいている大きな川もまたいつもどおりじゃなかった
テレビにそれを教えられて ショックだった。でも少し違う
ショックだったのも本当だけど、それよりももっと本当だったのは
こわかったこと。背中がぞくっとしたのは きっとあれがはじめてだったと思う
本当に背中はぞくっとするものなんだとわかったら それもまた怖くなった

だって わたしんちのすぐそばには川があるから
大きな川があるから
そして、ひさ子ちゃんちは わたしんちからもっとその川のすぐそばにあったんだもの



泥が川になったみたいな色をした 濁流っていうのが画面を流れていた
流れていた、なんてものじゃなかった
あんなの、流れているなんて言わない
向こうの岸までは橋をわたらなくちゃいけないくらいに遠いのに
その大きな川の川幅いっぱいに
いつも背の高い草や漆の木や中洲や河川敷を埋める石っころが
ぎょうぎよくならんでいるはずのところを
とんでもない色をした大水が ごうごうと 渦を巻きながら動いていた

そんなの 流れてるなんて言わない
今にもかたまりになりそうな重たそうな泥水が
ごうごうごーーーと 動いていた。轟いていた。
もう ひさ子ちゃんに電話をしたいとは思わなかった

134 ◆75PSbtSdd2 :2007/09/07(金) 06:23:34 ID:ijlivfZW

その川はむかし氾濫したことがあるらしい
わたしんちからすぐそばの、ひさ子ちゃんちの目の前の いつもの あの川のことだ
よくわからなかった。川が氾濫するってどういうこと?
大人の人に聞いてみたら、川の水がもっと増えて あの高くて頑丈な土手を崩して
乗りこえて あふれだしてくること、なんだそうだ

そんなこと起こるはずないと、ゴクっとつばを飲み込んだ
さっきぞくっとした背中が もういちどぞくっとして 今度は手が冷たくなった
知らないうちに力いっぱい手を握りしめていた 指がしびれそうに冷たかった
決壊、という言葉をはじめて知った
土手がけっかいして 川の中を轟く濁流が わたしたちの住んでいるところへ
むかってくるのだそうだ、決壊。

家も田んぼも道路もおし倒して それでもどんどん広がっていくんんだそうだ
本当にそんなことおこるの?
本当にそんなことがおこったんだよ
どんなふうにおこるの?
そこから先はテレビが教えてくれた


みんなおもちゃみたいだった
家も公園も 人も車も 電信柱も電線も 道路も工場も
だくりゅう。
だくりゅうにしてみれば、そんなものは おもちゃみたいなものなんだ、そう思った

ひさ子ちゃんちも?わたしんちも?

がっこうは?
がっこうはどうなの?
そのときは、逃げるの?どこへ逃げるの?

テレビの音が小さくなって、また雨と風のことをやっていた
もう一度さっきの窓から外をのぞいて見たら、もう道路は見えなかった
道路が川になっていた。道路の川に水が流れていた。
だくりゅうよりはましだ思った

その途端に胃の奥のほうから何かがもりあがってきて、吐いた。
眠れないなと思っていた夜は、そこで終わった


目がさめたときには、大風の日も終わっていた


なんにちかしてから、わたしは ひさ子ちゃんに会いに行った
いつもどおりにあそびたかった、まだ夏休みだし
でも、ひさ子ちゃんには会えなかった。がっこうがはじまっても会えなかった。



135 ◆75PSbtSdd2 :2007/09/07(金) 06:26:19 ID:ijlivfZW


ひさ子ちゃんは寝ているから
しばらくあそべなくなったの、ごめんね
ひさ子ちゃんのおかあさんから そういう電話がきたよ、とおしえてもらった
わたしはよくわからなかった
よくわからないまま、ひとりでがっこうへかよった
ひさ子ちゃんとはあそべなかった
電話をかけてもいいのかどうか考えてみて、なんとなくだけれど
しちゃいけないような気がしたので、かけるのもやめた


少し涼しくなってから ひさ子ちゃんと会った

ひさ子ちゃんの髪はのびていいて、日焼けした顔色もなくなっていて、
そして、ひさ子ちゃんは何もしゃべらなかった

ひさ子ちゃんはしゃべらなくなったんじゃなくて、声が出せなくなったの、
だからあそべなくても、話せなくても我慢してね、だから

さいしょにおしえてくれたのは学校の先生だった
だから、なんだというのだ とわたしは思った。だからじゃなくって、
と思ったけれど わたしもその先を言うことができないことがわかったので
聞きたくても聞けなかった そしてわたしも そのままだまっていた

ひさ子ちゃんは体育のじかんも見学するようになった
給食もみんなといっしょには食べずに 教室ではない場所に移って食べた
最初のうちは学校にさんじかんしかいなかった
行きも帰りも ひさ子ちゃんのおかあさんがついてきて、だからわたしは
ひさ子ちゃんと一緒に登校することも下校することもできなかった


---*

(つづきは まだない)
136 ◆75PSbtSdd2 :2007/09/29(土) 23:48:11 ID:neex9zRV



『つづき』

まだ、でも
もう、でも
もとよりでも、いつまでも
でもなく

つづきは
ない。


終わらないのでもなく
終わりもまた
ない。

つづきは ない。


理由など一切いらない
137 ◆75PSbtSdd2 :2007/09/29(土) 23:52:58 ID:neex9zRV

#.つぎつぎに
はぜて酸漿 なほたわわ


(花火)

#.仄けむる
線香花火 夏仕舞い

#.もう見れぬ 最後の花火 窓に聴く
138 ◆75PSbtSdd2 :2007/09/29(土) 23:54:02 ID:neex9zRV

#.ケータイの 小窓にのぞく この秋は
139 ◆75PSbtSdd2 :2007/10/03(水) 20:23:38 ID:/CbenpNr

『 誕生 』

今だけね、今だけね……

と、独り言のように繰り返しながら
懐で、泣き笑いまた泣く赤子に
乳を授け あやしている
その女性(ひと)は

ただ一人の女親であり
生涯の母である

そんなことは誰に教えられずとも
とうに得心している
とでも云わんばかりに
無防備に 疑いもなく、全身で声を震わせ泣き
すべてをゆだねている
その子は

ただ一人の女児であり
生涯の娘である


今だけね、今だけね……
(そんなことはない)

今だけよ、今だけよ……
(そんなはずもない)


泣声をあげることが唯一の術の
その子の
深く、黒い、大きな瞳は
泣きながらにして 紛うことなく
その母の瞳だ


(今だけね、今だけね)
涙して微笑む姿が少女の頃からかわらない

貴女のお母さんは
今とかわらず、生涯
貴女をその懐に抱きつづける女性であると

ここに宣誓します。



――― たんじょう、おめでとう


_
140 ◆75PSbtSdd2 :2007/10/03(水) 20:37:19 ID:/CbenpNr

『 さむいもん 』

ちょっとさむくて
だんだんさむくて
また暑くて
急にさむいよ

こんな、さむい

夏がけやタオルケットじゃ
もう間に合わなくて

毛布
引っ張り出してきて

毛布、はおっちゃる
毛布、巻いちゃる
毛布、かぶっちゃる
毛布、抱っこしちゃる

さむいもん
さむいもん


さむいは、ちょっと
さみしい、だから

まだかたい毛布
くるくるまって
寝ちゃる

くしゃくしゃんなって
眠っちゃる


毛布、もうふ、
もうふもうふもうふもうふー

さむいもん


眠っちゃる
眠っちゃる


_
141 ◆75PSbtSdd2 :2007/10/23(火) 01:32:10 ID:VLHjeeUB

花のあるもの
影のあるもの
影薄いもの
何某か

爪を隠すもの
爪起てるもの
爪を噛むもの
何某か

ある時は此方
ある時は彼方
またある時には

何某か


変幻自在のものが云う
「主には、影すらもない。」

私に向かい そう告げる

影さえない

朝となく昼となく夜となく

わたし には、
影、 も 、、ない


ひとつ肯き

然して此に立っている


142 ◆75PSbtSdd2 :2007/10/23(火) 01:35:15 ID:VLHjeeUB

『 とったい ちゅーてー 』

とったいちゅーてー

はっとして 振り返ると

女の子が 手を叩いて笑っている
テレビの画面を見て 手を叩いて笑っている

患者さんの増えてきた 秋の待合室
マスクをしたり うなだれていたり
熱っぽかったり 咳の声が籠もったりする


テレビ画面が映し出すのは
大き過ぎる議事堂の中 豆粒みたいな
大人の人 人

平和の話をしてるんだって


映像が 音が
変わるたび ざわつくたび

女の子は笑う 手を叩いて
  パチパチパチ
    とったいちゅーてー

お母さんは 申し訳なさそう
うるさくしてすみません そう頭を下げるけれど


杖にもたれたおばあさんは 微笑う
女の子の姿を見て 微笑う
しわも美しい顔の その目を細めて

耳を悪くしたおじいさんは
横にいる奥さんに聞いている
様子を知って おうおうおう と何度もうなずく


143 ◆75PSbtSdd2 :2007/10/23(火) 01:35:46 ID:VLHjeeUB
(つづき)


よちよち歩きの女の子
歩き方も 喋り方も 
まだおぼつかないのに

  とったいちゅーてー
    とったいちゅーてー

きっとどこかで覚えたんだね


カルテを運ぶ看護婦さんも微笑って
テレビのボリュームを少し下げた

テレビ中継がうるさいね

もうすこしで 会社途中のサラリーマンが
居眠りから目を覚ます頃


とったい ちゅーてー

声を出さずに真似をしてみる
ここには赤い絨毯なんてない

待合室からつづく ガラス張りの向こうの中庭


瞬間
光の駈ける 未来が見えた 気がする


144 ◆75PSbtSdd2 :2007/10/23(火) 01:45:50 ID:VLHjeeUB

そもはらり 蒼きもみぢの 落つること


145 ◆75PSbtSdd2 :2007/10/23(火) 01:50:20 ID:VLHjeeUB

『 日曜の仕事 』

鳴らない目覚ましにも起きてしまうこと
二度の朝寝を つづけるということ

きっちりとした朝ご飯を抜くこと
朝でも昼でもない遅い食事を
ゆっくり食べるということ

晴れでも 雨でも

窓の すべてを開けること
風の通り道を つくるということ

留守電のメッセージを確めないこと
今日は日曜、と頭の中で書いてみること


ハノンを一から 弾き通すこと
無意識についた癖を捨てること

公園や犬の声に 目を伏せること
あらゆる時計に目を向けないこと

夕焼けの色に 突然驚くということ


夕の仕度を急がないこと
風呂の湯を たっぷり張ること
郵便受けは もう見ないこと


日曜日だけ お店を飛び出し
通りで売りに回るお豆腐屋さんの
帰っていく音を見送ること

とっぷりと とっぷりと

とっぷりと


失くしたものは 探さないこと
忘れられるのだからいい ということ


寝る前には 目覚ましをセットし直すこと

明日また 月曜から始める

   …… ということ

146 ◆75PSbtSdd2 :2007/11/07(水) 23:04:05 ID:1NGyH4dS

『 季節がわり 』

風 かわいて
冷えた 空気
からだ
すみずみにまで
しみこんで


目を
つむっても

聞こえなくても

あ、もう
変わった
って わかるもの


こころぼそい のは
そのせいね

きっと

秋のおわり
もう しのびこんでる

冬だから
じゃ ないんだわ

月も あんなに 白くなって、ほら


ねえ、すこし

もう、寒い



.
147 ◆75PSbtSdd2 :2007/11/15(木) 02:05:39 ID:WBqK7FB4
( サワさん ・・ だいたい その四、、くらい)

サワさん
ここのところ元気になりましたね

そうでしょうか
あまり変わりばえしないように思うんですけども

今日は お化粧、してましたね
きれいに似合ってました とっても

まあ、そうでしたか 気がつきませんで
  ―― 雨があがってから蒸しますね
     暑くないですか 扇風機もっと回しましょうか

はい、うんと元気そうでした
パーっとしていて 明るい感じで
  ―― いえ 大丈夫です
     ザーっときたときは ああ涼しい と思ったんですけど
     そういえば雨 あがったんですね、気がつかなかった

ありがとうございます
それにしても つと気がつかなくて
  ―― お茶 もうひとつ 如何ですか

いいええ
サワさん 良かったですよ ほんと元気そうです
  ―― はい じゃあさっきの冷たいのを また
     ご馳走になります


今度の先生のとことろは なんだか
とても素敵な方がいらっしゃるとかで
ちゃんとしていかなくちゃ なんて 話してはいましたけど

そうなんですか
何よりじゃないですか、いやだ サワさんたら

ええ、おかげさまで
お化粧なんかしていきましたか、あの子
気がつきませんでしたよ まったく
  ―― それにしても どんどん蒸しますね


じきに戻ってきますか サワさん
もう一目 お会いしてから帰りたいです
  ―― まだ九月になったばかりですから

さあ、どうでしょう
帰りに何処か寄ってくるかもしれません
つい先日もそうでしたから
  ―― どうです?一緒に お夕飯でも

サワさん ほんとうに元気になったんですね
良かったですよ 良かった ……サワさん


  ―― はい、よろこんで。 ぜひ。

148 ◆75PSbtSdd2 :2007/11/15(木) 02:16:08 ID:WBqK7FB4

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



『 洗濯 』


どなたさんか
あたっしを

洗濯機にほおり込んで
冷や水でくるくるくるーっと
丸洗いしてくりゃあしゃーせんか

水切りもほどほどしてね
パパン とたたいて皺ものばして
そしたら広げて

ものほし竿にひっかけるなり
つるすなり
脇のあたりを
せんたくバサミでちょいとつまんどいてね

御天道さんが
あんまりきついで
干すには陰干し
日影でひらひら 涼しい風に吹かれたらば

夜にはきっと 乾くんで
思い出したら
とり込んどいてね

そしたらすこしは
さっぱり と
戻っているんでないかしら

んだから、ね

どなたさんか
どなたさんか
あたっしを

149 ◆75PSbtSdd2 :2007/11/15(木) 02:19:15 ID:WBqK7FB4

「ワタシタチ」

ことばは

声に出せば 音になり
文字にすれば 形をもち

生まれたときには
その音を 聞き分けることも
その形を 見分けることも
なにも知らずに居られたのに

赤ちゃんをやめて
泣くことを
赤ちゃんのように
笑うことを
やめてから

ワタシタチ

ことばに言葉のレッテルを
はるようなことを
何十にも厳重に
はりつけることを

つづけては
むつかしい顔になり
むつかしい顔を見せずに
むつかしい顔のことを
伝えるために また

言葉を重ね
それでも重ね
忘れていった
ことばの音がすることを
ことばが形になることを

ワタシタチ

笑えばいいのに
泣けばいいのに
赤ちゃんのときのよに
そのままを
そのまま 見せればいいのに

その顔に
その声に
すぐ届く
ところに居られたら

いちばんいいのに、わたしたち


150#:2007/11/18(日) 03:45:15 ID:ygaTrvId



あめなる花よ
降っておいでよ

それとも
わたしが この夜に逆立ちをして
浮いた足下に散らばせて

かき集めてみれば いいの

151名前はいらない:2007/11/18(日) 04:56:00 ID:ygaTrvId

But,


Girls in my mind will never cry......any more
152 ◆75PSbtSdd2 :2007/11/29(木) 02:15:35 ID:7KYHAjg0
420 名前:名前はいらない[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 03:40:59 ID:WBqK7FB4

『土に』

土に
つぐみ つむぐ
つむぐ つぼみ

つぐみ つぐむ
つぼむつぼむ

空に つばめ 一直線

つぐみ つむぐ
つむぐつむぐ
土からのぼる

空を切る風
つばめ つばめ 一直線

つぐむも つぐみ
つむぎつむいで
つぼみ ほころべ

つぐみ ほころべ
ほころべ 土に


(回収物、その1)
153 ◆75PSbtSdd2 :2007/11/29(木) 02:16:46 ID:7KYHAjg0
149 名前:アドレッセンス[sage] 投稿日:2007/11/24(土) 15:16:29 ID:w5a+0ZQa

そのエッセンス
抽出すると
青色らしい
アドレッセンス
エッセンス
抽出すると
その季節
春なんだってな

懐かしさか
体のどこかにまだ
探せば触れられそうな感覚は

たとえの話は
いい加減やめにしよう


なあ あの頃の
僕らの胸に咲いた青を
まだ覚えているか

なあ あれは
春だったのか
僕らが包まれ 包んでいたのは



(回収物、その2)

154 ◆75PSbtSdd2 :2007/11/29(木) 02:18:06 ID:7KYHAjg0
163 名前:きみとわたしの間違い探し[ sage] 投稿日:2007/11/26(月) 23:16:26 ID:LX7uL/2W

血眼の
きみとわたし
心あたり

近づきすぎて
遠ざかるそれ

やがて悲しき 間ちがい探し


(回収物、多分その3…くらい)

155 ◆75PSbtSdd2 :2007/11/29(木) 02:24:21 ID:7KYHAjg0
『 電池式 』1/3

寒さがきつくなると 人の体もきつくなるらしい
先週、みっちゃんが少ししょぼくれた様子で帰ってきた

「なんかあったの?」
「んー」
「検査だったんでしょ?」
「うん」

窓の外で風がピューっと鳴っている

「あのね、そろそろ電池こーかんしましょう、って先生がさあ。」
「えー? まだまだ先じゃなかったの?」
「あと半年くらいになっちゃったんだって。それで、早めにこーかんしましょうって
先生が言うんだよね。」
「ふーん。半年って長いのかなあ、短いのかなあ。」
「うーん、わかんないよ。」

みっちゃんの心臓は電池式だった
私たちの間では、いつのまにかそう呼ぶようになっていた
別の言い方もあるんだけれど、ピンとこないので、電池式と言い換えたのだ
それでも、本当のところはよくわかっていない
だいたい心臓が電池で動いているということが、どういうふうなのか
頭ではわかったことにしてあるけれど、どんな感じがするのかなんて
実際のところはちっとも、ちっともなのだ
そもそも、みっちゃん自身がよくわからないらしいのだから

「他にどこか悪いところはなかった?」
「うん、全然。全然健康だって。切れちゃった脈の神経以外は、
心臓もどこもピンピンしてるって。」
「なんかさあ、よくわかんないけど、よかったね」

と話しながら、ケータイの電源を切ってあったかどうか、ポケットの中で確めていた

「平気だよ。もう慣れたし、私ん中の電池は さいしん式らしいから
20センチも離せば電波も全然へいきなんだって。」

こともなさ気に軽く笑いながら みっちゃんは言う
まるでヒトゴトみたいに

それでも みっちゃんは、医療用でないにせよ未だにピッチを使っている
みっちゃんに言わせると 「一応ね、」なんだそうだ

お茶している喫茶店の窓際に座っている 私たちの場所から
いちょうの木が見える
今年はなかなか葉が色づかず、散り具合もまばらだ
その中途半端かげんが よけいに寒々しい

156 ◆75PSbtSdd2 :2007/11/29(木) 02:27:55 ID:7KYHAjg0
『 電池式 』(2/3)

「ねえ、根っ子ってさあ、」 みっちゃんが言う
「根っ子って、どこにあるのかなあ」
突然の質問に 頭がぐるっと半回転した
みっちゃんは ときどき そんなふうに突拍子もない

「根っ子って、木とか花とか草とかの?」
「アハハ、ちがうちがう。ああいう掘れば出てくるのじゃなくてさ。
わたしたちの。わたしたちの根っ子のこと。」

(ワタシタチ、の、根っ子?)
私はどぎまぎしていた
そうでなくても さっきからおどおどなのだ
こんな風に私はいつも みっちゃんにやられっぱなしなのだ、参ったなー

「参ったなー」
「ハハン」

「うーん。足って、ニンゲンの根っ子っぽいけど、でも足じゃないよねえ。」
「ハハ、足じゃないね。」
えらく可笑しそうにみっちゃんは言って
テーブルの下で、靴底のクッションが とてつもなくいいウォーキングシューズを
パタパタいわせた

「じゃあ、どこだろう。」 ということになって
私たちは 真正面に向き合って それぞ身体の見えるところを
お互いに じっくり観察し合った
「見えないなあ、根っ子らしいとこ」
「うん、そうかんたんには見えないもんだね。」

髪の毛の一本一本から、骨格、
そこにへばりついているような筋肉だか 脂肪だか、
それを覆っている皮膚だか肌だかから 爪の表面に至るまで
外から見まわせるところは、見まわしてみたものの
どこにも根っ子らしき へんりんは見当たらなかった

それに 見えている そこらへんというのはだいたい
会うたびに ひととおり変わってしまっているものだし

さめかけたココアとミルクティーを それぞれ飲んで
私たちは ため息ともなんともつかない息をついた
「根っ子かあ………」


「多分、来月になると思うんだ、電池こーかん。
うまくいけば、四泊五日くらいでって、先生が言ってた。」
「また手術、ってことだよね?」
「うん、まあね。
でも ちょっとした旅行みたいな言い方だよね、四泊五日ってさあ。
そういうこと真面目な顔で言うんだよね、先生。へんだよねえ。」

クスクス言う みっちゃんにつられて 私も笑ってみたものの
内心 冷や冷やなのだ




157 ◆75PSbtSdd2 :2007/11/30(金) 01:54:24 ID:qGe36Ab9
『 電池式 』(3/3)

みっちゃんが いつもと何か絶対ちがう と言って
慌てて病院へ行き そのまま きゅうきょ体に電池を埋め込むことになった
あの はじめての時
立ち会った私のまわりで 走り回ってあれこれしていた病院の人たちのことは
今でもはっきり思い出せる

それを思い出すたびに
ただごとではないことが 目の前で起きていることを
つきつけられている感覚になる
あれは もう二度とごめんだ
当の みっちゃんは なおさらだろう


「それでね。」
少しあらたまって みっちゃん
「日取りが決まったら、またあの時とおんなじに、つきあってくれないかな。
旅行気分でさあ。…… って思ってるんだけど、どう?」

「もちろん、そんなの全然かまわないけど、」
 
 みっちゃんが本当に 旅行気分なのかどうかは あやしいものだ

「ほかに頼みたい人もいないのよねえ。 義理で誰かにっていうのも、なんだし。」
「うん。わかった、つきあうよ。これで二度目だし。一回目で、だいたいのことは慣れてるし」

多分慣れているはず たとえ慣れていなくても
はじめてのときでも なんとかなったのだ

「よかった、さんきゅー。
実はね、ジョー先生も病院に戻ってきてるの。また会えるから それ、楽しみにしててね」

すべからく みっちゃんは突拍子もない
「参ったなー。もお、それでオッケーだよ。」
しょぼくれていた みっちゃんは もうどこかへ消えていた

きっと

きっと私たちは ジョー先生をからかいながら
わたしたちの根っ子のことについて 突拍子もない質問をあびせかけて
話をするのだろう
みっちゃんが新しい電池を ぶじに入れ替えて
部屋に戻ってきたら のことだけれど


季節のせいか 見える景色が心なし かわいている
けれど 木も花も草も みんな根っ子だけは
枯れていないし腐ってもいない
来年の おなじ時になれば あおあおと色とりどりの姿を見せてくれることを
わたしたちは 知っている

158 ◆75PSbtSdd2 :2007/11/30(金) 01:55:50 ID:qGe36Ab9
(3/3 おわり)

みっちゃんの心臓が
電池式で規則正しく脈打っているあいだに
私のほうの心臓は 何度もバクバクさせられた

でも そんなことは 私だけが知っていればよいことなんだ


寒さがきついね もう
また 冬になったね

159 ◆75PSbtSdd2 :2007/11/30(金) 02:01:52 ID:qGe36Ab9





【57577 おまけ】

連投は
どれだけ待てば
ポエム板

鯖に負荷 かけてる わっきゃない!

( チッキショー 限界チックダッタンダze コンナロー )
160 ◆75PSbtSdd2 :2007/12/17(月) 00:38:56 ID:G++GYl0d
『デンポウ』

---------------------
アス、カエル。

みつまめ
---------------------
夜十時過ぎに届いた電報

デンポウ?
いまどき?
返事する手段のない方法
有無を言わせず送りつける
そんな思いつく人 この世にひとりしかいない

暗号?
(みつまめ)
名前にしては 一文字しかかぶっていない

みつまめ食べたいの
みつまめ買ってきてくれるの

わかったよ

参ったよ
参ったな

   みっちゃん





161 ◆75PSbtSdd2 :2007/12/17(月) 00:41:00 ID:G++GYl0d

甘ったれ つねる指先に 手ぶくろ
162 ◆75PSbtSdd2 :2007/12/17(月) 02:10:03 ID:G++GYl0d
『距離』

近づきかたが わからなければ
離れかたは もっとわからない
何より 自分の立ち居地があやふやで

空はいい
どこにいても
いつであろうと

遠すぎて
想像もつかない距離にある
綺麗なのは
きっとそのおかげ

空はいい
いつだって どこにいたって

163 ◆75PSbtSdd2 :2007/12/17(月) 02:13:52 ID:G++GYl0d

おやすみも 届かぬ其処に オリオン座
164 ◆75PSbtSdd2 :2007/12/17(月) 02:24:49 ID:G++GYl0d


戻れない
過去という名の一筋を
それでも道と呼ぶのだろうか

眠りから覚めたなら
私はまた 明日へ帰る

明日へ帰る
ただ それだけのこと

165 ◆75PSbtSdd2 :2007/12/24(月) 22:56:54 ID:TZ96Ln1Z
『Very〜Merry〜Christmas−Eves』

無理矢理つくりだしたマイナス1
それはヒトツの戯れ、1人の戯れ

それを、ごみ箱に捨ててみました
どうなることかと
それも戯れ、儘なる戯れ

その戯れの手がノートに書き出す
(−1) + 1=0
(−1)−(?)=?
???

作ったマイナス
捨てたマイナス
ごみ箱の中に何があるかと、覗いてみるも
そこに在るのが何であったか
そもそも無理矢理なマイナス1が何で在ったか

考えることも、また
1人戯れ

答えの不要な戯れに
儘に飽いて放り出す


カレンダーの横には
手に乗るくらいのオモチャのツリー
ケセラセラセラ笑っています

月曜日はゴミの日ですよ
12月24日であってもネ

年の瀬に溜めに溜めた、特別大きなごみ袋
出し損ねるなど、 とんでもないので

忘れないうちに
くず篭ぜんぶ、きれいにして出してきました
とっくに回収
ゴミ収集車がイヴも行く


さてと、何して遊んでいたっけ
まあいいわ
とりあえず今日は、クリスマス・イヴ

それも戯れでありますが
だから戯れにとりあえず
Very〜Merry〜Christmas

きっと人の数だけ
1人戯れもあるでしょうね
Very〜Merry〜Christmas−Eves


お戯りたまえ
.
166名前はいらない:2007/12/24(月) 23:17:30 ID:TZ96Ln1Z

1.お戯りたまえ
2.お戯れたまえ
3.どうでもいい
4.other

.
167 ◆75PSbtSdd2 :2007/12/31(月) 03:17:46 ID:Aex89k51

静かな夜空


都会の空を大掃除するような
雨のあとの 夜の空は

だから星が きらきらと

瞬いているのが
星たちなのか この目なのか
わからなくなるほどで

忽然と

その夜の空に 確かに一つ増えたはずの
真新しい星を
探し出すのは とてもとてもたいへんです


いつもと何も変わらないはずの
夜の街が なぜかしら
静かなのは

すこし耳を
塞いでみたせいでしょうか

瞬き合う星たちと

瞬いている
その中から
たった一つを見つけだしたく

私も堪えて
こらえてこらえて
見上げています

静かな 夜の 空の 下です


168 ◆75PSbtSdd2 :2008/01/04(金) 22:25:15 ID:uOM4X2JB

『い、の、ち 』

もらった い、の、ち
拾われ 拾われ
生きてます

そう言うのさえ大袈裟に

拾われ拾われ
ここにゐます

誰のものでもないように
私のものでもないように

169 ◆75PSbtSdd2 :2008/01/04(金) 22:30:39 ID:uOM4X2JB
 『 冬の向日葵 』
春過ぎて
夏盛り
秋迎え
冬にある

どの季節に棲まおうと
それはそれ
変わりのないものです、


追いつけない言葉を
追いつけないまま抱き
ずっときました

それは
至極あたりまえで 尚
何ものにも代えがたく いつの私の中にもあった
恒に。

春、夏、秋、冬
届けられる手紙

わたしの机の上
縁取られ
今日も、貴女の向日葵 咲いていますよ

貴女の
向日葵
咲いています、



追いつけなくとも
何年も何年も 何年も何年も 何年も何年も 何年も何年も何年も
何年でも
待っていてもらえるのだと
思い込んでいた、私
まだ稚かった


春、夏、秋、

最後の冬を
誰が知り得ましょうか望みましょうか

追いつきたいなどと露とも思わず
いつまでも導かれていたかった、私
弱虫でした。


せんせい?

私の向日葵、咲いていますか

せんせい

私の
向日葵、まだ
咲いて いますか
170 ◆75PSbtSdd2 :2008/01/04(金) 22:32:14 ID:uOM4X2JB


 向日葵よ 自分で咲いて 踊ってみたまえ


171 ◆75PSbtSdd2 :2008/01/16(水) 02:27:16 ID:mX+jmgPe
 『 謹賀新年/玉葱 』


ペリペリで 飴色してる

薄皮をむくと
あおく光るところが "つるん"
あらわれる

明けましておめでとう、たまねぎ
 
外見って 
いちばん外側の 中身のことだよ


少しとんがった頭から
不思議なカーブの丸みが 手の中で "つるん"
あお、白く光る
手に触れているところ
また一枚 むいてまた中身が "つるん"


つるんつるんつるん

中身のいちばん外側って 外身なの
たまねぎ
どこで手を止めていいか わからない


どこで止めても おなじだよ
"つるんつるん"

って玉葱、
明けまして おめでとう


(刻んでも涙出ないのはたぶん好きじゃないたまねぎ)
172 ◆75PSbtSdd2 :2008/01/16(水) 02:30:27 ID:mX+jmgPe
『 ぴんくのヒヨコ 』


露店で買った
ヒナヒナひな子

黄色くないの
ぴんくのヒヨコ
炬燵の上で 鳴いてた奇蹟

ほんとのことはどうでもね

ただ あたたかかった冬の日のこと
そのことだけを 憶えています

黄色じゃなかった
ヒナヒナひな子
ぴんくの ヒヨコ
173 ◆75PSbtSdd2 :2008/03/23(日) 02:26:08 ID:fHwxLRRt
『 或る夢 』

途切れたのでも
敗れたのでもなく
さめてしまったわけでも
ましてや 壊したのでもない

それは終わった
季節のようにではなく
ぷつり


はじめから

知っていたじゃないか
知っていたじゃないか
知っていたじゃないか
知っていたじゃ

その時はいつか来ると

それでも
終わった


同じものは二つとない

知っていたさ



終わったんだ

眠ろうか



音もない

174 ◆75PSbtSdd2 :2008/04/02(水) 02:07:34 ID:425wG3Gx
test
175名前はいらない:2008/04/05(土) 02:06:18 ID:V2h7gGqp
春は何処を吹く、散切れる時


転移
その言葉が暗示するもの

心して
唇を噛みしめ

理由を探すことだけはやめよと
言い聞かす

それでも砕ける
空も 夜も

地にすがる
地にすがる


176 ◆75PSbtSdd2 :2008/04/05(土) 02:15:11 ID:V2h7gGqp

持たざる者こそ黙して吠える

何だってくれてやる
何だって
177 ◆75PSbtSdd2 :2008/04/05(土) 02:55:12 ID:V2h7gGqp
『 春陽 』

目に梅の紅
香る桃の華
風はおとなし


冬の日々に
微々細々

拾い集めた 小陽だまり
包むハンケチ こぼれ出で
空の青こそも ゆるまれり


傍らに立つ
てのひらくすぐる 桜桃(ゆすら)の粒実


風はおとなし

風はおとなし
178 ◆75PSbtSdd2 :2008/04/09(水) 18:04:05 ID:k1LU8jk9
『 未景 』

二分の一弱の窓
斜に歪な四角形

  (シカクケイ

結晶せざる雨の粒
含み余して 銀の雲

  (シロガネのくも

今にも垂れ落ちん形相
連綿と 連綿

君が空はとうに
満ち々ちて雪、というのに

今日の空は

(今日の、空は……

夜よ帳を降ろせ
そして
その厳粛さを以ってして、彼(か)の手を放たせさせよ


179 ◆75PSbtSdd2 :2008/04/09(水) 18:05:12 ID:k1LU8jk9
『 春に眠る 』

まだ ヒーターは欠かせない
昼のぬくもりが夜に残す温度は
油断ならぬもの

消さずに煌々と いやに明るい電灯の下
睡魔に抗い
絡まった毛布のさまが しどけない


部屋の 何処とも云えない場所
迷宮である耳管の 奥の奥からの
唸る出る通奏低音かと
疑う儘に追う先に聞いたのは

ふいの羽虫
浅い春に 冷えゆく夜
時期を早まった 迷走する羽音

  嗚呼、耳鳴りのようじゃないか。

頬の緊張は緩む

身を起こし
青白い光の中

それは
生まれたばかりでも確かな存在であったと
凝らした目に見とめ

すべてを正し
眠る

180 ◆75PSbtSdd2 :2008/05/05(月) 11:03:52 ID:I3A3nJKi

散る桜

残る桜も

散る桜


-*.-*.-*.


裏をみせ

表をみせて

散るもみぢ(紅葉)




(良寛。。春の句、秋の句より)
181 ◆75PSbtSdd2 :2008/05/29(木) 01:05:23 ID:WpwLZiAK
『 反映 』

それしか見ないという目ならば
それだけが映るのでしょ

それは、それ。


それよりもっとをのぞむ目ならば
もっともっとを映すのでしょう

これは、これ。


そんなに
ちがいはしないけれど

それだけ
それだけ

それだけ、ちがう。


_
182 ◆75PSbtSdd2 :2008/05/29(木) 01:07:46 ID:WpwLZiAK
キヌさんゑ



お元気ですか、

お元気ですね
183 ◆75PSbtSdd2 :2008/05/29(木) 01:13:42 ID:WpwLZiAK
『 流れる星の日  』


余る光の残った まだ宵の口
流れる星に 出くわしました

あんまり目の前近くを
ゆっくり しっかり横切るものだから
それが いっこの 流れる星だと気づくまでに
ずいぶん時間がかかりましたよ


いち にい さん
と、横切りまして

あ、
(四  五  六 七 はち)
で、やっと わかったくらいでしょうか


じとじとし始めの
ふとーめいに こごった空には
珍しい めったに遭わない それでしたから
流れる星とは ………んんん


わたしに戻り

あたまの中に日記を開き
あたまの中の今日の頁に日付をつけて
まだ白い 曇りだけのペエジの
流れた星が流れたあたりに

星のカタチを いっこ

横切るように書いたらば
あとのことは どうにも
こうにも 思いも出されず

いっこがくっきり

それだけ。
それだけ。


それだけ きれいに
日もまた 流れるようでありました


_
184 ◆75PSbtSdd2 :2008/05/29(木) 01:35:51 ID:WpwLZiAK

ああ、キヌさん

ワタシは さつかからもう
ずうつと眠くつて眠くつてしようがないのです




もうとつくに 寝てゐるのですけどね

それでもまだ眠くて

あの おやすみなさい、は
なんだつたのでしよね
まつたく。


ねえ キヌさん
_
185 ◆75PSbtSdd2 :2008/06/10(火) 03:10:59 ID:g/gAYy3H
『キャッシュ』

思うんだ

何か一つを伝えるたびに
別の もっとたくさんの だいじな何かを
伝え損ねたんじゃないかって

何か一つ、そして一つ、また一つ
書くたび 話すたび

そうできなかったことたちが
その何倍 何十倍
いつか その何乗にもなって

手の上や こぼれ出た先のノートや
どうでもよくない日記や
ケータイメモや パソコンのメモリや 外付けHDDや
や、 や、、や、、 や、、、  やややヤヤヤヤヤヤヤ

手におえるはずのないくらい
細胞分裂の早さで増殖してゆくもののように

その海で
いつか溺れてしまうんじゃないか
それくらい

伝えることなんて 本当はまるでできてやしないんじゃないかって


[[[ 一時キャッシュを空にしますか? ]]]

   【 いいえ 】


ワタシニハ ソウシタ キノウ ガ アリマセン


***

思うんだ

何か一つ伝えるたびに


186 ◆75PSbtSdd2 :2008/06/10(火) 03:15:34 ID:g/gAYy3H
【今あるもの】

については
今は何も書けず 描けもしない

ということしか書けない。
または
それだけなら書ける、という言い方もする。

どう言い換えようと
今のその現象そのものが変わるわけではない
けれどもその受けとめ方や
この後 あるいはこの先の方向性を 変え得るものではある

【マイナー・チェンジ】

肯定的なそれ
が 私は好きだ。

どれほど後ろ向き(比喩として)であろうと
はたして人は 後ろへ進むことは出来ない
時間がそれを許してはいないのだ

背を向けたところで
進むべきは 先であり前である
便宜上 詩情上

【実質上】

集積であるところの過去という( ***** )が
時に収縮し または膨張しては
私の精神であろう肉体を
それとは別の方向へ 常に押し出している

以前 私のものであった そのような気のしていたそれは
既に私の元を離れ 最早
何者にも浸食されぬ域のものとなった

自惚れた自己の記憶だけが
気紛れに姿を変え 現れては消え
現れては消え 現れては 消え 現れたりもするが
気紛れで 自分勝手で 自惚れなだけだ
記憶など そんなものだと自ら言わんばかりに

ところで過去は変わらない

キャパシティは以前 上限を知らず
過ぎ去ったものとは思えぬ圧倒的威力で
背中を押している
私は押されて イマをマエへと進む

【耽る】

今、書くことはこれだけである。

わかりきったことを わかりきったが如く
はたはたと言葉にする
たまには、それもいい。               (いや、わかってないだろ)

187 ◆75PSbtSdd2 :2008/06/10(火) 03:21:58 ID:g/gAYy3H
『 夜が明けたら 』


夜が明けたら 抜け出そう
ぼくが吐き出したCO2や
汗腺から僅かずつ染み出たNa含有の汗
それらでいい加減 過剰湿度のシーツや蒲団や枕
それに包み込まれた このねぐらから脱出
するんだ

目地の数まで正確に
答えられそうなほど見つづけた
天井
古い染みを隠しながら 塗り重ねられて ぶあつくなった
壁 それに
リノリウムでペタペタと鳴る床
何千回 何万回 何億回  瞬きをし
何千回 何万回 何億回  呼吸し
あくびをし 吐き気をもようしただろう

白いシーツの穴ぐらに 溜め込まれた嗚咽

そろそろ 窒息 ………… …・・・ ・ ・ 寸前 の 圧 迫 感

夜が明けたら 抜け出そう
暗いうちからアクセル全開の
高速道を飛ばして行く 長距離トラックの
あの爆音さえも歓迎ものさ

恰好の餌場と化した 都心の裏道
ご馳走にありつこうと 我が物顔で飛び交う
カラスたちの雄たけび あたり構わぬ黒い影
それさえも 美しいのさ

裏門の 意味もなく重く幅を利かせる鉄の門
その隣にある守衛小屋からつづく裏木戸
守衛が新聞受けを確める時が 朝一のチャンス
そこへ繋がる職員専用通路の
            迷路の地図は作成済みだよ

最初の関門をを軽く顔パスでスルーして
夜が明けたら 抜け出そう
履き物なんか蹴散らして
排気ガスのにおいを 胸いっぱい吸おう

もう既に朝は早い
AM 4:53:30 ダッシュで行こう

どうしようもなく
ぼくは 今   煙草
      が、  吸   い   た   い、んだ。

188 ◆75PSbtSdd2 :2008/06/10(火) 03:23:40 ID:g/gAYy3H
『 あなた 』

「あなた」がないと さみしい
そう さみしい
きっと さみしい

「あなた」がなくなると思うだけで さみしい
きゅん って さみしい
ぎゅー って さみしくなる

でもそれは かなしい
のとは違うのでしょう
そう思う

「あなた」がなくなるなんて いや
絶対に いや
いやよいやよいやよ

涙が止まらなくなって
いただききもののブランドタオルで顔をおおって
あとからあとから流れる鼻水を
やわらかい白い清潔なティッシュ 山のよにまきちらしながららかんで
やさしいベッドにもぐりこんで
あきるほど眠りつづけるんだわ
年に一度しか作られないオード・トワレをしみこませた枕をだきしめて

「あなた」がなかったら さみしい
そんな風にさみしくなるわ

でもそれは かなしい
のとは違うのでしょう
そう思う

だって わたし
さみしくても生きていけるもの
ひとりでも がつがつ
生きてけちゃうんですもの
さみしいさみしい 言いながら

さみしくたって
さみしいくせに
そんなに さみしいっていうのに
生きてく
生きていけて しまえる

さみしいわ 「あなた」なしで とても
かなしくないわ 「あなた」なしでも ちっとも

なりふりかまわず 生きてゆく
わたし
きっと
そう
なりふりかまわず

さみしいけど
さみしいだけ

そうよ それだけよ

189 ◆75PSbtSdd2 :2008/06/10(火) 03:26:46 ID:g/gAYy3H
「名前」

僕という者にある名前
それは僕が
生まれながらにして一人ではなかったことの証だ
その名が呼ばれるたび
僕は 僕が生まれてきたことについて思いを巡らせることができる

そうして
僕がまだ僕自身ですらなかったであろう頃
誰かや誰かの腕に抱かれながら
あるいは、誰かや誰かに喜んで受け容れられていたとは限らないにせよ
それでも 一人の人間として在るために名前を授けられたのだと
知ることができる

僕の名前
それは、僕が呼ぶためのものではない
僕ではない誰かが、呼んでくれるためのものだ
  ―― 必要な時
  ―― 僕が僕として必要とされる時に

一人の時
僕が自分の名前を耳にすることはない
そんな時
僕は 「僕」でさえなくていい


足元に降り積もる 秋の落ち葉
吹きつける 冬の風 雪
穏やかな 春の光
それらは ひょんと隣に訪れそして行き過ぎる
僕の名を呼ぶこともなく
僕もまた それらを呼び止めることはない


空をもその向こうへと押しやり 太陽は一年で最も高く
そこから僕の体を影にして 黒々と鮮やかに地面に焼きつける
僕を焦がし 焦がれさせながら

今ではもう 僕を抱き上げ名前を呼んでくれた人たちは
何処とも言えないほどに遠くなった
けれど 僕は忘れない


僕の名前は ナツヲ
その年の最も暑かった日に 生まれたのだという

僕がその名を呼ぶことはない
それでも僕は 忘れることなどないだろう
僕が僕になったことを

190 ◆75PSbtSdd2 :2008/06/10(火) 03:54:45 ID:g/gAYy3H
『 彷徨 』


思い出だけではだめですか

もう
未練でも執着でも口惜しさでもなくなって
期待や希望や情熱や憧憬や
そんなものでもなくなった
ただ捨てられず
そこにあり 邪魔ではない

意味はあったかもしれないけれど
今ではそれも曖昧で
やがていつかなくなりそうな
ただ捨てられない

それぞれの
ときには それぞれの感情で
それぞれの 表情を見せていたはずの
今では
何と呼べばよいかもわからない

想い馳せることはあろうとも
帰ることはない
そこやあそこや あれやそれ
ふえているのか減っているのか
数も知れず
重くも軽くもないのです

ただ捨てずに
大切にしているわけでなく
泣けない夜のためにでもない

そこにあり
どこへも行かない

思い出だけではだめですか

気づけばいつも そう
言って 聞かせて 歩いていました

それもやがては



思い出だけではだめですか


191 ◆75PSbtSdd2 :2008/06/10(火) 04:02:39 ID:g/gAYy3H



『 ナル××× 』

自分を 自分のものだと
思うな 自分

誰? 何?、 自分って。
192 ◆75PSbtSdd2 :2008/06/10(火) 04:03:10 ID:g/gAYy3H
『 ポーカーフェイス 』

書くよりも
なによりも

先ず
恥をかく

そういう性分なんですよ

と 誰かが言ってくれたので


193 ◆75PSbtSdd2 :2008/06/10(火) 04:04:52 ID:g/gAYy3H

『 おやすみなさい 』


さめざめと
ひとり寝時に 言い聞かす

ちがうでしょ

いとおしい者の 穏やかな眠りのために捧げることば


おやすみ、

    なさい。
194 ◆75PSbtSdd2 :2008/06/16(月) 01:07:05 ID:g+/AanN+
− 花 −


咲いてこそ 華
散ってこそ 華


人目には


_
195 ◆75PSbtSdd2 :2008/06/16(月) 01:11:34 ID:g+/AanN+

紫陽花や 淡き緑
        つぼみかな 


_
196 ◆75PSbtSdd2 :2008/08/29(金) 02:39:58 ID:w4FYczUT
『☆』


ひとつ でも、星
ふたつ でも、星
みっつ でも、
よっつ でも、いつつでも ……

今日 の いちばん星
を 見つけました
二番目は
あとにつづかず
空は くぐもり
そのままです

たとえば
このまま、この夜が
たとえば
そうして、過ぎゆき
たとえば
わたしの見つけた あの星が、
今宵

さいしょで、さいごの
たったひとつ に なるのだとしても、



今日の。


ひとつ でも、
遠い 光 でも、
昔の 光 でも、
終わった 光 でも、

今日の
わたしの
今 であったとき に
光った
ひとつ

でも、



ほし

いちばん、ほし です。


_


※註.上記文中の、「昔の光」、「終わった光」の二つの表現は
   川上弘美(作)の小説 『 神様 』 収録の 『 星の光は昔の光 』からのものである。
197 ◆75PSbtSdd2 :2008/09/15(月) 22:34:45 ID:Yu8YZwgi

 『 夕べの花火 』 1/2


蚊取り線香のにおい
暑い空気
夏休み
海開き
あの夏最初の花火大会

砂浜の炎天
茅葺き屋根
日焼けたすだれ
ビーチサンダル

ちょろちょろと
シャワーの音
蛇口の取っ手 きぃきぃ
海の家
無口なおやじさん
手廻しの氷かき

落ちる
さわさわ白い氷
メロンシロップの緑
いちごの赤
レモン味の黄色

木の卓台
軋む長椅子
向かい合わせ
レモンといちご
ふたつの山
かき氷
汗かきな器
玉の汗
走るすじ幾つも 雫


まるで地球みたい、と
氷山を上手にくずしていく笑顔
そうかもしれない、
こぼしてばかりの氷にとける苦笑い

そのあいだ
世界はまぎれもない単純で
それを遮るものなんて
ひとつも思い出せやしない

白と碧の地球の上
黄色と赤の僕等
海に来たんだ
なんという単純

198 ◆75PSbtSdd2 :2008/09/15(月) 22:35:50 ID:Yu8YZwgi
(2/2)


日が落ちたら花火が始まる
それまでしばらく休憩しよう
タオルでよく拭いておかないと。あとで
塩まみれ、という笑顔
そうだね、そうだったね


花火の前
海風の涼しい瞬間が吹いてきたら
ラムネの話をしよう
あの深か緑色の硝子の壜の

まだ話していなかったけど、忘れていたんだ
単純に
あまりに単純だったから


ねえ、知っていたかな
僕らを悩ませながら まるで喜ぶように
あのくびれの ほんの空間で
ジリン ジリン
転げる玉は 本当はビー玉じゃないってこと
あの ほんのくびれの空間に
色も形もふさわしく
できあがらなかった不出来なそっちを
ビー玉 って呼ぶようになったんだ
 B-玉 …… ビ・イ・ダ・マ

じゃあ、

と続きを
瞳でのぞき
たずねる笑顔は単純だろうか

花火が始まれば ただ
ただの無口になる

僕らは
桟敷を真似た茣蓙の上
横になる 夏の
はじめの午睡


まるで、地球みたいだ。


花火が鳴り出すその前に
単純世界の話をしよう

そう思った
夕べのはじまり
はじまりの夕べ
199 ◆75PSbtSdd2 :2008/09/15(月) 22:51:09 ID:Yu8YZwgi

何処や知らぬ 空

渡り来る華火に 聴き入り

ゆく夏

200ローカルルール変更議論中@自治スレ:2008/09/22(月) 04:20:37 ID:hP9LW0sk
ほし ゅ
201名前はいらない:2008/09/25(木) 01:12:41 ID:AWrEjVYa
>>200☆ ゅ

げっとおめでとさま
202 ◆75PSbtSdd2 :2008/09/25(木) 01:14:07 ID:AWrEjVYa
『 花占い 』


ひとりはいやだ。
ひとりがいい。
ひとりはいやだ。
ひとりがいい。
ひとりは、
ひとりが、


ひとりでは決めかねて

ずいぶん長いあいだ


ひとりはいやだ。
ひとりがいい。
ひとりはいやだ。
ひとりがいい。
ひとりは、
ひとりが、


ひとりでに
散ってしまうものだということを
忘れていました


花はもう、

ひとりが、
ひとりは、


それはまた
咲いてくるときも同じように
203 ◆75PSbtSdd2 :2008/10/09(木) 01:58:26 ID:t75yXhxN

『 青柿 』


花火を見たい夏だった
特別なものじゃなく
どこででも見られるような
花火の見たい夏だった

海に行きたい夏だった
たとえ泳げなくても
水に足を 垂らしているだけでいい
海へ行きたい夏だった

今年も暑い日の続いた夏でしたか
雨のよく降った夏でしたか

それでも、
花火の見たい夏だった
海へ行きたい夏だった。


まだめくられていないカレンダー
憎らしいわけじゃあないくせに
恨めしいわけじゃあないくせに

そのままになっている月のページを
じっと睨んでやるんです
じっとじいっと 睨んで、睨みつけて
やって来たくせにやって来なかった月に
穴を、
あけてやろうと。


そのあいだにも
せまい わたしの 狭い視界の隅へ
窓の外から入り込んでくるものは

隣の敷地から はみ出して茂る
生え放題 伸び放題の柿の木、その
目立つほどに大きくなった かたい実
 
間引きする人もいないから
枝をしならせ なりほうだい生り


せまい わたしの 狭い視界の隅で
つやつやと ぴかぴかとした その青たちが
眩しくて、
たまらない。
204 ◆75PSbtSdd2 :2008/11/10(月) 02:07:59 ID:1eNceWsR
『 寒 』 (……走り書き)

淋しさを
紛らす手だては いくつか知れど

哀しさを
埋める手だてを
未だ覚えず

今秋深まる
205 ◆75PSbtSdd2 :2008/11/28(金) 06:13:09 ID:SzJym6U6
冬のはじめの眠れない雨の夜に


冬のはじめの
眠れない
雨の夜に

まだポカポカだった陽気の頃
ひそかに集め 詰め込んでおいた
右耳を乗せている枕の奥の
まだ冬眠していないであろう
陽だまりの音を
どこかどこかと
探している

冬のはじめの眠れない雨の夜に

_
206 ◆75PSbtSdd2 :2008/11/28(金) 06:16:28 ID:SzJym6U6

冬のはじめの眠れない雨の夜に

遠慮を忘れた真夜中の雨が
今こそとばかりに降りしだく
屋根に 道に 眠った木々の常緑の葉に

誰に 何に 邪魔されることなく
月を失くした世界に踊る

聞こえているのは雨音でなく
樋づたいに落ちる
アスファルトに落ちる
地面を覆った無機質に落ちる
雨だれ

数え切れない無遠慮な音に
私は遠い昔を懐かしむ
高い山の 山の奥の
土に囲まれた地を想う

どんな雨をも吸い込んでいた
土の息づかいを胸に追う

冬のはじめの
眠れない
雨の夜に

_
207 ◆75PSbtSdd2 :2008/11/28(金) 06:19:30 ID:SzJym6U6

冬のはじめの眠れない雨の夜に

数えるべき
私の羊を探す
夜を駆けて
羊を探す

微熱ほどの体温の
床の中から

雨は冷たいか知れない
雨は暖かいか知れない

寒さはとうに
羊を厩舎に囲い入れ
彼らを護る犬だけを
重い扉の傍らに見た
中に入ることは もうできない夜

数えるべき私の羊たちは
もう眠っているであろうか
安らかな寝息をたてているであろうか

冬のはじめの
眠れない
雨の夜に

_
208 ◆75PSbtSdd2 :2008/11/28(金) 06:26:02 ID:SzJym6U6

冬のはじめの眠れない雨の夜に

いつか詩など
書こうなどと
思わなくなる日のことを
思う

冬の日はただ、冬の一日であり
眠れぬ夜はただ、一夜の夜であり
雨はただ、いつであろうと
気づかぬままに降りだし
気づかぬうちに止む

その限りのものへと
帰るであろう

いつか詩など
書こうなどと
思わなくなる日を
ふと、思う

冬のはじめの
眠れない 雨の夜には

_
209 ◆75PSbtSdd2 :2008/12/02(火) 04:04:12 ID:90ipYUMI
  『 ちゅうのうた 』
ちゅう、ちゅう、たこ、かいな
じゅー!
ちゅう、ちゅう、たこ、かいな
にじゅー!

あんなふうなおかあさんいいな
あんなふうなおとうさんといいな

ちゅう、ちゅう、たこ、かいな
さんじゅ!

ちゅうはかずがわからないから
とけいみてもわからない

ちゅう、ちゅう、たこ、かいな
よ ん じゅっ

ふくろのおまめをばらまいた
なんでかないしょ だれにもないしょ

ちゅう、ちゅう、たこ、かいな
ご じゅー

ちゃーちゃんだいすき いちばんすき
ともだちなんかいらない
ちゃーちゃんいれば

ちゅう、ちゅう、たこ、かいな
ろくじゅ。。

あんなふうなおかあさんもいいけど
あんなふうなおとうさんといいけど
ちゃーちゃんいないと おなかもすかない

ちゅうちゅうたこかいな
ちゅうちゅうたこかいな

(ひゃくまでいったら、さいしょにかえる)

ともだちなんてしらない
みんなおうちにかえるから
ちゃーちゃんもはやくかえってくればいいのに

ちゅう ちゅう たこ かいな
   (み ん な み た い に

ちゅう ちゅう たこ かいな
   (ちゅう の と こ ろ に

ひゃく。


おまめをふくろにもどします

ちゅう。



210 ◆75PSbtSdd2 :2008/12/15(月) 01:16:41 ID:O0rsZpj0

すこしだけ 一人にしてと わがままを

書き置ける この場ある 贅沢よ

211 ◆75PSbtSdd2 :2009/01/02(金) 05:28:43 ID:TrJsEIJ+

ココロよ


今頃おまえは 透明な空を
ひらひら泳いでいるんだろうね
ガタゴト揺れる、このちっぽけな
眠り中に私を置いて


ひょっと、こっちを振り返る気がするたびに
私はパタパタ目がさめる


おやすみ、と言った私の声は
ちゃんとおまえに聞こえたのかな


ココロよ、おまえは
いつの空を泳いでいるの

私はこんなにも
こんなにも眠たいというのに

_
212 ◆75PSbtSdd2 :2009/01/10(土) 17:29:21 ID:ghIyE+Cd

『 ほんの25g 』


寄り添う毛羽で やっと毛糸の
髪一本のよに撚られた糸は
極細のモヘア

毛糸玉から 鉤で
糸の端を引き出して
ちいさな鎖からつくります

真白よりも やわらかな生成り 
その玉を テーブルの上に三つ
麻布を敷いた小箱に入れて


ファンヒーターの送る風に
毛羽があたらないよう
ねこ背でかばって

からまりも ひきつれもせず
毛羽が 寄り添うままであるよう
そろそろと そろそろと

蒸気を吹かせた
ヤカンの残り水は あと僅か


朦朧と たぐる手が狂えば
それが伝って 玉が落ちます

気配も 音もなく
落ちるのです

ぽとん とも云わず
そこに

自らの重みで落ちていく
25グラム
ほんのそれだけ
落ちていく


私は ついに
かなしくなって

思わず 泣いてしまうのです

_
213 ◆75PSbtSdd2 :2009/01/10(土) 17:32:52 ID:ghIyE+Cd

『 夜なべ 』


たとえば かあさんがもう
そうしなくなったからでなく
いそいで
仕上げなくてはならないからでなく

冬の夜は 冷えるものね
放っておけば 手も指もすぐ寒がる


冬物の毛糸は
それだけでただ あたたかい
手繰って寄せて 手の中で
つぎつぎ つないで

ひと目ひと目 編むとそばから
かたち成すのは
なぜだか気持ち 安らぐものね

音を消した夜の途中
糸擦れは
途切れたくないとでも 言いたげで


もう間に合わせる要の
なくなった 約束が


朝がきても
このまま
今日が
今日のままつづけばいい

離れて行く気のする
昨日を 数えてしまうのが



だれかが もう
そうしなくなったからでなく
いそがなくては
間に合わなくなるからでなく

途切れないよう 途切れないよう
夜なべする


朝が来ようと

_
214 ◆75PSbtSdd2 :2009/01/11(日) 02:00:15 ID:pUsd/ldM

『 えがおの人 』

あの人はわらっていた
いつもわらっていた
それがとりえだからと
わらっていた
だれにでも わたしにも

いろんなえがおをしっていた
うれしいときの おどろいたときの
あたたかいときの

いろんなえがおをもっていた
さみしいときの かなしいときの
こおるときの

あの人ほど えがおの人を
みたことはなかった むかしもいまも

はれのひようの あめのひようの
くもりのひようのえがおだって しっていた

おこったときのえがおも
うれしいときのえがおも
あの人はみせてくれた

みんながすきだったえがお
わたしもだいすきだった

だれのためにも それぞれのえがおを
ひとつひとつみせてくれた
わらいながらだったり なきながらだったり

むひょうじょうなんてかおはなかった
どんなふうにしたらあの人みたいにできるんだろう
あの人みたいにわらってみたいな

だからあいたかった
みんなあいたがった

でもひとつだけ
あの人のひとりのときのかおを
しってるひとがいない

えがおとおなじくらいむくちの人だったから
わたしはしらない
だれもしらない
  
そのことだけが いまでも とても
こころのこりの人

えがおの人に またあえますように
あの人がひとりのときに
いつか できれば

えがおのれんしゅうをして まっていようとおもいます

さいごにみかけた さびれたまふゆの街角で
215 ◆75PSbtSdd2 :2009/01/12(月) 06:30:52 ID:iBZ2Ya4i

『 お月さん 』


お早よう、朝
嘘だよ、夜

ねえ
消えちゃったのに、うろ覚えてる
昨日の話を聞かせてよ

ねえねえ
あるかしれない、ないかしれない
明日の思い出おしえてよ

それから
置いてけぼりで、宙ぶらりんな
今日のことを思い出させて

ねえ、お月さん

だけど
確率とか可能性の、それはなしだよ
そんなのダメだもん


   だーるーまーさーんーが、 こーろーんーだ


あ、お月さん

笑った


   つかまえた


お月さん、いっしょに
ごっこ遊びをつづけましょ
ずっとね
ずっとだよ


お早よう、朝
嘘だよ、夜


_
216 ◆75PSbtSdd2 :2009/02/08(日) 22:57:51 ID:egesdIAm

『 寄り道 〜酒屋編〜 』


湯上りにビール呑んで

テレビ見ながら ウヰスキー呑んで

苦虫潰して バーボン呑み下して

いつか おやじになるんだろう
そう 知ってておやじになるんだろう


ブランデー飛び越して
ポン酒呑んで 口数が減っていって

燗もせずに 手酌で冷やで
人もいなくなってくっていうのに

いつか おやじになるんだろう
そうやっておやじになってくんだろう


あれやこれや 明細見てはため息ついて
二日酔いが怖くなって
体のことを気にし出したりして

20、30、35
量が減って 度ばかりが過ぎていって

ちびちびとちびちびと 忘れながら
忘れよう と
おやじができあがってくんだろう


そんな風に 見てただけのわたしだって
歳を取って どこかかしらおばさんになっていって

酒屋のレジで 酒棚見上げて
あと、樹氷一本お願いします
三十五のやつ。

なんて いつか
頼むようになるんだろう


そういえばうちには
お酒飲む人なんて いなかったな

って


_
217 ◆75PSbtSdd2 :2009/02/18(水) 23:59:53 ID:UYZ2GDzb
>>216
間違えてん
×・20、30、35 

◎・20、25、35
218 ◆75PSbtSdd2 :2009/02/19(木) 00:00:59 ID:UYZ2GDzb
『寄り道 〜街〜』


こんな日は
慣れない街の 賑わう雑踏の中がいい
内ポケットに小物を収め
手ぶらで歩いて行くのがいい

週末の天気は
素知らぬ風体 相も変わらずそっぽ向き 
降り注ぐのが陽でも雨でも
ありがたい面々は 今日も笑顔だ


こんな日には
通りに架かる陸橋の上に立つがいい
人は街を眺めているし 街は人を眺めている
知るもののない 風景がいい

巻き上げる風に もろとも飛ばされ
静まる風に 然と残され


冬を脅かす南風中たる 春の一(はじめ)の嵐の日には
儘よ 
この身も 風景だ


_
219 ◆75PSbtSdd2 :2009/04/10(金) 01:16:16 ID:C3/Ak52M

『 永遠の夕、永遠の朝 』 (1/3)


昨日と今日のあいだに
永遠を見つけた

その永遠は
あなたが私の手の中にあずける
あなたの すこしだけ小さくなった 
手が握りしめる
その中にあった


とまどう私の " おやすみ " に
あなたもとまどって いつまでも
返事がない
昨日と今日のあいだに居て 


 まーだだよ、
 まーだだよ、
 まーだだよ、

おてんばだった 子どもに戻ったみたいに
何度も あなたが 
何度も 手の中に合図を送るから

 もういーかい、

そんなこと 聞いていないのに
誰も言わないのに
鬼なんて 
はじめから どこにもいなかったのに


私はだから 
もう片方の手で 髪を撫でたり 
息をする肩をさすったり
合わさっている二つの手の上に もう一つ 
って 重ねてみたりしながら

ちょっと早いけどクリスマスプレゼント、肩掛け編んでみたよ
って 開けて見せて掛けてあげて
似合う似合う なんて照れかくし 
自慢して


終わらない昔話が ひとりでに
口をついて出てくるのを 止められなくて 私は

 … まあだだよ …


_
220 ◆75PSbtSdd2 :2009/04/10(金) 01:17:29 ID:C3/Ak52M
(2/3)

同じように合図を 手の中に
あなたよりも強く 送り返すのだけれど
それはやっぱり 
上手にはできなくて

そんなことも
 " 昔となんにも変わってないね "
あなたも私も 想っていて
笑っていた

昨日と今日のあいだで


八階の 開け放たれることのない窓から見える
有明の人工的な都市に 
あかあかとそれだけが
生きものである太陽が
夕日となって降りてきて

街を照らし
窓を照らし 部屋を照らし 私たちを照らし
ゆっくりと それからじつに
じつに 沈んでいく

背中を向けていたから 
私の目に映ったのではないけれど

あなた 
急に 目尻緩ませて 
しっかり深呼吸して 

 " お、や、す、み "

そう くちびる動かして
手の中で 五本の指を ひとつずつ 
今度は 硬く握るから

夜になっちゃったね、
また来る
また明日ね。

それしか言えなくて

手の中の合図は もう
 まーだだよ
とは違っていたのを 私は知っていたよ、だけどね。

_
221 ◆75PSbtSdd2 :2009/04/10(金) 01:19:41 ID:C3/Ak52M
 (3/3)

永遠を見つけた

その永遠は
あなたが私の手の中にあずける
あなたの すこしだけ小さくなった
手が握りしめる
その中にあった


私は 

朝になった空に向かって 呟いてみる

 もういーかい
 もういーよ


永遠が これっぽっち


_
222 ◆75PSbtSdd2 :2009/04/10(金) 01:21:42 ID:C3/Ak52M

『 眠ることならいつでもできた 』


夜が 心地良いのだ
たまらなく狂おしく 夜が
愛惜しいのだ

眠ることなら 
いつでもできる

夜明けよ 来たまえ
来れるものなら

自ら掘り下げた
夜 井戸の底に跪き 
叫び続ける

太陽は死んだ

既に死に絶え 此処には
星月も季節も無くなったのだ

夜明けよ 来たまえ
その太陽を掲げたまえ

できるものなら

鳥一羽として横切らない
円かな空は暗い
時折迷い込む風は
間違った笛で音をたてる

血を吐き それでも
掬った水を流し込む喉で

井戸の底から
この夜に 叫ぶ

眠ることなら いつでもできた


_
223 ◆75PSbtSdd2 :2009/04/10(金) 01:24:14 ID:C3/Ak52M
『 前夜 』


冬の夜の空を ひとりでそんなに 
いつまでも眺めていてはいけない

綺麗だけれど
誰でも どうにかしてしまうものだ

春を間近に 荒ぶ
嵐が囁き 過ぎる


一時(いっとき)耳を傾けただけ
微動だにしない視線の女性(ひと)は
一言 口ずさむ

  ―― そうなって いいと思って。 


刻々と 
嵐が 激しさを増して行く
その間にも

まるで
冬の夜の空に 鼻の先をつけるように 
ひとり

その女性から 
目を離すことができなかった
わたし


そうなって、
いいと思って。


_
224 ◆75PSbtSdd2 :2009/04/28(火) 00:23:35 ID:9coYwHbC


ドド ソソ ララ ソ…
ファファ ミミ レレ ド

ソソ ファファ ミミ レ
ソソ ファファ ミミ レ…


ドド ソソ ララ ソ…

ファファ ミミ レレ ド


き ら き ら  星 よ


_
225 ◆75PSbtSdd2 :2009/04/29(水) 00:04:51 ID:QZjcWzlK
>>224


【Adagissimo tranquillo】

|
|
|
 <sempre sostenuto>


_
226 ◆75PSbtSdd2 :2009/05/05(火) 01:09:33 ID:zpOhb1QZ

『 トカゲの指 』


狭くて暗いピアノ・バー
ステージライトに融解すべき
グリーンの衣装を着せられて
夜のトカゲが作られる

伸びた髪はそのままでいい
顔がかくれるくらいが ちょうどいい
そこそこの化粧をすればいい
目立たなければ それがいい

テーブルごとに囁かれる
密かな声がメインのホール
空気より薄いBGMを
弾いて終えるのがトカゲの仕事

耳は聴いている
人は聴いていない
目は見ている
人は見ていない

その二流にも及ばなかった十本の指を
恨めしく想ううちに
鍵盤の上を這いながら 
十本は透明に 消えていく

どうせなら そのまますっぽり抜け落ちて
新品の指が一流に 
ぬらり生えてきてくれればいい 

間接照明の外にしかない
グリーンの体の夜なんだから

どうせ誰も驚きもしない
せっかくの安い夜なんだから


_
227 ◆75PSbtSdd2 :2009/05/05(火) 01:14:47 ID:zpOhb1QZ

『 12色クレパス 』

6色でもよかったのかもしれない

頭を丸くして 背を縮ませていくのは

ねずみ色
みどり
あか
きい
ちゃ と
おうど色

ねずみ色が最初にいちばん
小さくなるけど
わたしが描いていたのは ねずみじゃない
もっとずっと大きくて
耳がまあるくたれていて
細いしっぽと ながい鼻の ぞうさんだ

地面があって花があるけど
咲いているのはチューリップだけ
あか しろ きいろ
でも しろは失敗したから
チューリップは ふたつになって
モンシロチョウも失敗する

あおでも みず色でもない空は
なにも塗らない 塗りつぶせない

地面の色も なやむのだけど
ちゃ色と おうど色を
二本いっぺんに握って いっぺんに塗っていった
ぞうさんの目にも映るように

スケッチブックが終わりになるまで
おなじ絵ばかりを ずっと描く
6色でもよかったのかもしれない
12色クレパス

さいごまで 
風の色だけ 見えなかったな



_
228 ◆75PSbtSdd2 :2009/05/05(火) 01:18:09 ID:zpOhb1QZ

 take off 

ウルトラマリン
ウルトラブルー

ディープマリン
ディープブルー

浮上している (フジョーシテイル)
潜行している (センコウシテイル)

 landing

する場所がどこなのか
どこにもなくても

知らなくてもいい

流れるのは僕
もはや理解を要しない

ウルトラマリン
ウルトラマリン

ウルトラ ブルー


_
229 ◆75PSbtSdd2 :2009/05/17(日) 04:36:26 ID:Z75FfVvY

「時計」

嘘だよ
嘘じゃないよ

知らないよ
知ってたよ

ちがう
知らないと、嘘だと 思っていたかっただけ

それがあまりにグロテスクな事実だと
気づいてから


白い壁にかかる時計は
白い縁 青の文字に赤い針の
トリコロール

そこに 「6」と「9」の 黒い二文字
今は 暗示的とは思いたくない


周っているのは時計じゃない
地球が周っているんだよ

さよなら、真実

私は何も知らなかったと
白い文字盤 白い針の 数字のない時計になって
音もなく
生きていきたい

230 ◆75PSbtSdd2 :2009/05/17(日) 04:37:46 ID:Z75FfVvY

「アサガオ」

昼寝
夕寝
夜寝

朝顔

その瞬間を 誰も見ることはできない

231 ◆75PSbtSdd2 :2009/05/17(日) 04:39:02 ID:Z75FfVvY

「しあわせ」

ねえ、あなた しあわせ?
人は聞く

その質問
答えなくちゃいけないのかな

悪いけど、あたし
そんなのだけで 生きてるわけじゃないからさ


232 ◆75PSbtSdd2 :2009/06/28(日) 17:04:20 ID:pHc0ywkE

『 慈雨 』


雨が 降る
細く 長く 
深々と 降る

火照った地表の 熱が冷める
匂いが する


わたしは 寝そべり 
鼻をつけ 耳をあて
奥深くから 地表にまで伝わり来る
鼓動を知る


懐かしく 新鮮な 
古い鼓動
生まれ出ずる 時を待つ 
新しい鼓動
脈々と


わたしは 寝そべり
雨に 打たれ
目を 閉じる


火照った熱の 冷めていく
匂いがする



_
233 ◆75PSbtSdd2 :2009/07/25(土) 01:01:51 ID:w4AXbV34
『発声練習』

 ア エ イ ウ エ オ ア オ
ア エ イ ウ エ オ ア オ
 ア エ イ ウ エ オ ア オ

 アイウエ アイウエ

カキクケコ

 トバ二ナナナナナラナイ
234 ◆75PSbtSdd2 :2009/07/25(土) 01:19:14 ID:w4AXbV34
『 01:01:51 』

010151
あとジャスト50秒はやかったら
010101で

まるいまるいまるい

そんな数字だったのに ね
235 ◆75PSbtSdd2 :2009/07/25(土) 01:32:37 ID:w4AXbV34
『 彼女 』

あのね
私のこと ほんとうに好き?

と私がきいたら

たった今ここでチューしてもいいくらい
愛してる

新宿駅西口改札広場
通勤帰りの人混みの 真ん真ん中で
彼女はそう言い
ほんとうに わたしに キスをした

十年分だよ、と付け足して


信じることを疑うものは
私から全て吹き飛んだ
彼女が消えていた十年分
或いは それ以上



236 ◆75PSbtSdd2 :2009/07/25(土) 02:02:44 ID:w4AXbV34
『 彼女・U 』

どうしたら そんなこと言えるの
どうしたら そんなことできるの
どうしたら あなたみたいになれるの

そんなのめちゃめちゃでしょ
めちゃめちゃ過ぎるでしょ
とんでもなくて 私にはできないしなれない そんなふうに

でもだからそれが
彼女が彼女たる由縁なのだ
そんなことに今頃気がついて

泣いてもいい?と言ったら

ばーか、 と抱きしめられた

バカ、
と私も つぶやいてみようと
ちょっとだけもがいてみた
ちょっとだけ


237 ◆75PSbtSdd2 :2009/08/07(金) 04:53:23 ID:jeouuqR7

『 Nightmare 』


なにも見ないのだ
なにひとつ見ないのだよ
すべからく夢というものを

色もなければ
音もない
形さえ背景さえ
明暗さえ


嫌な汗に侵されもせず
うなされることもなく
痛みも苦しみも覚えない

そうなんだ
見ないのだよ

というものを


息をしているのか?

怪しいものだ

238 ◆75PSbtSdd2 :2009/08/07(金) 04:55:01 ID:jeouuqR7

『 柔らかい殻 』

包み込み
包まれている
柔らかい殻

硬かったなら
割れも 砕けもしただろうに

身に合わせ
大きさも 動きも 温度にも
柔らかい殻

触れるも叩くもうけとめて
割れも砕けも破れることもない

透明なそれを通して
見えるはずのものは ただ見えているだけ

柔らかい殻

包み込んだまま
包まれたまま

何も流れ出ず
何も流れ込まない
239 ◆75PSbtSdd2 :2009/08/07(金) 04:58:17 ID:jeouuqR7

『 彼女・V 』 (1/2)

新宿高層ビル49階の化粧室
帰る支度の わたしたち
彼女は 鏡を見ながら私に問いかけた

ねえ、こんなところで 普通に話してもいい?

私が うん とも ヤダ とも答えないうちに

kacoの髪さ、染めてるの それとも何もしてないの?
と訊いてきた

なんにもしてないよ。切りっぱなしの伸びっぱなし、
長くなったせいで 前髪もなくなってきたし
色は、前のが毛先に少し残ってるだけ。


彼女はきれいに整えた 大人のスタイルで
きれいにセットした 大人の髪型で
さっきまで私を見ていた目で 鏡の中の自分を見ていた

どうして という私の問いに
白髪。 と一言

よく見れば 確かに
染めが金色になっている部分がちらほらあった

私も一緒に鏡をのぞきこんで
うーん、苦労したんだね、 私はしてないんだ、きっと。

と笑ってみた
彼女も笑った

240 ◆75PSbtSdd2 :2009/08/07(金) 05:09:59 ID:jeouuqR7
『 彼女・V 』  (2/2)

地上49階の化粧室から見える 夜の新宿の街は
ときどき、雨。 が繰り返す天気に 黒く輝いていた

ねえ、見て。
ここから見える世界の中で 誰がわたしたちの白髪のことを
気にすると思う?

彼女の手をひっぱって
窓のそばまで連れて来て 視線を外へとうながした

彼女は 
それもそうだね。 と また笑った

白髪を気にする歳になるなんて 思ったこともなかった
白髪が人知れない悩みになる時がくるなんて 思ったこともかった
わたしたち


ため息はここで終わりネ
帰ったらあなたは ママしなくちゃならないんでしょ

そうなのよね。  と彼女は もう一度笑った

ママはいつも きれいでなければならない


でも 十年
それくらいの変化はあって不思議はないのかもしれない

わたしたちは 化粧室を出て 直行のエレベーターで
地上へと降りた

降りるあいだ 数秒間 
私は目を閉じることになる おそらく彼女も




241 ◆75PSbtSdd2 :2009/08/07(金) 05:12:09 ID:jeouuqR7



 夢よ
 おやすみよ

 外はもう 目の醒めるような熱の
 夏なのだよ



242 ◆75PSbtSdd2 :2009/08/17(月) 06:33:03 ID:BzsT1Nu9

【ざ・わーるど・にゅー・れこーど】

On your mark
Set

追いかけても 追いかけても
逃げて行く

それは数字?

9 秒 58
上限はどこ

100mをただ 
まっすぐ走るだけなのに

追い風 0.9m

世界新記録更新 
おめでとう

ただ早く走ろうというだけなのに
なんなんだ

震えてくる このこれは
ただ 走る人を 見ていただけなのに



ありがとう
また今日一日 生きた気がしてくる

2009.08.16

The World New Record in BERLIN

  去年と同じ日?
  なんなんだ…

Usain Bolt, on your mark

243 ◆75PSbtSdd2 :2009/08/28(金) 03:31:38 ID:z/NIrcuJ

 『 夜鳴キ蝉 』


夜の暗さに目が慣れ
夜の静けさに耳が慣れ

あぶら蝉の居所が わかりはじめる
あぶら蝉の鳴き声が 聴こえはじめる

一斉に鳴くと それは沢の音のようで
沢にとけこまない声は 沢に跳ねる魚のようで

夏生まれの蝉に紛れ
一匹 跳ねるものが在り

それは 牛蛙の声のようで
それは 夜の稲田に響き渡るようで

生まれる時をまちがえたのだと
居るべき処は ここではないのだと

鳴かずに
鳴けずに
嗚咽している

ひとり生きる姿の
強さとは
時に こんなにも哀しいものなのか

アブラ蝉ドモノ鳴キ通ス夜


244 ◆75PSbtSdd2 :2009/08/28(金) 03:37:44 ID:z/NIrcuJ

『 騙しつづけて欲しかった 』


騙しつづけてくれればよかったものを
途中で素に戻っちゃうなんてね

ばかになりきれないばかは ただのばか

道化ではない
ピエロでもない

騙されていたかったのに最後まで

恋なんて そんなもん
ふーん……

ばかになりきれなかったわたしも ただのばか


バカ。

245 ◆75PSbtSdd2 :2009/08/28(金) 03:40:09 ID:z/NIrcuJ
『 彼女・W 』


「 涙と共に種を蒔く人は
  喜びの歌と共に刈り入れる。(詩篇 126-5) 」

信仰心のない私の隣で
彼女は その言葉をいつも唱える

私は不信心だよ、と釘をさしたのは
もう何年 前のことになるだろう

  ( 私は十より昔を、数えられない

知っていて 諦めず
繰り返す彼女は 不思議だ

地下道を抜けた場所では
人が行き交い 車が行き交う 街は変わった

  ( 私は十より昔を、数えられない

ステンのガードにもたれかかる
わたしたちは 静物とその影


わたしはkacoから逃げたの あのとき本当に

そう告げることが懺悔なのだと告白する

私は何も知らせられていなかった 
そのことが そのもの衝撃で

知らされたところで 意味などなかった当時の"私"が
ただ痛恨なだけ

  ( 私は十より昔を、数えられない


涙と共に種を蒔く人は、喜びの歌と共に刈り入れる、
でしょ?

そう。

それから、
「 種の袋を背負い、泣きながら出て行った人は  束ねた穂を背負い
    喜びの歌をうたいながら帰ってくる。 」
でしょ? 覚えちゃったよ、信じてもいないのに。

彼女は何も言わず うつむいている

  ( 私は十より昔を、


逃げてくれてよかった 
と、私は加えた

  (数え

雨は止み 新宿の空は しんとしている
246 ◆75PSbtSdd2 :2009/08/28(金) 03:43:56 ID:IDr4ia+F

『 寄り道 〜秋、陸橋にて〜 』


唯一つの寂しさは

宵の陸橋
心地よいと涼み立つ
貴方の中に在る者が わたくしでないと
云ふことよ

唯一つの寂しさは

わたくしが 今此処で
寂しいと 哭そうとも
貴方には術がない 知る術がない

夏は過ぐのか
夏は去くのか
夏は終わるのか

それが如何でも
貴方は尚も夏を見て居り
つまり わたくしは哭すことなく

戦ぐ風
それは 縦糸に夏 横糸に秋を
織るのであって

唯一つの寂しさは

隣に並ぶ
貴方が貴方であることよ
わたくしがわたくしであると
云ふことよ


247 ◆75PSbtSdd2 :2009/08/28(金) 03:52:13 ID:IDr4ia+F


『 深爪 』


右手の薬指
左手で切るから 
うまく切れないのは右手の爪全部だけれど
一昨日は いつもよりうまくいかなかった

切りすぎた爪にあわせて他の爪も
バランスをとろうとまた 切るのだけれど
少しずつ少しずつ 切るのだけれど

整った形も いつものバランスも
思い出せないほどに 切りすぎて 深爪
右手の薬指にはじまって

手がうまく握れない
手がうまく開かない
ペンもうまく握れない
字が いつもと違って踊ってしまう

反対側の左手の先まで なんだか違う手みたいだ
もともと左右対称なわけじゃない体が
そこかしこ ばらばらに 勝手に
動いたり 止まったりしはじめる


いつもは 体の一部であることも忘れている
爪なんて
切っても痛くないから 平気で切っているのに
右手の薬指の先

そのほんの先の先が
今は 体の中心になったように
どくどくと 心臓だ
心臓になって
うったえている


昨日 忘れ物をふたつした

今日は 落し物をひとつした


左手の薬指の先に 心臓があることがわかりすぎて
どくどくと
眠れずに 汗が出る

両手の
残りの九つの爪は もっと 
きっと動揺している

汗が出る

今日も 眠れない


248 ◆75PSbtSdd2 :2009/09/12(土) 01:23:39 ID:Q6+qIye0

『 鷹の爪切る 』

何の爪切る?
 ―― 鷹の爪切る。

何の爪切る?
 ―― 鷹の爪切る。

何の爪切る?
 ―― 鷹の爪切る。

三回、言う。


夜、爪切ってはいけないよ
でも おばあちゃんの
そのまた おばあちゃんの諺

ありがたいね

パチンパチンパチン

鷹の爪切る。

ほら、大丈夫

大丈夫?

もう大丈夫、なんだって


おやすみなさい

_
249 ◆75PSbtSdd2 :2009/09/22(火) 03:28:52 ID:iORkcdhD

『 ひとり/ふたり 』


・ ナメアイ

悪かぁない
傷の舐め合い
あんたにもある あたしにもある
いつどこでできたかは違うけど

わかってんだもの
その在り処
どんな傷か
どうしてできたかも

舐め合うしかないじゃない
自分じゃ届かない傷なんだったら



・ ありがとう

見いつけた
わたし、あなたを 見いつけた

ずいぶん長いかくれんぼ
そうとは知らず

見いつけた
わたし、あなたを 見いつけた

よかった



・ よかったね

ふたりとも
よかった、ね


 ―― きっと、ね。
250 ◆75PSbtSdd2 :2009/09/22(火) 03:33:13 ID:iORkcdhD

壊れちゃったんだよ

心も体のひとつでね


コワレチャッタ


治せるの?

知らないの、ごめんね

251 ◆75PSbtSdd2 :2009/09/22(火) 03:38:28 ID:iORkcdhD

けど心

動いてる
壊れたまんま動いてる

死にそう死にそう
って 動いてる

252 ◆75PSbtSdd2 :2009/09/22(火) 03:46:49 ID:iORkcdhD

being 
生きている
あの人
死んじゃった
というカタチに
なって
生きている
being

253 ◆75PSbtSdd2 :2009/09/22(火) 03:49:22 ID:iORkcdhD



being 
生きている
あの人
死んじゃった
というカタチ
になって
生きている
being
254 ◆75PSbtSdd2 :2009/09/24(木) 03:25:06 ID:w4gaS71D

 『 ときどき 眠る 』


 せめて 
 ときどきは 眠りませう

 秋 紫
 コスモスの丘の小径にて
 風にかぐ その花の香に包まれるよに

 せめて
 ときどき 眠りませう
 枕はなくとも

 空には いよいよ羊雲


255 ◆75PSbtSdd2 :2009/10/04(日) 03:17:07 ID:WySCO10m

『 行ってきます 』 1/3


昼から夜にかけて、また新しい情報が入ってきてるけど
遺体はまだ帰って来ないし、DNA鑑定がまだ終わらなくて
本人証明ができないからって、
部屋から見つかった、従兄弟の残した物も見せてもらえないんだって。

遺書らしきものもあったらしいんだけど、全部警察が持っていったままで
読ませてもらえないんだって。

でもさ、もうさタイちゃんなんでしょ? タイちゃんに間違いないんだから
早く遺体返してよ、って、もうそればっかり思う。


「しょうがない」と思おうとしても、そんなにうまくできるものじゃないね
気がつくと、あれこれ想像したり考えちゃったりしてるもの。
それはそれで仕方ないのか、な。

頭の中だけで納得しようとしてるから いけないんだと思う。
それはわかってる。イヤって言う程わかってる。でも止まらないから

実際にこの目で見て、タイちゃんは死んだんだって、
ちゃんと実感しないと、もうこれ以上はダメなんだと思う。

でね、ついさっき今日も一日中警察やら消防やらが来て忙しかった伯父さんから
直接電話がかかってきて
「お通夜と葬儀に、おまえは是非来てくれ、来てくれたら御の字だ」
って言われちゃったよ。

それがなくても行くつもりだったけど
伯父さんのその一言で、なんかちょっと頑張れそうな気がしてきた。
是非来いってさ、そういう場っていうのもすごく変な感じなんだけど。

だから行ってくるね。

まだ日取りも決められないらしいんだけど
私 、 呼ばれてるみたいだから。


タイちゃんも私のことは心配してくれてたし、他の人にはどうだっただろうと、少なくとも
私には優しかったからね。
それだけは話してくるつもり。じゃなきゃ あんまりすぎるもの

帰ってきたら、とにかくまた連絡します。

256 ◆75PSbtSdd2 :2009/10/04(日) 03:23:49 ID:WySCO10m
(2/3)

ただね、
想像の中だけじゃ生きられないんだなって、つくづく思い知らされた気がするよ。
際限ないんだもの、想像って。
膨らむばっかりで止まらないから、堪らない。

だからこうやって喋りまくってるでしょ。
つまり、私は現実に生きてる、ってことなんだけど。

あとは、想像じゃない涙か何かが出てくれれば、
私自身は少しは慰められるのかな、ちゃんと
悲しいよ……って思えたらさ、多分いちばんいいんだよね。

わかんないけど。

こればっかりは、何度経験しても慣れるってことはないのね。
慣れたら慣れたで、そんな自分が恐いんだろうけど。


P.S. 

やっぱり遺体は、本人確認ができたらすぐに火葬されるんだって。
親族にさえ対面されることなくね、
なんなの それ。
そのあと、お通夜と告別式になるって。

P.S.2 

タイちゃんは自分で新しい布団を用意してたそうです。
帰ったら、「自分をそこに寝かせてくれ」って意味でらしい。
でも結局そこでは眠れなくなっちゃったんだけど。

P.S.3 

タイちゃんが最後までクルマにこだわってた理由をずっと考えてたんだけど、
初歩的なことにやっと辿り着いたよ。

タイちゃんは大学を卒業したあと、製薬会社に勤めて、そのあと叔父さんの経営する会社に移って
メーカーの自動車の部品を先頭に立って作る仕事をしてたんだ、ってこと、
なんでかな、もうほんとにやっと、やっと思い出した。
きっと、タイちゃんの誇りだったんだと思う、クルマがね。

納得できないことだらけだから、余計に納得できそうなことを探しちゃうんだろうね。
私が納得するかどうかだけのことなんだけどさ。

でも、そうでもしてないと、どうしょもない。
なんなの、それ。どういうこと?
なんなの、なんなの、なんなのなんなの………って。


一人じゃぜんぜんまとめられないことを、少しは整頓できたような気がします。
  ありがと。

257 ◆75PSbtSdd2 :2009/10/04(日) 03:25:33 ID:WySCO10m
(3/3)

P.S.4

でもね、ほんとに私、大丈夫なのかな?
言わない約束だったけど、でも言っちゃうけど、

みんな、アンタは大丈夫だっ て言うし、私もだからきっとそうなんだろうと思い込んでたけど
実は、次は私、
っていうくらい、まだアブナイんじゃないのかな?って不安になってきちゃった。


じゃあ、行ってきます。

私、
呼ばれてるみたいだから。


--*

私がする
想像の中の 燃える車
それはまだ 無味無臭

金属の ゴムの 革の
ガソリンと 炎上する匂いは
焦げ臭さもない

音はしたのか 
どんな
時間はかかったのか 
どれくらい
熱かったのか 熱かったのか 熱かったのか

燃え上がる炎ばかりが 高く大きくなる
かろうじて識別可能だった ナンバープレートが
やけに白く やけに重たい
数字には 確かに見覚えがある

一番新しい電話がかかり
今やっと 田舎の街道沿いの背景がつきはじめる

私のする 想像
燃える
燃えている

燃える クルマ
焼ける 人

人は 
想像の中だけで
生きることはできない
258 ◆75PSbtSdd2 :2009/10/04(日) 03:29:41 ID:WySCO10m

『 いずみ 』

やさしさは、
どこから湧いてくるのだろ
どこかに その源があり
桶をもって汲みに行けば
得られるものなのだろか

やさしさは、
どうしたら伝えられるのだろ
手本やえらい人の真似をすれば すんなりと 
折れも曲がりもせずに
届けられるものなのだろか

やさしさは、
いつのまに しのび込んできたのだろ
凝り切った 心の核まで
ひっそりと
そして弛まず 在りつづけるのだろ

たとえば あなたの
たとえば たいせつな やさしさは

259 ◆75PSbtSdd2 :2009/10/04(日) 04:10:50 ID:WySCO10m
>>256
× そのあと叔父さんの経営する
○ そのあと伯父さんの経営する


>>257
× かろうじて識別可能だった
○ かろうじて識別可能な


>>258
× いつのまに しのび込んできたのだろ
○ いつのまに しみ込んできたのだろ

260 ◆75PSbtSdd2 :2009/11/24(火) 05:01:43 ID:6TGEINH6
『 誕生 』


君が僕のためにと
贈ってくれた
インストゥルメンタル
ピアノヴァージョン

きれいでしょ
きれいだね

ありがとう
お礼に 
この原曲の歌詞を贈るよ
僕も大好きだったんだ

歌詞もすてきだったのね
知らなかった
でも ピアノの音があれば
私はもう
それでいい

ありがとう と
言葉少なな 君の返事
それは

言葉で伝えようとした
僕の願い
僕の希望を
抹殺するに過分だった

言葉を捨て
ピアノの音だけに生きることになる
詩人(うたびと)の誕生

瞬間のできごと


261 ◆75PSbtSdd2 :2009/11/24(火) 05:03:07 ID:6TGEINH6


「"ただいま" は、なんのために」
262 ◆75PSbtSdd2 :2009/11/24(火) 05:15:49 ID:6TGEINH6

人が移りかわり
世界がうつりかわる

うつりかわった世界に
人が あらたに
現われ 生きる

受け継がれていくものを
わたしは 知らない


263 ◆75PSbtSdd2 :2009/11/26(木) 01:50:11 ID:Wmo59arr
『 愚情 』


己にやさしくなれない者が 人にやさしくできるはずもない

見せかけのやさしさは 空洞中身を騙すため の隠れ蓑、でした

何かを失った の、ではなく
はじめから原点において そもそも何かが無かった
それだけ、であり
失った という言い訳、でした

感じること と云えば
空しさ、ではなく
手持ち無沙汰に暇を弄ぶ それだけの
つまらなさ、でした 

何んにつけ いちゃもんをつけ悪態をつく のは
己を省みない分の時間潰し、なのでしょう


粗さがしはしなさんな

自分とちがう人たちを見下しなさんな

ひとりじゃ指一本動かせぬ怠惰のために 誰かや何かを都合よく利用などしなさんな


捨てられない のは 情の深さゆえ、ではなく
ガラクタにもしがみつきたい さみしさ とも呼べないほどの
惨めさから、なのでした

空を見上げる姿 それはどこか詩的なよう、でもありますが
両の眼は実のところ視点定まらず
失くしたもの ではなく無かったもの を、あてどなく
あてどなく想っている、だけなのです

あてどなく

哀しむことすらできないで

哀しむことすら、できないで
264 ◆75PSbtSdd2 :2009/12/12(土) 05:01:31 ID:kGQo01nH
 『 四十九夜 』
 
秋 
ひとりでは淋しすぎる季節 
虫は生きるため 鳴いていた


仰げば思い出す 街灯もないあの山奥の
澄んだ暗い空に なぜ星は見えなかったのか
満月のせいでもあるまいに


いまも湧き出る水を集め 量(かさ)を増し
山肌を削る 水底の深きはあまりに蒼く 
海への想いを拒ませた

山梨
紅葉未満の季
夕暮れて 数え待つ

貴方は貴女は彼方は私は 
何を想っていたか
四十九夜
265 ◆75PSbtSdd2 :2009/12/12(土) 05:05:19 ID:kGQo01nH

【 寄り道 〜show window〜 】

キャミブラウス
カシミヤ カーデ
ツインストール
ラム レザージャケット
黒の

透ける 光る
ロング ストレート 
緑髪

ミリタリースキニー
フェイク レザー
ニーハイブーツ
アンクレット
黒の

アンゴラウール 
ファー ストール
チェック シロ
黒の

闊歩する
’80スタイル
彼女は
ハンサムガール

cool & manish

ア - コ - ガ - レ、ノ

マネキン
266 ◆75PSbtSdd2 :2009/12/12(土) 05:09:37 ID:kGQo01nH

 『 愚情 』 (二)


人を好きになりました

  愚かだと 云われようと 
  わたしは何ら 気にとめることはありません

人を好きになりました

  たしかにそれは
  生きる上で報いのない 最も愚かなことなのでしょう

人を好きになりました

  愚かなる人間の
  愚かなる証として この身を以って

人を好きになりました

  愚かであれば愚かであるほど純粋に 
  それは否むことができません


人を好きになりました

  全き愚かな 
  情のことではありました
267 ◆75PSbtSdd2 :2009/12/12(土) 05:13:29 ID:kGQo01nH

『 12 』


なにも思いおこさない夜に
なにも思いおこさない夜に
なにも思いおこさない夜に
なにも思いおこさない夜に
なにも

わたしは 窓から
雨のあがったばかりの
空を みている

なにも思いおこさない夜に
まだ
ひくく垂れこめた雲が
包んでいる
夜に
わたしは 
なにも思いおこさないまま
なにも思いおこさないまま
なにも

おこさないまま
見ている

きっと あれを 空と 呼ぼう

壁のカレンダーが ぺらんとう
机の上で 時計が チチチチ チチチチチチ……
ファンヒーターは 床を
ひくku 唸ってi  ruuuuuuu uuuu

何も思いおこさない2009年
12月12日 午前4時過ぎ 



朝は、

まだ。
268 ◆75PSbtSdd2 :2009/12/21(月) 01:45:28 ID:bQS+J7y9
『  』

忘れろ。
忘れなさい。

声が聞こえる

悪い夢のようなものだ。
報われない努力はあるものよ。

忘れろ。
忘れなさい。

時が遡り また戻る

時間量など無意味に等しい
どれほど遠い昔であろうと
昨日であろうと 
さっきであろうと
記憶は
形をなさずに たった今もここにある 
ここにいる


忘れろ。
忘れなさい。

そうしようとして そうできるものなのか?

上書き 書き換え
リセットリセットリセットリセット……

それほど制御可能なことなのか?


尾翼を欠いた旅客機が
よろよろ低空旋回し続けている

早く燃料が切れればいい。
私はそう思っている

忘れろ。
忘れなさい。


眠れるまで
誰か 子守唄を歌ってくれ
269 ◆75PSbtSdd2 :2009/12/21(月) 01:49:18 ID:bQS+J7y9
『 解熱 』

夢、
汗、
繰り返し。

夢、
汗、
繰り返し。

悪寒

夢、
汗、
繰り返し、
繰り返し。




detox

繰り返し

detox

繰り返し

目が醒めたら
前よりもっと


( 元気になっているはずなんだ…… ) 


何度も氷を 口に含む
270 ◆75PSbtSdd2 :2010/02/01(月) 05:10:43 ID:VgA7xix5

ざわめきも 温もりも
底をつく この時刻
目が覚めてしまう
明け方 五時前

カーテンをめくってみても
まだ暗く
人も何も
しん としたまま
梅の蕾の ふくらむ気配もない

寒さが ここにいる 今が冬かな

もういちど 
眠れれば良い


  ― 睦月、ある望月の日のこと ―
271 ◆75PSbtSdd2 :2010/04/08(木) 00:52:04 ID:Ek3haSDf

てすと。
272 ◆75PSbtSdd2 :2010/04/08(木) 02:13:47 ID:Ek3haSDf

『 光 』

太陽を奪え
わたしから

迷路にもない暗がりなら
わたしはもう
逃げまい

差し延べられる手を 道を
天地の別を 影を なくし
光なき世界を闇と呼ぶなら 

太陽を奪え
わたしから


盲しひの望みかなえるように
やがて産め
わたしから

太陽を
奪え


_
273 ◆75PSbtSdd2 :2010/05/23(日) 03:53:26 ID:cpok9hJw

「サイテーって、サイテーってことなのね」 のように

そういうこと

おかしいですか?
ふつうってなんですか?
まともってどうですか?
まともじゃないといけないですか?

まともですか? まともじゃないですか?
病気ですか? 病気じゃないですか?
お医者さんがきめるんですか?
きめられたらどうなるんですか?

病気だったらいけませんか? くすりをのまなくてはだめですか?
健康になるのがよいことですか?
まともになるのですか?なれるのですか? 
まともはいいことですか?
いいことと悪いことは どうやって決めるんですか?

太陽はえらいですか?
お月さんは裏側ですか?
表はどっちですか?
裏を見るにはどうするのですか?

空はあおいですか? 空は高いですか?
空はどれですか?
海は深いのですか?
深いのと高いのはちがうのですか?
上はどっちですか?
じゃあ下は?
さかさまってなんですか?

右と左 左から見たら逆になりませんか?
右から見たらまた変わりませんか?
四つ辻で 前はどっちですか?
うしろってどの方向ですか?
進みますか? 止まりますか?
すわりますか? 歩きますか? 寝転びますか?

寒いときは好きですか?
暑いときには なにをしますか?
夜は暗いですか?
昼は明るいですか?
じゃあ 朝は?
274 ◆75PSbtSdd2 :2010/05/23(日) 03:55:39 ID:cpok9hJw

晴れてる日にはなにをしますか?
雨の日にすることは?
雪の日って 冷たいですか?

しなくてはいけないことってなんですか?
してはいけないことをしたことはありませんか?
罪とはなんで なにがなにに罰を与えられるんですか?
善いことってなんですか?

眠くなりませんか?

いつ眠りますか? いつ起きますか?
おなかは空きますか? ごはんは食べますか?
ごはんはおいしいですか?
なにが聞こえますか? なにを聴きますか?
なにが見えますか? なにを見ますか?
右利きですか? 左利きですか?
右巻きですか? 左周りですか?
鏡の中の人を自分だと 信じますか?

そこはどこですか?
そこはいつですか?
あなたは誰ですか?何者ですか?
生きていますか? 生きてませんか?
息をするのに意識しますか?
息を止めたら苦しくないですか?
眠ってるときの自分のことを知っていますか?
見たことはありますか?

おとなですか? こどもですか?
年をとりましたか? おさないですか?
赤ちゃんのときって どうでしたか?

泣いたら笑いますか?
笑ったら怒りますか?
怒ったら悲しくなりませんか?
それともさみしいとか?

元気ですか? 元気じゃないですか?
答えらますか?
お返事もらえますか?

ここはどこですか?
ここはいつですか?
わたしは誰ですか?
わたしのことを 知っていますか?
275 ◆75PSbtSdd2 :2010/05/23(日) 03:57:28 ID:cpok9hJw

もうたくさん ききましたね
もうたくさん きかれました

いろいろたくさんすぎませんか?
もう おしまいにしませんか?

わたしについては
もう たくさん

泣きながら産まれてきたというので
死ぬときは笑いながらじゃないかと思っています

平凡って、平凡ってことなのね


276名前はいらない:2010/05/31(月) 22:49:21 ID:FAQcd4vv
僕はその他大勢です
277 ◆75PSbtSdd2 :2010/06/07(月) 01:29:53 ID:33/URP0W

 You are you 


個ではない
群れではない
その他大勢

名を持たない
名付ける要がない
その他大勢

集まっているようでいて
てんでばらばら 散り散りな
その他大勢

てんでばらばらの天気の下
てんでばらばらの空を見あげ
てんでばらばらの地を踏んで
てんでばらばらの方を向き
てんばらばらに散って行く

声を持たない
声を発する要がない
その他大勢

発することを求められていなかった
その他大勢

自らを定める存在でなかった
その他大勢

傘をさす 梅雨の日に
歩いてくる 人ひとり
傘をさしだし 自らを名乗る
名前はなくとも

そのように

ソノタ・オオゼイに さようなら

そのように

あなたは 他でもない あなたになる






other でもない
others でもない
another でもない
You are you,
just you.
278 ◆75PSbtSdd2 :2010/06/07(月) 01:32:01 ID:33/URP0W

 あなた、 ときどき ソノタオオゼイ。

279 ◆75PSbtSdd2 :2010/06/09(水) 02:22:04 ID:wTjSn63t

 週末の絵描き (1/2)

作業着を脱ぎ 車に乗って
知らない土地の 知らない空を
探しにでかける
土曜の朝に生き返る絵描き

夜更けには "こんな感じ"
が 送られてくる

雨の日と麦畑

緑はぬれて鮮やかだね
近くの空は厚い雲だね グレイに暗い
山のほう 遠くの空は晴れまじり? 白く暗いね

軽い返事に ふふーんと相槌
機嫌が良いと酔っ払い
酔っ払いついでに ギャグも出る
そして夜通し 絵描きする

わたしは眠り 朝を迎え
日曜の仕事をしては 
ひがな一日 平日を離れる
ときどき 絵描きの話し相手になりながら

どうでしょう
まだでしょう

いかがかな
もうちょっと

もうちょっと……

雨の日は むつかしい
暗さの加減に ちょっと
てこずるから 
音の具合も変わるから
時間とともに流れるから
280 ◆75PSbtSdd2 :2010/06/09(水) 02:24:48 ID:wTjSn63t
 (2/2)

描いてほしいものがあるの と
うっかり絵描きに 注文をする

知らない土地の 知らない空の
雨の日と麦畑

知らないけれど でも
そこにもかならずあるはずの 
ここにもある
ほの暗い風景のなかの
雨の光を描いてほしい と

絵描きの返事が止んで半日
いまごろきっと 
今度はたぶん 酔いもせず
無闇な注文に 探すだろう

わたしは眠り 待つともなく
明け方ころ 
二度目の夜通しを終える絵描きから
油が足りねえ…… 
と また絵が届くのだ

窓の外の 雨の光
無数に 
そして 一粒ひとつぶ

週末の絵描きは 詩人みたいだ
月曜の朝 寝不足に欠伸する

わたしは 
コンパクトになった 雨の日と麦畑をバッグに入れ
何事もなかったような顔を作って 
電車に乗り込む

281 ◆75PSbtSdd2 :2010/06/30(水) 05:16:32 ID:h6+7oJ1g

 『 Toughness 』

六月、梅雨の、ある土砂降りの夜に思う
今、ほしいもの。

スタミナ
タフネス

判断力
洞察力
文章力

集中力
持久力
回復力

エスプリ
ユーモア
脳みそクーラー

ジョーク ジョーク ジョーク

頬杖つくな
鏡をのぞけよ
すこし笑えよ

氷を入れたグラスの水を 一杯
一気に 飲み干す
 …… カラーン

雨が降っても まだ
蛙は鳴かない

あとは

睡眠力
282 ◆75PSbtSdd2 :2010/07/07(水) 23:33:31 ID:5aJ25ZSe

 『 七夕 』(1/2)

七夕の 
前の前の前の前の日
私の代理で 病院に行ったみっちゃんが
主治医の代理先生にあたって
はちゃめちゃな処方されたまま
タテつけなくて 泣き寝入りして帰ってきて

七夕の 
前の前の前の前の日の夜
みっちゃんと二人 夕食のテーブルはさんで
病院と代理先生の文句を
はちゃめちゃに言い合って
久しぶりに賑わって

七夕の 前の前の前の日
私の微熱が出始めた

七夕の 前の前の前の日の夜
眠れなくなって

七夕の 前の前の日
外の暑さに自律神経も参って
軽い屋内熱中症にかかり

七夕の 前の前の日の夜
薬が足りなくなって
さらに熱が上がって

七夕の前の日
病院に電話して 自分でも信じられないくらい
たぶん すごい剣幕で
事務と主治医に抗議して
ふーふー言いながら
ポカリスエットの空ボトルは山積むばかり

七夕の前の日の夜
大汗かいて
何回も着替えして
パジャマがもう足りなくなって

あー、もうー全部やめたい!

と たぶん 満身の力を込めて一言

言いたい時に 友だちから電話があって
悩み事を打ち明けられた

七夕の前の日の夜中
だんだん やさしい気持ちが戻ってきた気がして
小一時間あとには眠っていた
283 ◆75PSbtSdd2
 
  (2/2)

今日は七夕

七夕なのに
私は寝床で 体温計とにらめっこ
下がりかかった熱を 何度も確かめ

今日一日限定の 
七夕料理を食べに行けなかったことを悔んで
帰って来たみっちゃん 待ち構えて

みっちゃん、あのさー
と こぼす

七夕なのに
みっちゃん、お粥ー
猫舌なのに、あったかいお粥ー

みっちゃんは
もうちょっと寝てなよ、と笑いながら言う
しょうがないでしょ、と
しょうがなさそうな顔して言う
七夕なのに


七夕なのに
今日は雨降り

七夕だけど
雨は大好き

小さい時みたいに
先生が往診に来てくれればいいのに

どこかで
笹に寄り添う短冊たちが 雨の七夕に泣いている

ほろり

もうちょっと お塩舐めとこ

ほろり

しょっぱいな



(二〇一〇年七月七日)