散文詩: 夭折の天才に捧ぐ vol.1 

このエントリーをはてなブックマークに追加
75鳥吉 ◆DE0R6IQ6Xs
「甘水」
 甘夏が腐ってゆく。
他の何かに接触した部分から順に腐ってゆくのだ。次に、電話機器から出る波動によって腐ってゆく。
様々な薬品や薄荷を使用しても、その腐食を止める事はできなかった。
すっかり茶色の塊となった甘夏。集まる羽虫を狙い、雨蛙と家守が近づいてくる。
俺はドライヤーを片手に構え、列車の騒音で間合いをはかりながらじっと耐えている。すでに三日が経っていた。
外界はすでに、ラジオ星からの長波動でゆるゆるに溶けきっていることだろう。何も知らない無知な餓鬼が日に日に弱ってゆく。知ったことかよ俺も必死だ。死に身の腹だ。
頭痛が酷い嗜好飲料が欲しい。日蝕中に何としてでも入手すべきであった。茶色い二つの塊を早く乾燥させなければ。
坂の上では仏の心の雨が降っている。甘いかもしれない。