逆     走     の     彼

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Sの死因というのは本当にくだらなくて笑い話にしかならない内容だった。
朝、目が覚めてベットから降りる際に足を踏み外してベットの手擦りに頭を打ったのだ。
Sとは小学校からの付き合いだった。昔からドジで運の悪い奴だった。
何かと仕事を押し付けられても断りきれなくて、いつも貧乏クジを引かされていた奴だった。
何かとくだらない事を喋ってはケラケラと笑い、落ち込む友達にさり気無く励ます気のいい奴だった。
体を動かすのが好きで、運動神経が抜群で、スケベで更衣室を覘いた事がバレて停学喰らった奴だった。

先週まで笑っていたSは過去形の男になってしまった。

自分はSの葬式に行った。MとTは既に着いていた。
葬式場に来ていても未だに信じられなかった。MもTも呆然としていた。
棺桶から顔が覗けた。紛れも無くSだった。溢れる涙を止める事が出来なかった。
友達と共に声を殺してすすり泣いた。家に帰っても泣いていた。

Sの言葉が頭に浮かんだ。
(目標遂げるまで苦労するなんて悠長な事を言ってないで今を楽しみたいと思うんだよ)
『今』を楽しむ事を目標に生きていたS その目標は達成できたのだろうか?

今の自分は仕事に追われる日々だ。徹夜しても一向に片付かない
昔の友達とも、全く出会う機会が無くなった。キリギリスに生きてきた報いだろうか
今も時々あの頃を思い出しては、にやけたり落ち込んだり馬鹿笑いしている
死に様なんか選べるもんじゃない、自分も精一杯ノラクラと生きてやろうと思う

未来から逆走していくSを見習って